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【両国の絆】第二話「留学生」

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【両国の絆】第二話「留学生」

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【舞台袖――にじり寄る影】




「垂選手の強烈な先制がありましたが、帝国サイドも負けていませんネー」

 初手から激しい攻防の行われるステージを眺めながら、実況席も興奮に包まれていた。
 交流戦とは言うものの、スポーツとは違ってお互いにダメージを覚悟した立派な戦闘である。解説や実況もどちらかといえばスポーツのような熱狂的なそれではなかったが、両陣営の熱意に当てられたように、なかなかどうして、その本来の目的を少々見失わんばかりに興奮の最中にあった。
『帝国の大将、ヴァジラさんは中々複雑な経緯の持ち主ですが――荒野の王と呼ばれていただけあって、堂に入った大将ぶりですね』
 ネット中継で解説する理王側も、ヴァジラのアバターまで作る熱の入れようだ。
『それに、一部の間ではツンデレと囁かれる彼ですが――あ、確かにそうですね。ティー選手への攻撃を今さり気なく防いだように見えましたが、これは所謂「お前のため等ではない」的なお約束でしょうか』
 若干、熱の入ったポイントが違うように感じなくも無かったが、ネットでの反応は上々なようだ。
「……なんか、一部に随分受けてるみたいですよ」
 他の端末で中継サイトを確認していた屍鬼乃は、エカテリーナのものと思われる「草不可避」といった書き込みを見つけてなんともいえない苦笑を浮かべる。彼女とは別段連携していたわけではないのだが、その中継の意図を悟ったのか、拡散に動いてくれている傍ら、自身も楽しんでいるらしい。反シャンバラ派や反セルウス派の人間が動いているようなエリュシオンで、ティアラの支持者に回っている今、エカテリーナの状況も余り良くないのではないか、と心配していたのだが、この様子なら大丈夫かもしれない、と、掲示板への書き込みの隙間に、こっそりとスラングに紛れて入ってくる近況報告に、屍鬼乃は息をついた。
 そうして、大きな盛り上がりが一つ過ぎ、一瞬で生まれたこう着状態の間で、話題づくりのためのような間合いで、理王は傍にいた演習場の管理者に話を振った。
「でも使われてない元演習場ってどういう曰く付きかな? 幽霊が出るとか?」
 その問いに「まさか」と一度は笑った管理者の男は、ゴシップ風の尋ね方に内緒話でもするように声を潜めた。
「いや……でもね、幽霊を見たって言う話題はあったんですよ」
「へえ! こういう場所でも幽霊話って出るんですか」
 感心したような声に、別段機密に触れるような話題でもないからだろう、男は「夏場はどうしてもこういう話題は盛り上がりますからね」と笑った。
「この演習場が実際使われたことも余り無いのもあって、夜中に怪しい光を見たとか、着物姿の男の霊がぼんやり立ってたとか、亡霊の兵団がぞろぞろ動いてたとか色々ね。まあでもこの演習場が出来たのも、使われなくなったのも、そんな古い話じゃないですし、清掃の人間でも見間違えたんじゃないかっていうのが、本当のところですよ」
 その話に適当に相槌を打ち、再び試合の実況へと戻った理王だったが、使用されていない施設、そこに光や人影が目撃された、という話は妙に引っかかり、意識をざわざわとさせるのだった。 



 そんな盛り上がっている実況席とは裏腹に、観客席で警備を続けている契約者達は、想定が現実になったことへの複雑な思いで、お互いの通信報告を聞いていた。
「……まさか本当にあるとはな」
 最初にそれを見つけたのは、優と別れ、陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)と、彼女と共に会場を巡回していた神代 聖夜(かみしろ・せいや)だ。
 こっそりと覗き込んだ座席の下に、遠隔式と思われる爆発物が括られて、不穏な光を点滅させているのが見える。仕掛けるとすれば恐らくここだ、と予想をつけてはいたものの、本当に爆発物を見つけることになったのは、余り喜ばしいことではなかった。
「この分じゃ、他にもありそうだな」
 解体の専門家に、こっそりと来てくれるように頼み、溜息を漏らした聖夜に、そうですね、と刹那も息をついた。彼女達がいたのは、エリュシオン側の観客席付近だ。開催の場所柄もあってシャンバラ側と比べて観客は少ないが、その分、留学生やその従者、あるいは関係者達とその顔ぶれの方が「狙う価値」がある者、言い換えればシャンバラにとって狙われたら困る者が多く席についている。
「…………急ぎましょう。狙っているタイミングが判らない以上」
「ああ、いつ爆発してもおかしくない……!」
 周囲に聞き取られないように声を潜めながら、優や仲間達へ爆弾の存在を知らせながら、聖夜たちは焦る気持ちを抑えながら、会場内の捜索を引き続けた。

 そんな中。
(あらあら……わたくしの爆弾を見つけ出すとは)
 客席の中でも、外縁側に有る貴賓席側に腰掛けたミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)は、試合を見るふりをしながら、そのオペラグラスで自分の仕掛けた爆弾の有るエリュシオンの観客席側を盗み見ていた。優や聖夜が精力的に動いている場所は、自身の指揮する特戦隊に、爆発物設置のイロハをもって設置に当たらせていたのだが、同じ知識を持つ者相手には教科書どおりに過ぎたのかもしれない。だが、次々と解除されていく爆弾を見ながらも、ミネルヴァは泰然とした様子は崩れなかった。
(ふふ……ですが……全てを見つけるのに間に合いますかしら?)
 殺傷や破壊を目的としたものはこの調子ではそのうち全て見つかってしまうだろうが、彼女の――性格には彼女達の目的は、殺戮でも破壊でもない。爆弾はあくまでその手段の一つでしかないのだ。ピュグマリオン達とその目的までを一致したオリュンポスのその意図を、彼らは何処まで 理解しているだろうか、と、他人事のように面白そうに口元を笑みに緩めながら、何処から取り出したものか、ミネルヴァは豊かな香りを周囲に広げながら、紅茶をゆっくりと飲み下す。
(あとは、十六凪さんのお手並み拝見ですわね。彼の読みが当たっていれば良し、そうでなければ――十六凪さんへの資金援助の件、考えなおすとしましょう)

 そうして、襲撃する側される側の思惑が混在する中で、隠密の内に数名の不審者を捕らえて引き渡しながら、いたゆかりは気持ちの悪い感覚に肌をさすった。
「どうしたの、カーリー?」
「何でこんなに、統一性が無いのかしら」
 その様子に首を傾げたマリエッタに、ゆかりは呟くように言った。交流試合にも紛れているらしい不審者、そして爆弾を設置した人物、ティアラを狙うと思われるシャンバラ側の反勢力。そのどれもが、両国の不和を目的としているということも不可解だが、何故同時に動いているのかが、引っかかる。手段や思想、やり口に熟練度、それらがこれほどばらついている彼らの行動は、まるで計画がブッキングしたような――それも意図的にそうなるように仕向けられたような、そんな絶妙な配置具合だ。
『どうにも、嫌な予感がしますね』
「ええ……」
 陽一の声に、ゆかりも同意の声を漏らすと、互いに警戒の意思を強める。


 だが――……事態は既に、引き金に手がかかるところまで、進行していた。