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華麗なる体育祭

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華麗なる体育祭

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救護班テントの中で
 盛り上がる声援と、柔らかな日差し。うたた寝をしたくなる気候の中、誠は目を覚ました。
「……ここは?」
 天井、というには剥き出しの骨組み。
 何かを思い出しかけたというのに、突如顔面に落とされた冷たいタオルにその記憶も吹っ飛んだ。
「あれくらいのことで、いつまで寝てるんだっ!!」
 タオルをずらし、元気な声がした方を向けば、テディ・アルタヴィスタ(てでぃ・あるたう゛ぃすた)が何かを投げたポーズのままこちらを睨んでいる。どう見ても、コレをプレゼントしてくれた犯人に間違いなさそうだ。
 その様子を見ていた皆川 陽(みなかわ・よう)が、申し訳なさそうに頭を下げる。
「だ、大丈夫ですか? あの、ご気分とか色々……テディ、患者さんに何するの」
「フンッ、あれくらいのコトで死なないからダイジョブだし、人間、死んでも意外とダイジョブだ!」
 起き上がって見れば、自分は派手なジェイダス衣装のままで深く溜息を吐く。
 命からがら逃げ切れたのかどうか記憶はないが、確認する勇気もない。このまま予定通り他の競技に――
「い、今は何時ですか!? あと残っている競技は……」
「今? えっと、14時くらいだよ。借り物競争の最中でね、あとは騎馬戦と障害物が残ってるみたい」
 乱入するつもりだった競技はまだ残ってる。けれど、また誰かが危険な目に遭ってしまったら?
 誠がふと隣を見れば、スレヴィと英希が力なく微笑んでいる。
「あーあ、折角ほら貝吹く練習したのになぁ。でも傷物にはなりたくないし……」
「俺も、みんなに歌声披露出来るからってかなり練習したのに」
 2人の様子を見ていれば、やはり相当な目にあったらしいことだけは分かる。
「もう少し、ゆっくりさせてもらいましょうか」
「まだ元気じゃないのか……怪我人も病人も、僕が1番多く治してやる! かかってこぉおおい!」
 スレヴィと英希にも冷たいタオルを投げつけ、次はどいつだとやる気満々のテディに陽は苦笑するばかり。
「はぁ、何度言っても救護班も競技の1つだと思ってるんだから……あの、ゆっくりしていってくださいね」
 ぺこりとお辞儀をしてテディの後を追いかける陽。3人は、もうしばらく賑やかな救護班のテントで休むことにした。
 主に天音が治療を担当していたが、借り物としてテントを抜けているためサトゥルヌス・ルーンティア(さとぅぬるす・るーんてぃあ)が治療にあたっている。伊達 黒実(だて・くろざね)は保健室へ物資の補給に向かい、アルカナ・ディアディール(あるかな・でぃあでぃーる)早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は怪我人がいないか外を見回っている。
 そして、ちょうど黒実が薬品などが入ったカゴを持ってグラウンドに向かう途中、アルカナが木下でしゃがんでいるのが見えた。
「貴殿、どないしなはりましたん? そないな所にお座りになって……まぁ、おぼこい子が倒れてはりますやん!」
「木から落ちたみたいだな。幸い、頭を打った様子はなさそうだが、擦り傷がいくつかあるみたいだが……」
「おなごやから、運ぶんを戸惑ってはったんどすな。これを持ってもろてもよろしゅおますか? わてに任せなはれ」
 持っていたカゴをアルカナに押しつけ軽々と倒れていた女生徒を持ち上げる姿は、さすがソルジャーといったところだ。
「ほな、テントへ行きましょか。傷でも残ったら大変やわぁ」
 軽快な足取りで向かう黒実に少々驚かせられながら、ふと木を見上げる。
「……もう、そんな季節なのか」
 まだ緑の葉が多い中で、一部はすでに紅くなっている。背の高い自分には軽々届く距離でも、彼女には届かなかったのかもしれない。
(まるで、サトゥの瞳みたいだな)
 紅く染まった葉を2枚取り、口元を綻ばせながらテントへ向かうのだった。



「わ、どうしたの!?」
 物資の補給に向かったはずの黒実が怪我人を抱えて戻ってくるので、サトゥルヌスは驚いて声をあげてしまった。
「木ぃの下に倒れてはったんをアルカナはんが見付けとうて……」
「この子を?」
 軽症とは言え、擦り傷からは血が滲んでいる。吸血鬼である彼が見ればなんて思うか……自ら運んでこなかったのは、それが理由かもしれない。
(……ふぅん)
 少し不機嫌な表情をしながらも仕事は仕事。テキパキと作業をこなしていると、アルカナが戻ってきた。
「サトゥ、様子はどうだ」
「手当は終わって、ベッドに寝かせてるよ」
「……なんの話だ。そうだ、忘れないうちにこれを」
 目の前に差し出された紅い葉に、キョトンとして見上げるとアルカナが優しく笑う。
「綺麗な紅だろう。サトゥの瞳みたいだったから、見せてやりたくて」
「ありがとう。栞にして、大事にするよ」
 茶でも貰ってくる、と奥に向かったアルカナを見送り、サトゥルヌスは先程治療した女生徒のベッドへ向かう。
「さっきは、ごめんね」
 本人は知らないことだけれど、一方的にイライラとした気持ちをぶつけてしまったことを小声で謝り、1枚の葉を枕元へ置いてやる。
 もう1枚は大事に白衣の胸ポケットへ入れて、ひっそりと微笑むのだった。