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彼氏・彼女のはじめの一歩

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彼氏・彼女のはじめの一歩

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chapter1 友達100人計画!
 蒼空学園内にあるカフェテラスは、昼休みになると生徒でいっぱいになる。そんなたくさんの生徒たちの中、にぎやかそうに話しているふたりの女の子がいた。
「ね、ね、マリエル、どうやって友達100人つくろっか?」
 長くて綺麗な栗色の髪をした片方の女の子、小谷愛美(こたに・まなみ)が目の前にいるもうひとりの女の子、マリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)に話しかける。愛美のパートナーであり、守護天使でもある彼女は愛美と対照的に、ショートヘアで褐色の肌をしている。
「んー、手当たり次第に声かけるのもなんか違うよねー」
 愛美は、「運命の人」を探していた。そのためにまずはたくさん友達をつくり、その中から運命の人を見つけ出そうとしていたのだ。
 空になったテーブルの上のお皿とカップをもてあそびながら、ふたりはそのための作戦会議をしていたが、早くもその会議は行き詰まっていた。その時、黒い髪を後ろで束ねている、温和そうなウエイターが愛美たちの食器を片付けにきた。この学校の生徒で、カフェでバイトをしているウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)だ。
「空いてる食器、お下げいたします」
「あ、ありがとうございまーす!」
 食器を片付けながら、ウィングは愛美たちに話しかけた。
「余計なお節介かもしれませんが……先ほどの話が途中から聞こえてしまったもので、僭越ながら一言申してもよろしいでしょうか? このカフェには新入生の方も多く、まだ友達の少ない方もいると思います。そういった方々にまずはお声をかけてみてはいかがでしょう? 私も、できる範囲でお手伝いいたしますよ」
 笑顔で言うウィング。愛美は目をキラキラとさせて席を立ち上がった。
「ウエイターさん、そのアイディア最高ですっ! そうだよねマリエル、みんなで友達増やせたら1番いいもんね! ありがとうございますウエイターさん!」
「いえいえ、お役に立てたようで何よりです。それでは、友達100人、頑張ってくださいね」
 食器をトレイに乗せキッチンに戻ろうとするウィング。それを、愛美が呼び止めた。
「あ、ウエイターさん!」
「はい、なんでしょう?」
「ウエイターさんが、友達100人の記念すべきひとりめだよっ!」
 振り返った姿勢のまま、ウィングは笑って軽く頭を下げた。
「ありがとうございます。ではもう呼び名はウエイターさんではなくなりますね」
 名前はウィングです、と言ってウィングはキッチンへ戻っていった。
「きゃーどうしようマリエル、もう友達できちゃった! ていうか彼が運命の人だったりして!」
「落ち着きなよマナ、そんな調子だと運命の人何人いても足りないよ」
 早速友達が増えたことで一層テンションが上がる愛美。
「よーっし、この調子でどんどん友達つくろうねマリエル!」
「うん、そうだねマナ! じゃあさっきウィングさんが言ってた通り、ひとりでいる人から声かけてこうよ!」
 ふたりがそんな話をしていると、ちょうど目の前をひとりの女の子が歩いていた。色白な肌に綺麗な金色の瞳をした、小柄な子だ。キョロキョロと辺りを見回している彼女は、迷子のようにも見えた。そんな彼女に愛美たちは声をかけてみることにした。
「ねぇねぇ、もしかして迷子?」
 突然声をかけられた女の子は最初軽くびくっとしたが、愛美たちのフレンドリーな雰囲気に安心したようだった。
「ううん、相棒の方がね、迷子になっちゃって、その彼を探してるんだけど……」
 しかし、パッと見は明らかに彼女の方が迷子になっている様子だった。やや困り顔の彼女に、愛美が元気に提案をする。
「じゃあさ、マナミンたちも探すの手伝うよ! 実はマナミンも今ね、運命の……痛っ!」
 言い終える前に、マリエルが愛美の頭を軽くこづいた。代わりにマリエルが話しかける。
「私たちも今友達になってくれそうな人を探してるの。いろんな人と話してれば相棒さんも見つかるかもだし、よかったら一緒にどう?」
 そんなふたりを見て、くすっと笑いがこぼれる女の子。
「? どうしたの?」
「あはは、笑っちゃってごめん、あのね、実はさっきここ通った時に、会話聞こえてきちゃったんだ。あ、勝手に会話聞いちゃったのはごめんね? そういうことだから、ふたりが本当に探したいものも、知ってるの」
 マリエルが、マナが大きい声で喋るから……といわんばかりの目で愛美を見る。当の愛美は笑って、
「マナミンは別に隠すつもりもなかったから大丈夫だよ! マナミン、運命の人見つけるのが夢なんだもん」
「うん、なんかそういうのってすごく素敵! 女の子だもん、いい人と出会いたいよね! 迷惑じゃなかったら、私にもお手伝いさせてくれないかな?」
「もちろんだよ! また友達増えて嬉しいなっ」
「私、アクア・ランフォード(あくあ・らんふぉーど)! よろしくね!」
「私は小谷愛美! マナミンって呼んでね! こっちはパートナーのマリエル!」
 自己紹介をして、握手をする3人。
「じゃあみんなで友達を増やして、運命の人も探そー!」
「おー!」
 手を握って上下に振り回してはしゃぐ3人。アクアはふと何か大事なことを忘れてるような気がしたが、元気な愛美たちを見て、「ま、いっか」と気にしないことにした。

 再び声をかける人を探し始める愛美たち。ふと、マリエルが愛美に言った。
「そういえばマナ、さっき知的なメガネでクールな人が〜、とか言ってなかった?」
「あ、それアレでしょー? マリエルがクールっていうか根暗〜とか言ってた人でしょー?」
「そうそう、その彼、あそこのテーブルにひとりでいるよ? せっかくだし声かけてみたら?」
 マリエルが指差したその先には、長めの髪を後ろで束ね、メガネをかけている細身の男がいた。
「えーでも何て声かけよう?」
「なんか飲み物飲んでるみたいだし、何飲んでるんですか? とかはどう? マナミンひとりで不安なら、私も一緒についてくよ?」
 3人があれこれと作戦を練っている一方で、その話題に上っているメガネの男――茶柱 陽力(さばしら・ひりき)はお茶を飲みながら、先ほど数人の女の子たちの近くを通った時に聞こえてきた言葉を気にしていた。その言葉は、偶然にも先日数少ない友人から言われた言葉と同じだった。
「なんか根暗に見える」
 自分はそんなに暗い人に見えるんだろうかと、茶柱は気になって仕方がなかった。と、気がつけば茶柱の前に女の子が立っていた。茶柱は驚いた。さっき根暗っぽいと言っていた女の子グループのひとりだったからだ。
「すいませーん、それ、おいしそうですね!」
 にこやかに話しかける女の子――愛美。結局彼女はアクアのアドバイス通りに話しかけることにしたのだった。
「えっ、あっ、はい」
 とっさに言葉を返せず、どもってしまった茶柱。しかしせっかく話しかけてきてくれたこの機会を活かさないのはもったいなさ過ぎる、と思い、意を決して気になっていたことを聞くことにした。
「あの、すいません急だけどひとつ聞いてもいいですか?」
 もちろんです、と頷く愛美。
「自分、前も言われたことあるんですけど、やっぱり根暗に見えますか?」
 最初きょとんとした愛美だったが、すぐに声をあげて笑う。
「もしかして、さっき話してたことずっと気にしてたんですか? かわいー!」
「か、かわいい……!?」
「もーぜんっぜん根暗じゃないです、ていうかかわいいです! そんなこと気にしなくていいのに! あ、でもそれでへこんじゃったならごめんね? マナミンのパートナー、たまーに毒舌なの」
 愛美の勢いに圧倒される茶柱。
「ねぇねぇ、ところでさ、名前は?」
「あ、自分、茶柱陽力って言います」
「よしっ、じゃあ茶柱くんも私たちと一緒に友達づくりしよっ? 目指せ100人!」
「えっ、いやあの事情がよく……」
 戸惑う茶柱の腕を引っ張り、マリエルとアクアの元へ連れて行こうとする愛美。
「だって、友達はいっぱいいた方が楽しくない?」
 屈託のない愛美の笑顔。ああ、事情とかそういう小難しい考えは必要ないんだなあ、と茶柱は思った。
「……もうひとつ、聞いてもいいですか?」
 振り返った愛美に尋ねる茶柱。
「その友達100人づくりの中に、自分も入ってる……のかな?」
「もちろん! さ、あっちでマナミンの友達も待ってるよ!」
 即答して元気そうに走る愛美の背中を見て、茶柱も自然と笑顔になっていた。
 4人が合流した後、マリエルが茶柱に申し訳なさそうに謝ったのを見て愛美とアクアは面白そうに笑っていた。4人は次の友達候補を探そうと周りを見ていた。すると、ひとりの男が愛美たちのところへやってきた。一見女性に見えなくもないその外見は整った顔立ちで、優しそうな雰囲気をしている。
「こんにちは、さっきから何やら面白そうな話が聞こえてきたから、私も協力したいと思って声をかけたんですが、混ぜてもらってもいいですか?」
 どうぞどうぞ、という感じで席をひとつ空ける愛美たちに自己紹介をする男。
「セイバーの多神 匠(たがみ・たくみ)と言います。よろしくお願いします」
「すごーい、男の人だよね? 最初女の子かと思っちゃった!」
 驚いた表情の愛美に多神はよく間違われます、とはにかんで答えた。
「思ったんですが、ひとりひとりに声をかけていくのもいいけれど、あちら側からも声をかけてもらえば、もっとたくさん友達が増えると思いませんか?」
 多神が提案する。同意する4人。
「けど、どうやって他の生徒たちから声をかけてもらおう?」
 アクアの疑問に、多神は待ってました、と言わんばかりにバッグから拡声器を取り出した。
「ちょっ、多神さん、そんなものどこから!?」
 驚く4人を前に平然と、
「話を聞いてた時に、これがあれば便利かなと思って、さっき学園から借りたんです」
「多神さんって、結構天然っていうか、大胆な人なんだね! でもありがとう、嬉しい!」
 喜ぶ愛美。
「じゃあとりあえず、これ使って呼びかけてみよっか!」
 マリエル、アクア、茶柱、多神の4人が賛成する。立ち上がる愛美。
「あーあー、テステス。聞こえますかみなさーん!」
 拡声器を通して愛美の声がカフェテラスに響く。一斉に愛美の方を向く生徒たち。
「お昼休み中すいませーん! 実は今私たち、友達100人つくろう計画を立てていて、友達募集中なんですー! 同じように友達が欲しい人とか、興味あるよっていう人は私たちのところに集まってくださーい! ぜひみんなで仲良くなりましょう!」
 拡声器をスイッチを切り、ふぅと一息つく愛美。
「いっぱい人集まるといいね、マナ!」
 愛美をねぎらうマリエル。
「さぁ、どのくらい人が集まるんですかね」
 多神が拡声器をしまいながら周りをぐるっと見る。すると、10人近い男女がこちらに向かってくるのが見えた。
「わ、いっぱい来ましたよ」
 茶柱がやや戸惑った感じで反応する。
「テーブルくっつけた方よさそうだね」
 アクアが隣のテーブルをくっつけて、大きめのテーブルをつくる。
「こんなに集まってくれて嬉しい! えっとじゃあ集まってくれたみんな、まず適当に座って、それで自己紹介とかしよ!」
 愛美が仕切り、集まった男女は各々好きな場所に座った。
「えっと、じゃ最初に私たちから自己紹介するね! 私は小谷愛美! マナミンって呼んでね! 隣にいるのがパートナーのマリエル!」
 愛美に名前を呼ばれ、軽くお辞儀をするマリエル。
「友達をいーっぱいつくって、一緒に運命の人も見つけられたらいいなぁなんて思ってます! よろしくねみんな! じゃあ次はー、こっちから!」
 愛美の右隣に座っていたアクアがゆっくり立ち上がる。
「はじめまして! 私はアクア・ランフォード! マナミンの運命の人を探すお手伝いができたらなって思って友達になったんだ! 私も友達が増えたらいいなって思ってたから、みんなよろしくね!」
 アクアの隣にいたのは茶柱だった。
「えっと、どうも、自分は茶柱陽力って言います。根暗に見られがちだけど、仲良くしてください」
 愛美たちがくすっと笑う。次は多神の番だった。
「みなさんはじめまして、私は多神匠です。みんなが楽しくできたらと思って、輪に加わりました。それと、よく女性に間違われるけど、私は男です」
 再び笑顔になる愛美たち。愛美が多神の隣を見て言う。
「おっ、ここからは集まってくれた人たちだね! 楽しみ〜」
 多神の隣にいた男がゆっくりと立ち上がる。髭が生えていて、褐色の肌をしているその男は身長も高めで、どこか大人の雰囲気があった。
「俺は黒御影 大和(くろみかげ・やまと)。学園生活をもっと楽しむために、仲間を増やしたくて来たんだ。よろしくな!」
「大和さん、なんかしぶーい!」
 声をした方を向く大和。大和は視力が弱いため、つい目を細めてしまい、それが睨んでいるように見えてしまった。軽くびくつく愛美。
「あぁ、悪い、俺目悪いから、ついこういう目になっちゃうんだ。睨んでるわけじゃないんだぜ」
「あ、そうなんだね、よかったぁ! マナミン何か悪いこと言っちゃったのかと思ったぁ」
 和やかな雰囲気の中、大和が席に着いた。大和の次は、おしとやかそうな女性だった。ピンク色の長い髪と白い肌が特徴的なその女性は、外見通りの声で話しだした。
「みなさんはじめまして、私、櫻良 ひより(さくら・ひより)と申します。趣味はお料理づくりですので、いつか機会があればみなさんにぜひご馳走したいと思っております。私に出来ることがありましたら、何でも言ってくださいね」
 礼儀正しく深々とお辞儀をし、席に着くひより。ところどころで男性陣のおぉ〜、という声が上がる。次に立ち上がったのは、無造作な銀髪で、どこか眠そうなオーラを漂わせている男だった。
「あ〜、どーも、名前は猫 十四郎(ねこ・じゅうしろう)。で、こいつがパートナーのマークレディ・フィルディア(まーくれでぃ・ふぃるでぃあ)。女性の機晶姫だ。ほおら、挨拶」
「十四郎〜、お腹空いたでござる〜」
「あーもう、席にまだご飯残ってたから食ってこい、めんどくせえなあ。えっとまあなんだ、正直自分は誰かに声かけたり、誘ったりすんのが苦手なんだよな。だからこういう機会は結構ありがたかったよ、よろしくなぁ」
 十四郎の挨拶が終わると、どこからかご飯を持ってきたフィルディアも一緒に頭をぺこりと下げた。ふたりが座ると、隣にいた女性がすっと立った。黒く長い髪は前髪が綺麗に切り揃えてあり、黄金色の瞳と相まって神秘的な雰囲気が微かに感じられる。羽付き帽子のかわいいパーカーを制服の上に着ていて、おそらくその服のかわいらしさがなければさらに神秘的な様子に見えるだろう。
「はじめまして! 大宮 アカネ(おおみや・あかね)って言います! アカネも友達100人欲しくて、参加しましたぁ! みなさんお友達になってくださいね! で、こっちがパートナーの空飛 渚(そらとび・なぎさ)。あんま頼りないように見えるんやけど、一応守護天使としてやってんねんなぁ?」
 いきなりイジられた渚は確かに、温和そうな感じの少年だった。
「アカネ、関西弁出てるよ……?」
 しまった、というリアクションをして、慌てて標準語に戻すアカネ。
「え、えっと、そんな感じでよろしくですっ!」
「全然普段喋ってる言葉でいいのにぃ。関西弁かわいいよ!」
 愛美が言うと、アカネは目をキラキラとさせ、
「ほんま!? ほんなら、愛美先輩と喋る時とかこれでええかなぁ?」
「うん、全然いいよお! あと、先輩とかもつけなくて大丈夫! マナミンって呼んで!」
「わぁもう、マナミンめっちゃええ子やん! ほんまありがとう!」
「アカネ、ほら次の人もいるんだからあんまり時間とっちゃ駄目だよ?」
「渚かったいわあ。もうちょっとマナミンを見習いやー」
 渚に軽く文句を言いつつ座るアカネ。同時に席を立ったのは、オールバックで眉毛の濃い、熱血風の男だった。
「おっす! 俺は雪ノ下 悪食丸(ゆきのした・あくじきまる)! こっちはパートナーで義兄弟のジョージ・ダークペイン(じょーじ・だーくぺいん)だ、よろしくな!」
 隣のジョージも礼をし、席につく。
「ジョージは身長も高いし、吸血鬼で目も真っ赤だけど全然怖くない奴だからみんな安心してくれよな!」
「わぁ、私吸血鬼って初めて見たよー! 美形なんですねぇ!」
「ふっ、よしてくれたまえ、恥ずかしいであろう」
「そうそう、あとジョージはこうやってクールっぽい口調だけど、情に厚いんだぜ!」
「悪食丸、君まで言うのか」
 笑いが起きるカフェ。悪食丸たちが座り、次に挨拶したのはフリルやレースのついた制服を着た、背の小さいかわいらいい女性だった。
「はじめまして! 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)です! メイドなので、いつでもみんなに尽くしますっ! 私のことは気軽に詩穂って呼んでくださいね!」
「わあ、メイドさんだよメイドさん! ほらマリエル!」
「なんでマナがテンション上がってんの!」
 マリエルに突っ込まれ、だってかわいいんだもん、と拗ねる愛美。
「あ、あとケーキつくったりするのも好きなので、いつか皆さんに食べてもらえたら嬉しいです!」
「ほらマリエル、ケーキだよケーキ! ねえマリエル!」
「それ男の人のリアクションだよマナ!」
 だってかわいいメイドさんにケーキってすごく似合ってるんだもん、とまた拗ねる愛美。詩穂が座り、隣にいた女性ふたりが立ち上がった。
「はじめまして、私は百鬼 那由多(なきり・なゆた)。こちらはパートナーの……」
「ヴァルキリーのアティナ・テイワズ(あてぃな・ていわず)ですわ。みなさんどうぞよろしく」
 長い黒髪の那由多と短くウェーブがかかった緑色の髪のテイワズ。パッと見正反対そうな外見だが、ふたりともとても礼儀正しく、育ちのよさが見えた。
「わぁ、かっこいー!」
「どーせ私はヴァルキリーじゃなくて守護天使だもんねー」
「マリエルもかっこいいよぉ。ほら、なんか盾出してる時の感じとか!」
「すごい限定的ー」
軽口を叩き合うふたり。
「ほら、那由多ちゃんたち困っちゃってるよマリエル! よろしくねふたりとも!」
 笑顔でよろしくと返し、すっと座る那由多とテイワズ。
「これで全員紹介終わったかな?」
「私とマナも入れて、全部で16人もいるよ!」
「違うよマリエル、ウィングさんも入れて17人だよ!」
「あ、そっか! けどすごーい! これならあっという間に100人いっちゃいそうだね!」
 はしゃぐ愛美とマリエル。と、愛美が何かを見つけた。「あぁーっ!」と声を上げる愛美。その目線の先には、カフェでドリンクを買って席を探している男がいた。
「どうしたのマナ、運命の人?」
「ううん、そうじゃないけど、ちょっとマナミン確かめてくる!」
 そういって急に立ち上がり、男のもとへ走っていく愛美。周りは呆気にとられるが、マリエルは苦笑いをして、
「ごめんね、いつも大体あんな感じなのあの子。えっと、気にせず気の合いそうな人とどんどん仲良くなってねみんな」

 マリエルがそんなフォローをしていることなど知る由もない愛美は、先ほど見つけた男に追いつくと、再び声を上げた。
「あーっ、やっぱり!」
「な、なに?」
 急にハイテンションで話しかけられた男はただ驚いていた。
「ね、ね、このストラップ、ちょっと見てもいい?」
 愛美が男の持っていたストラップを手にとり、目を輝かせている。圧倒された男は「あ、あぁ、ストラップね」と答えるので精一杯だった。
「わぁ、かわいいー! これあの有名なせんとうくんの、限定バージョンだよね!? いいなぁ、まさかこれ持ってる人に出会うと思わなかったよ!」
 一方的にはしゃぐ愛美の近くで、男はどうしていいか分からず戸惑っていた。男の外見はセミロングの青い髪にすらっとした背格好で、大人びた雰囲気があった。そんな外見の男がかわいらしいストラップを持っているということがばれ、恥ずかしさもあったのだろう。困った様子の男に、愛美が笑顔で尋ねる。
「あなたも、せんとうくん好きなんだね!」
「う、うん、そう……だね」
「マナミンもすっごい好きなの! ね、友達になろっ?」
「……欲しいんですか? ストラップ」
「違うよぉ、一緒のキャラ好きだったのが嬉しかったの! ほら、あっちに他のみんなもいるから、一緒にみんなで喋ろ!」
 言われるがままに連れていかれる男。マリエルたちのところに戻ろうと走り出した愛美だが、前をよく見ていなかったため他の生徒とぶつかってしまった。ぶつかった生徒は背も高く、体格のいい男だったため、愛美だけが倒れてしまった。
「あ、ごめんごめん! 大丈夫か? ちゃんと前見て歩かないと危ないぜ?」
 そう言って手を差し伸べる男。愛美はその手をとる瞬間、ある考えが浮かんだ。
――もしかして、これって運命の出会い!?
 それを口に出そうとして、慌てて口を塞ぐ愛美。マリエルにさっきも言われたばかりのことを思い出す。まずは友達づくり! 運命の人はそこから探し出すこと! 愛美は手をとり、お礼を言って立ち上がると男に話しかけた。
「もしかして、今ひとりですかー?」
「ん? ああ、ひとりだけどどうしたんだ?」
「じゃあせっかくなんで、あっちでみんなと一緒にわいわいお茶しましょう!」
「またずいぶん急な誘いだな」
 少し戸惑った様子の男。
「あ、そうだよね、いきなりそんなこと言われてもびっくりだよね。えっとね、じゃあ……あっ、そうだ! はい、これ!」
 そう言われて愛美から渡されたのは、飴玉がいくつか入った袋だった。
「……何だ? これ」
「これから友達になる人に、それを渡す係だよ!」
 あっけらかんとして言う愛美に、男は顔をほころばせた。
「ははは、分かった、ご一緒させてもらうよ」

 マリエルたちのところに戻ってきた愛美。その後ろには、ふたりの男がいた。
「……マナ、何やってたの?」
「新しい友達ー! 18人目と19人目だよぉ! えっと、こっちのかわいいストラップを持ってる彼が……」
 恥ずかしい紹介の仕方をされ、若干照れながらも前に出て名乗る男。
「どうも、スメラギ ロクハ(すめらぎ・ろくは)です、よろしく」
「で、こっちの飴玉持ってる彼が……」
高碕 湊(たかさき・そう)だ、みんなよろしくな!」
 みんなの輪に入るロクハと湊。
「私、またマナが運命の人見つけてきたのかと思ったよ」
 意地悪を言うマリエルに、愛美は笑って答えた。
「マナミン、今回はちゃーんと友達づくりから始めることにしたんだ! でも、偶然ぶつかって手を差し伸べられるとか、ちょっとキュンとしちゃうシチュエーションじゃない?」
「あー、分かるー! てかマナ、朝も誰かとぶつかったとか言ってなかったっけ?」
「そうそう、学校来る途中にも同じ蒼空の人とぶつかっちゃったんだよねー」
 ふたりがそんな話をしていると、突然大きな声で愛美を指差す男が現れた。
「あーっ! お前は朝の!」
「えっ、何何? あっ、もしかして朝の……!」
 男は赤い髪でパンクな雰囲気があった。
「え、もしかしてこの人が今言ってた、登校中にぶつかった人?」
 マリエルの問いにこくんと頷く愛美。
「お前、謝りもしないで食パンくわえてダッシュしてったろ!」
「……マナ、またなんでそんなベタなことを……」
「ごめんねぇ、あの時遅刻しそうで急いでたの! じゃあさ、今仲直りしよっ! ほら、みんなで一緒にお喋りしようよ!」
「なんだよそれ! まぁ、いいけどさぁ……」
 言葉ほど嫌がってない様子で、挨拶をする男。
「えっと、俺陸奥 泉(むつ・いずみ)。マナ、だっけ? しょうがないから、仲直りだ! さっきは俺も言いすぎたよ。靴とか舐めろって言われたら舐めるからな! いいか!」
「あはは、何それー!」
 20人目が加わり、さらに賑やかになるカフェ。各々が会話を楽しんでいる中、愛美に向かって歩いてくるひとりの男がいた。
「あれ、ねぇマナ、今こっちに向かってきてるあの人、1番最初にマナがかっこよくない? って言ってた人じゃない?」
「えーどれどれ、わ! ほんとだ!」
 男は確かに美形で、セミロングの銀髪も似合っていて、青い瞳は綺麗に澄んでいる。男が愛美に話しかける。
「やぁ、盛り上がってるね。俺はハーヴェイ・グラフトン(はーう゛ぇい・ぐらふとん)。名前を聞いてもいいかな?」
「私は小谷愛美! マナミンってみんな呼んでるよ!」
「いや、そんなに浸透してないでしょマナ……」
 そんなやりとりをにこやかに眺め、グラフトンは言葉を続けた。
「俺も、みんなと仲良くなりたいな。混ぜてくれる?」
「うん、もちろんだよ!」
 笑顔で答える愛美にお礼を言い、輪に入ろうとするグラフトン。席を移る前に、「そうだ」と愛美の方を振り返る。
「見つかるといいね、運命の人」
「えっ!?」
「それか、実はもう見つかったのかもしれないよ? たった今、ね」
 そう言い残し、席を移るグラフトン。
「最初の会話、聞かれてたっぽいね、マナ」
「いいもん、聞かれてたって。お陰でまた友達増えたしね!」
「へー、友達なんだ?」
 愛美をからかうマリエル。次第に愛美も席を移ってマリエルと離れると、そのマリエルに話しかけてきた男がいた。先ほどのグラフトンに負けず劣らずの美形で、短い髪が爽やかな印象を与えている。
「どうも、なんか賑やかだったからオレも仲間になりたいんだけど、リーダーは彼女?」
 少し離れた席の愛美を指差す男。
「うん、愛美っていう子なんだけど、あの子がリーダーってかまぁ、一応中心かなぁ。私はマナのパートナーのマリエル」
「そうなんだ、かわいいね、あの愛美って子」
「あー、愛美狙いなんだー? マナと一緒にいるのは大変だと思うよ?」
「そのくらい元気な子の方が魅力的だな。じゃあちょっと話しかけてくるぜ! あ、オレ遊良 花火(ゆうら・はなび)、よろしくな」
 そう言って愛美のところに向かう遊良。
「うーん、それもあるけど、熱しやすく冷めやすいっていうのが1番大変なんだけどなぁ、マナの場合」
 けど行っちゃったし、まぁいっか、と愛美の方を見るマリエル。愛美は那由多、テイワズたちと楽しくガールズトークをしていた。そこに入っていくグラフトンと遊良。しかし男ふたりは、那由多に阻まれアプローチはできない様子だった。
「うわー、守護天使の私よりマナのことガードしてるなぁ。あの子たち、男子禁制のお嬢様! な感じするもんねたしかに」
 少し離れたところから愛美たちの様子を楽しんでいたマリエル。と、またひとり、愛美に近付いてくる人物が見えた。
「これだけたくさんの人とお話してると、喉が渇いてくるでしょう? はい、お水でもどうぞ」
 その声の主は170近い身長と短い髪、白衣をまとってメガネをかけていて、限りなく男性の外見だった。
「また下心満載で愛美さんを口説こうとしてる男が……」
 那由多が割って入ろうとすると、慌てて否定の言葉が返ってきた。
「女! 私女です! そりゃあこんな外見だと男に見られてもおかしくないでしょうけど、立派な女です!」
 驚く愛美たち、すぐに那由多は謝り、その女性が用意してくれた水を受け取った。
「実は先ほどからこちらが気になってはいたんですけど、あまり一度に押し寄せてもと思って、頃合いを見て仲良くなりたいなと思っていたんです」
「そんな気遣わなくても全然大丈夫だよ! あ、私はマナミン、こっちは那由多ちゃんとテイワズちゃん!」
「私は島村 幸(しまむら・さち)。よろしくね、マナミン」
「よろしく幸ちゃん! でもほんとかっこいいよねー! 女の子からモテそう!」
「あはは、ざーんねん、私ね、とーってもラブラブな彼氏がいるんです!」
「へぇーっ、いいないいなぁ!」
「マナミンは、彼氏いないんですかー?」
「実はねー、今運命の人探してるんだぁ。友達100人つくったら、その中から見つかるかなって思って!」
「素敵〜! でも私の彼氏は、候補に入れないでね?」
 笑いながら幸が言う。愛美も「もちろんだよ」と答え、ガールズトークが続く。マリエルは少し遠くから、「あの男性だけ女の子集団に受け入れられてる……」と不思議そうに首をかしげていた。

 愛美の周りがわいわいと盛り上がり、それぞれが楽しそうに会話を楽しんでいた。トレイにコーヒーを乗せて愛美のテーブルに向かおうとしていたウエイターのウィングは、一瞬驚いた後、穏やかな笑顔でその光景を見つめた。
「21、22、23……うーん、全然足りなくなってしまいましたね」
 ウィングは嬉しそうにキッチンへと戻り、カップを棚から取り出した。
「あれ、ウィング、上がったんじゃなかったのか? お前もあっちでコーヒー飲んでこいってさっき店長に言われてなかったっけ?」
 そんな同僚の言葉にウィングは「追加注文……いえ、オーダーミスですかね」と笑って答え、エプロンを再びつけた。カフェテラスから聞こえる笑い声をBGMにコーヒーを注ぐと、なんだかいつもよりおいしくできた気がして、ウィングはまた嬉しくなったのだった。