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コーラルワールド(第2回/全3回)

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コーラルワールド(第2回/全3回)

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第11章 最後の巨人の最期
 
 
 ぴたりと巨人の槌が止まった。
 その槌の上に、黒龍騎士、リアンノンが立っている。
 リアンノンはふわりと槌を蹴って、門の上へと降り立った。
「そこまでにして貰おう。門はもう、限界だ」
「……そうか」
 と、巨人は、槌を下ろす。

 物陰から密かに、十六凪は、ついに黒龍騎士の介入かとほくそ笑んだが、すぐに、望んでいた状況とは違うようだと気がついた。

「彼等は、合格か」
「不満は残るが、仕方あるまい」
 こんなところだろう。そう言った巨人に、リアンノンは頷く。

 巨人の首が、刎ね飛んだ。

 頭がごとりと地に落ちると同時、体もまた、ゆっくりと倒れて、巨人は、ズシンと地に沈む。
 地に降りたリアンノンの手に持つ剣が、血に濡れていた。
「巨人の命を、死の門の鍵とする。門は、すぐに開けて構わないか」
 唖然とする契約者達を見渡して、リアンノンの宣言に、我に返ったニキータが待ったをかけた。



 とどめを刺したのはリアンノンだが、殺したのは、自分達全員だ。刀真はそう思う。
「ハルカを助ける為に、殺すことしかできない俺は何なんだろうな……」
 刀真がぽつりと呟いた。
 思い出すのは、初めてハルカと出会った時の冒険だ。
 あの時、ハルカの祖父を殺したのも、自分だった。
「刀真……」
 悪いとは思っていない。これは、自分で決めたことだ。
 ただ、少しだけ、後悔とも言えないような何かが、心に残る。
 本当に、こうでありたいと思う自分に、なれていない。


 やがて、門から魂が解放されたハルカは目を覚ました。
「……ブルプルさん……」
 見下ろすエリシアの名を呼ぶ。エリシアは微笑んだ。
「よく頑張りましたわね、ハルカ」
「ハルカ、よかったぁ」
 ぼろぼろになった服の代わりに、美羽が、着ていた制服の上着を掛けてやる。
「ごめんなさい……。助けてくれて、ありがとうなのです」
 あれ程の負傷だったので、未だ完全回復とは行かないが、ハルカが意識を取り戻したことで、周囲はようやく安堵した。


◇ ◇ ◇


 霊峰オリュンポスには、通常、崩御した皇帝を移送する目的でしか立ち入ることをしない為、その為の道一本しか存在しない。
 他は、獣道ぐらいのもので、オリュンポスに常駐する黒龍騎士達は、移動に龍を使う。
 その唯一の道が車道に充分な幅があったのはカミーレ達にとって幸いだった。
 三毛猫タマを助手席に乗せて、可能な限りのスピードで、カーミレ・マンサニージャは悪路もぶっ飛ばす。

「カミーレ、今どの辺?」
 携帯電話が鳴って、ニキータ・エリザロフから連絡が入った。
「森林地帯を走行中です」
「悪いんだけど、ついでにシキ達を回収してくれる?
 もう、逃げる必要はないからって。
 トオルに、解りやすいところに出てくるよう連絡を入れさせるけど、彼等を襲ってる人がいたら止めてちょうだい。
 ……もう、その必要は無いわ」


 カミーレの運転する装甲通信車が到着し、途中で拾ってきたシキやぱらみい、清泉北都達が続々と降りた。
「定員オーバーじゃない。
 まあいいわ、よく間に合ってくれたわね」
 ニキータの労いに、カミーレは、間に合ってよかったです、と笑う。
「飛んで来た方がよかったかもね……」
 北都が苦笑した。悪路の大胆な運転に、頭が少しくらくらする。

 トオルが、シキとぱらみいに走り寄った。シキは、少し怪我をしている。
「シキ……ごめん」
 気にするな、とシキは微笑した。
 次いでトオルは、ぱらみいをぎゅっと抱きしめる。
「トオルちゃん、ごめんね」
 今度はぱらみいが謝って、死の門へと歩み寄ったぱらみいは、そこに横たわる巨人の骸を見た。
「……巨人族のひと」
 驚いたように呟いて、両手でその体に触れ、ぱらみいは、悲しそうに項垂れた。
「ごめんね」



 銀髪の女騎士、リアンノンは、自分が死の門の門番を継承した、と契約者達に告げた。
「成して良いことではないが、前任者がした約束は守ろう。
 鍵を得た。門番リアンノンの名において、死の門を開く」
 リアンノンは、観音開きの門を、両側に、ゆっくりと開いて行く。

 門が開いた瞬間、全員の体に痺れが走った。
 隠形の術で潜んでいたデメテール・テスモポリスの一番の仕事は、黒龍騎士が介入してきた時を狙って、巨人の命を狙うことだったが、あっという間に黒龍騎士が巨人を殺してしまったので、タイミングを逃してしまった。
 だが、もうひとつの仕事の為に、そのまま、ずっと潜んでいた。
 門が開いた瞬間を狙い、周囲にしびれ薬を撒く為に。

「みんな、今だよー」
 麻痺に似た感とともに、そこにいた者達の動きが鈍る。
 その瞬間を狙って、巨人の死の混乱に乗じて一旦撤退していたペルセポネが、パワードスーツの機動力を使って、真っ先に門に突入した。
 十六凪に続いて、隠れ身で潜んでいたカラスも飛び込み、拘束されていた朝永真深だけが残された。
 ぼんやりと目を覚ましながら、門に突入して行く彼等を、真深は黙って見送る。
「くそっ、やられた!」
 痺れはすぐに解除されたが、完全に出し抜かれた。
「……真深」
 見捨てられた形になった真深に、あゆみは掛ける言葉を躊躇う。
 真深は、諦観の表情で苦笑した。
「いいの……解ってた」


 俺は残る、と、トオルは言った。
「こいつ、放って行けないし」
と、真深を見る。
 それに、口には出さないが、もうひとつ、理由がある。
 誰かの命を犠牲にして開いた扉で先に進むことが、どうしてもできなかった。
「麓に連れて行くなら、あたしの車を使いなさい。運転できるわよね」
 ニキータが、装甲通信車の鍵を渡す。

「後から来るかもしれない人物に、事情を伝える必要があると考えるのである」
 そう言って、タマも残ることにした。
「気をつけて行けよ」
 コーラルワールドに行くというぱらみいにそう言って、トオル達は、開かれた門から先に進む彼等を見送った。