校長室
【八岐大蛇の戦巫女】消えた乙女たち(第3話/全3話)
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●龍の舞、高まりて 八岐大蛇の動きが鈍った。 単に鈍ったというより、あきらかに衰弱しはじめた。両手両脚と首に、鉛の分銅でも取り付けられたかのように。 それは龍の眷属とても同じことである。 当たらなかったパンチが当たるようになる。砕けなかった鎧が砕けるようになる。 サイズが巨大であっても同じだ。 アキラ・セイルーンはピヨに命じた。 「よーし、ピヨ! 全力体当たりをぶちかませっ!」 行け行けジャイアントピヨ! 偉大なるもふもふが、柔らげなその外見に似合わぬ全体重を乗せた強烈なタックルで、イコンのようなカミキリムシに正面から激突した。 山をも動かすその勢い! 疾風怒濤、敵はたまらずお空に吹き飛んでいったのである。 「うっわー! 飛びましたねー!」 これにはセレスティア・レインも大喝采だ。 ピヨは誇らしげにふんと鼻息すると、新たなターゲットを求め、そのくりくりした目を動かした。 知将、相沢洋がこの気を見逃すはずはなかった。 「敵は弱体化したぞ! 味方の龍の舞が奏功したのだ!」 この声に、セレンフィリティ・シャーレットと御神楽陽太の口から歓声が上がった。 相沢洋孝からの通信も飛び込んでくる。 「もう敵の増援はないよー。しかも弱ってる! 今がチャンスだよ」 これを聞くと、洋は抜刀してこれを旗印のように掲げた。 「よし! これより殲滅に移る!」 「待ってたぜその合図! あと一頑張りするか!」 この声に奮い立ち、朝霧垂はフットペダルを踏み込んだ。 「ねえねえ、終わったらせっかく馬場校長もいるんだし、『皆さんお疲れ様でした会』を行っていい?」 ライゼ・エンブが副座から呼ばわる。 「おう、わらわが許す! 好きなだけ飲み食いするがいいぞ! 我らも付き合うおう!」 魂剛のコクピットから、エクス・シュペルティアが力強く応じるのが聞こえた。紫月唯斗はそれを聞いてぐっと伸びをして操縦桿を握りなおした。 「『我ら』って俺も自動的に参加決定なのか。いや、もちろん参加するけどな!」 黒麒麟が大地を蹴立てる。 迅い。迅い。彼らの士気の高まりを象徴するように、その脚力は大地を穿った。 しかしこれを見て敵は逃げ散るかと思いきや、逆に自暴気味に数体で押し寄せてきたのである。あるいは、徐々に力が抜けていくゆえ急いで決着を付けたいということだろうか。 二足歩行、長い槍、分厚い装甲の甲虫たち。それがなんと三体。 言葉にならぬ喚き声発し吶喊す。その槍、鎧に錆びのようなものが広がりつつあるが、敵ながら天晴れな闘志であろう。 一糸乱れぬその動きは、かなりの手練れである証左。 だが今の魂剛と黒麒麟、つまり唯斗と垂にとって、彼らはただ漢字二文字で表現し尽くせる存在でしかない。 それすなわち、『好餌』。 「垂、わかってるのかな連中、これが俺たちからの大サービスだって。名もなき雑魚の身で魂剛と黒麒麟の本当の姿騎神剣帝モードを拝めるなんて!」 「さあな、わかったところであの世行きだがな!」 「違いない!」 静かに佇み待ち受けるは馬上の戦士、鋼鉄の武者『騎神剣帝』。 地響きたて迫り来る三体は、どこか野武士を思わせようか。 三方より同時に槍が伸びた。真東、北東、南東から。 切っ先、赤い光を反射するも、より強い光がこれを飲み尽くす。 「祓え! 禍薙!」 薙ぎ払う勢い、それはまるで地上に降りた日輪。 「俺の可愛い後輩を、解放しやがれえええぇぇぇっ!!」 閃光黄金に駆け抜ける。騎神剣帝必殺必中、これぞファイナルイコンソードだ。 破邪顕正の威力、風圧だけで嵐の如し。 鋼が鋼を叩き斬る! 槍の穂先がまばらに飛んだ。 すべての穂先が灰色の大地に突き立ったとき、すでにいずれの野武士も、胴を腹の皮一枚とて残すことなく綺麗に横断されていたのである。 「よっしゃ、どんどんいくぜ!」 新たな敵を求める騎神剣帝だ。 黒麒麟の蹄は、死の使いのように穂先を踏みつけ砕いてしまった。 それに続くように、全イコンが総攻撃に入ったのである。 ほどなくして巨大な『眷属』が掃討されたことはいうまでもない。