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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

リアクション

 

偵察

 
 
「艦隊は、無事出発したようだな。オレたちも出発するぞ」
 サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)ザルク・エルダストリア(ざるく・えるだすとりあ)を前にして、ジャジラッド・ボゴルが言った。
「敵残存戦力の位置予想はできたか?」
 ジャジラッド・ボゴルが、サルガタナス・ドルドフェリオンに質した。
「不思議な籠の結果を見てみますわ」
 そう言って、サルガタナス・ドルドフェリオンが不思議な籠の中に手を入れて一枚の紙を取り出した。
 不思議な籠は、探し物の名を書いた紙を入れておくと、そこに何らかのヒントが書き込まれる不思議アイテムだ。
「なんとある?」
 ジャジラッド・ボゴルが訊ねたが、紙には、質問の後の部分が何やら蜘蛛のように白っぽくもやもやとしているだけであった。まだ文字の形を成してはいない。
「これは、まだ早すぎたようですわ」
 残念そうに、サルガタナス・ドルドフェリオンが言った。
「いずれにしても、放っておくわけにはいくまい。すでにパラミタ内海にはいないと考えれば、その姿を隠しやすい場所といえば、同じ水のあるヴァイシャリー湖か、トワイライトベルトか……」
「身を隠すのであれば、トワイライトベルトは定番ですものね」
 ザルク・エルダストリアが言う。いつも薄暗いパラミタと地球の境界は、その暗さゆえに住む人も少なく、すねに傷持つ者が隠れ場所にすることが多い。
「キマクや、シャンバラ大荒野を探すよりは、そのあたりを探す方がいいだろう。よし、オレはアンピトリテに乗ってヴァイシャリー湖を探す。ザルクはトワイライトベルトを探せ。サルガタナスは荒野の王に、念のために帝都の防衛を強化するように伝えろ」
 各自に指示を出すと、ジャジラッド・ボゴルはアンピトリテを呼んだ。リヴァイアサンの一種らしいが、巨大なクラゲの下半身に、妖艶な女性の上半身がついている生命体だ。全身はゼラチン質のようにやや半透明でぷにぷにとしている。
 ジャジラッド・ボゴルを乗せると、アンピトリテは触手をうねらせて地上近くを漂いながらヴァイシャリー湖へとむかった。
 ザルク・エルダストリアは、軍用バイクに乗ってトワイライトベルトを目指す。
 ジャジラッド・ボゴルたちと時を同じくして、柊恭也も大型武装ヘリ【鶺鴒】でスキッドブラッドがやってきたイルミンスールの森の方角へと調査にむかった。
 
    ★    ★    ★
 
「密偵から報告あり。現在、宇宙港付近は恐竜騎士団が駐留していることもあり、とても手が出せない状況のようだ」
「仕方ない。宇宙港の施設と共に、敵イコンも少し破壊できればとは思っていたけれど」
 アプトム・ネルドリック(あぷとむ・ねるどりっく)の報告に、ジェファルコンタイプのカタストローフェのコックピットの中で、アウリンノール・イエスイ(あうりんのーる・いえすい)が残念そうに言った。
「レーダーに、敵反応なし」
「バスターレールガン準備。エネルギーチャージ開始」
 カタストローフェにバスターレールガンを構えさせると、アウリンノール・イエスイがエネルギーチャージを開始した。バスターレールガンは強力な武装だが、発射までにかなりの時間がかかるのが弱点である。そのため、連射と呼べることはほとんどできない。
 ブラッディ・ディヴァインに荷担するアウリンノール・イエスイとしては、パラミタの現体制に敵対しているソルビトール・シャンフロウたちの勢力は、利用できると考えている。敵の敵は味方という理論だ。だが、このときアウリンノール・イエスイは、ニルヴァーナにあるブラッディ・ディヴァインのアジトが、そのソルビトール・シャンフロウたちによって襲撃、全滅させられていたことなど知るよしもなかった。
 アウリンノール・イエスイたちが今考えていることは、ソルビトール・シャンフロウたちによる混乱の助長と、宇宙港やイコンを破壊することによって、パラミタとニルヴァーナの連携を弱めるということであった。
 もとより指名手配を受けている身である。その行動理念にはぶれがない。
 現在、カタストローフェが身を隠しているのは、アトラスの傷跡の東部である。守りの厚い宇宙港のある南部とは少し離れているが、その分敵はいないはずであった。
「こちらは、マスドライバーの破損はないですね……。でも、この殺気は、何!?」
 マスドライバーの上を、ペガサスのレガートで走りながらパトロール兼何かいい物落ちていないかなを続けていたティー・ティーが、アウリンノール・イエスイたちの強力な殺気を感じて周囲をキョロキョロと見回した。
『おーい、ティー・ティー。どこまでいったんだー。いいかげん、戻ってこーい』
 そこへ、源鉄心からテレパシーで呼びかけがあった。敵の破片を拾いに行ったまま帰ってこないティー・ティーを心配してのことだ。
「あっ、鉄心。大変です。なんだか、こっちの方で、敵の気配を感じます」
『何!? 待ってろ、今そっちへ行く』
 話を聞いた源鉄心がちょっとあわてた。マルコキアスで運んでいた瓦礫を放り投げると、即座に飛行形態に変形して、ティー・ティーの許へとむかった。
「こら、いきなり仕事を放り出すとは、不真面目ではないか」
 一緒に瓦礫撤去をしていたコア・ハーティオンが、ひしゃげたパラボラアンテナを持ったまま、源鉄心に文句を言った。
『敵だ!』
 短く、源鉄心から返信が来る。
「何! この私がいる以上、これ以上の破壊は許さん!」
 アンテナの破片を下に下ろすと、星心合体ベアド・ハーティオンが全速力でマルコキアスを追い越していく。
 突然のイコン二機の挙動に、周辺の者たちがざわついた。
「話は聞いたわ。これ以上、マスドライバーを破壊されては、直る物も直せなくなるわよ。絶対に阻止しなさい」
 高天原鈿女が、コア・ハーティオンに厳命した。同時に、周囲の者に状況を説明する。すぐに、風森望のシグルドリーヴァと恐竜騎士団のヴァラヌスやダイノボーグらが後を追う。
「えっ、南じゃなくて東ですって!? やられましたわ。千鶴、すぐに戻るわよ」
「ええ。急ぎましょう」
 南にむかって哨戒をしていたテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェンと瀬名千鶴が、急いでイルマタルを反転させた。
「エネルギーチャージ完了」
「吹き飛べ!」
 アプトム・ネルドリックの言葉に、アウリンノール・イエスイがトリガーを引いた。
 バスターレールガンの長砲身から、高速で弾体が発射される。音速を遥かに超える弾体が、一撃でマスドライバーの橋脚を破壊した。ささえを失ったマスドライバーの一部が崩落する。
「次弾装填。エネルギーチャージ急げよ」
 的が大きいので外しようがないと、アウリンノール・イエスイがほくそ笑んだ。
「レーダーに敵影」
「なんだと、早すぎるぞ!?」
 レーダーを見ていたアプトム・ネルドリックの報告に、アウリンノール・イエスイが叫んだ。
 さすがに、マスドライバーのガイドレール上の、しかもイコンではなくペガサスに乗ったティー・ティーがいたとは気づいてはいなかった。あまりにも、レーダーに映らない条件が重なっていたからだ。それが、過信となった。
 すぐさま、アウリンノール・イエスイが、バスターレールガンの銃口をレーダーの輝点が接近してくる方向へとむける。だが、バスターレールガンの砲身を振った瞬間、それが被弾して爆発した。
『敵がそちらにむかいました』
「遅すぎる!」
 最悪のタイミングで密偵から入った報告に、アウリンノール・イエスイが怒鳴った。
「それ以上は、この星心合体ベアド・ハーティオンが許さん!」
 修理したばかりの右腕のハードビートキャノンを構えたまま、星心合体ベアド・ハーティオンが突っ込んできた。
「笑わせてくれるわ!」
 素早く新式ビームサーベルを抜いたカタストローフェが、ファイナルイコンソードを放った。
 間一髪、身体を傾けた星心合体ベアド・ハーティオンの右腕が、ハートビートキャノンごと斬り落とされる。
『マタコワシタ……』
 悲しそうに、星怪球バグベアード言った。
「しぶといが、これで終わりよ」
 アウリンノール・イエスイが、新式ビームサーベルで斬り返そうとした。その瞬間、レーザーを受けたカタストローフェの腕が奇妙な角度に曲がって攻撃が逸れる。
「むやみに突っ込むから……」
 なんとか攻撃を間にあわせた源鉄心が、マルコキアスから第二射を放つ。ずっとティー・ティーが早く早くと叫ぶ声を感じつつ、やっと間にあったという感じだ。
「潮時だ」
 回避運動にとりつつ、アウリンノール・イエスイが星心合体ベアド・ハーティオンに超電磁ネットを投げつけた。ユグドラシルの猛き枝で払いのけつつも、星心合体ベアド・ハーティオンの動きが鈍る。変形して斬りかかってこようとするマルクスにマントを投げつけて視界をさえぎると、カタストローフェが後退する。
「逃がしてはダメよ!」
 駆けつけたシグルドリーヴァが、カタストローフェにむけてミサイルを一斉発射した。降り注ぐミサイルがカタストローフェを追うようにして大地に盛大な爆炎をあげる。至近弾でダメージを受けつつも、それに紛れるようにしてカタストローフェは姿を消していた。
「敵は?」
 遅れて駆けつけたテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェンが周囲を索敵したが、すでに敵の姿はどこにもなかった。
 
    ★    ★    ★
 
「とりたてて、こちらには何もないようだな」
 イルミンスールの森の上空を鶺鴒で飛びながら、柊恭也がつぶやいた。
 森の木々がいくつか傾いてはいるが、方向からするとスキッドブラッドがシャンバラ大荒野にむかうときにわざと傷つけていったものであろう。謎の飛空艇が逃げて行ったときは、わざわざそんな痕跡は残さずにパラミタ内海へとむかったらしい。
「外れだったみたいね」
「いや、あの飛空艇がこちらにむかったのは間違いないはずなんだが。放っておくわけにはいかないだろう」
 柊唯依に突っ込まれて、柊恭也が言い返した。
「さて、もう少し調べてみるぞ」
 
    ★    ★    ★
 
 ヴァイシャリー湖に達したジャジラッド・ボゴルであったが、それらしい機動要塞の陰は発見することができなかった。
「そちらはどうだ?」
 ザルク・エルダストリアに連絡を入れてみるも、そちらも空振りであったらしい。
「何か手がかりはないものか……」
 聞き込みに切り替えては見る者の、さすがにジャジラッド・ボゴルやアンピトリテの姿を見るとたいていの者は逃げて行ってしまう。
 半ば強制的にヴァイシャリー湖にいる漁船を止めては尋問していくことにした。もはや、巨大な謎生物が、触手で漁船を襲っているようにしか見えないのは御愛敬とすべきなのか。
「そんな物は見なかったが、ちょっと変な波が立ったことはあったなあ」
 半ば怯えるようにして、漁師が答えた。
「変な波だと?」
 話を聞いてみると、風向きと違う方向から、大きな波が突然押し寄せてきて、その後すぐに消えてしまったそうだ。ソア・ウェンボリスの報告にあった波と、似ていなくもない。
 可能性としては、敵の機動要塞が姿を隠したままヴァイシャリー湖を通過したか、今もヴァイシャリー湖に潜んでいるかだ。
「もう少し調べてみるか……」
 そうつぶやくと、ジャジラッド・ボゴルは水中へと潜っていった。