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リアクション
第一章 黒薔薇の森へ 2
「だっ、誰か……っ!」
少し前方から、悲鳴のような声が聞こえてきた。
一行に緊張が走る。
「単独行動してた人かも、助けよう!」
ロイと同じイルミンスールの所属だが、黒薔薇に興味を持ち同行を申し出ていた護法院 政(ごほういん・つかさ)が皆を促す。
吸血鬼対策に、と口元を布で覆ってあるが、果たしてどこまで有効なものかと不安になりつつも、政は率先して声のしたほうへと歩き出した。
少し苦しそうな声と、何かが地面を引きずるような音がだんだんと近づいてくる。
「くそっ、こんなもの……っ!」
赤みがかった紫色の奇妙なツタが、一人の少女を捕らえ、縛り上げるかのように絡み付いていた。
ツタ……というよりも、どことなく触手に似たそれのあちこちに焦げたような痕はあるが、少女の――緋桜 ケイ(ひおう・けい)の――持ちものだったらしいワンドが地面に落ちているところを見ると、焼き尽くす前に戦う術を奪われてしまったのだろう。
幸い、吸血鬼に対する策としてにんにく等を所持していたからか、付近に吸血鬼の姿は見えない。
「今助けるよ!」
政は自身まで捕らわれぬようにと周囲に気を配りながら小さな炎を呼び出し、それを不気味なツタに向けて放った。
何本かのツタが焼き切れ、ケイの体は自由を取り戻す。
「女の子が一人でこんなところに来るなんて、危険ですよ」
大晶がロイたち年下を庇いながら、こちらへ逃げてくるようにと声をかけると。
「お……俺はウィッチじゃねぇ、ウィザードだ!」
鋭い目つきで一瞥すると、ちぎれたまま首や腕に絡みついていたツタを引き剥がし、ワンドを拾い上げて炎を作り出した。
まだ一部が焼けただけで、そのツタは獲物を求める触手のように蠢き近づいてきていたのだ。
「こっちも危ないよぉ」
危うくケイのことを「お嬢ちゃん」と呼びそうになったのを引っ込めて、清泉 北都(いずみ・ほくと)が一本のツタに弾丸をお見舞いする。助けに近づいたところで、別の方向からむしろ北都自身を絡め取ろうとしてきたツタに気づいたのだ。
「吸血鬼でない分、守るべきものは少ない……のかなぁ」
この森の危険がどんなものかを聞いて、自分の身は絶対に守り抜こうと決意しつつも、ちょっと他の人のそれを目撃できないかという期待もなくはなかったため、つい駆けつけてしまっていた。
格闘などになってしまうとそれは得意ではないため、北都もケイも攻撃しながらツタと距離を置く。
「あの触手みたいなのは食べられないかなー」
離れたところから火術などで攻撃し続け燃やしてしまうのを見て、小林 翔太(こばやし・しょうた)が少し残念そうな顔で言った。
そもそもこの試練に参加したのも、黒薔薇を食べてみたいというのが一番のきっかけである。
翔太にとってはこのツタも食べてみたいものの一つだった。
ツタ……というよりも、本当に「触手」とでもいうような質と見た目のソレが動かなくなるのを確認し、他の生徒たちは先へ進もうとしたところで、翔太は焼け落ちた破片を拾って口に運んでみた。
「火が通ってればと思ったけど……」
翔太の眉間に皺が寄る。歯ごたえはなんとなくベタつく感じで気色悪く、味はとても苦かった。
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