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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

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伝説の教師の新伝説~ 風雲・パラ実協奏曲【3/3】 ~

リアクション

「見つけたわ。あれね」
 その頃、人工衛星内部を探索していたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、核のような効果を持つ機晶石の場所を割り出していた。
【機晶技術】と【最端テクノロジー】のスキルで、搬出経路の確保も目処が立っていた。脆い作りの人工衛星は、大きな衝撃を与えると破壊の連鎖を起こしてしまう。ひいては機晶石の確保も難しくなるのだった。
「メイン電源を落とすわよ。これにより制御不能になってただの浮遊物となるけど、そのほうが安全だわ」
 解体しやすいように起動システムをシャットダウンしてしまうと、以後は内部回路が遮断され一切の操作が出来なくなってしまう。人工衛星のシステムに接続された端末のコンソールパネルが次のコマンドを待っている。命令を実行すると、手探りと目視の作業になってしまうので、セレンフィリティは注意を呼びかけた。
「入り口付近のトラップは動かなくしてあるから、他のイコンも支障なく作業できるわよ」
 粘土を使って起動スイッチを固定していたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が戻ってきた。彼女もセレンフィリティのサポート役として忙しく立ち回っていた。原始的な罠が多かったが、そちらのほうが単純な分むしろ危ない。イコンのレーダーやスキルに反応しない無機物は発見しにくいのだ。そちらの処理もすでに終えていた。
「外部の解体は順調に進んでいるようですね。安全が確認できた部位から外装を含め分解が始まっています。内装も、骨組みを外しますよ」
  待機しているイコン部隊と頻繁に連絡を取り合っていたヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)は バイヴ・カハで壁をはがし始めた。機晶石を安全に外に運び出す進路を確保しないといけない。
「地道な作業だな。武装で突破したほうがよかったんじゃないのか?」
 道中の地雷に対してはGCSによる重力場や【フォースシールド】を展開して対応し、【エナジーバースト】でつっきるつもりだった真司は、ヴァレリアに作業の重要性をこんこんと説かれ、手間隙のかかる地味な分解を始めていた。解析していたヴァレリアがあまりにも真剣だったので、従わざるを得なかったのだ。天学の誇る攻撃機が工事現場の重機並みの扱いとは……。とほほ、と真司は苦笑する。
「外で作業をしている人たちも呼びましょう。中に入れるイコンはMサイズのものが5機までです。来るイコンを厳選してください」
 最適な進路を伝え仲間たちの侵入を促していたヴァレリアは少し訝しがる。
「……外で探索していた人たちが、葛城吹雪が近くにいるって言ってますけど?」
「そういえば、段ボール箱がなくなっているな」
 真司は、先ほどまで近くに置かれたいた箱を見失っていた。ヴァレリアの手伝いをして進路の確保をしていたのだが、どこに行ってしまったのだろうか?
「気になるな。段ボール箱を探してみないか?」
「待機部隊が内部に入ってきますので、機晶石までの道案内が先でしょう」
 ヴァレリアまでが、まんまと段ボール箱に欺かれていた。吹雪の強い怨念がステルス性能を極限まで高めていたのだ。
「扉を開けるわよ」
 先行していたセレンフィリティは、連れてきていた【調律機晶兵】とともに機晶石の置かれている部屋へと入っていく。その後ろを、段ボール箱がついてきた。
「?」
 振り返ったセレンフィリティは首をかしげた。今、自分の横を大きな箱が通り過ぎて入ったような気がする。
「なんだ、ただの段ボール箱ね」
 部屋の外から覗き込んでいたセレアナは言った。
「そうね、ただの段ボール箱ね」
 少し考えて、セレンフィリティは我に返る。
「……なわけないでしょー!」
 これまで知的な理系女子だったセレンフィリティは、突如体育会系に変貌した。
「なんなのよ、これ! どうして今まで気づかなかったの!?」
 彼女は、段ボール箱をボコボコに蹴り潰した。
うぐおおおお……。良くぞ見破ったであります! リア充を目の前にしながら耐えてきた甲斐があったでありますよ! 
 なんと驚くべきことに、段ボール箱から葛城吹雪が姿を現した。いつの間にここまでたどり着いていたのだろう、不思議だ(棒)。
核、いや機晶石は我々が頂いていくであります! 新たなるテロの為に!! 
 吹雪は、セレンフィリティに向けて二三発爆弾を投げつけておいてから、一気に機晶石に駆け寄った。
「待ちなさい! ……うわっ、凄っ!」
 追いかけようとしたセレンフィリティは思わず後ずさった。
 室内に踏み入れると放出されている放射能値が計器のメーターを振り切っていた。侵食されそうなほど濃度の濃い毒性を帯びた空気が室内に充満している。機晶石は臨界点まで活動力を強めていた。
おお、これこそ自分が求めていた物であります!
 吹雪は、濃密度の放射能を浴びて恍惚とした。
「内部の映像撮ってたら遅くなったわ。なんなの!?」
 ルカルカとカルキノスも、現場に足を踏み入れて驚く。
「吹雪、あんた何やってるの!」
あははははは! 破破破破破破破破破!
 吹雪は狂気をたたえた目でルカルカたちを見た。
「おい、やばいぞ。止めよう!」
 カルキノスが異変に気づいてルカルカに言った。
「とりあえず殴っておこう」
 ルカルカは、あまり深刻に考えていなかった。目を覚まさせるために【正中一閃突き】を放つ。
 吹雪はダメージを受けたが、あまり効いていないようだった。彼女もそれなりの高レベルなのだ。
「ようやくオレたちの出番ってわけだな!」
 地道な解体作業に飽きた真司がバイヴ・カハで駆けつけてくる。スキル全開で、吹雪に攻撃を加えた。
「ぐはははは! 機晶石に当ててみろ! 爆発してお前たちも木っ端微塵だ!」
 吹雪のパートナーのイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が、とっさに機晶石の後ろに隠れた。
もとより、リア充を生かして帰すつもりはないであります!
 吹雪の全身が怒りの波動で包まれていた。これまで目の前でイチャラブりやがって、良くぞ我慢したものだ。収束した嫉妬パワーが禍々しいオーラを放ち、放射能さえ遮っていた。
「!!」
 セレンフィリティとセレアナは、思わず息を呑む。二人が知っている吹雪とは違う禍々しい怨念を纏った狂気のフリーテロリストがそこにいた。何の言葉も通じなさそうな瞳がらんらんと冷酷に光っている。
リア充には選択肢が二つあるであります。一つは宇宙の藻屑となること。もう一つは、宇宙の塵となることであります
 吹雪は、当たり構わず爆弾を投げつけていた。
 ドドドド! と部屋が崩れ落ちる勢いだ。
「慎重にね」
 セレアナが小声でセレンフィリティに耳打ちした。セレンフィリティが頷く。
 彼女らは、即座に戦うことを決めていた。アレは、吹雪ではない。吹雪の体を借りた怪物だ。普通の人間とは異質の瘴気を噴出しているのがわかった。
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い 憎い憎憎憎憎憎憎憎!! リア充滅すべし! 全滅全滅全滅全滅全滅
「させるかぁ!」
 セレンフィリティとセレアナは同時に動いた。
「【ビューティーブラインズ】」
 華麗なポージングで攻撃を叩き込んだ。
「これ、俺たちの計画を実行する前に人工衛星壊れないか?」
 カルキノスは、外で頑張って飛空挺の準備をしている淵を思いながらなるべく手加減して攻撃した。それだけで機体が揺れる。
「それどころじゃないかもよ。計画変更しないといけないかも」
 ルカルカは【機晶星辰剣『創世』】を構えたが、まだ様子を見ている。このレベルのメンバーで本気で戦えば、こんな人工衛星など木っ端微塵だ。外で待機しているメンバーにも影響を及ぼしそうだ。
畜生ーーーー! リア充のくせに! リア充のくせに! リア充のくせに! リア充のくせにーーーーー!
 いつものように機晶爆弾をばら撒いてくる吹雪。背後から爆弾で支援するイングラハム。それを巧みにかわしながらセレンフィリティは敵に迫った。ここで、止める!
「……」
 ヴァレリアも無言で戦闘に参加した。余分な掛け声は無用だ。
【ミラージュ】でかく乱し、真司がバイヴ・カハを突っ込ませた。
 ドドガガガガッッ! と激しい戦闘が始まる。室内が大きく揺れ、機晶石が振動している。
 ヴァレリアは【フォースフィールド】を張り巡らせ、【アブソリュートゼロ】を展開して氷壁による防御で真司を支援した。
おのれぇぇぇぇぇ! リア充めぇぇぇぇぇ! 呪われろ呪われろ 呪われろ呪われろ 呪われろ呪われろぉぉぉぉ!
 吹雪の怨念に満ちた雄たけびが響き渡った。なぜなのだ! なぜリア充がここまで自分を苦しめる! 次に生まれ変わっても恨み続けてやる!
「吹雪! やりすぎよ! もうやめなさい!」
 ルカルカはカルキノスと二人で吹雪を取り押さえようと飛びかかる。ルカルカは、まだ吹雪を止められると思っていた。教導団の団員なのだ。何とか無事にこの場を治めたかった。
 多勢に無勢で、吹雪はあっという間に追い詰められた。それでも必死で抵抗する。
ありえないありえないありえないありえないありえないありえない!!! リア充ばかりが得する世の中などありえないぃぃぃぃ! 神よ! なぜこの世に自分を生みながら、同時にリア充を生んだでありますか! 全て消し飛ぶであります!
 吹雪はありったけのスキルを使い、ありったけの攻撃を繰り出し、ありったけの爆弾をばら撒いた。しかし、リア充は滅びなかった。
「いい加減にしなさい! これで終わりよ!」
 ルカルカが攻撃を仕掛ける。
ウリリリリリィィィィィーッ!!! WRYYYYYYYYYYYYYY
 吹雪は、着ているものを全て脱ぎ捨てていた。【裸拳】、脱げば脱ぐほど強くなるのだ。
「ここでそれは!?」
 セレンフィリティは絶句する。
 放射能吹き荒れる空間で、吹雪の肌は変色していた。髪の毛が逆立ち、瞳だけが真っ赤に輝いた。渾身の闇魔力が融合し、あたり一面で大爆発が起こる。
「「全ての非リアよ! 自分に力を!
 今まで戦いでため込んだ非リア充達の恨みと嫉妬を背に受けて、【エンヴィファイア】が悪の魔力を爆発させた。
 ドドドドドォォォォォン!
 セレンフィリティもバイヴ・カハも、ルカルカたちも部屋ごと吹っ飛んだ。ばらばらと部品が砕け散り人工衛星がひしゃげる。
セレンフィリティ! 自分は人間をやめるであります!
 闇の奥からくぐもった声だけが響き渡る。みしり、と嫌な感じの軋み音と立てて吹雪のシルエットが変化していく。
 世界中の全ての悪意が収束され吹雪の中に注ぎ込まれていた。黒いオーラが包み込み、何も見えなくなった。
「?」
 全員が一瞬戸惑う中、次元の狭間から空間を割るように、巨大な悪魔が滲み出てくる。ありったけの恐怖を混ぜ合わせた風貌の憎しみに満ちた形容しがたき“何か”。彼らがいた人工衛星はゴミのように消し飛んでいた。
 包むもののなくなった核のような機晶石は宇宙空間で美しく輝いていた。それを身体に取り込んだ吹雪は、フリーテロリストすらやめて巨大な宇宙怪獣に姿を変えていた。
「ゴ○ラか何かなの?」
 ルカルカが突っ込みを入れる間もなく、吹雪は猛毒を含んだ謎のビームを放っていた。太くて長い光線は、名前もないモブイコンを契約者ごと簡単に消滅させ宇宙空間の彼方まで飛んでいく。
「……っつーか、俺報われねー!」
 外部で飛空挺を固定していた淵が文句を言った。人工衛星は粉砕されなくなっていた。
 彼らは、足場もなくなり宙に浮いていたのだ。
「この戦いまけるわけにはいかないのだよ」
 イングラハムも機晶石の瘴気を一身に浴び巨大化している。口から怨霊成分100%の黒い墨を吐き出し、イコンにすらダメージを与えた。
「全く! ルールも世界観も無視してんじゃないわよ!」
 ルカルカは、みんなを代表して正当な苦情を口にした。メタな話、真面目にアクションを書いたのは何だったのか? 
 そこはかとない怒りに囚われたルカルカは、レイに乗り込み全力攻撃を仕掛ける。
邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪邪 !!
 吹雪は、人間の言葉すら失って、四方八方に黒い光線を撃ち続けた。
「うわあああああ!」
 モブ参加者たちは逃げ惑う。なす術もなかった。何人かが光線に飲み込まれ宇宙の塵となった。
「待て待て待てーーーい!」
 勇ましい掛け声とともに、猛スピードでロケットがこちらに迫ってきていた。
 凶暴な敵を発見して倒しに来たパラ実のモヒカンたちだ。彼らは、分校のロケットで飛び立った後宇宙をさまよっていたのだが、戦いの気配に血が沸き立ち、ともに戦おうと立ち上がったのだった。
「ヒャッハー!」
 高度なスキルを無駄に使ってロケットの表面に立ち、斧やチェンソーを振りかざしている。荒野で喧嘩するノリだが、彼らはやる気に満ち溢れていた。
「再び人類の存亡を賭け戦いに参加することになろうとはのぅ。ヒヨッ子たちに助太刀してやろう」
 パラ実から発進したロケットの先端に、モヒカン頭のチンパンジーがいろいろ法則を無視して偉そうに仁王立ちしていたのが見えた。太古の猿人の英霊、ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)。今回志願して作戦に参加した笠置 生駒(かさぎ・いこま)のパートナーの一人だった。
 ジョージは何も固定されてないロケットの外装に立っているだけだった。彼は、戦っている契約者たちにかっこよく親指を立ててみせる。
「わしが来たからにはもう安心じゃ! この化け物も、あの時のように人類の進化の前には犠牲になるのみじゃ」
 彼は、太古の昔、人類の進化の道を守り抜いた戦いを思い出していた。そして激しい戦いに勝利し英雄になったのだ。
「あー、サルあんなところにおったんか」
 少し離れた所ででまだ爆弾処理をしていたシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)は声を上げた。コックピットで粉を吸っているだけで作業は全然進んでいない。
「何するつもりなんだろ。あの宇宙怪物に勝てるつもりなのかな?」
 生駒も作業の手を休めてそちらを見た。ジョージは勇敢にも吹雪が変化した悪魔と戦おうとしている。その心意気は買うが……。
「邪魔する者は何人たりとも許さん!」
 イングラハムの触手がロケットに巻きつき捕らえていた。ギリギリと圧力を加え、ひねり潰してしまう。
「ヒャッハー!」
 ボガーーン! 
 パラ実のロケットはイングラハムの攻撃にやられ爆散した。
「あー?」
 シーニーは、もう一度やる気のない声を上げた。
 ジョージは足場にしていたロケットを失い、爆風に煽られ慣性の法則に従ってそのまま勢いよく宇宙空間へと投げ出され、地球の軌道から離脱していくのがわかった。
 彼は誰に知られることもなく宇宙の孤児になったのだ。
「まあ、ジョージは消えたけど、幾星霜の時を超えてどこかの惑星にたどり着いたその遺体を元に、新たな生命体が生まれ知的生命体に進化していくという壮大な物語が始まるかもしれないね」
 生駒は、他人事のようにそんなコメントを口にする。
「というストーリーもありかもしれへんね」
 いつものように、小麦粉をスーハーしながらシーニーは惑星軌道から遠ざかっていくサルをのんきに眺めていた。それは、それだけのことらしい。
「ばかやろう!」
 陽一は叫ぶ。
 まだ救護活動の続いていた大破したロケットは重体の契約者たちを残したままだったのだ。このままでは弱い契約者たちは光線に飲み込まれて死ぬ。
「ぐあああああっっ!」
 盾になった陽一はまともに吹雪の攻撃を受けていた。LV100を超えていなかったら普通に死んでいたところだ。
「早く、こいつら連れて逃げろ……!」
 まだ飛んでくる黒い光線を受けながら、陽一はロケットを調べていた桂輔たちに呼びかける。
 吹雪の光線はただダメージを与えるだけの攻撃ではなかった。世界中の憎しみと呪いが込めれれている。強烈な毒気に当てられて、陽一は、ぐふぅ! と苦しそうにうめいた。
 彼がいなかったら、大勢の参加者が死んでいたところだ。
「バケツリレー組!」
 ルカルカは、猛り狂った吹雪の攻撃が他の契約者たちに当たらないよう防ぎながら、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)の一団を呼んだ。
「出番よ。彼らを運んでいってあげなさい」
「一人当たり500Gいただきます」
 トマスのパートナーの魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)は断固要求した。彼らは、危険な爆弾をバケツリレーするために参加したのだ。破損したロケットを運搬するのは任務外だ。
「とりあえず、あんたたちの血で払おうか?」
 ルカルカは真顔で言った。
「500ジンバブエドルで結構です。つまり無料です」
 子敬はあっさり折れた。トマスに迷惑をかけるわけにはいかない。
「ちぇー、俺たち破損物の後始末かよ。なんか作戦からハブられてね?」
 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は相変わらずテンション下がりっぱなしだ。
「さあ、俺たちの力を見せるときだ」
 どんな仕事でも成果を見せることが出来るならそれでいい。トマスは連れてきていたパラ実生を鼓舞した。
「ヒャッハー!」
 とにかく、バケツリレーだ。バケツリレーさえあれば世界は救われるのだ。強い信念の元、トマスたちは、予定に反して救助活動に取り組むことになった。
「えっちらほいさっさ!」
 モヒカンたちの威勢のいい掛け声で、大破したロケットは大急ぎで母艦まで運ばれる。
「よかったわね。大活躍よ」
 母艦で受け入れを行っていたミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が素直に労ってくれた。これはこれでいいのではないだろうか。
 それはさておき。
「ふざけんなよ、ゴルァ!」
 あまりにも無茶な展開に、真司はバイヴ・カハでダメージ関係なく正面から攻撃を繰り返す。その隙にイングラハムの触手がギリギリと締め上げるが、【銃剣付きビームアサルトライフル】で両断して反撃した。【エナジーバースト】も惜しげなくぶっ放しながらスキルを織り交ぜた攻撃を叩き込んだ。
「くたばりやがれ、悪党ども!」
 どっちを向いてもリア充ばかり! 吹雪は暴れ狂う。
墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓墓 !!!
 悔しさと悲しみの血涙が飛び散りダークマターとなって宇宙を汚染する。今後何千年消えないであろう非リアの無念が、この辺りを通るロケットを沈め続けるだろう。
「みなさん、道を明けてください。撃ちます!」
 離れたところに停泊していたウィスタリアも攻撃に加わる。
「フィールドシェル安定、エネルギーバレル生成。チェンバー内、正常加圧中。エネルギーチャージ発射可能レベルへ到達……」
 アルマは、ウィスタリアの最大兵器を惜しげもなく発射した。
「荷電粒子砲、発射します!」
 ゴオオオオオオ!
【艦載用大型荷電粒子砲】が、イングラハムを貫いていた。
「ぐっががががががががぁぁぁぁぁ!」
「グラビティキャノンも行きます!」
 射程の長い武装が発射される。その間にも【艦載用大型荷電粒子砲】は再チャージしていた。
「もう一発!」
 破壊力を秘めた光線が宇宙空間を明るくした。イングラハムは第二段階の変身も使い果たし、第三段階に移ろうとしていた。
「あのね、吹雪! 一つだけ言っておくわ!」
 そしてついに、ルカルカのレイが吹雪に肉薄していた。最大攻撃力を持つ【神武刀・布都御霊】が敵にクリティカルヒットする。
 ドォォォン!
「私たち、リア充だけど、何か?」
核爆核爆核爆核爆核爆核爆核爆核爆核爆核爆核爆核爆核爆核爆核爆核爆!!
 なんという無念! もはやここまで! 吹雪は最期の時が迫っているのを知っていた。
 かくなるうえは、この機晶石ごと消滅してやる!
 この身は滅びようとも! リア充を道連れに出来るなら本望!
「……」「……」
 吹雪とイングラハムはいい顔で頷きあった。今度生まれ変わっても、また組んでテロをやろう! リア充がこの世にある限り、必ずよみがえる。
「自爆であります!」
 吹雪は、取り込んでいた核ごと【自爆弾】を起動させた。
「今よ、行けぇぇぇぇ!」
 ルカルカは、レイごと敵の暗黒魔力の渦の中に飛び込んでいった。勇敢なのもあるが、それ以前にやりたいことがあったからだ。目的のためならダメージくらいなんぼのもんじゃ!
 本当は、人工衛星ごと運び去りたかったけど、なくなったものは仕方がない。その代わり核はむき出した。
「真・旋風回し蹴り!」
 非リアの闇魔力(?)と放射能でレイがみしみし軋んでいるけど気にしない。なんかこんな感じじゃね? 位の感覚でレイは中心部にある核をサッカーボールのごとく蹴り飛ばしていた。
 次の瞬間。
「「覚えていろ! リア充どもーーーーーーー!
 ドドドーーーーーーーーン!
 怨念の叫び声を残して、吹雪は自爆していた。
「また必ず帰ってくるからなーーーー!」
 何とかリア充たちを道連れにしようと触手を絡ませていたイングラハムは、切り裂かれ一人で爆発した。
 その爆発に、機晶石は巻き込まれていない。間一髪で宇宙空間へ投げ出されていた。
「行け破滅の機晶石! 忌わしき技術とともに!」
 淵は、せっかく出した飛空挺を使わなければ損とばかりに、機晶石にガンガンぶつけて進路を変える。引っ張ることは出来ないが、慣性の法則でそのまま機晶石は太陽の方角へと飛び去っていく。
「……ああ、団長。機晶石は慣性の法則で制御できないー(棒)」
 カルキノスは、イコンの通信装置から本部へ連絡を入れていた。
「計算では太陽直撃のコースだな」
 淵は、宇宙空間の彼方へ消えていく機晶石を見送った。
「ダリルに聞いたら、太陽には影響ないとよ」
 やれやれ、とカルキノスはため息をついた。頑張ったのだが、どうしようもなかったのだー。もう機晶石の回収は不可能だったー。
 最後に騒動があったが、あっけない幕切れであった。
 機晶石は、地球から離れ遠くへ飛び去っていってしまったのだった。
「……」
 全員が、半ば唖然と見守る中、ルカルカは金団長とおもむろに交渉している。
「……いや、頑張ったのですけど。……不回避の事故であれば責任がどうこうという問題にはならんと思いますが。何せ自然に起きた事なんですから……」
 本当にアレは止めようのない事態だった。
 それより、怪物にまで変身したフリーテロリストの葛城吹雪を早く何とかして!
 ルカルカは、言うべきことだけは言って通信をきった。
「これにて、作戦終了!」
 それぞれの計画や作戦、思いはあったけれども、事件はなんとか片付けることが出来た。
 参加者一同、やれやれと安心したのだった。
「じゃあ、帰ろうか」
 ガーディアンヴァルキリーが迎えに来る。
 陽一をはじめ、戦闘の負傷者や漂流者も全て無事に救い出された。彼らは、手当てを受け命を取り留めた。
 母艦はゆっくりと現場を離れる。パラミタへの凱旋だった。

 かくして、パラミタの平和は守られたのである。


「あ、きれいな流れ星」
 吹雪のパートナー、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は自宅の窓から夜空を眺めていた。
 今頃、空の向こうでは激しい戦いが起こっていたりするのだろうか? 【リニアカタパルト】で飛び立った吹雪たちはどうしているだろう? 少し気にならないでもなかったが、また戻ってくるだろう。
 この世にリア充がいる限り。
「皮肉なものね。悪い奴ほど綺麗な星になるわ」
 残骸となり大気圏突入で燃え尽きた吹雪とイングラハムのやり遂げた笑顔が夜空に浮かんでいたような気がした。