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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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地に眠るは忘れし艦 ~大界征くは幻の艦(第2回/全3回)

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アトラスの傷跡・宇宙港

 
 
 アトラスの傷跡で修理中のフリングホルニには、ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)から連絡が入っていた。現在、雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)と共にパラミタ内海からイルミンスールに戻り、メカ雪国ベアに乗り換えてゴアドー島にむかっているらしい。
「敵の一味らしい艦を目撃したということですか?」
『ええ。パラミタ内海で、光る変な飛空艇みたいなのを目撃したんですけれど……』
 グレン・ドミトリーに訊ねられて、ソア・ウェンボリスが答えた。
「その艦らしき物は、こちらでも確認している」
 スキッドブラッドから離脱していった異形の艦をさして、グレン・ドミトリーが言った。
『それから、その母艦みたいな物が現れて……。姿ははっきりとは確認できなかったのですが、機動要塞のようでした。念のために、エリュシオン帝国でもパラミタ内海に注意するべきかとは思います』
「分かりました。注意を喚起しましょう。ただ、敵も疲弊しているはずですから、すぐには動きが取れないと思います」
『ええ。もし何か動きがあるとすれば、ニルヴァーナだと思います。パラミタの敵が動くのは、それに呼応してではないでしょうか』
「その可能性は高いですね。いずれにしろ、こちらも連動が重要です」
 答えつつも、ニルヴァーナとパラミタ間の距離が、その連動に対しての最大のネックだとグレン・ドミトリーは内心懸念していた。
「あの艦、なんだかポータラカUFOに似ていたと思わない?」
 ソア・ウェンボリスが、メインパイロットシートの雪国ベアに訊ねた。
「うーん、円盤型じゃなかったけどなあ。どっちかってえと、葉巻型じゃなかったか?」
「よく分からないです」
 UFOの形ってそんなにあるんだと、ソア・ウェンボリスが首をかしげた。
「まあ、また出てこないのが一番だけどな。さあ、ゴアドー島に急ぐぜ」
 そう答えると、雪国ベアはメカ雪国ベアのスピードを上げた。
 
    ★    ★    ★
 
「マスドライバーの被害は、どの程度なの?」
 被害の事後処理に追われる宇宙港の職員に、風森 望(かぜもり・のぞみ)が詰め寄った。
「ああ、それは俺も知りたいところだった。修理は可能なのか?」
 居合わせた源 鉄心(みなもと・てっしん)が、話に加わってくる。
「修理なら、今、ハーティオンたちにやらせているけれど、あまりかんばしくはないわね」
 ちょっと説明に困っている職員の代わりに、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が説明を始めた。
 星心合体ベアド・ハーティオンに乗り込んだコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)星怪球 バグベアード(せいかいきゅう・ばぐべあーど)が、瓦礫を撤去しつつマスドライバーや宇宙港の施設の損害を逐一報告してきている。
「それを纏めると、だいたい、次の通りね。マスドライバーのガイドレールが100メートルに渡って一部損壊。これによって、マスドライバーは現在使用不能。まあ、まだ試験運用もしていなかったので、実際は使われてもいなかったわけだけれど。施設の被害は、滑走路が一本使用不能、衛星間通信用パラボラアンテナが全壊。滑走路は、イコンや飛空艇にとってはさほど問題ではないけれど、アンテナが壊れたため、月基地やアルカンシェルとのこちらからの直接通信は現在不可能な状態よ。もっとも、時間をかければ、ここからゴアドー島のゲート、再廻の大地のゲート、ニルヴァーナ創世学園のゲート、月基地のゲート、アルカンシェルというふうに何箇所かを経由すればコンタクトは可能だけれど」
「ということは、アルカンシェルは今、月との中間点ということね。もし、敵の狙いが月基地からニルヴァーナへむかうことだとしても、そう簡単にはいかないということね」
「いや、月ゲートの大きさから考えても、それはないだろう。大型飛空艇は無理だし、たとえイコンを送り込むにしたって、一機ずつじゃ、転送した端からこちらで撃破できる。なにしろ、月ゲートの出口は、ニルヴァーナ創世学園のど真ん中だからな」
 風森望の言葉に、源鉄心が突っ込んだ。
「さすがに、ゲートを利用するつもりなら、破壊はしないでしょう。もっとも、すでに月軌道近くに敵の戦力が存在しているのであれば、話は違ってくるけれど」
 可能性は低いが、ないとは言えないと高天原鈿女がちょっと顔を曇らせた。
「それを俺も考えた。施設を破壊した以上、敵は俺たちに宇宙にむかってほしくないんじゃないのかとな。月基地を攻撃したときの援軍を防ぐとか、あるいは高高度からこちらの施設を攻撃してくるとか」
 源鉄心が懸念を表明する。
 高高度からの攻撃は、地上からの迎撃が難しい。だが、それだけの技術と装備を敵が持っているかは疑問だ。たとえ地上からの迎撃を防げたとしても、アルカンシェルや、月基地に配備されているプラヴァー・ギャラクシーの防衛隊、そして、月のゲートから来るであろうニルヴァーナ創世学園の援軍を防ぐのは並大抵ではできない。
「いずれにしても、敵はゲートに多大の興味を持っているような気がしますわね。それを考えると、再びここに攻撃をかけてくる可能性もゼロではありません」
 ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が、考え込む。
 なにも、月のゲートから送り込める物が、イコンなどの戦闘部隊であるとは限らないのだ。大量の爆弾を直接月ゲートからニルヴァーナ創世学園の中心に送り込んで爆発させるということも、不可能ではない。
「考えれば、考えるほど、深みにはまっていきますね。敵の機動要塞が目撃されたという報告もあるみたいですし。敵の選択肢が多すぎます」
「もっと、敵の目的が絞り込めればねえ……」
 ノート・シュヴェルトライテの言葉に、風森望が考え込んだ。
「もしかすると、私たちは考えすぎなのかもしれないけれど。どうも、敵の狙いが一つだと頭ごなしに考えすぎている気がするのよね。敵の行動が結びつかないのは、複数の作戦が同時に進行しているという可能性もあるわけだけれど」
「それこそ、ややこしいことになるわね。まあ、さんざん陽動に引っ掛かっているわけだけれど。その考えだと、別々の作戦が、他の作戦の陽動になっているため、私たちが混乱しているということなのかなあ」
 高天原鈿女の言葉に、風森望が頭をかかえる。単純なのか、複雑なのか、今回の敵の動きは非常に難解だ。
「それで、肝心のマスドライバーの方の修理は可能なのか?」
 源鉄心が少し話題を変えた。
「不可能ではないようだけれど、それなりの時間と資材は必要ね。だいたい、なんでこんな巨大な施設を作れたのかって、少し不思議に思わない?」
「確か、フリングホルニに同じような原理のカタパルトがあったようですけれど」
 フリングホルニに搭載されているフィールドカタパルトのことを思い出してノート・シュヴェルトライテが言った。
「技術的には、機晶石による位相加速装置を等間隔に配置した物、磁力を使ったリニアカタパルトと構成はよく似ているわね。多数の磁石をならべる代わりに、多数の機晶石、あるいは魔法石を使って、力場を構成しているらしいわ」
「大きさを考えると、よくそれだけの機晶石を揃えられたな」
 アトラスの傷跡をぐるりと一周しているマスドライバーのことを考えて、源鉄心が高天原鈿女に言った。
「前に、茨ドームの巨大イコンの事件があったでしょう。あのとき、吸収したエネルギーをイコンが放出したわよね。結晶体の形に変化したエネルギー体は、イルミンスールの森からここアトラスの傷跡にまで広範囲に渡ってばらまかれたわけだけれど」
「ああ、それなら、イルミンスールが総出で回収作業にあたったはずだ。さすがに、もう落ちてはいないだろう」
 以前、ビュリ・ピュリティア(びゅり・ぴゅりてぃあ)が森で魔法石を回収していたことを思い出して、源鉄心が言った。
「確かにそんなこともありましたが。あれが何か?」
「あのとき集めた大量のエネルギー体を使って、初めてこのマスドライバーが実現したと私は考えているんだけれど」
 高天原鈿女が、ノート・シュヴェルトライテに推論を述べた。
「じゃあ、修理するには、イルミンスールにある魔法石をまたもらってくればいいわけね」
「残っていればだが、可能性としてはありだな」
 風森望の言葉に、これで修理できる可能性が出て来たと源鉄心が顔を明るくした。
「とはいえ、注意しないとまた破壊されそうだが。さすがに、これだけの施設をすべて守るのは不可能に近いな」
 どうしたものかと、源鉄心が考え込む。
「まだ稼働前でしたからね。稼働してしまえば、もともとの機能を拡張して全体にバリアを張れるようですから、簡単には壊されなくなるでしょうけれど」
「だったら、悩む前に行動だ。とりあえず、パトロールにでよう。これ以上マスドライバーを壊させるわけにはいかないだろう」
「ええ」
 源鉄心に、高天原鈿女がうなずいた。
「私たちは、敵の機動要塞が気になりますから、警備を兼ねてシグルドリーヴァでここに留まります。何かあれば、ニルヴァーナへ連絡を……。ええっと、ここの通信施設は使えないんでしたっけ?」
 風森望が、高天原鈿女に訊ねた。
「さすがに、月との交信となると、ここにある通信施設を使うしかなかったんだけど、破壊されてしまったので復旧には時間がかかるわね。ニルヴァーナへ渡った部隊との連絡は、ゴアドー島のゲートを使って行うしかないけれど、まあ、始めから、そちらが正規の通信ルートだし。月基地とアルカンシェルには、さっき説明した迂回ルートで連絡をとるしかないわね。タイムラグがでるけれど、仕方ないわ」
 月との安定した通信を行うには、それなりの設備がいると高天原鈿女が肩をすくめた。さすがに、携帯電話やテレパシーやイコンの通信機能では不可能だ。
「もしかして、月との連絡を取れないようにするのも、敵の目的の一つだったのでしょうか?」
「ゴアドー島のゲートが生きている限り、タイムラグはあっても連絡は取れるから、影響が出るほどの時間差はないはずなんだけれどもね。仮にゴアドー島のゲートが使用不能になったとしても、ニルヴァーナ創世学園の戦力があれば充分にむこうも対処できると思うけれど。だいたい、こちらも警戒しているから、ゲートを攻撃して占領したり破壊したりするのも至難の業だと敵も分かっているはずなのだけれどもね」
 ノート・シュヴェルトライテの疑問に、高天原鈿女が答えた。
 情報封鎖するにしても、それによってゲートへの攻撃が楽になるわけではない。現状では、むしろ警備が厳しくなったので、ゲート攻撃は不可能に近いはずだ。セオリーであれば、ここの宇宙港攻撃と同時に、ゲートへも奇襲をかけるべきである。
 もっとも、ゴアドー島のゲートには、その奇襲が行われたわけだが、敵はゲートを破壊しなかった。少なくとも、今現在、敵にはゲートを破壊する気はないということなのだろう。だとすれば、再びゲートを使うということであり、ニルヴァーナから何かをパラミタへと運んでくる可能性が高い。それが、アルカンシェルクラスの強力な機動要塞であればかなりやっかいだ。
「ひとまず、俺はマスドライバー周辺を確認してくる。何か嫌な予感がするからな」
 そう言うと、源鉄心はイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)に連絡して、マルコキアスへとむかった。
「そうね。こちらも、動けることは動きましよう。未来、ちょっと頼まれごとをしてくれる?」
 高天原鈿女が、夢宮 未来(ゆめみや・みらい)を手招きした。
「なんですかー?」
「ちょっと、ゴアドー島に行ってきてくれない。あそこのシステムがハッキングを受けたみたいなので、ちょっと調べてきてくれないかしら」
「ハッキングを受けた内容を調べてくるんですか? わ、分かりました! 私にできるか分かりませんけれど、頑張ります!」
 そう言うと、夢宮未来は駆け出していった。