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リアクション
第一章 一眼龍
【マホロバ暦1191年(西暦522年)】
奥集(おうしゅう) ――
織由上総丞信那(おだ・かずさのすけ・のぶなが)が於張国(おわりのくに)の狭い土地の中、身内で壮絶な主導権争いしていたころ、マホロバの奥東地方の名門伊建家で一人の龍が誕生した。
幼名凡天、のちの伊建 正宗(だて・まさむね)である。
正宗は曽祖父、祖父の代から没落しつつあった伊達家を、父から、その才覚を見込まれ家督を譲りうけた。
その直後に起こったのが、本之右寺(ほんのうじ)の変である。
折しも、戦国乱世の終焉が見え始めた時期であった。
「あともう少し早く生まれていれば、天下取りに割り込むことができたのに!」
信那が討たれたことを知った時、正宗は燃えるような瞳を輝かせて語ったという。
「それで、信那とはどんな人だったんだ? 天下統一に王手をかけた途端、謀反にあうなど、どんな気持ちだったのだろう?」
正宗はことあるごとに瑞穂 魁正(みずほの・かいせい)に昔話をねだった。
魁正のことは、先が原(さきがはら)の合戦後、正宗が密かにかくまっている。
「織由信那公は、俺が出会った中でも格別恐ろしい男だった。目的のためには手段を選ばぬようであった。しかしその強さがあったからこそ、乱世の中でひときわ輝く星となったのであろう」
「そうか。ぜひ手合せしたかった。その時は、こちらも負けないけどね」
正宗の不遜な態度に、若さゆえかそれともけがれのない根拠なき自信なのか、……魁正はかつての自分を重ね合わせていた。
「ずいぶん腕には自信があるようだな」
「この時代、飾りで筆頭にはなれないからね。でも、わたしが血を吐く思いで奥集(おうしゅう)を統一した時は、すでに日輪 秀古(ひのわ・ひでこ)が葦原攻めでマホロバ統一を達成する寸前だった。ああ今、思い出しても腹が立つ!」
「どうやら、太閤殿下のことは良く思っていなさそうだな」
「とーぜん! 初対面でわたしのことを子供だ、田舎者だと馬鹿にして!」
「あれはお前が葦原城攻めに遅刻してきたから、お灸を据えたのだろう」
「だって……行きたくなかったから」
頬をぷくっと膨らませる正宗。
少年の格好はしているが中身は少女である。
背後に正宗の家臣馳倉 常永(はせくら・つねなが)の刺すような視線を感じて、魁正はそれ以上からかうのはやめた。
「俺も全く同感だ。正宗が天下を獲れたってのも、きっとその通りだろう」
柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は伊建勢に合流していた。
噂には聞いていたが、こんな可憐な少女が武将として一軍を率いているとは信じがたかった。
しかも、荒くれ気性と名高い伊建軍である。
恭也は、正宗がこのまま冬の陣を勝利し、生き延びたなら、きっと現代も面白い事になるだろうと考えた。
「俺の要塞型イコン扶桑を手土産に持ってきた。好きに使ってくれていい。一応……俺が指揮官として乗り込むがな」
「面白い! 名前が扶桑なのもまた面白い!」
「同じ名は偶然。たまたまだ」
恭也は、照れた様子もなく正宗に言う。
「協力する理由はな、正宗様に死んで欲しくないからさ」
「わたしが死ぬ? そんなことか、心配するな」
正宗は未来の鋼鉄の乗り物に興味を示し、指差した。
「常永、伊建に必要なのはこのような軍艦だ。頼んだぞ」
「かしこまりました、正宗様。常永が命に代えても、必ずやエリュシオン帝国から連れて帰ってまいります。かの国の大帝は、鬼から桜の世界樹を守ってほしいという我らの願いを聞き入れるはず」
かくして常永は密命を帯び、マホロバを後にする。
恭也は、「万が一、エリュシオンの軍艦が来なかったらどうするか?」と、聞いた。
「そのときは、正宗の手から天下はすり抜けたと考えよう」
「……そこまでわかっているのならいい」
「では、我々も動くぞ。西軍の残党を集め、戦なしでは食いぶちに困る浪人どもに噂を流せ。鬼城が攻めてくると。そして、太閤の城には、黄金がごまんとため込んであると。鬼城には国内外から戦いを挑め。そうやすやすと天下を手に入れることなどできないことを、この正宗が証明してみせよう」
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