リアクション
◇ ◇ ◇ 霊峰オリュンポスには、通常、崩御した皇帝を移送する目的でしか立ち入ることをしない為、その為の道一本しか存在しない。 他は、獣道ぐらいのもので、オリュンポスに常駐する黒龍騎士達は、移動に龍を使う。 その唯一の道が車道に充分な幅があったのはカミーレ達にとって幸いだった。 三毛猫タマを助手席に乗せて、可能な限りのスピードで、カーミレ・マンサニージャは悪路もぶっ飛ばす。 「カミーレ、今どの辺?」 携帯電話が鳴って、ニキータ・エリザロフから連絡が入った。 「森林地帯を走行中です」 「悪いんだけど、ついでにシキ達を回収してくれる? もう、逃げる必要はないからって。 トオルに、解りやすいところに出てくるよう連絡を入れさせるけど、彼等を襲ってる人がいたら止めてちょうだい。 ……もう、その必要は無いわ」 カミーレの運転する装甲通信車が到着し、途中で拾ってきたシキやぱらみい、清泉北都達が続々と降りた。 「定員オーバーじゃない。 まあいいわ、よく間に合ってくれたわね」 ニキータの労いに、カミーレは、間に合ってよかったです、と笑う。 「飛んで来た方がよかったかもね……」 北都が苦笑した。悪路の大胆な運転に、頭が少しくらくらする。 トオルが、シキとぱらみいに走り寄った。シキは、少し怪我をしている。 「シキ……ごめん」 気にするな、とシキは微笑した。 次いでトオルは、ぱらみいをぎゅっと抱きしめる。 「トオルちゃん、ごめんね」 今度はぱらみいが謝って、死の門へと歩み寄ったぱらみいは、そこに横たわる巨人の骸を見た。 「……巨人族のひと」 驚いたように呟いて、両手でその体に触れ、ぱらみいは、悲しそうに項垂れた。 「ごめんね」 銀髪の女騎士、リアンノンは、自分が死の門の門番を継承した、と契約者達に告げた。 「成して良いことではないが、前任者がした約束は守ろう。 鍵を得た。門番リアンノンの名において、死の門を開く」 リアンノンは、観音開きの門を、両側に、ゆっくりと開いて行く。 門が開いた瞬間、全員の体に痺れが走った。 隠形の術で潜んでいたデメテール・テスモポリスの一番の仕事は、黒龍騎士が介入してきた時を狙って、巨人の命を狙うことだったが、あっという間に黒龍騎士が巨人を殺してしまったので、タイミングを逃してしまった。 だが、もうひとつの仕事の為に、そのまま、ずっと潜んでいた。 門が開いた瞬間を狙い、周囲にしびれ薬を撒く為に。 「みんな、今だよー」 麻痺に似た感とともに、そこにいた者達の動きが鈍る。 その瞬間を狙って、巨人の死の混乱に乗じて一旦撤退していたペルセポネが、パワードスーツの機動力を使って、真っ先に門に突入した。 十六凪に続いて、隠れ身で潜んでいたカラスも飛び込み、拘束されていた朝永真深だけが残された。 ぼんやりと目を覚ましながら、門に突入して行く彼等を、真深は黙って見送る。 「くそっ、やられた!」 痺れはすぐに解除されたが、完全に出し抜かれた。 「……真深」 見捨てられた形になった真深に、あゆみは掛ける言葉を躊躇う。 真深は、諦観の表情で苦笑した。 「いいの……解ってた」 俺は残る、と、トオルは言った。 「こいつ、放って行けないし」 と、真深を見る。 それに、口には出さないが、もうひとつ、理由がある。 誰かの命を犠牲にして開いた扉で先に進むことが、どうしてもできなかった。 「麓に連れて行くなら、あたしの車を使いなさい。運転できるわよね」 ニキータが、装甲通信車の鍵を渡す。 「後から来るかもしれない人物に、事情を伝える必要があると考えるのである」 そう言って、タマも残ることにした。 「気をつけて行けよ」 コーラルワールドに行くというぱらみいにそう言って、トオル達は、開かれた門から先に進む彼等を見送った。 |
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