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海開き中止の危機に!

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海開き中止の危機に!

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第二章 戦闘に撤去に準備を始めて

 浜では数体のファイアサラマンダーが孵化を終え、生徒たちとの戦闘が行われていた。サラマンダーを捕獲、そして繭を撤去しない事には海開きが開けないばかりか、その準備すら行えない。海開きを明日に控えた午後の砂浜、するべき事は捕獲・撤去作業だけにあらず、なのである。

 ファイアサラマンダーの姿を遠くに捉えてから、百合園女学院のプリースト、硯夜 夜々(すずりや・やや)はその場にしゃがんでゴミを拾った。満足そうな笑顔を見せてから、次々にゴミや流木の切れ端を拾っていった。その横で不安そうに周囲をキョロキョロと見回しているのはパートナーの守夜 胡桃(もりや・くるみ)、夜々と同じくプリーストである。
「ねぇ夜々、やっぱり危険だよ、もう少し待っていようよ」
「ん? 待つ? どうしてです?」
「いや、だから、ファイアサラマンダーと戦ってくれてる人がいるんだから、もう少し待てば今よりも安全になると思うの。ゴミ拾いは、それからでも」
「それからでは遅いです、時間は限られているのです」
 楽しそうにゴミを拾う夜々の笑顔。夜々が楽しいならそれで良い、なんて事は言ってられない、気を付けると言った所で危険な事は何一つ変わらないのだから。
 辺りを見回した胡桃は驚きを得て、2人よりもずっと小さいヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)に声をかけた。
「ちょっと、危ないから、そっち行っちゃダメだよ」
「ん? 危ない? どうしてです?」
 同じような応えを聞いた気がした。
「だってファイアサラマンダーが」
「大丈夫、ボクは騎士だから」
 そう言ってヴォネガットは百合園女学院の制服の陰から自分の背丈ほどのランスを胡桃に見せた。胡桃は少し考えてから、自分たちに同行してくれないかと頼み込んだ。
「夜々はゴミ拾いを続けるつもりだし、私たちプリーストだから不安で」
「良いです、一緒に行きたいです、ボクも浜の安全を守るです」
「ありがとう、これで… いや、これは… 可愛い子が増えただけ、なのかな」
「大丈夫です」
 ヴォネガットは頭の横で一本に束ねた髪を振って笑顔で言った。
「可愛いは正義です、正義は誰にも負けません」
 ヴォネガットが2人の警護についた、いや、一緒になってゴミを拾い始めていた。それでも胡桃の顔からは少しだけ不安が和らいでいた。


「ねぇニーズ、もっと上手に刺せないの?」
「やっているだろう、何が不満なのだ」
「これのどこで満足するってのよ、やり直しよ」
「人にやらせておいて何て言い草だ」
 蒼空学園の制服を着た剣士、大崎 織龍(おおざき・しりゅう)がナイフを片手に肉を切ってゆく。クレームをつけられた織龍のパートナー、ドラゴニュートのニーズ・ペンドラゴン(にーず・ぺんどらごん)は言われたままに、ぎこちない手つきで肉を串に刺してゆく。
「なぁ織龍、肉を準備するのは早いだろう」
「何言ってんの! 出来る所から始めないと終わらないわよ、やる事はたくさんあるんだから」
「そうは言ってもなぁ」ニーズは先の浜に目を向ける。「おっ」と言って迷彩柄の水着を着たセリア・ヴォルフォディアス(せりあ・ぼるふぉでぃあす)見つけ、声をかけた。
「迷彩柄って事は、アンタ軍人か?さっさとあのデカ蜥蜴を除けてくれよ」
「… 貴様も蜥蜴のようなものだろう」
「んなっ、我らドラゴニュートを馬鹿にするか! ようし来い、こっちに来るがいい」
 セリアは口尻を上げて笑みを見せた。
「ふっ、外見を貶されただけで噛み付いてこようとは… 所詮、貴様はその程度だと言うことだ」
「何だと、この」
「はいは〜い、注目注目!」
 織龍がニーズの頭を殴り、セリアには肉と串を持たせた。
「何だ、これは」
「遅れた分は2人で取り戻しなさい」
「何を馬鹿な、私は」
「やりなさい!」
 威圧する瞳にセリアも圧された。軍規を乱したが故の罰であろうか。セリアはニーズの隣に並んで串に肉を刺してゆくのだった。

 
 ビキニに着替えたレベッカ・ウォレス(れべっか・うぉれす)が砂浜を駆けている。
 駆けていたレベッカは立ち止まり、伏せて、標的の様子を窺っている。
 ピキピキィィィィィ、と孵化が始まり、見守ると、ファイアサラマンダーが姿を現す。
 その様子をじっと見つめ、サラマンダーがその場を離れた瞬間に、レベッカは飛び出し、空になった繭を抱えて駆け戻ってきた。
「やったヨ、アリシア、空繭を手に入れたヨ」
 どうしよう、何か違う、そう思うのに。パートナーのアリシア・スウィーニー(ありしあ・すうぃーにー)はレベッカの笑顔に負けていた。
「あの、孵化するのを待っているのは、状況的に間違っているような」
「どうしてだ? 空になった繭を手に入れるのがワタシたちの役目ネ、問題ない」
「あの、それなら、この、カチューシャは、付けてないとダメですか?」
「ダメね、アリシア、水着もカチューシャも良く似合ってる、付けないダメね」
「うぅ」
 スクール水着に犬耳カチューシャ。肉感的なレベッカを見てから自身を見れば… ため息しか出てこない、しかも可笑しな付け物までしてるのだ。
「アリシア、次、行ってくるヨ」
 空の繭を置いてレベッカは再び駆け出していった。無茶だけはしないで、とアリシアは願い、自身の格好に顔を赤らめる。
 彼女は気づいていないのだ、小さき体にスク水、カチューシャ、涙目まで見せているとなれば。ね♪
 そしてレベッカの作業が進むならば、それだけファイアサラマンダーが孵化しているという事であるのだ。


「なぁなぁ、真奈、もっとチャチャッと出来る方法、ないのかな」
 大八車を引きながら、だらしない顔でミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は言った。
 荷台にはサラマンダーの繭が3つ乗っている。繭に水をかけながら和泉 真奈(いずみ・まな)は応える。
「何を言うんです、この方法は理に適っていますし、とても早いと思いますよ」
「そうかなぁ」
「そうです、さぁ、がんばりましょう」
「うぅ〜、じゃあ、ついでに一緒にゴミも拾う!その方が早く海開きができるもん!」
「えぇ、いい考えだと思いますよ」
 ミルディアが大八車を止めてゴミを拾っては大八車を引いて繭を乗せては大八車を引いては止めて拾って、を繰り返し始めた。繭や砂浜に水をかける真奈。
「皆さん、だいぶ苦戦してるみたいですわね」
 真奈の見つめる先にはサラマンダーと戦っている生徒たち。サラマンダーの放つ炎が大きく赤く見えていた。

 
 御凪 真人(みなぎ・まこと)の放った雷術がサラマンダーの顔に当たった。全身に炎を纏っていると言っても顔には纏っていない、御凪はそこを狙ったわけだが。
 サラマンダーは目を鋭くしただけで、口から炎を吐いてきた。
 間一髪で避ける御凪。
「くっ、やはり雷術では難しいですか…」
 体制を立て直して振り向く御凪、しかしそこには大きく口を開いたサラマンダーが目の前まで迫っていた。
「しまっ…」
 御凪が大きく目を見開いた、その時、サラマンダーが大きく吹き飛んだ。
「遅くなったな御凪、怪我は無いか」 
 逆光を受けて輝く人影が二つ、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)とそのパートナー、リリィ・シャーロック(りりぃ・しゃーろっく)。無論に逆光の演出は計算通りである。
「武神さん、それにリリィさんまで」
「少し、恥ずかしかった…」
「はっはっは、リリィも慣れてきたな、良い事だぜ」
 武神は笑顔を見せたが、すぐに締めてサラマンダーを睨みつけた。
「剣で斬りつけたってのに傷一つ無しか、頭にくるな」
「でも、おかげで無駄に傷つける事は無さそうよね」
「傷ついたのは俺のプライドだけってか、古臭ぇ」
 御凪が立ち上がる。
「波打ち際で戦いましょう。武神さん達の打撃に、俺の雷術。気絶させる方法は多いほうがいい」
「良い案だ。だが、雷術で気絶させられるのか?」
「遂げてみせます、俺はウィザードですから」
 良い答えだ、と言う前に御凪は飛び出し、リリィも続いて飛び出した。ヒーローは遅れて登場するものだ。それでも武神は、すぐに2人の後を追い駆けた。


 時雨 双麻(しぐれ・そうま)のアサルトカービンがサラマンダーを狙い撃つ。
 時雨の弾がファイアサラマンダーに当たろうとも、動きが止まるのは一瞬だけ。その一瞬に米山 和揮(よねやま・かずき)がリターニングダガーで斬りかかる、狙うのはサラマンダーの牙。
 ダガーが牙を削ったが、浅く、すぐにサラマンダーの頭突きが和揮を襲った。ダガーで防ぐも、和揮の体は軽く吹き飛ばされた。
 砂浜を削って叩きつけられ、ようやくに体制を立て直した。
「ふぅ、まったく、冗談じゃないねぇ」
「…」
 時雨も和揮の横で構えている。サラマンダーは2人を睨みつけている。
「ダガーでの打撃戦は、厳しいねぇ。そっちはどうだい?打開策は見つかったかぃ?」
「一撃では効かない。同じポイントに連続で撃ち込めば、あるいは」
「良ぃね、なら僕はヒット・アンド・アウェイに徹する事にしようかねぇ」
 スピードも判断力も勝っていても、硬い皮膚、そして纏った炎と吐く炎がその身を守っているため、気絶させる事も容易ではない。
「さぁて、困ったねぇ」
 冷静に思考を巡らせてきた男の額にも汗が滲み始めていた。


 気絶させる方法は何も打撃だけではない。打撃で狙うからこそ、ダガーで接近戦をやる羽目になるのだ。
カリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)とパートナーのメイ・ベンフォード(めい・べんふぉーど)は既に2体のサラマンダーを気絶させていた。
 2人は、3体目となるサラマンダーの前方に姿を見せると、姿を一つに重ね、その瞬間にカリンは上空に飛び上がる。メイはそのまま正面から突進し、サラマンダーの噛み付いてきた所で避け避ける。攻撃した後の一瞬の隙に、カリンは背後から首元に回り、「吸精幻夜」で噛み付いて、見事にサラマンダーを気絶させた。
 すぐにぐったりと横たわるサラマンダー。カリンとメイは大きく息を吐いた。
「これで3体目、順調じゃん」
「ねぇカリン、あたし、ずっと囮なんだけど」
「そうね、そりゃそうでしょ」
「どうしてよ、あたしだって、吸精幻夜、使えるんだから」
 聞こえていないかのように、カリンは横たわるサラマンダーを見つめていた。
「気絶させても… 炎が消えない… な」
「ちょっとカリン、聞いてるの? あたしだって」
 カリンは苦笑いを浮かべるのがやっとだった。気絶させたサラマンダー、1体目を気絶させてから十分に時間は経っているはずなのに、その身を纏う炎は消える事なく燃え続けている。つまり炎を纏った状態のまま移動させなければならない、という事になる。
「ま、誰かが何か考えるだろ。私は知らん」
 カリンはサラマンダーから目を逸らし、4体目へと目を向けた。カリンの頬が赤く焼けている。腕も、足も。彼女は髪を高く結い直してから重く深呼吸をした。