リアクション
鏡の国の戦争 17
ダーエヴァ軍本陣、ここに残っているのはダルウィと、その命令を待つ怪物達だ。
「我らが城も落ちたか、これで二度目だな」
ダルウィは改めて、遠く背後を振り返った。
根元から切り倒された黒い大樹は、そろそろ自壊しはじめている頃だろう。予定の内とはいえ、二度同じ事を繰り返すのは堪えるものがある。
「だからこそ、勝たねばならぬな」
ダルウィは誰に言うでもなく、そう零した。
本来なら味わう事のできない二度の敗北、そうなってもなお挑戦する事ができる。これを幸運と呼ばずに、何と呼べばいいのだろうか、その答えはわからない。
「全軍に伝えよ、日の出と共に総攻撃を開始する。これで全てを終わらせるぞ、先陣の名誉に預かりたい者は申し出るがいい」
「こんな事になるとはね」
長刀を担いだザリスは、自分と同じ姿の兵隊が並ぶ姿に驚嘆した。
しかしこの兵隊には何の嫌悪感も感じない。ただの人形だからだ。
「わかってると思うけど、これは僕のだよ」
素手のザリス、いや、もう戦い方で区別する必要はない。
「名前は、もう決まってるよね。決めていたもんね、僕達は」
「そうだったね。名前を分ける事ができるなんて、思いもしなかったよ」
「だけど、それが僕達の願いだった。そうなった事を、僕は素直に祝福するよ、プルシャ」
「ありがとう。あとはもう全てを終わらせるだけだ。もう、この生で叶える願いは全て叶ったのだから」
「そうしよう。これで僕達は個人だ。この世界が消え去るのに猶予があるのなら、僕も僕の名前を考えてみようかな」
「そうするといいよ」
「ありがとう。次会う時は、きっと新しい世界だね」
整列する意思無きザリスはぴくりとも動かない。
彼ら、アルダ・ザリスは魂を持たない人形だが、その性能は本体と比べても何の遜色もない。ゴブリンやワーウルフと同じように、使い捨てられる兵隊でありながら、その能力はザリスと同格なのだ。
「さぁ、行け。空港に集まってるオリジンのお客様に最大級の歓迎をしてあげよう。彼らのおかげで僕は僕になれたんだ。感謝を込めて、一人残らず殺してあげるんだ」
千代田基地外周部、ここに攻め込んだザリスはゆっくりと夜の散歩を行っていた。
「もう、こっちは忙しいのに……それでも、オンオフができるのはありがたいな」
暗闇に沈んだ廃墟を進みながら、銃剣を担いだザリスはぼやく。
狙撃による女王の排除には失敗したが、それは織り込み済みだ。
暗闇の追いかけっこも、ひとまず終わりを迎えている。配下二人を失ったが、その結果フリーになれたのだから勝ちと言っていいだろう。
「千代田基地のお姫様は穴にこもったか。あぶりだすにはきっと深い穴なんだろうなぁ。うん、それでもやるだけやってみるしかないよね」
思った以上に、千代田基地の防衛能力は低い。
そして、ダルウィは国連軍に対して優位。
千代田基地への攻撃は、間もなく大きな効果となって戦場に影響するだろう。自分が女王を殺せれば良し、失敗してもいずれダルウィはたどり着くだろう。
「勝っても負けてもいいか、散々やってた殺し合いみたいで興奮するね」
ザリスは地面に向かって銃剣の引き金を引いた。
「さすがに、遺跡の外から撃って貫通させるほどの威力にはできそうにないな。しょうがない、攻めるか」
手を伸ばす、何にも届かない。
空の星にも、地上の光にも届かない。
「うーん、まだ本調子には遠いな……あっちもそうであって欲しいけど、どんなもんかな」
呟き、遠くを見る。
それは、三対の翼を持ちながら羽ばたく事はせずに空中に静止していた。
本来なら、とっくに全ては片付いていたはずだ。
そうならなかったのは、それだけ熾天使という器が高性能だったからか、あるいは熾天使の模造品は所詮はその程度だったという事なのかもしれない。
傷を癒している間に、随分と地上は混沌としているようで、それは望んだものとはきっと違う側に傾いている。
「傍観者のままじゃ、きっと終われないよね……ねぇ、君はどんな答えを出すかな、できれば受け入れて欲しいんだけど、でも強要はしないよ」
ふわりとその場で回転してみる。特に意味は無い。
「こっちのコリマは、きっと受け入れてくれるさ。だって彼は、欠けているんだからね」
本屋さんで最初に後書きを見てしまうように、マスターコメントを最初に見る方もいるのでしょうか。あとがきじゃなくて解説だとちょっと残念に思う野田内です。
今回はちょっと色々こちらでまとめを行います。
ネタバレされたら面白みが無くなっちゃう、という方はここから先は画面をスクロールしないで我慢してください。
そうでもない方、読み終わってる方はそのままどうぞ。
○千代田基地関連
・道拡張工事の結果、LLサイズイコンの搬入が可能になりました。
・ザリス(銃剣)と敵部隊による襲撃を受け、アナザー・アイシャ及び多数の関係者は地下の遺跡を改造した防空壕に避難しました。
○国連軍主力部隊
・敵主力部隊との戦闘に敗北し、部隊を再編成しつつ後方に臨時拠点を築いて持ち堪えている状態となりました。
・配備されたイコンの四割を失い、二割が損傷したまま修理を受けられない状態になっています。
○捕虜救出部隊・空港
・捕虜に加え、多くの民間人の救出に成功しました。その多くは空港に集められています。
・黒い大樹の排除に成功しました。これにより、敵勢力の増殖に対する懸念は日本においては排除されました。
・やたら増えた無言のザリス(後述)が、空港に向かって進軍を始めたのが確認されました。
○その他報告
・ザリス(素手)がプルシャ・ザリスにランクアップし、自分のコピーを大量生産する能力に目覚めました。
・ザリスのコピー、アルダ・ザリスは教導団の一般学生が操る鋼竜に一対一で戦い、ほぼ間違いなく勝利する程度の戦闘力しかありません。また、喋りません。
・日が沈んでから、上空に二対の天使の姿が目撃されるようになりました。
以上になります。
詳細な説明は次回シナリオガイドに記載しますが、次回はこの翌日が開始時間となります。それまでの空白時間で、移動やイコンの切り替えなどが可能となるので、今回参加した地点から移動できないなどの縛りはありません。
また、今回はボーナス情報はありません。
それでは、もしよろしければ次回の最終回でお会いしましょう。