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第ニ章 闇は深く……4


「生気より大切な物を吸い取ってあげるよ」
 クラレンス・ベール(くられんす・べーる)は吸血鬼を羽交い絞めして、そう囁いた。
「校長の美しさには感服してけれど、我々学生には手厳しい……だって? 学生だと思ってナメてもらってはこまる」
 ルドルフの言葉が耳に残り、いつのまにかクラレンスの方向がおかしな方に向かっていた。
 ただ、そういう吸血鬼たちの態度が癇に障ったのは間違いない。
 方向感覚が鈍いために奥まで入りこんでしまった森ではあるが、クラレンスはここで存分に自分の憂さを晴らすことに決めた。
 吸血鬼の黒い服が開かれ、そこにクラレンスの手が差し入れられる。
「おっと……ただ触られても楽しくないよな」
 クラレンスは自分のポケットからハンカチを取り出し、吸血鬼の目をそれで塞いだ。
「ふふ、吸血鬼でも目隠しされると、いつもと違う感覚を覚えるのかね」
 そのままベルトやボタンも外し、前屈みになる吸血鬼に後ろからのしかかるようにして、行為を続けた。
 「今まで襲うだけだったんだろう? 今から俺が襲われる楽しみってのを教えてやるよ」
 高飛車なクラレンスは楽しそうにそんな言葉を吐き、吸血鬼により指が動きやすい体勢にさせて、快楽の奴隷にしていった。
 
「そんな簡単に僕にキスできると思った?」
 サトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)はどこかうれしそうにナイフが刺さった場所から血を流す吸血鬼を見つけた。
 背が低めの繊細そうな少年の姿を見つけた吸血鬼は、それに近づき、キスする直前だった。
 しかし、その刹那、サトゥルヌスは吸血鬼の体にナイフを突き刺したのだ。
「やれやれ……他の人がいなくて良かったよ。見られずに済んだからね」
 血を流す吸血鬼に見下すような表情を見せ、サトゥルヌスは冷たい声をぶつける。
「僕で遊べると思ったの?違うよ、僕が君達で遊ぶんだ……赤い花を、見せてね」
 ナイフを抜いた瞬間、血が吹き飛び、森の植物を赤く染めた。
 サトゥルヌスは返り血を浴びないようにすでに下がっていた、苦しむ吸血鬼をうれしそうに見た。
「反応があるっていいね。途中で出会った気持ちが悪い触手どもは、切っても変な色の汁が出るだけの醜いものだったからね。視界に入れる事すら厭わしかったよ」
 ふふ……とサトゥルヌスは吸血鬼に笑みを向ける。
「その点、君はいいな。血を流してもとても絵になる。それに……」
 もう一度、サトゥルヌスはナイフを振り上げた。
「自分が獲物だって知ったその瞬間が一番楽しいんだ!」
 それはそれは純粋な笑顔を浮かべて、サトゥルヌスはナイフを振り下ろした。
 
 橘 昴(たちばな・すばる)も襲ってきた吸血鬼を襲い返していた。
「秦に漆黒の薔薇をプレゼントするんだ。こんなところでやられるわけにはいかないよ」
 吸血鬼の手には植物の蔓が幾重にも巻きついていた。
「触手だとグロテスクだからね。グロテスクすぎるのは趣味じゃないし……」
 すっと昴が顔を近づけると、吸血鬼がその唇を奪おうとした。
 しかし、それを昴は巧みに避けた。
「キスは遠慮するよ。ちょっと吸血鬼の生気ってのを、こっちが吸ってみてやりたいけど……危険は避けたいからね」
 昴は破れても構わないというような強さで、吸血鬼の服を引っ張り、前をはだけさせた。
「へえ、吸血鬼の肌の色ってこんななのか……」
 クスッと笑みを見せて、さらに服を剥ぎ取る。
「悪いね。あまり気の長い方じゃないんだ。それに襲われた分もあるしね」
 完全に服というものから解放された体を、昴はいたぶるように指でなぞる。
「秦になら襲われても楽しめるけど、君たち吸血鬼じゃね……。仕方ないからサービスでこちらが楽しませてあげるよ」
 退屈な日々を送っていた昴にとって、吸血鬼を襲うことは今までの退屈を払拭するような刺激的なことだ。
 昴はそれを存分に味わうことにした。