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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

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 決闘の際に勝敗を判定してくれるスカウターのような機器の異常は、分校全体に知られるようになった。
 周辺地域にまで情報がいきわたり、機械を奪いに来る他校生まで現れる始末だ。どちらがモヒカンなんだかわからない上に、機器を使ってゲームのような決闘ばかりしていた分校生がばたばたやられるとあってはなんとも格好がつかなかった。評判も悪いし、機器を管理している決闘委員会のお面モヒカンまで襲撃の被害が相次いでおり、これ以上の測定器の使用は困難だと判断されるのは自然な流れだった。
「これ以降の決闘では、機器の使用を全面中止します」
 いまだ代行職にある御神楽 舞花(みかぐら・まいか)は、委員長権限で決定を下す。
 分校内での決闘システムは、特命教師たちが来る以前の形に戻ったのだった。元々、機器の使用などなかったのだから、生徒たちもじきに慣れるだろう。
 お面モヒカンたちも、目視で勝負を判断することになり、鋭い感覚と技術が要されることになった。修練を積まないと勤まらない。機器での判定に慣れきっていた何人かのお面モヒカンがついていけずに脱落し、荒野へと去って行った。
 改革をするためには、根元から変えなければならない。機械の提供と、今回の事件の元凶となった特命教師ちを調べ上げる必要があった。写楽斎以外にも、20人ほどの特命教師たちが在籍しており、彼らは表向きは教育熱心な教師たちだ。だが、それが偽りだということに舞花は気づいていた。彼らは、裏で暗躍している。徹底的に調べ上げて必要ならば排除も辞さない構えだった。
「職員室および関係する教室を強制捜査します。いいですね?」
 舞花は、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)に連絡を取っていた。内偵させていた【情報収集専門員】がおおむね証拠を固めてある。
「それはいいが、赤木桃子と対談するはなしはどうなった?」
 通常業務の進んでいるシリウスだが、未だに決闘委員会には手をつけることが出来ていない。舞花がのらりくらりとかわしているので話は進んでいないのだ。
「あなたが本当に分校長の器かどうか見たいそうですよ」
 舞花は、桃子とも頻繁に連絡を取っていたので回答を得ることが出来ていた。
「桃子さんは、ある教室を指定してそこであなたと勝負をしたい、と言っています。負けるようなら、あなたは到底器じゃなかったということでしょう、と」
「はっ、上等じゃねえか。そうこなくちゃな。受けて立つぜ」
 シリウスは答える。どんな勝負だろうが、負けるつもりはなかった。
「必ず行くと伝えておいてくれ」
 交換条件だったわけじゃないが、シリウスは必要書類にサインする。校長権限での調査だった。
「ガサ入れ頑張れよ」
 職員室に立ち入り生徒が教師を調べ上げる。前代未聞の出来事だった。生徒で構成される決闘委員会が力を持っている分校だからこそできることだ。
 舞花は、委員会の中でも特に信頼の置けるお面モヒカンを50人ばかり集めていた。一部は、宇宙へ出かけており、大半は通常任務についているが、委員会メンバーはまだたくさん存在している。彼ら一人一人の能力や性格まで、彼女は把握していた。
 どよどよ……。
 職員室の前に、教師たちだけでなく、生徒たちも人だかりを作っていた。それだけ珍しい出来事だ。
「行きますよ」
 委員長代行の号令の元、選抜されたお面モヒカンがどやどやと職員室へと踏み込んだ。
「決闘委員会です。これより強制捜査を行います。先生たちは、通常の授業や行事に支障のない限り協力してください! 会議の内容は録音させていただきます!」
 舞花は、シリウスのサイン入りの書状をかざして宣言する。
「異議のある教師の方は、申し出てください。決闘で決着をつけましょう」
 そう言われてしまえば、誰も文句を言えなかった。分校では決闘システムがルールだ。教師も生徒も関係ない。むしろ教師たちだって、決闘システムに助けられている面があるのだ。これだけ荒れ果てた底辺校なのに、生徒から教師への暴行が少ない。委員会が目を光らせ、教師たちも生徒に決闘で対抗しているのだ。喧嘩は弱いが、年の功で決闘なら強い教師も結構いる。彼らはシステムをうまく使うことによって、モヒカンやヤンキーたちの脅威から身を守っているのであった。それに異を唱えるのは、すなわち自分の身も暴力にさらされることになる。
 委員会は、大きな混乱もなく職員室を調べることができた。
 書類を詰め込んだダンボールを運び出すお面モヒカンたち。その光景はしばしばTVニュースで映し出される司法による捜査にも似ていた。彼らは、それほど力を持っていたのだ。
「書類は、私が調べる」
 シリウスの秘書として仕事を手伝っていたメル・メルが、委員会が一時的に間借りしている調査室へとやってきた。ポンコツ風ロボの“あぱっち君3号”と一緒だ。彼女は権力こそ持っていないが、校内の裏表まで知り尽くしているようであった。
「大変なことになっておりますわね」
 いつの間にか教師として分校になじんでいたエンヘドゥ・ニヌア(えんへどぅ・にぬあ)は、舞花の手際のよさと思い切りのよさに感心していた。彼女も持ち物や書類を提出し、その上で捜査にも協力してくれることになった。
「特命教師たちと面談します」
 舞花は、写楽斎と一緒に分校に赴任してきた特命教師の取調べに取り掛かっていた。全員が軍需企業の『バビロン』から派遣されてきた研究員や助手、武器販売のセールスマンたちだった。特命教師たちは、半数ほどいなかった。逃げ出したのか、写楽斎の逃亡を手伝っているのか、追跡しなければわからない。舞花が会話することができたのは10人以下だった。彼らは、他の特命教師がどこへ行ったのか知らない、と答えた。
「まあいいです」
 行方不明の教師たちは、舞花の【情報収集専門員】が探している。後ほど報告を持って帰ってくるだろう。
 強制捜査は電撃作戦で行われたため、成果は上々だった。
 根気強く慎重に調査をすすめると、出るわ出るわ。急襲されたために隠しそこなった怪しい書類や出所不明の資金類、ロッカーや倉庫には売れ残りの武器が山積みにされており、いつでも使えるようになっていた。テロでも起こせそうな武装量だ。理科実験室や図書室は、特命教師たちの根城となっており、地下の研究室以外でも実験が行われていた形跡がたくさん発見された。
「見つけましたよ、代行! 例の判定機器の設計図とサンプルです」
 委員会メンバーの一人が、押収物を持って舞花の下へやってきた。
「うーん、これはハカセに鑑定してもらったほうがいいでしょうか?」
 舞花は全般的に万能だが、残念ながら専門的な知識を要する技術は正確には判断できなかった。
「製品化して市販されるには、甘い造り。実験段階に過ぎなくて、成功のめども立ってはいない」
“あぱっち君3号”の後ろから顔を出して設計図を覗き込んでいたメル・メルが答えた。彼女は、見てくれは貧相な女の子なのに工業科に属しかつてはロボット分校長を製作していただけのことはあって詳しかった。
「『バビロン』から提供されている機器類は、全部試作品。分校で製品化のための実験をしていたの」
「噂どおりでしたね」
 舞花は、困った表情で呟いた。
 こんな連中を放し飼いにしておいた桃子の神経を疑いたくなる。利用価値があるから手を組んでいる、と彼女は言ったが、それ以前に邪悪な意図を持った教師たちだった。桃子の判断は甘いと言わざるを得なかった。
「あなたたちの処遇は後ほど申し伝えます。逃げても無駄ですよ。必ず捕まえますから」
 舞花は厳しい口調で特命教師たちに告げた。これまで写楽斎にばかりスポットが当たって目立たなかったが、彼らとて犯人の一味なのだった。
 だが、特命教師たちはあまり慌てた様子はなかった。一人が、余裕の口ぶりで舞花に言う。
「キミお疲れ様だね。でも、もういいんじゃないかな? 頑張ってもキミの得にはならないし、誰にも評価されないよ」
「言いたいことはそれだけですか?」
 舞花は、冷たく答えた。散々取り調べられた負け惜しみにしては迫力がなかった。
「まあ、もう決着はついたから。帰ったほうがいいんじゃないかな?」
 その後ろでメールを見ていた教師が口元に笑みを浮かべながら言う。
「赤木桃子なら、さっき写楽斎が雇った腕利きスナイパーに一斉に狙撃されたみたいだよ。機晶技術でカスタマイズしたライフル持ったの10人くらいいたし、強力な悪の契約者たちばかりだから、英雄クラスでも全部弾が当たったら死んでるんじゃないかな?」
「なんですって!?」
 舞花は、ここに来て初めて大きな声を出した。それくらい驚いた。
「まあ蒼学生のキミには関係のないことだろうから放っておいていいんじゃないかな。どうせあの女も悪党なんだ。悪者同士の仲間割れってことでいいだろ」
 パラ実では、生徒が廊下に倒れていてもたいてい誰も助けてくれないし、通行の邪魔にならない限りは誰も気にしないんじゃないか、と特命教師は言った。
「あなたたち……!」
 舞花は、怒りの目で特命教師の襟首を掴み上げる。彼女がそんな態度になるのは珍しい。
 だが、ここで時間を潰している場合ではなかった。舞花は、すぐに職員室から走り出る。何事か、と見送るお面モヒカンたち。彼らもすぐについてきた。
「すぐに桃子さんを探して救出してください!」
 舞花は、お面モヒカンたちに指示を出してから、あの保健室へと向かった。もし怪我をして運び込まれているならあそこだろう。
 特命教師たちのハッタリであってほしい、と舞花は願った。
 


「痛ーーっ! 誰よ、狙撃してるのは!? めっちゃ狙われてるじゃん!」
 思うところがあって赤木桃子に会いに来ていた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、集結したスナイパーの弾丸に当たって怒りの声を上げた。強力な契約者なので一発や二発で死ぬことはないが、痛いものは痛い。敵は分散しながら砲撃してくるので、一人ずつ潰して行っている間に別の場所から撃たれることもある。
「あんた、どんだけ嫌われてんの。女の子一人殺すのに戦争みたいになってるじゃない」
  次々飛んで来る銃弾に、詩穂は呆れた口調で桃子に言う。
「そういわれましても、パラ実ではしばしばあることですから」
 桃子は困った口調で答える。彼女も複数被弾しており、血が滲んでいた。
 詩穂と桃子は、まだまともに自己紹介もかわしていない。 詩穂がリスカの情報を頼りに訪問した矢先に襲撃が始まったのだ。敵は結構高レベルで数もいるらしく、油断していたら蜂の巣になってしまう。
「建物ごとやっちゃっていいですよ。所詮パラ実ですし」
 桃子はのんきな口調で言ってから、敵の集結しているあたりに【渾爆魔波】を撃っていた。
 ガラガラガラ……、とブロック造りの古びた建造物が敵を巻き込んで破壊される。
 遮蔽物がなくなったところへ、詩穂が【ソードプレイ】などを使って襲撃者を一掃していた。ようやく、辺りが落ち着く。
「それで、御用は何でしょうか?」
 何の心当たりもない口調で桃子は聞いた。弾が当たっているのに痛そうな様子も見せない。パラ実では弱みを見せたらやられるので、傷を隠す癖があるのだ。
「狙われてるって聞いたから。縁がないわけじゃなし、むざむざ殺させないよ」
 リスカのことは伏せて、詩穂は言った。
「狙われてる?」
 桃子はとぼけた。今すごい襲われていたけど、あれはただのパラ実の偶発事故であり日常茶飯事なのだ、と彼女は言った。分校を裏側から支配する委員長は、委員長であることすら隠しているのだ。従って、狙われる心当たりもない、ということにしたいらしい。
「ん〜、なんとなく理解してあげないでもないけど、そんなこと言ってる場合かな? 今の敵はザコだったけど厄介なのがくるよ」
「厄介なの?」
「ああいうのとか」
 詩穂は、やれやれ、といわんばかりに指差した。
「お前が赤木桃子か!? 数々の非道許しがたし! この私が倒してやる!」
 すごい勢いでやってきたのはソフィア・アントニヌス(そふぃあ・あんとにぬす)だ。ブリュンヒルデ・アイブリンガー(ぶりゅんひるで・あいぶりんがー)もあの後精神的に立ち直って、一緒に戦う約束をしていた。モモンガ姿でなく人間の姿で、着替えていたため詩穂とは一旦別れていたのだ。
「詩穂殿がどうしてここに? ……む、血が出ているではないか。誰にやられた? まさか、赤木にやられたのか?」
 詩穂と桃子に交互に視線をやっていたソフィアは、戦いの後の気配を感じて身構えた。
「すでに一戦交えていたとはな。この私が助太刀しよう」
「やめんか、これにはわけがあるんじゃ」
 桃子に飛び掛っていこうとするソフィアを詩穂は押し留めた。詩穂も、不意打ちで刺客のライフルを食らったが、これくらい回復スキルですぐ直る。心配しなくていい、とソフィアに説いた。
 それから、詩穂は桃子に向き直る。
「詩穂たちは、写楽斎の事件を追っていてね。人工衛星と、狂ったスカウターと、今の襲撃も全部つながってるんだよ。乗りかかった船ってわけ」
 写楽斎の陰謀に巻き込まれた自覚を持て、と詩穂は警告した。
「でもまあ、あんたはすっとぼけるのが好きみたいだから、それならそれでいいよ。いつもどおり教室の席に座ってるだけでいいんじゃないかな? 詩穂が全部片付けてあげるよ」
「ちょっと待て。結局何が敵なんだ?」
 ソフィアは事情がわからないようで、詩穂に聞いた。
「写楽斎って、おっさんだよ。全部そいつが仕込んだんだ」
「よし、倒しに行こう!」
 彼女は即断即決だった。あまりに人の話を疑わないのも難点だが。
「丸太持ったな? 行くぞ!」
「どうして丸太?」
 とソフィア。
「見返りは?」
 不意に桃子は聞いた。
「事件を解決してくれる、見返りは? 何がお望みですか?」
「見返りねぇ……」
 そんなものは詩穂にはなかった。パラ実生に施しを受けようとは思わないし、これは趣味と実益を兼ねた好意でやっていることだ。
「ちょっと、分校に呼びたい人がいるんだよ。大騒動になるだろうから、抑えて欲しいのと」
 だが、あえて詩穂は言った。
「分校の平和と発展を賭けて、ってのはどうよ? それを約束してくれるなら、ね」
「……いいでしょう」
「じゃあ、契約成立、だね」