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リアクション
真っ赤なボディスーツに身を包んだ武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は、生徒とサラマンダーが繰り広げる戦闘の数々を、腕を組んで大きく見渡していた。
「俺たちよりも先に現場に来てる奴が居るとはな、迂闊だったぜ」
「お前がそんな格好をして遊んでいるからだ」
武神の言葉に白井 祐未(しらい・ゆみ)はショートウェーブの髪とスカートの裾をなびかせながら言い捨てた。武神は顔も体も動かさないままに小さく笑んだ。
「気に入ったんなら、あるぞ、女物も。ヒーロー船隊ケンリュウガーには女隊員も居るからな」
「いらん、やらん、つーか、あの火蜥蜴、どうすんだよ」
「焦るな、分析中だ。御凪、お前はどう思う」
焦げ茶のボサボサ頭を傾けて、御凪 真人(みなぎ・まこと)は浜で起きている戦闘の一つを見つめている。変熊とカーシュがサラマンダーの炎から逃げ回っていた。
「やはり火術では効果が薄いでしょうね。使うのなら牽制する程度にして… 先日習得した雷術でも使ってみようか」
「おっ、それは面白いなアイディア勝負なら負けないぜ。うぅ〜ん」
「そうそう2人とも、ボクの為にどんどんアイディアを出すのだよ!ボクはこの戦いを大いに楽しみたいのだから」
そう言って目を輝かせている桐生 円(きりゅう・まどか)は百合園女学院の制服スカートを膝で蹴り上げて跳ねている。御凪にアイディア勝負を挑んだディアス・アルジェント(でぃあす・あるじぇんと)は唸りながら首を傾げて頭を振って考えていたが、すぐに目を輝かせて叫びだした。
「よし、俺は砂を使う!火術を使って砂の中で爆発を起こして、その砂をファイアサラマンダーの全身に被せる、そうすれば」
「面白いかも!ボクもそれに参加する!」
「ようし頼んだぞ。クルード、お前も手伝ってくれるか」
「ファイアサラマンダーか…」
長身で端正な顔立ちをしたクルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)はファイアサラマンダーを視界に捕らえてから、その目を鋭く細めた。
「… 俺は負けない… どんな奴が相手でも…」
クルードの静かな表情の横で、カリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)は好奇心で溢れた表情でサラマンダーを見つめていた。
「孵化したばかりだってのに、良い元気だ。あの気性の荒さ、欲しいねぇ」
そんなカリンの表情を見て、パートナーの吸血鬼、メイ・ベンフォード(めい・べんふぉーど)はため息をついている。すぐ横では同じにサラマンダーを見つめていたレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)が武神に訊いていた。
「孵化したサラマンダーの近くにアル繭は何の反応もナイヨ、きっと繭には耐火性がアルヨ、だからワタシ、繭で籠つくるヨ、きっとホカクに役立つ」
「いい考えだ、レベッカ、やってみろ」
「了解。そうト決まれば水着ヨ、海で動くなら水着を着るヨ」
「えっ、あっ、ちょっとお待ちになって」
レベッカのパートナーである剣の花嫁、アリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)が慌ててレベッカを引き止める、そして武神の顔をチラリと見た。それを受けた武神は、皆に呼びかけた。
「ようし、目的はファイアサラマンダーの捕獲、手段は各自で考えろ、全て許可する!」
皆の視線が武神に集まり、どの顔もそれぞれの笑みを見せている。武神はニヤリと微笑んで片手を掲げた。
「行くぞ、空京防衛隊、出動!!」
「あの、私は、繭を親元に帰してあげたい、から」
神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)とパートナーのヴァルキリー、ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)の身長は同じ程度のはずなのに、いつも有栖は上目遣いになってしまう。
「だから私、繭の撤去を手伝い、たい」
「ではお嬢様、作業するにあたって、水着に着替えて頂きますわ♪」
笑顔のミルフィはスク水を出し、有栖は顔を歪めて退いた。
「!? い、嫌ですっ、私スクール水着なんて着れませんっ!!」
「お嬢様っ、何校長先生のような事を仰ってるんですか、水着に着替えないと作業ができませんわよ♪」
「それでも嫌あぁぁぁ」
「あっ、こら、お待ちなさい」
有栖が逃げるを始めたその時、波羅蜜多ツナギに三本編みおさげのナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が片手を広げて間に入った。
「やいやいやい、そこのお子様、お嬢さん」
振り向いた2人の目の前に、ナガンは「ふんどし」をズイと持ち出した。
「パラ実名品のふんどしだ、水作業をするんだろう?制服や水着じゃあ、すぐに駄目になっちまうぜ、遠慮すんな着てけよ」
ふんどしを勧めるナガンのニヤケた顔、対する2人は顔を見合わせて、
「ミルフィ」
「了解ですわ」
長身痩躯、折れてしまいそうなナガンの腕を折ってしまいそうに掴んで引いて、ミルフィは自身を中心に回転させて。
ジャイアントスイングは、高速の。ミルフィが手を離してナガンは跳び行く、サラマンダー達が多く目覚めた浜の中央部へと。
「んなぁぁぁぁ」
なんて声が聞こえたか聞こえなかったか。いや、有栖とミルフィには聞こえていない。
「ミルフィ、やめてぇぇ」
スク水を着れない理由があるから、有栖は必死に逃げ回るのだった。
夏の海、そして輝く砂浜と歓声奇声。そんな場に似つかわしくない男が一人、メア・ナハト(めあ・なはと)、美形であれど無口な男、そう、浮ついた感じが一切に無いのだ。シャンバラ教導団の軍服を着て、背筋を伸ばして口を閉じていて。
「軍人であるからには戦場での秩序回復が一番の勤め。砂浜が戦場と化した今、私がするべきは一般人や繭輸送班を守る事にある」
照りつける太陽、それでもメアの顔には汗が流れた様子すらなかった。
彼はじっと、浜を見回していた。
「早く来なさぁい、置いていくわよ」
イルミンスール魔法学校の制服を着た水神 樹(みなかみ・いつき)がメアの横を駆け抜けていく。
「ちょっ、樹、待てって」
遅れてフラフラの樹のパートナー、プリーストのカノン・コート(かのん・こーと)もメアの横を過ぎていった。が、彼は立ち止まり振り向いてメアの姿をじっと見つめた。
「あんた、軍人か?」
メアは応えるか考えたが「そうです」とだけ返した。
カノンは言おうとした言葉を飲み込んで、それでも足は動かせず、歯を喰いしばって顔を歪めてメアの足元で見上げて言った。
「樹の、俺のパートナーの護衛を頼めないか」
「護衛… ?」
「樹は、あいつはサラマンダーと戦うつもりなんだ、俺は樹に怪我をしてほしくない、でも俺じゃあ守れない、守れないんだ。頼む、樹を守ってくれ」
頭を下げるカノン。見下ろすメアは「お断りします」とだけ言って歩み始めた。
「なんでだ、お前、強いんだろ? 軍人なんだろ?」
「どんな理由や状況であれ、パートナーを守りたいというのは貴方の願い、それを実現する手段が他人への依存であるならば、私は同意も共感も抱きません」
「でも俺じゃあ、このままじゃあ樹が」
「不安と恐れから逃れる為に思考を巡らせ努力に明け暮れる。今の貴方で守ってみせなさい」
歩みゆくメア。カノンは俯いて地面を叩いた。それでもカノンはすぐに目を見開いて樹を追いかけた。
去り行くメアの視界の端に、浜へ降り立つ樹の姿が見えた。彼女の黒髪ポニーテールがメアの瞳に焼き付いていた。
一方その頃、イルミンスール魔法学校の図書館では目一杯に背伸びをして棚の本へ手を伸ばしている茅野 菫(ちの・すみれ)と、手に持つ本で顔が隠れている菫のパートナー、吸血鬼のパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)がファイアサラマンダーについて調べているところであった。
「ねぇ菫、本当にファイアサラマンダーを飼うつもり?」
「当たり前じゃん、優秀な魔法使いには珍獣ペットも必要なのよ、こんな機会は滅多にないんだから」
バランスを崩しながらも本を手に取り、パビェーダの抱える本の山にソイと乗せた。
「ファイアサラマンダーの飼育は認められてないわ、だからこそ生態や餌、そして飼育方法を調べて、研究対象としての価値があると学校側に認めさせる必要があるの。徹底的に調べるわよ」
「気性が荒くて危険だと思うけど」
だから調べるのよ、と返ってきて、パビェーダはため息をついた。兎にも角にも時間がかかりそうだな、なんて思って思いやられたのだった。
さらにさらに場所は変わって百合園女学院の図書室からはミューレリア・ラングウェイ(みゅーれりあ・らんぐうぇい)とメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)、メイベルのパートナーの剣の花嫁、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)の3人が出てきた所だった。手には一冊ずつ、本を持っている。
「だいぶイメージ出来たぜ、やっぱりメイベルに頼んで正解だったな」
「ミューレリアちゃん、本当にサラマンダーをペットにするですぅ?」
「もちろんだ、ファイアサラマンダーと戦って捕まえてペットにする、くぅ〜考えただけで面白そうだぜ。どうだ、メイベルも飼うか?」
「ダメです!ダメですよ、メイベル。絶対にダメですよ」
「大丈夫ですぅ、セシリア。私にそのつもりは無いですぅから」
「えぇえ、何でだよセシリア、どうしてダメなんだよ」
「どうしてもです、どうしてもダメなのです」
この時の成果はとても大きかったが、現場の生徒達が知らない情報を幾つも持っている事に3人は気付いてはいなかった、故に楽しくのんびりと空京へと向かう準備をしていたのだ。
3人が廊下を歩いていると、大きな荷物を持った笹原 乃羽(ささはら・のわ)とすれ違った。乃羽は3人の会話の中にファイアサラマンダーの言葉を見つけていたが、どうにもイメージは出来ていないようだった。
「あたしは急ぐよ、海開きが待っているんだから」
彼女が知るのは海開きの日程と場所、本日午後からの準備期間のみ。浜での混乱など耳にも入っていないのだ。
しかしそれはこれから浜に向かう彼女にとっては良い事だったかもしれない。ファイアサラマンダーの捕獲と繭の撤去。この時すでに、浜の混乱は混沌としていたのだから。
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