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リアクション
第一章 黒薔薇の森へ 4
「集団相手には自ら危険は冒さないということか」
パートナーと互いに施した保護結界「禁猟区」によりすぐさま反応はしたものの、戦闘自体を避けることはできず、藍澤 黎(あいざわ・れい)は襲ってきた大コウモリたちの数や位置を確認した。
「吸血鬼はみんな、単独行動しとる人を襲っとるんやろか」
黎に庇われるような形で一歩下がりながら、フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)が言葉を継ぐ。
できれば吸血鬼には会わないように、という狙いもあって明るい内に、そして集団で行動することを決めたのだが、地球人と契約している吸血鬼たちや、吸血鬼と契約することで下位の吸血鬼となっている地球人たちを見るに、パラミタの吸血鬼は昼夜関係なく活動できるものらしい。
しかしそれでも、やはり集団をそのまま襲撃する気はないのか、吸血鬼の姿はまだ一度も見ていなかった。
少しでも怪しい場所などは九条 凪音(くじょう・なぎね)が隠れ身の能力を活かして偵察も行っていたが、触手のようなものに捕らわれてはぐれそうになった程度ですぐに仲間たちが気づき、事なきを得ていた。
「さっきの触手も、はぐれさせて襲うつもりだったのかもしれないし、付近に潜んでいる可能性はあります。気をつけて」
凪音は襲い来るコウモリの爪をダガーで器用に弾き返しながら応戦し、注意を促す。
「はぐれるといえば……」
そうつぶやいて、ディークハルト・グランデ(でぃーくはると・ぐらんで)は戦いながらも握ったままだった紐を引いてみた。
「ぐあっ、急に引っ張るでない……というか何なのだこの紐は!」
紐の先には、どことなく吸血鬼らしい格好をしたティル・キス(てぃる・きす)の腰があった。
引かれて転びそうになったのか、手近な木にしがみついてディークハルトを睨んでいる。
「ん? だって君極度の方向音痴じゃないか。はぐれたら困るから……」
「私は犬か! こんな紐つけていたら私の美しさが損なわれるだろうがっ!」
黙っていれば確かに美しい知的美男子だが、ディークハルトと言い合いする姿がそれを台無しにしていた。
が、しかしそこはさすがに男でもヴァルキリー。ティルはつながれたまま、後方から飛び掛るコウモリに連続斬りをお見舞いし、仲間たちの背中をしっかり守っていたのだった。
「本物の吸血鬼になかなか会えないのは微妙に残念だね」
「何を言うか。最強の吸血鬼である私がいるからこそ恐れをなして近づいてこないのだ!」
コウモリを斬り落としながらティルは胸を張る。
「そこ、おしゃべりは後だ」
ティルの死角から飛来していたコウモリを黎が素早くランスで貫く。
一体、また一体と排除していき、自分たちの倍はいたコウモリをすべて倒した。
「ケガ人は……いなさそうやな」
仲間たちがかすり傷程度であることを確認し、フィルラントはふわりと微笑む。
黙って微笑んでいれば天使らしい少年だ。本人にも自覚があるのか、雰囲気をぶち壊すトークをせずに済んで安心しているようだ。
「さて、それでは進みましょうか」
凪音は再びその身を影に潜め、先に立つ。
ディークハルトの分析では、薔薇が咲くような場所はもう近いはずだった。
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