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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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 パイモン達の防衛線構築案を手に入れたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、パイモン達が率いる防衛隊とナベリウス、アムドゥスキアスが与する防衛隊にどうしても隙間が生まれるだろう可能性を考慮した。パイモン達の軍勢が完全にポッシヴィを背後に背負うならまだしも、既に敵の進軍は始まっている以上、進軍の途中で交戦する可能性が高い。対してこちらもポッシヴィの後方から出撃するため、ポッシヴィを背後にするには時間を要する。それまでの間、防衛線を抜けた敵軍はどこを標的にするか、ローザマリアはそれを考える。
(……ミュージン族が此処に居る以上、ヴォカロ族が向かって来る可能性は織り込むべきね)
 そのように判断したローザマリアは、まずはポッシヴィのやや南東方向へ向かい、待ち伏せに適した地形を見つけるとそこに伏兵を配置する。一旦戦闘になれば消耗してしまうだろうから戦線の維持には使えないが、ポッシヴィに向かう敵を少しでも減らすことは出来る。
(マガメ族は機械兵っぽい見かけだから想像出来るとして、ヴォカロ族は予想が難しいわね……。
 ポッシヴィの住民に聞けば、何か情報を得られるかしら)
 情報を得るため、ローザマリアはポッシヴィに足を向けた――。

 その『ポッシヴィ』では、杜守 柚(ともり・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)魔神 ナベリウス(まじん・なべりうす)魔神 アムドゥスキアス(まじん・あむどぅすきあす)に同行し、ヴォカロ族のコピー、『Cヴォカロ族』に対抗するための方法をミュージン族から伺っていた。
「彼らの音楽は非常に指向性が強く、また持っているエネルギーも強い。対して私達の音楽は空間にゆっくりと作用し、持っているエネルギーではヴォカロ族のそれに劣る」
「……つまり、正面からぶつかり合ったら危険、ということだね。うーん、向こうが音楽を奏でられなくなるような何かがあるといいのかなぁ」
 それぞれの特徴を聞き出し、一行は対策を検討する。柚の『音で音を消す』『音に音を被せる』案は、ポッシヴィ側から対抗出来るだけの音楽を奏でるのは難しいこと、音楽と音楽がぶつかり合った場合周囲に傷付けるエネルギーとなって拡散するため危険であることから、何とかCヴォカロ族の音楽そのものを発させない方向で話が進んでいく。
「……もしかして、ヴォカロ族さんを直接攻撃する、んですか? ……たとえヴォカロ族さんではないとはいえ、それは……」
「……やむを得ない事態もあるかもしれないけど、手段としては最後にしておきたいね。……案が無いわけじゃないけど
「ん? アム、何かいい案があるの?」
 三月と柚、それにナベリウス――ナナ、モモ、サクラの3人――に視線を向けられ、アムドゥスキアスは視線を宙に彷徨わせた後、はぁ、と重い息を吐いた。
「ゴメン、ちょっと席を外していいかな」

 柚たちから離れ、アムドゥスキアスは一人、ポッシヴィの郊外に足を運んだ。
「フィーグムンド、出ておいでよ」
 何も無いように見える空間に向かってアムドゥスキアスが呼べば、フィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)がスッ、と姿を見せた。二人は長い付き合いでありながら、ここ最近は意識のズレを互いに感じており、今も互いに掛け合う言葉は少ない。……しかしフィーグムンドはアムドゥスキアスの態度から、彼が何らかの言葉を、きっかけを欲している事に気付いた。
「……アム、支えるという事は一方通行ではない。アムが誰かを支えている時、アムモまた、誰かに支えられているという事だ。
 しかし――支えを失った存在は、脆い」
 それだけを口にし、つ、と視線を逸らす。それは彼が暗にアムドゥスキアスに『魔神としての力を使わずに、この戦いを切り抜けられるのか? 守るべきものを、守れるのか?』という疑問を呈するものであった。
 おそらくアムドゥスキアス自身も、今回の戦いが生易しいものではないことは実感しているはず。それでも彼が『魔神としての力』を行使しないのは友人に配慮してなのか、詳しい事は彼には分からない。分からないまでも、『ポッシヴィを護るためならば形振り構うべきではない』という姿勢を取るべきであるとフィーグムンドは思ったし、そうすることで失われるような物があるとしたら、それは所詮その程度だったのだ、という認識でいた。
 少し、にはかなり長い沈黙の後。アムドゥスキアスがふぅ、と息を吐き、何かを決意したように口を開く。
「ありがとう、君には随分と失礼な態度を取ったように思うよ」
「……それこそ今更ではないのか? 私が君の態度に何かを思うことはあったが、傷付けられたという認識はない。君はそういうことをしない人物だと思っているからな」
 そう言ったフィーグムンドの顔に、微笑のようなものが浮かんで、アムドゥスキアスもはは、と笑った顔を浮かべる。
「ボクの話、聞いてくれるかな」
「いいさ、私とアムの仲だ」
 そして、アムドゥスキアスが決めたことを、フィーグムンドに話して聞かせる――。

 柚の元に帰ってきたアムドゥスキアスは、先程フィーグムンドに話した内容を繰り返して聞かせる。それはアムドゥスキアスが魔神としての力を行使しCヴォカロ族の音楽を封じ込め、彼らを無力化するというものであった。それを話すアムドゥスキアスの顔は、どこか申し訳無さそうだった。
「アムくん……わたしたちにできること、ある?」
 ナナが心配するような顔でアムドゥスキアスに尋ねる。アムドゥスキアスはそれを心底有難がるような顔で受けた。
「もし、ボクの力が及ばなかった時は、彼らを迎撃してほしい。……ゴメンね、こんな事をお願いしちゃって」
「ううん、いいよ。アムくんはわたしたちがぜったい、まもってあげるから!」
 笑顔を浮かべ、モモとサクラを連れてナナがその場を離れる。三月もその場の空気を読んで身を引き、場にはアムドゥスキアスと柚が残された。
「柚、君は三月とポッシヴィに残って。……その、えっと……ゴメン」
 耐え切れなくなって、アムドゥスキアスがくるりと背を向ける。アムドゥスキアスは柚の『できればヴォカロ族の人たちと同じ音楽を奏でられたら』という思いを知っていたからこそ、それが実現不可能な策を取らなければいけないことに申し訳のない気持ちを抱いていた。

「私、諦めていませんよ」

 そんな声に、アムドゥスキアスが振り返る。視線の先で柚は悲しんでなんかなく、むしろどこか清々としていた。
「歌は人を、世界を繋ぐんです。それがたとえ、『天秤宮』の生み出した『敵』だったとしても、ほんのちょっとの間だったとしても、私は音を、心を合わせることを諦めてませんから」
 その言葉に、アムドゥスキアスは今こそ、何故魔族が敗れたのかを思い知り、そして自分の取った態度がひどく恥ずかしいものに思えてきた。
「……ねえ、ボク今とっても、情けない顔してないかな?」
「ふふ、どうでしょう。可愛いですよ」
「あーやめてー恥ずかしくなるからやめてー」
 頭を抱えて悶えるアムドゥスキアスを、柚がおかしく見守る。ひとしきり笑い合った後で、アムドゥスキアスが表情を改めて柚に尋ねる。
「ボクと一緒に居ることで、君は傷付くかもしれないけど、いい?」
「大丈夫です。みんなが居るんですから」
 そう告げる柚の背後で、ナナ、モモ、サクラが手を振って答え、三月も応えるように頷いた。
「……はは、そっか。……うん、ありがとう。感謝するよ」
「感謝するのは私の方ですよ。……私のために色々考えてくれて、ありがとうございます」
 それぞれが互いに感謝を口にして、そして笑顔を向け合った――。