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華麗なる体育祭

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華麗なる体育祭

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午前の部、個人競技『飴食い競争』
 開会式が終わると、ロクなテスト対策もとれないまま競技の準備が行われた。
 飴食い競争の準備をすることになった瑞江 響(みずえ・ひびき)アイザック・スコット(あいざっく・すこっと)の2人は、いつどこで出題されるのかと緊張しながらコースにテーブルや片栗粉の袋などを運んでいく。
「スコット、そっちの荷物にテスト問題は紛れてないか?」
「ちょっと待ってな。飴に、お楽しみ袋に、木箱――あった!」
「校長の機嫌が悪くないことを願うか……さて」

Q瑞江 響:美術 飴食い競争の飴を隠しつつ、美しく用意せよ。
Qアイザック・スコット:数学 体育祭参加者−薔薇学生×飴食い競争参加者−自分の身長÷4の飴を箱に並べ、5コース分用意せよ。

「ラッキー! こんなの数学どころか算数レベルだっての。響は?」
「ああ、俺も得意分野だ。さっさと準備を終わらせることで問いちまおうぜ」
 着々と準備が整う中、コースの外では参加者が整列させられている。
 その中でも、体操服姿で颯爽と登場した明智 珠輝(あけち・たまき)は、ジェイダスの方を見ながら意欲満面だ。
「必ずや薔薇学に美しき勝利を……!!」
 食べることが大好きな小林 翔太(こばやし・しょうた)は、クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)にどんな飴が食べられるのかと話ながら交流を深めてみたり、唯一パートナー同士での参加となったレロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)ネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)も、仲よさげなほんわかとした空気が漂っている。
「絶対、負けないからね!」
 ニコニコしているレロシャンに対し、恐縮そうな顔をするネノノ。この2人のやりとりを見て、今日だけはライバルだと言わんばかりの闘志が片方からだけ発せられていることなど、このときは誰も想像していなかった。
 参加者の人数を確認していると、カミシロ・エイプトン(かみしろ・えいぷとん)は異変に気付いた。
「お? 少年も飴食い競争に参加するのか?」
 全く関係のない競技に参加する城定 英希(じょうじょう・えいき)は、見つかってしまったことを誤魔化そうと慌てて取り繕ってみる。
「え、あ……俺はその、アレですよ」
「あ、あぁ! アレだなアレ! ごくろーさん」
 お互いに微妙な笑顔を浮かべたまま、突っ込まれる前に仲間の元へ急ぐ英希。
その後ろ姿に見とれていると、逆方向からパートナーであり主人の殿坂 御代(とのさか・みしろ)がやってきた。
「カミシロ! 整列が終わったのなら、早くゴール地点へ来なさい。この競技は判定が難しいのよ!」
「はい、ただいま! っと。やっぱり俺も競技に参加すりゃ良かったかな……」
「あら、まだ受け付けている競技もあるようだし、行くなら早く行きなさい」
「ほ、本当ですか!? ありがとうございますっ!」
 そして、急いだ英希はと言うと――
「今なら潜り込めそうですよ!」
 その言葉を聞き、織機 誠(おりはた・まこと)スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)は希望に目を輝かせた。
「つーことは、俺たちの出番はなくなっちゃいねぇんだな?」
「良かった……委員より中止の通達があった際にはどうしようかと思いましたが、私たちにも活躍する場はあったんですね」
「3人で、頑張りましょう!」



「皆様、お待たせいたしましたー! もう間もなく、飴食い競争が開始されます。カメラの準備はよろしいですかー?」
 いつのまにか作られた実況席にはミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)の姿があり、実況はそのままミヒャエルに任せ、アマーリエはハンディカメラを持ってコース付近へと近づいた。
「おおっと、選手たちがスタートラインに並びました! 美しさに厳しい薔薇学で白く化ける少年少女、変貌ぶりが気になる所ですが、現場の熱気はどうでしょう。それでは現場のホーエンハイムレポーターを呼んでみましょう、ホーエンハイムさーん!!」
「はい、現場のホーエンハイムです! とても5人とは思えない熱気が、こちらまで伝わってくるようです。飴の乗せられたテーブルは4つのため、混戦が予想されます」
 その放送を聞いて、首を傾げるのは準備をした響とアイザック。
 自分たちは、確かに走者の5人分用意した。だからこそ、手元の抜き打ちテストの問題用紙には花丸スタンプをもらっている。
 けれど今、コース上には4つしかない。
「げ、もしかして変なモンぶち込んだのがバレたか?」
「響、一体何を入れたんだい?」
「そりゃあ――」
「位置について、よーい……」

――パンッ!

 確認や準備をする間もなく始まってしまった飴食い競争。
「勝つのはワタシだぁー! 飴っ、飴はどこ!? 出てきなさい、はぁっ!!」
 真っ先にたどり着き、そして豪快に片栗粉をまき散らすのは先程まで大人しかったネノノ。勢いが良い割に、中々飴を見付けることが出来ずに苦労しているようだ。
「ん〜……多分あそことあそこにはあると思うんだけど、どれにしよう? 口に入るだけ食べてもいいのかなぁ、1個だけかなぁ」
 食いしん坊の翔太は出来ることなら全部食べたいと木箱を眺めていた。
しかし、手を使うことが出来ない以上、食べられる個数も決まってくる。他の走者が手こずっているようなので、その間は悩んでいようかなとお気楽に悩んでいた。
 そうして、徐々にテーブルにたどり着く走者の中、ただ1人だけが足を止めていた。
 飴が用意されていないからだろうと誰もが思い、5人に対して4つなら、そうそう大きなトラブルにもならないだろうと、見守っていたその時だった。
「さあ、私を食べてください!」
 突如、コース外から飛び出してきた3人が、テーブルの無いコースで組体操をし始めた。
 スレヴィと英希で土台となり、ジェイダスのコスプレをした誠が頂点に立ちピラミッドを作ったようなのだが。
 あの胸元の開いた服を選んだ理由はそこにあるのか、はたまた危険に気がついていないのか……胸の先端を隠すようにして飴玉が貼られているではないか。
「これは凄いパフォーマンスだ! さぁ、選手はあの飴を狙いに行けるのか!?」
 おどけた調子の場を盛り上げる実況に誰もが笑った。
 あんなもの狙うわけがないじゃないか、そう思えるからこその笑いだったのだが、観客席にいたリア・ヴェリー(りあ・べりー)が叫んだ。
「君たち! さっさと逃げるんだ、どうなってもいいのか!?」
「……ふふ、とうとう私の時代が来たわけですね」
 瞬時にネタの匂いを嗅ぎつけたアマーリエはピラミッドの元へ急ぐが、予想通り珠輝がたどり着く方が早かった。
「お望み通り、貴方を味わってあげますよ。優しく、ね。ふふ、ふふふふ……!」
「あの……飴食い競争、だとお聞きしたのです、が……?」
 引きつった笑顔の誠に対し、じりじりと詰め寄る珠輝。
 妖しいというより怪しくしか見えない熱烈な視線に凍る背筋、近づけば掠める、熱い吐息――
「す、スレヴィさん! 早く逃げましょう、じゃないと織機さんが!! 織機さん? 織機さんっ!?」
「………………」
 恋愛対象は両方の誠。しかし、このアプローチはあまりにも突然すぎて強烈だったのだろう。
 言葉を失い、ポーズを決めたまま固まってしまっている。
「ふふ、大丈夫ですよ。私の舌技の前に恐れをなさなくても、すぐに快感へ」
「城定ダッシュだ! い、今すぐゴールだぁああああっ!」
「私に差し出しておいて、逃げられるとでも……? いっそ、3人まとめて可愛がって差し上げますよ」
「ぎぃやぁああっ!?」

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                ☆ しばらく お待ちください ☆



「おーっと、どうやら本部より規制がかかった模様です。スクリーンに映し出せませんが、現場はどうですかホーエンハイムさん」
「はい! 現場ではあまりのことに動けなくなった織機さんを、担架のように持ち上げて 走るユシライネンさんと城定さんでしたが、なんと転ろんでしまうというトラブルが。目を輝かせた明智さんがにじり寄っている状態です」
「まさに崖っぷち! 全身マタタビをつけてクセの強い猫へ特攻したかのような織機さんは薔薇学の勇者ですねぇ」
「あっ!! 今織機さんの胸につけられた飴が――!」

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「なんとっ! 実に良いところでしたが、どうやらレースに動きがあったようです。トラブルにも物怖じしない、実に強い心臓の走者たち! ここからは、実況席からの遠い映像ですが、爽やかな体育祭をお楽しみ下さい。お好みでない方には、お見苦しい映像を失礼致しました」



 髪も服も一切汚れをつけることなく、後半を走りぬけるクリストファー。本当に飴を取ったのかと疑いたくなる姿だが、何事も優雅にこなす薔薇学生らしさを見せつけた。
『……味は普通、毒が入っている様子もなさそうだな』
 さて、どんな仕掛けが待っているのかと走り続けると、得点係の御代にゴール手前で止められる。
「まずは、飴の有無を確認させて頂きますわ。そして、次にこちらの問題を解いて頂きます」
 口を開けて確認されたのち、手渡された問題用紙を広げると――

Qクリストファー・モーガン:音楽 校歌を1コーラス歌ってください

 ゴールの向こうには、音楽担当の教師がこちらを見て立っている。
「飴が少々厄介だが……これくらい」
 クリストファーが見事に歌い上げる中、後を追うのは口いっぱいに飴を放り込んできた翔太だ。
 口の中はいろんな味がまざって大変なことになっているだろうに、本人は至って平気な顔をしている。
『でも、あの中から問題が出てくるなんてびっくりしたな〜』
 ビー玉、薔薇の花びらと飴以外の物も隠されていた木箱の中から、問題用紙まで出てきた。

Q小林 翔太:美術 地球、日本では虹の色は何色とされ、使われている色はなんですか?

『丁度、飴がいい色してたから7個取ってみたけど……これ、見せられないよね?』
 同じくゴール手前で止められ、ホワイトボードを渡されると急いで書き込むが、飴をたくさん取ることに夢中になっていたためレースには負けてしまった。
「1位、クリストファー・モーガン様! 続いて2位、小林翔太様!」
 珠輝は既に暴走により棄権扱いでリアに引き取られているので、残すところゴールをしていないのは2人だけ。
 コース中央で、紙を握りしめながら立ち止るネノノと思しき人物がいた。
 気合いの限りに片栗粉に顔を突っ込み、ブルドーザーのごとくかき分けて飴を探していたのだろう。
 髪や耳どころか首をも通り越して胸元まで真っ白で、そのままゴールをしていれば頑張ったと賞賛の声も上がるだろうが、立ち尽くしている分悪目立ちをしてしまっている。
「よ、よりにもよって……!」

Qネノノ・ケルキック:家庭科 調味料の「さしすせそ」とは、それぞれなんですか?

 コースに置いてあった問題用紙。今なら、レロシャンが来ていないから問題を交換出来るかも知れない。
 しかし、それで勝ったとしても素直に喜べない……けど問題は解けない。
「やっぱりネノノは凄いのね、やっと追いつけた」
 鼻の頭とおでこ、頬に口周りと、自分より軽症で済んでいるレロシャンが、運命とも言える問題用紙を手に取った。

Qレロシャン・カプティアティ:美術 青+赤=何色ですか?

「うーん、美術は苦手です……でも、青空と夕焼けを足したら、きっと夜空の前の紫色になりますね♪」
「ま、待って!」
 予想外にあっさり解いてしまったレロシャンに、縋る思いで呼び止めた。
「ネノノ、もしかして問題が解けないの?」
「う、うん……」
 本当は、テストがなければ2人で正々堂々と勝負をしたかった。
 けれど、こればっかりはどうしようもない。
「今度、一緒にお料理して覚えようね」
 優しく笑うレロシャンと一緒に、2人は仲良く並んでゴールするのだった。