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【蒼空に架ける橋】第2話の裏 幕開けのエクソダス

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【蒼空に架ける橋】第2話の裏 幕開けのエクソダス

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――司令塔前。
「これでも食らえぇッ!」
 集まってきた傭兵達を、全裸のラルクが【雷霆の拳】で吹き飛ばす。
 ラルクは司令塔前で戦っていた。突如現れた全裸の不審者に、傭兵達は戸惑いながらも応戦しようとする。
「くっ……! 怯むな! 撃て撃て撃てぇッ!」
 吹き飛ばされた者の後から出てきた傭兵達が、電撃銃を構える。
「おっと!」
 だがラルクの【自在】によって作られた闘気により銃を弾かれてしまう。
「おらおあどうしたどうした傭兵共! 男一人倒す事できねぇのか!?」
 ラルクが煽るが、傭兵達は少し怯んだ様子を見せる。

「何でアイツ全裸なの……」
「全く隠そうとしないし……怖いわ本当……」
「てか、あれ足? 足三本あるの?」
「……な、なんかアレ、大きくなってない?」

 傭兵達は皆、ラルクが全裸だという事に戸惑っているようである。しかも戦っている中興奮してしまったのか、詳細を述べる事は全年齢の壁という物に阻まれているが故出来ないが股間がどえらい事になっている。
「なんだこねぇのか? ならこっちから行くぜぇッ!」
「ひっ! き、きたぁ!?」
 傭兵が銃を構えるが、その前にラルクの拳が叩き込まれる。
(……今の所こっちが優勢か。だが)
 ラルクがちらりと視線を横に向ける。そこには連絡を受け、応援に駆け付けた他の傭兵達が現れていた。倒しても倒しても、傭兵達が沸くかのように現れるのである。
(あんまり長いとこっちもヤバいな……アイツら、成功したか?)
 ラルクが視線を変える。その先は、司令塔の入口であった。

     * * *

「ふぅ……無事入れたね」
 司令塔の入り口直ぐ。騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が安堵の息を吐いた。
「見つかるかと思ったが、案外いけるもんなんじゃのぉ」
 清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)も同じように息を吐いた。
「あらあら、言ったではないですか。ご友人の家を訪問するような自然な振舞いならば怪しまれることは無いと」
 セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が笑みを浮かべながら言う。勿論それが成功の理由ではない。

――詩穂達は司令塔に侵入していた。目的は情報の攪乱である。
 傭兵達は司令塔からの通信を受け、行動する。ならばその大元を乗っ取ってしまえば脱出の邪魔をできると考えたのである。
 だが見つかってしまえばあっという間にピンチになる。その為バレずに進入する必要があったが、ここでラルクが助けになった。
 ラルクは司令塔か屯所で暴れて、騒ぎを起こすつもりであった。その為手を組み、ラルクが暴れている隙に詩穂達が司令塔内部に潜入する事になったのだ。
 中に入る為のキーはラルクが暴れて倒した傭兵の一人から奪え、目が余所にある内に侵入したのである。

「おっと、侵入しただけで安心しちゃ駄目だね。早い所通信を乗っ取らないと」
 詩穂が思い出したように言う。
「ええ、その為にはまず配電盤を探さないと」
 セルフィーナが頷く。
 まず作戦としては、セルフィーナが配電盤を【雷術】で操作し、指令室の電気を遮断。その隙に青白磁が制圧。
 それが完了したら再度配電盤を操作し、詩穂が嘘の情報を流して混乱させるという物であった。
「外にそれらしきものはありませんでしたし、そうなると中を探索しないといけませんわね……青白磁様、何かありましたらお願いしますね」
「うむ……女性に手を上げるのは正直気が進まんがのぉ」
 セルフィーナの言葉に、青白磁が複雑そうな表情で頷いた。

「――女だからと甘く見ると痛い目に遭うぞ」

 突如かけられた女性の声に、詩穂達が振り返る。
 通路に一人の女性が立っていた。肩ほどまで伸びた髪の背の高い女性であったが、一際目立ったのは左腕――タンクトップの肩口覗く、肩から指先まで全て白銀色の金属でできた義手であった。
「表が騒がしいと思ったら……こんな所に鼠が入り込んでいたとはな。あっちは陽動か?」
 そう言いながら金属の左手の指を握り、拳を作る。その間も女性は詩穂達から一切眼を逸らしていない。
「ま、拙いね、これ……」
 詩穂の頬に冷たい汗が伝う。
「せ、青白磁様……」
「わかっとる」
 セルフィーナの言葉に、青白磁も女性から目を離さず頷く。
 青白磁が女性に【超越の波動】で威圧をかける。だが女性は眉一つ動かさない。
「……やる気か。いいだろうかかってこい」
 その言葉を聞いて、青白磁が一気に女性に距離を詰める。
(女性だからと甘く見ると拙い! ここは一気に勝負をかけんとやられるのはわしじゃ!)
 距離を詰めると、青白磁は女性の腕と胸倉を掴む。そして瞬間、身を捻り相手の重心を崩し、背負うようにして投げる。
(――手ごたえがない!?)
 投げる瞬間、青白磁は特有の相手の重さが無い事に気付く。そして顔を上げると、両足で着地しこちらを向いている女性が居た。
 その姿に気付くや否や、青白磁の鳩尾に衝撃が走り、後方に吹っ飛ぶ。その金属の拳で殴られたという事に気付いたのは、壁に叩きつけられて意識を失う直前であった。
「悪くは無い。悪くは無い、がまだ甘い」
 女性はそう呟くと、詩穂達に向き直った。
「さて、まだやるか?」

     * * *

(……遅いな)
 ラルクが司令塔の入り口に視線を向ける。入り口は相変わらず固く閉ざされたままである。
「うぉっと!?」
 傭兵が放った弾丸が、危うく身を掠る。
「っくぅ……! なかなか効くじゃねぇか!」
 全身に電撃が走るが、堪えられないほどではない。だが、連続して食らうと危険である。
(……流石にこれ以上時間はかけられねぇ)
 表情に出さないようにしているものの、多くの傭兵を相手にしているラルクの体力にも陰りが見え始めていた。躱していた銃撃も徐々に掠る様になり、【自在】を放つ事が出来るのも精々数回といったところであった。
(となると後は逃げるしかないな……)
 ラルクは辺りを目だけ動かして確認する。傭兵達の位置と、逃げる最短距離となるルートを計算する。
(……よし)
 そして見つける。反対側が通路となっており、傭兵達の数が少ない壁を。
 じりじりと構えを崩さぬまま、ラルクは壁を目指し――隙を見て駆け出す。
(こちとら捕まる気なんざ毛頭ないんだ。とっととドッグへ向かわせてもらうぜ!)
 放たれた弾丸を躱しつつ、壁へと向かい到着すると破壊しようと身構える。瞬間、
「っぐぅ!?」
身体に電撃が走り、倒れ込んでしまう。
――全て躱した筈であった。失いそうになる意識を必死で留め、何とか立ち上がろうとする。
「悪いね兄ちゃん、ちょっと遠くから狙わせてもらたわ」
 頭上からかけられる声にラルクが見上げると、そこには髪を後ろで括った少女が立っていた。肩で電撃銃をぽんぽんと叩きつつ、ラルクを見下ろしている。
「……へっ、狙撃かよ」
「そーそー、兄ちゃん全部この娘らの弾避けてまうから。だから気付かれんくらいちょーっと遠くから撃たせてもろたで。でも兄ちゃん、暴れすぎやで。だから、もうちょっと寝ててーな」
 そう言うと、少女はラルクに銃口を向け、引き金を引いた。

「ほい、お仕事完了っと」
 ラルクの身体を銃で突き、気絶している事を確認すると少女は「拘束しといて」と近くの傭兵に言う。
「りょ、了解しました! リ・クス副官!」
 少女――リ・クスが手をひらひらと振って返事する。
「しかしまぁ、敵のど真ん中に裸一貫で挑んでくるって相当やな」
 リ・クスが呆れた様な感心したような口調で言う。
「そいつだけではない」
 司令塔から、拘束された詩穂達を連れて義手の女性が出てくると手近の傭兵に「コイツ達も任せた」と告げる。
「め、メ・イ副官! お怪我は!?」
「無い。心配するな」
 それだけ言うと、傭兵に詩穂達を受け渡す。

――義手の女性はメ・イ、髪を括った少女はリ・クスという。今現在不在中のミツ・ハに次ぐ参ノ島ナンバー2である。

「おーメ・イ。そっちにもおったんか」
 リ・クスがひらひらと手を振ると、メ・イが頷く。
「ああ……確か、密漁で捕まえた奴らだったよな?」
 その言葉に今度はリ・クスが頷く。
「そや……確かに密漁者のはずや」
「それにしては腕が立つ。只者とは思えんが」
「それにもっと人数が居たはずや。他の奴らが大人しくしとるとは思えんわ」
「何件か脱走者を捕縛した、と通信が来ていたが?」
「それが全員ならいいんやけどな」
 リ・クスがそう言った直後、何処かで大きな音が響きベルが鳴り響いた。火災報知機の物だろう。
「……まだ居るようだな」
 メ・イの言葉にリ・クスが「せやな」と頷く。
「警戒を強める様に総員に伝えろ。脱走者が出たようだ。見つけ次第捕縛しろ」
 近くの傭兵にメ・イがそう告げた。