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【蒼空に架ける橋】最終話 蒼空に架ける橋

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【蒼空に架ける橋】最終話 蒼空に架ける橋

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「おっと」
 そんな声が耳元ですると同時に、ウァールはだれかに受け止められた。
「なんだ。何か降ってきたと思ったら、ウァールじゃねえか。驚かせんなよ。おまえ、オレと違って背中に羽生えてないんだぜ?」
 くっくと自分で自分の用いた言葉に笑う。聞き覚えのあるその声に、そっと閉じていた目を開く。そこにあったのはフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)の顔だった。
「フェイミィ!?
 うわ! 助かったよ! おれもう死んじゃうんだとばっかり思ってた!」
「待て、暴れんな。今下へ連れてってやるから。おまえを乗せてるとオレも戦えねーしな」
 フェイミィはペガサスナハトグランツの頭を巡らせ、降下しようとする。その手綱を握る手を掴んで、ウァールが止めた。
「待って! おれを上に連れて行って! あいつに、おれはまだ言わなくちゃならないことがあるんだ!」
「ウァール、おまえ……?」
 自分を見つめるウァールのいつにない表情に、フェイミィは目を瞠る。そしてウァールが真剣であることに気づくと、だんだんと口元から気軽な笑みを消していった。
「おまえ、本気なんだな?」
「うん!」
「うーーん……。だけどマジでおまえ乗せてるとオレ、思うように戦えねーんだけど……」
 そうしたら肝心のウァールを守ることも……。
「私が替わって差し上げますわ」
 そう言ったのはタケミカヅチの後部席に座ったユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)だった。フェイミィが魔物との戦闘を止めてしまったのを不審に思って、様子を見に来たらしい。
「それでかまいませんでしょう? リネン」
「ええ。あなた、あまりそこにいても役に立っている感じしないしね」
 操縦席のリネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)がくすりと笑ってたたいた軽口にも、ユーベルはただ微笑を浮かべたままだ。
 リネンはウァールを見た。
「大丈夫? ……上で何があったか知らないけど、あまりうまくはいかなかったようね。
 だけど、まだ終わっちゃいないわ。そうね?」
「――うん」
 答えるウァールの面からリネンが読み取ったのは、先にフェイミィが見たのと同じ覚悟だった。



 ウァールが吹き飛ばされたのを目撃したコントラクターは、その瞬間はっきりと彼の死を悟った。
 リイムが追ったが、間に合わないのはだれの目にもあきらかだった。ウァールが宙で体勢を取り戻そうと動いたところで、彼の乗っていたトトリは壊れている。どうしようもない。
 一瞬で彼らの表情に新たなものが浮かび上がる。それは、決意だろうか?
「……笑えねぇな。ぜんっぜん笑えねぇよ、てめぇ」
 神葬・バルバトスを肩に担ぎ、前進を始める竜造。

『この余に対しふざけた物言いをした小僧が1匹消えただけのことだ』

 オオワタツミはマガツヒに命令を下し、竜造へと向かわせるが、彼はこれをポイントシフトによる瞬間移動で避けていく。まったく相手にせず、そしてここぞと思う場所へ神葬・バルバトスをたたきつけた。
「うおらあああ!!」
 エナジーコンセントレーションで高めた両腕の力は先まで以上の剛力で鱗を砕き、頭がい骨を粉砕し、その下の筋肉をえぐっていく。

『グ……ッ、き、きさまっ……!』

「うっせえ!! 黙ってそっ首掻っ切らせやがれ!!」
 技も何もない。ただ力任せにひたすら斬りまくる竜造の狂気めいた攻撃は続く。そしてその上をさっと2つの影が通過して、竜造の向こう側へ同時に着地した。セレンフィリティもセレアナも、表情の消え失せた決意の顔でマガツヒたちの間を駆け抜けるやオオワタツミのあごへ向けて同時にこぶしを突き上げた。
「オオワタツミぃ!! あんた、今何をしたか、分かってんの!?」
 ただ一度。激情を吐き出して、セレンフィリティはセレアナとともにビューティーブラインズの強烈な連撃を浴びせる。

『グ……、ウグ……っ』

 答えたのは託だった。
「自分の死刑執行書にサインしたんだよねぇ」
 冷酷な声を発した次の瞬間、彼の姿は笑みを刻んだ残像を残して掻き消える。次に彼が現れたのはまったく別の場所で、その手にあったはずの花嫁の想いはオオワタツミの右目を新たな鞘としたかのように、深々と突き刺さっていた。
 痛みにのけぞったオオワタツミのあらわになったのどに、セレンフィリティとセレアナ、2人同時の回し蹴りが食い込む。

『ぐぉぉぁぁああ……ッ!! 人間めがあああああっ!!』

 激怒したオオワタツミは黒雷を放つが、右目を傷つけられた痛みと遠近感の欠落に、思うように操れていないようだった。まったく意味をなさない、見当違いの場所で飛び交う黒雷は、自身までも傷つけている。そしてそのうちの一発が、彼らが鱗を剥いであらわとした皮膚へと落ちた。
 その部位を骨ごと3分の1ほどもえぐって、黒雷は下へ落ちていく。

『ぎゃああああああああああっ!!
 う……、ぉおお……おの、れ……』

 突然オオワタツミはその身をねじるようにして、北へ進み始めた。
 北にあるのは――伍ノ島だ。
「こいつ、まさか伍ノ島を砕くつもりか!?」
 激しく蠕動を始めたオオワタツミの胴体には立っておれず、全員それぞれの飛行手段で宙へ退避する。
「行かせちゃ駄目よ!」
 だがどうやって!? 肆ノ島と伍ノ島は近い。鱗を剥いで、その下を攻撃する方法では時間がかかりすぎて、到底間に合わない!
 ざわめきが広がるなか、答えたのは宵一だった。
「俺がやってみよう」
 みんなを巻き込まない位置まで移動して、巨大化カプセルを使う。そしてエンドレス・ワルツを発動させようとしたが、オオワタツミの方が一瞬早かった。
 宵一の体にヘビのように長い胴を巻きつけ、鎖骨付近へ噛みつく。そして密着した前足と後ろ足の鋭い爪でかきむしった。
「うわあああああっ!!」

「リーダー!!」

 宵一の窮地に、宵一から受け継いだ神狩りの剣をかまえてリイムが特攻をかけた。ミツ・ハがえぐりとった額の傷に、深々とその剣を突き立てる。だがまだ浅い。
 すぐさまそれと見てとり、動いたのはソークー1だった。
「ティア!」
「うん!」
 ソークー1の求める声に応え、ティアは己の体内に格納していた十握剣<蛇之麁正>を彼に差し出す。
「やって、ソークー1!!」
 ソークー1はまっすぐオオワタツミへは向かわなかった。高度を取り、オオワタツミの頭部に突き刺さった神狩りの剣目指して急降下する。そして十握剣<蛇之麁正>を当て、神狩りの剣を深く押し込んだ。

『ヒギャガアァァァアアアアアアッッ!!』

「まだだ」
 ソークー1は暴れるオオワタツミの額からすぐに離脱し、またも高度を取る。そして同じように、今度は己の突き立てた十握剣<蛇之麁正>の束部分目がけ、龍飛翔突をかけた。

「ソゥックゥッ!! イ・ナ・ヅ・マッ!! キィィィィィッッックッッ!!!」


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

 えぐられた額に押し込まれた2本の剣は、オオワタツミの脳に深いダメージを与えた。
 急速に力を失い、垂れたオオワタツミの体は宵一の体をずるりと滑って落ちる。
 やったか? そう思ったのも束の間。オオワタツミは再び伍ノ島へ向かって飛び始めた。
「むう。なんという執念だ」
 時間切れで元の姿へ戻った宵一は、噛み千切られかけた鎖骨付近に手をあててはいたがすっかり目の前の光景に気をとられているようで、痛みを感じているふうでない。リイムは具合を聞こうとしてやめた。そのことを思い出させると、その瞬間激痛に苦しむことになるかもしれないと思ったからだ。そして、代わりにティアにリカバリを頼んだ。

『浮遊島群、め……! 絶対、に、皆殺しに……してや……』

 そのときだ。