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イルミンスールの希望――明日に羽ばたく者達――

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イルミンスールの希望――明日に羽ばたく者達――
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リアクション



『その後の鉄族』

『いよっ! ほっ! そりゃ!
 ははは、今日も快調快調! おらお前たち、ボサっとしてねぇで付いて来い!』
『む、無茶言わないでください隊長! 俺達は隊長みたいに自由に変形出来るわけじゃないんですよ?』

 人型と戦闘機を自由に行き来し、真紅の機体、“紫電”が空を舞う。配下の機体は“紫電”の動きを見失わないでいるのが精一杯だった。
『あー、なんなら俺も、契約者に改造してもらえばよかったっす』
『まあ、もう少しすりゃ、お前たちもオレみたいになれんだろ。“灼陽”サマが色々とやってくれてるみてぇだし』
『本当っすか! いやー、そいつは楽しみっすわー』
『その前に……今日の訓練だかんな。オレに撃墜判定食らったらドリンク一本な』
『えー! 俺、今月ピンチなんすけどー!』

 賑やかな訓練を繰り広げる“紫電”と配下の機体たちを、上空から黄色の機体、“大河”が見守っていた。
『しーくん、帰って来た時は元気なかったけど、もう大丈夫みたい。
 わたしも、頑張らないと。いつかグラルダちゃんとシィシャちゃんと再会した時に、腕鈍ったわね、って言われたくないもんね♪』
 推力を増した機体は、“紫電”とその配下たちの軌道を追いかけて飛んでいった。

「……よし、これで人型の推力を現状より3割向上させられる。“紫電”のように人型を維持したまま飛行が可能となる目処が付いた」
「“灼陽”様、おめでとうございます!」
 解析ルームに詰めていた整備班の称賛を、モニターから視線を外した“灼陽”が受けた。
「後は、部品の量産が叶えばすぐにでも改装に移れるだろう。後のことは任せる」
「はい! お任せください、“灼陽”様!」
 整備班の見送りを受け、“灼陽”は部屋を出、メイン管制室にある自分の席に身体を預けた。
「……間に合ったか」
 そう呟いた直後、脇の扉が開き、「失礼します」と少女の可憐な声が響いた。一心不乱に仕事に打ち込んでいた他の鉄族も、その声を聞いて一様に雰囲気を弛緩させた。
「“灼陽”様、お茶をお淹れ致しました」
 今や“灼陽”の妻となったヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)が、新しく“灼陽”からプレゼントされたメイド服に身を包み、紅茶セットを載せたカートを押してきた。
「今回こそ、“灼陽”様に紅茶の味を味わっていただこうと、工夫してみました」
 そう口にしたヘスティアが取り出したのは、“灼陽”の動力源である石の一つだった。これが“灼陽”の至る所にセットされており、担当の鉄族が規則的に交換することで“灼陽”は飛び続けている。
「灼陽様が紅茶を飲むタイミングに合わせて、紅茶の味と香りの付いたこちらの石を“灼陽”様にセットすることで、紅茶を味わっていただこうと思います!」
「なるほど……故に今日は、時間を指定してきたわけか。
 面白い試みだ、では、お願いしよう、ヘスティア」
 はい、と頷いたヘスティアは、まず“灼陽”の前に紅茶を注いだティーカップを置くと、普段は鉄族が交換を行っている石がセットされている場所へ行き、持って来た石と交換する。
「……いかがでしょう?」
 若干の不安を表情に浮かべてヘスティアが問えば、カップの中身を干した“灼陽”が満足気な笑みを浮かべた。
「あぁ、これが紅茶というものか……。このような味は初めてだ」
 生まれてから初めて味わう“味”というものに、“灼陽”は言い知れぬ感動を覚えていた。
「よかったです! これはハデス様が教えてくださったんです」
「そうか、彼が……。
 ドクター・ハデスは私の恩人であり、かけがえのない友。再び会う時には礼の品を用意せねばな」
「きっとハデス様も喜びになると思います。……皆さんも、いかがですか?」
 ヘスティアが向けた笑顔に、その場に居た鉄族がこぞって詰め寄った――。


『……と、その後の彼ら』

「……ハッ! ここは……」
 頭を振ったドクター・ハデス(どくたー・はです)は、自分が研究室で眠ってしまっていたことに気付いた。
「ふむ。夢を見ていたような気がするが……まあいい。
 喉が渇いたな、確か特製栄養ドリンク『ハデスゴールド』があったはずだが……」
 立ち上がり、棚をゴソゴソと漁ったハデスの目に、茶葉の入った瓶が止まった。
「む、これは……」
 それは、ヘスティアがハデスに残していったもの。「私は行ってしまいますけど、ハデス様に美味しいお茶を飲んでほしいですから」と、彼女が選んだとっておきの一品。
「……たまには悪くない、か」
 そう呟いて、ハデスは瓶を手に、キッチンへと足を運んだ――。

「グラルダ。準備が整いました」
 シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)の言葉に、グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)が頷いた。二人の前には真紅のイコン、アカシャ・アカシュ
 二人はこれから、『アインスト』のメンバーに志願するため、出発しようとしていた。
「……悪評が広まっていて門前払い。というヴィジョンが一瞬視えたのですが」
「あー……、それアタシも視えたわ。視なかったことにしたけど」
「天秤世界での功績も、ごく個人的なものですし」
「言うな、シィシャ」
 湿った視線を向けてきたシィシャを、グラルダは目を合わせない事ではぐらかした。決して友好的ではない生活を送ってきた二人が、いきなりメンバーに迎え入れられる保証は、何処にもなかった。
「それでも、アタシはアインストに入るわ。
 アタシに出来た、新しい目的。その為のアインスト。……でも、入るだけでおしまいじゃない」
 グラルダの目には、自分が『アインスト』のメンバーとなった後の世界が広がっていた。パラミタでも地球でも天秤世界でもない、他の無数の世界を飛んでいる光景を。
 ――“紫電”と“大河”が帰っていった世界に降り立った光景を。


『それはきっと、さよならなんかじゃなくて』

 一騎打ちの後始末が終わって、それぞれがそれぞれの場所へ帰る時が、やって来た。

「“紫電”! “大河”! アタシ、これでさよならなんて、思ってないから!」
 機体へ向かおうとした足を止めて、グラルダが振り返ると立っていた“紫電”と“大河”へ告げた。
「必ず! 必ず会いに行くわ。二人が困った時は、必ず助けに行く!」
「へっ、んじゃオレも、お前たちが困った時には助けに来てやんよ。どっちか先に行けるか、勝負だ」
「じゃあわたしは、しーくんに賭けるわ。シィシャちゃんは?」
 “大河”の回答を期待するような視線に、シィシャは不敵に微笑んで告げた。
「試合の予想は貴女が正しかった。ですが、今回の賭けは負けません。
 先にグラルダと私が、世界を渡ってみせましょう。根拠は……そう、女のカンです」
「あはっ♪ そのカンは、強力だなー。わたし負けちゃうかも!」

 契約者の技術提供を受けた“灼陽”であれば、鉄族が先に自由に世界を渡る術を確立する可能性は高い。
 対してグラルダはどうあがいても個人、得られる知識にも技術にも限界がある。

 それでも。
 二人は、負けるつもりなんてなかった。

「先行逃げ切りより、ケツからまくるほうが燃えるわ!」
「先行逃げ切りより、ケツから捲くる方が燃えるそうです」

 そう、声を揃えて言い放ち、二人は今度こそ振り返らずに機体へと足を進めた。
 二人の目に、涙は無い。涙はもう一度会うときの為に、取っておけばいい。

 その機会は、絶対に与えられる。
 いや――勝ち取ってみせる。


『志願の結果』

 ――詳細は割愛するものの、結局グラルダとシィシャは、『アインスト』のメンバーとして迎え入れられた。

「これからよろしくね、グラルダちゃん、シィシャちゃん!」
 笑顔が眩しい生徒に迎えられ、グラルダは意外な気分の抜けないまま、たまたまその場に居た校長に尋ねた。
「……いいのかしら。アタシもシィシャも、決して良い評判が立っているとは思えないんだけど」
「そうですねぇ。……名前は伏せますけどぉ、かつてイルミンスールの生徒に、私を追放してしまおうと企んだ者が居ましたぁ。
 その生徒は一度は追放されましたけどぉ、今またイルミンスールの生徒として頑張ってますぅ。
 だから、あなた達の事なんて、その生徒に比べたらちっぽけなものなんですよぅ」
「そ、そうだったの……」
 顛末を聞いたグラルダは、何故か敗北感を覚えた。
 まだまだ自分は小さな存在なのだと、改めて気付かされた――そんな気がした。

「とりあえずは、始めの一歩、ですか」
 部屋を出たシィシャに、グラルダがこくり、と頷いた。
「アタシはもっと色んなものを見て、色んなことを経験して、色んな出来事に関わりたい。
 ……アイツに会って、お姉ちゃんに会って、アタシの成長した姿を見てほしい」

 広がる空に、真っ直ぐ手を伸ばす。空の一点を指差して、宣言する。

「今度は、アタシが世界を変える番よ!」

 ――たとえ一つの物語が終わろうとも。
 彼らの冒険は、あのどこまでも続く空の向こうへ、羽ばたいていく――。

イルミンスールの希望――明日に羽ばたく者達―― 完


担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

猫宮です。燃え尽きました(ちーん





復活しました(早い

『イルミンスールの希望――明日に羽ばたく者達――』リアクションをお届けします。
このシナリオをもちまして、猫宮個人としてのシナリオを終わりにしたいと思います。

うーん。
なんか色々と書くことがあったような気がしますが……リアクション提出前はどうも考えがまとまりません。
参加者の皆様へは色々と書かせてもらいましたので、えー、そうですね。またマスターページにて(逃げた

個人のシナリオは終わりになりましたが、合同ではまだシナリオが続く予定ですので、そちらもどうぞ。

それでは。