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リアクション
【8】
西の第7地区に通じる橋は、クルセイダーによる厳重な警戒態勢の下にあった。
垂直に近い高さまで上がった橋の”たもと”にある、二階建ての煉瓦造りの建物が、橋を制御する管制塔だ。
橋の上にも、管制塔の前にも、そして小窓から少し中が見える管制塔にも、クルセイダーの姿があった。
そこから少し離れたところに、七枷 陣(ななかせ・じん)、柊 真司(ひいらぎ・しんじ)、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)の姿があった。
三人は、とにかくここにいるのは危険だということで意見が合って、第7地区に脱出する計画を相談している。
「……こちとら、使えるもの少なすぎワロエナイ状態やのに、念の入った包囲やな」
「向こう岸に通したくない理由があるのかもな」
真司の言葉に、陣は頷く。
「オレらを探すほうに人数割く方が効率的な気がするしな」
「けど、この先は下層市民の家だろ? そんなとこに逃げたから何だってんだ?」
桂輔が言うと、三人は考え込んだ。
「……まぁそれは行ってみてのお楽しみとしようや。まずは向こうに行かんと」
「……だな。作戦を立てよう」
する事は単純だ。
1、逃走用の足を用意する。
2、警備のクルセイダーをどうにかする。
3、橋を下ろす。
「管制塔の制圧は俺が引き受けよう」
「じゃあ俺は、町に行って逃走用の車を探してくるよ」
真司と桂輔の仕事が決まった。
「……ってことは、連中をどうにかすんのがオレの仕事やな」
また別の、橋から離れたところに、十文字 宵一(じゅうもんじ・よいいち)、ヨルディア・スカーレット(よるでぃあ・すかーれっと)、リイム・クローバー(りいむ・くろーばー)の姿があった。
こっちの三人も、第7地区に脱出する計画をしている。
「まず俺とヨルディアで対岸に渡る。対岸の敵を制圧したら合図を送るから、リイムはそのタイミングで、こっちに来るんだ」
「わかりました。その間、僕はどうしてたらいいでふか?」
「対岸で俺達の戦闘が始まったら、さっき調達した爆薬を爆破してくれ」
「陽動ですね」
ヨルディアが言った。
「ああ。こっちから援軍を送られると面倒だからな」
それから、宵一とヨルディアは、空飛ぶ箒に股がって対岸に向かった。
しかし、川に隠れる場所はなく、彼らの姿は酷く目立った。しかも、ヨルディアは隠形の術を使っているが、宵一は別段何もしていないのだ。わざわざここを封鎖しているクルセイダーがそれを見逃すはずがない。
クルセイダーは、聖剣を銃型のアタッチメントに取り付けた光線銃で、二人を狙い撃ちにした。
「……しまった!」
「きゃあああっ!」
銃撃で箒を破壊され、二人は川に落ちた。
「リーダーとお姉さまが! た、大変でふ! 大変でふよ!」
リイムは、慌てて爆薬を爆発させた。
敵の視線が逸れた隙に、宵一とヨルディアは橋の”たもと”の陰に隠れた。
けれども今度は、リイムが敵の標的になってしまった。
「時空震の要因と思しき、三名を発見。超国家神様の名の下に、平穏を乱す因子を調伏する」
「……ま、まずいでふ」
そこに、陣と小尾田 真奈(おびた・まな)が、無造作に攻撃を放った。
天の火を二、三発。それから真奈は、広範囲に散らばるように銃撃を加える。
陣と真奈は、リイムに逃げるよう目配せすると、バーストダッシュと加速ブースターで、クルセイダーを引き離し、市街地に逃げ込んだ。追撃してくる敵との距離を一定に。引き離し過ぎず、近付き過ぎず、敵を自分達に引き付ける。
「……後は任せたで。真司くん」
「このまま一区画先まで逃げましょう。そこで迂回して、橋に戻れば、ある程度の時間を稼ぐことが出来ます」
「ああ。了解や」
ところがその時、尋常ならざる殺気が、二人の間に走った。
「……なっ!?」
「ご主人様!」
真奈は、陣を突き飛ばし、自分も反対側に飛んだ。
するとそこに、不気味な仮面と分厚いローブで全身を覆った人物が降って来た。
仮面の所為で誰なのかわからないが、その正体は、かつてエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)と呼ばれたモノ、ヌギル・コーラスだ。
「ご主人様、下がってください」
真奈は、即座に銃弾を叩き込んだ。
牽制など無意味。彼女にはわかったのだ、目の前のモノが恐ろしく危険なものだと言うことが。
ヌギルは、銃撃でのけぞったものの、すぐ体勢を戻しせせら笑った。
「ククク……実に美味。痛みを知らぬ我が躯には、銃弾は心地よき衝撃です」
「なんやコイツ……!」
陣は、天の火を放った。
しかし、火は、ヌギルの身体を覆う対消滅魔力結界によって、身体に触れることなく霧散してしまった。
「ククク……」
「……へらへら笑いよって。お前もクルセイダーの仲間か?」
「そう言うわけではありません。ただ、彼らと楽しむより、あなた達と楽しんだほうが有意義な時間を過ごせると思ったものですから、ここに参上したまでです」
「楽しむ?」
「ええ。食事は楽しむものでしょう?」
ヌギルに喰われたギフト達の成れの果て、体組織の一部クルーエル・ウルティメイタム(くるーえる・うるてぃめいたむ)が、彼に力を与える。
次の瞬間、彼の掌から魔力の塊のようなものが吐き出された。魔力塊は、陣の頭上をかすめ、後ろの建築物に直撃。大爆発が起こった。
「……くっ!」
更に攻撃をしようとしたその時、ヌギルの背中にクルセイダーが銃撃を浴びせた。
「新たな因子を確認。これより調伏する」
「……いけませんねぇ。食事の邪魔をするのはマナー違反ですよ」
ヌギルは跳躍すると、ローブの中に飲み込むように、クルセイダーの一人にのしかかった。ローブが少し膨らんだ……ように見えた瞬間、骨の砕ける凄まじい音が響き、ものの数秒でローブの中の哀れな餌は消えた。
「……ふぅ。前菜には少しもの足りませんねぇ」
クルセイダーに戦慄が走った。
「……ご主人様」
「下がれ、真奈」
陣は、真奈を背に隠すよう身構えた。
「化け物め……!」
レン・オズワルドは、物陰に隠れながら様子を窺う。
日が暮れる前に、一度様子を見ようと橋に来たが、最悪の状態だった。陣が、クルセイダーを何人か連れて市街地に行ったものの、残った敵も突破出来るような数ではなく、しかも殺気立っている状態だ。
この分では、夜にはもっと警備は厳しくなっているだろう。
「どうしたものか……」
そこに、桜月 舞香(さくらづき・まいか)が現れた。
一般市民のフリをして、管制塔に近づくと、クルセイダーが立ちはだかった。
「そこで止まれ。第7地区への一般市民の立ち入りは禁止だ」
「すみません。少し気分が悪くて……」
よろめくフリをして、自然に間合いを詰めた。彼女の攻撃が届く間合いまで。
「!?」
次の瞬間、疾風迅雷の速度で放たれた蹴りが、クルセイダーを吹き飛ばした。
「今よ!」
彼らが反撃に転じるその前に、後方に控えていた桜月 綾乃(さくらづき・あやの)と桜月 ミィナ(さくらづき・みぃな)が援護をする。
綾乃は、小型列車砲の砲撃で。ミィナは、アリスびーむで。巻き起こる爆発と閃光は、さながら戦場のようだ。
「目からビーム! 謎のビーム! 心をしゅわりと突き刺す虹色のビーム!」
はしゃぐミィナの横で、綾乃は目を閉じて難しい顔をしている。
「……何してるの、綾乃ちゃん?」
「クルセイダーの弱点が、御託宣で降りてこないかと思って、お告げに耳を澄ませていたのです」
「へぇ。それで、お告げは降りてきたの?」
「……きたのですが、その、弱点はない、と」
二人がそんなことを話している間に、もう一人のパートナー奏 美凜(そう・めいりん)は、徒手空拳で戦う舞香の元に。
「アチョー!」
敵の振るう聖剣を右に左に躱し、鬼神の如きカンフーキックをお見舞いする。
舞香と美凜は、管制塔を見上げた。距離にしたらそれほどの距離ではないが、クルセイダーが立ちはだかっているため、とても遠く感じる。
「制圧に時間をかけてる余裕はないアルよ。連中の仲間がいつやってくるかわからないアル」
「わかってる。でもこいつら、ただの雑魚じゃない……一人一人が強敵だわ」
その時そこに、真司とヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)、アレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)とリーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)が現れた。
「一気に制圧するぞ。ヴェルリア、頼む」
「任せて下さい」
ヴェルリアは、グラビティコントロールの重力波で、クルセイダーを抑えた。
その隙に、リーラは、ドラゴニックアームズによって生えた龍翼で飛翔すると、急降下してクルセイダーに蹴りを叩き込む。それから、龍翼と同時に両肩から生えた、龍の首から、火焔の吐息を放ち、目の前の敵を焼き払った。
「そんなとこに立ってると、火傷じゃすまないわよ〜」
「今よ、美凜! こいつらを叩きのめすのよ!」
「アチョー! クンフーを積んだワタシの技を見せてやるアル!」
舞香と美凜も、これを好機とクルセイダーに殴り掛かった。
「……見えた」
真司は、管制塔の入口にまで続く導線を目視。最短ルートを割り出すと、アクセルギアで加速し、レーザーブレードで斬り捨てながら、一気に駆け抜ける。
扉を蹴り破り、中に。管制塔の中にいる敵は、1、2、3、4、5、6人。加速状態を維持したまま、中の敵を斬り伏せる。
「……加速終了まであと2秒……!」
3人が斬り倒され、紫の煙となって爆散した。
そこでアクセルギアの効果がきれた。加速による負荷が一気に襲い掛かり、真司は思わず膝をついてしまった。
「……くっ!」
「作戦変更。目標を危険因子と判断。聖都市の平穏のため、因子を排除する」
「聖都市を脅かす、悪しき種よ。我等が神の下で、安らかに眠るがよい」
「させぬよ」
そこに、アレーティアが雪崩れ込んで来た。
抜刀術『青龍』の早業で、瞬く間に残る3人を斬り捨てた。
「大丈夫か、真司」
「ああ。問題ない。しばらくすれば、また戦える」
「ならよい。さて、橋を下ろすとしよう」
獣の断末魔のような、金属のこすれる音をあげて、橋はゆっくりと下り始めた。
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