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【蒼空に架ける橋】最終話 蒼空に架ける橋

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【蒼空に架ける橋】最終話 蒼空に架ける橋

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■第48章


 その光景を、なんとあらわしたらいいのだろうか。
「赤い、鳥……?」
 目を凝らしたセレアナがつぶやく。
 赤い鳥が伍ノ島から大群となって飛び立って、こちらへ向かっている――そうとしか見えなかったが、しかしそれは鳥ではなかった。ひらりひらりと、まるで生きているかのように舞い飛ぶ赤い布? それとも布のように見える何か?
 それらがぶつかり合い、身を寄せ合い、そして溶け合うように、1本の道となっていく。
 そして今度はその赤い道の上を、少し遅れて黄金の光が走った。それが通り抜けたあとには赤い道が布のようにはためくことがなくなっているので、あれが赤い道を固定しているのだと分かる。そしてまったく同じ現象が、彼らがさっきまでいた肆ノ島からも起きていた。
 赤い布の大群は道となって、ちょうど中間地点で互いに互いをつなぐ。
「橋……」
 つぶやいたのはだれだったのか。自分? それともほかのだれか?
 それすらも分からないほどに、彼らはその神秘的な光景に目を奪われていた。
 ただ1人。
 オオワタツミを除いて。

『……くそおおおおおおおおおおお!! ヒノ・コめ!! よくもやってくれたなあああああああ……!!』

 己を拒む強い光輝の光に、オオワタツミは憤怒の声を発する。
「――もうじきヨ」
 アキラの頭の上で、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が腕時計型携帯電話に向かって冷静に言葉を発した。
「ソウ。ちょっトロングレンジだけド、大丈夫デショ」
 そしてオオワタツミが身を起こした瞬間。
「――薙ギ払ッテ」
 アリスの合図が下り、ヒノカグツチの15基の浮遊砲台すべてのレーザー光が一斉照射された。15条のレーザーは1秒もかけず雲海を渡り、竜造によって刻まれたオオワタツミののどにできた楔型の傷口の一点へと収束する。そしてオオワタツミの首を切り落とした。

「オオワタツミ。てめえは数千年の時を超えて現れた過去の亡霊だ。
 今度は二度と這い上がれないように、きっちりナラカの底に落ちていけ」



「雲海の龍!!」

 レーザーの光を受けてオオワタツミの首が落ちる姿を見た瞬間、ウァールは叫んでいた。
 そしてその声を聞いた瞬間、リネンはあきらめかけていた自分に気づき、叱咤する。
「行くわよ、ウァール。しっかり掴まっていなさい!」
「リネン……」
「言ったでしょ? まだ終わっちゃいないって」
 あなたにとっては。
 リネンはタケミカヅチを限界まで加速させ、落下していくオオワタツミの首へと進路を変えた。
 落ちていくオオワタツミの首は、いつしかタタリへと姿を変える。
 彼に向かい、ウァールはキャノピーを開け、後部席から手を伸ばした。
「雲海の龍!!」
 なぜそうするのか、ウァールにも分からなかった。
「分からない……分からないけど! でも、おまえはずっとおれのあこがれだったんだよ!!」
 勝手な思いだったけど!
 おまえはそんなの知らないって言うだろうけど!
 だけどウァールの目には、雲間を駆けるその姿は雄大で、何者にもとらわれない、孤高の存在に見えていたのだ。

 ウァールが決して届かない手を伸ばしているのを、タタリは目を薄く開いて見た気がした。
 そして、その目をまた閉じたようにも見えた――……。




 そこからの記憶がウァールにはなかった。
 ただ、気がつけばどこかの島の草っ原に仰向けになって寝転がっていて、傍らでリイムが声を殺して泣いていた。
「……リイム、泣くなよ……」
「守れなくてごめんなさいでふ。あのとき、あの黒雲のなかで見失って……いくら捜しても見つからなくて……」
「……でも生きてたんだし……お互い……。だから……泣くな……」
 すっかり脱力して、腕1本持ち上がらない。頭も泥がつまっているみたいに重くて、考えがまとまらない。
「これ、現実なのかな……それとも、夢……?」
 もう今日はこのままここで眠ってしまおうか――そう思い、目を閉じたウァールは、だれかが歌を歌っていることに気づいてもう一度目を開いた。声のしている方に目を向けると、歌っているのはティエン・シア(てぃえん・しあ)で、彼女はひざに抱いた眠り子のために歌っているのだと分かった。
 その歌を聞いているうちにだんだん眠くなってきて、まぶたが重くなる。うとうとしながらそれでも見ていると、ティエンがひざまくらをしてやっていたその子どもの体が白い光の粒に包まれ始めた。光の粒はどんどん多くなっていって、子どもの体を完全に包み込む。そして、ホタルのように、夜空へ飛び立って行った。

 ああ、逝ってしまうのか、と。
 ぼんやり思って、ウァールは目を閉じた。