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リアクション
第2章 キノコパーティーをしよう♪
「せっかくのキノコなのに、闇鍋も楽しいけど、それはそれ。やっぱ美味しい所も取っとかなきゃね♪」
と、至極真っ当な意見でもって、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は鍋の準備に取り掛かった。
折角の秋の味覚、キノコは美味しいという話だし。
「楽しいのもいいけど、やっぱ美味しいのもね、欲しいよね♪」
「そうですね。闇鍋……何だかひどい事になるような気がしますし」
九条 風天(くじょう・ふうてん)がチョイスとたのは、『鶏がらベースのきのこ鍋』。
ねぎとつくねにきのこ、豆腐、ニンジンを材料にした、失敗の確立が低いわりに味も見た目も良い鍋である。
「って事で、材料持ってきたぜ」
「足りなければ言って下さいね」
折よく、シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)と雨宮 夏希(あまみや・なつき)が食材を調達してきてくれた。
白菜・大根・牛肉・豚肉といった定番から、、ブート・ジョロキアや桜島蜜柑といった変わり種まで、様々な食材が用意されていた。
「ウチの校長、こういうトコ太っ腹なんだよな」
「という事で、材料は好きに使って下さい」
「後、飲み物とか机とかも準備しないとな」
「それなら僕達も手伝います」
「力仕事もお任せです」
神和 綺人(かんなぎ・あやと)とクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)が申し出、四人は連れだってパーティー準備に向かう。
「分かりました、ありがとうございます。こちらもキノコを待つ間、出来る事はしておきましょう」
シルバ達に軽く頭を下げ、ニンジンを手に取る風天。
的確に包丁を扱い、花の形に切っていく。
「さすが殿! 刃物の使い方は流石でありますな」
その性格を表しているような正確さに、坂崎 今宵(さかざき・こよい)も感心してしまう。
「おお〜、うん、すごいね。あたしも頑張らなくちゃ♪」
今宵とミルディアから感嘆の眼差しを向けられた風天は。
「今宵ー、そこのお皿取ってくれます?」
「ははっ!……殿! どうぞ!」
ちょっとだけ赤くなった頬を隠すように、黙々と手を動かした。
「鍋パーティと言ったら、メイドの本領発揮でしょう♪」
張り切って参加の朝野 未沙(あさの・みさ)、朝野 未羅(あさの・みら)、朝野 未那(あさの・みな)……料理上手の朝野三姉妹である。
「レイちゃんに美味しいもの食べさせて上げたいし……」
未沙は少し頬を染めると、大きな鍋に水をたっぷり入れた。
「何はともかく、出汁取りだよね!」
「教わってもいいかな? 闇鍋用にスープ作りたいんだ」
そんな未沙に声を掛けたのは、葉 風恒(しょう・ふうこう)だった。
勿体ないかもしれないがそれはそれ、闇鍋用にもスープを用意しておきたかったのだ。
闇鍋を楽しみにしている人たちの為にも。
「勿論。あのね、先ず水をたっぷり入れて……」
そこにかつお節をいっぱい入れ、火に掛ける。煮立つ前にかつお節を全部取り出す。一煮立ちしたところで、昆布を湯にくぐらせる。
「これが美味しい出汁の取り方だよ☆」
「うん、分かった。やってみる」
真剣な面持ちでもって、レッツトライな風恒。
「あたしも初めての時はあんな感じだったのかなぁ」
見守る未沙の瞳に懐かしく微笑ましげな色が浮かぶ。
「今は……うん、今も楽しいけど。やっぱり誰かの為に作るって張り合いがあるし」
レイちゃん喜んでくれるかな♪、未沙は頬を緩めつつ作業に取り掛かった。
「火は苦手なのでぇ、お野菜とかを洗ったりぃ、切ったりしてぇ、待ってますぅ」
口調とは裏腹に、未那の手際もまた見事なものだった。
トントントン、シャッシャッシャ、軽快な音を刻む、包丁や皮むき器。
「大根さん、人参さんは、『たんざく切り』にぃ。じゃがいもさんやさつまいもさんの『いちょう切り』もぉ、ご用意しましょうねぇ」
その手の中、踊るように野菜が整然と整えられていった。
「お姉ちゃん達が、お料理の準備している間に済ませなくちゃ」
その頃、未羅はカマド作りをしていた。
「おっきなお鍋の乗る『カマド』を造っちゃうの!」
今はまだ火を使う者は少ないが、未沙や風天など、大きな鍋の乗るカマドが必要なのは必至だったから。
材料は、耐熱レンガと耐熱セメント。
「む、むむ……殿の為にもここは手伝うべきでござるな!」
「私も手伝います。手はあった方が良いでしょう? アヤは飲み物の準備をしてて下さい」
気付いた今宵とクリスが手伝いを申し出る。
「ありがとなの」
「で、どうすればいいでござる?」
「まずは『カマド』用のスペース確保するの。確保したら、耐熱レンガを組み上げてみるの。しっくりきたら、セメントでくっ付けるの。セメントは最初にセメントと砂を混ぜてグルグルするの。次は砂利を混ぜてグルグルするの。最後にお水を加えてグルグルするの。それをレンガとレンガの間に塗っていくの」
「………………とりあえず、は」
「スペース確保なの」
「分かったでござる」
「分かりました」
三人はそして、実は一番重要とも言える、カマド作りを始めたのだった。
「男手が必要だったらいつでも声、掛けてくれよ」
とは机を運びつつのシルバ。
「手が空いたらあちらも手伝いましょうか」
同じく飲み物を調達したり、机を並べたりと、会場のセッティングを担当していたアリス・ハーバート(ありす・はーばーと)とミーナ・シーガル(みーな・しーがる)も気になっている様子。
「ありがとなの。でも、こっちは何とか大丈夫そうなの」
「そう? でも手が必要だったら言ってね」
未羅に笑み、アリスの瞳はふとその向こう……未沙や未那へと向けられた。
残念ながらあまり料理に自信がない為、裏方に回っているわけだが。
「ちゃんと料理が出来てこそ、自立した大人の女性よね」
「そだね。だけどミーナちゃんは料理苦手だし……ん〜、キノコを切るくらいは出来るかぁ」
と、考えたミーナの頭にピカン、と何かが閃いちゃった。
「ていうかこれ、闇鍋よね?……って事はミーナちゃんが作ってもオーケーよね! ヒャッハ〜!」
「そうなの? 闇鍋って料理初心者でも大丈夫なんだ」
こうして誤った知識を元に、初めての料理への挑戦が始まったのだった。
「まぁ、普通のキノコ鍋だか闇鍋なんだか知らないけど、私は普通に料理するわ」
どうせなら美味しい鍋にしたいし、と白波 理沙(しらなみ・りさ)もまた早速準備に取り掛かっていた。
「飲み物を用意して、あとは鍋の味付けでもしとこうかな」
とりあえず出来る事は先にしておこう、と思う理沙にパートナーの早乙女 姫乃(さおとめ・ひめの)がにこにこと提案した。
「理沙さん、味付けは唐辛子とチョコとジャムとラー油とでどうでしょう?」
「姫乃……甘くしたいのか辛くしたいのか分からないわよ……」
唐辛子とチョコとジャムとラー油をブレンドした鍋を想像し、何とも言えない表情になる理沙に、姫乃は小首を傾げた。
「えっと……相変わらずお料理って奥が深いんですねぇ。味付けの組み合わせが難しいです……」
「いっいや、というかそもそも組み合わせとかもはやそういうレベルじゃないっていうか」
今まで殆ど料理をした事がない、姫乃。だけど、姫乃は教えた事はちゃんと覚えていてくれるし、大丈夫よね?、という理沙の願いは次の瞬間木端微塵に吹き飛んだ。
「理沙さーん、じゃあ砂糖と醤油とソースとミルクとオレンジジュースなら美味しいですかね?」
「しまった! 包丁の使い方云々より先に、教えるべき事があったわ!?」
キョトン、とする姫乃に無言で包丁を渡しつつ、
「……後日、料理の勉強会をするわ。だから今日は野菜を切る事だけに集中して」
理沙は姫乃によぉくよぉく、言い聞かせた。
「でも、あちら……」
そんな理沙に姫乃が不思議そうに指示した先では、クラーク 波音(くらーく・はのん)がご機嫌で準備していた。
「やっぱね、ハズレの具があってこそ、闇鍋……醍醐味だよね!」
波乃が手にしたのは、ハバネロだ。
「闇鍋では定番系かな? 辛いし、食べちゃった人の反応が楽しみだな〜♪」
お次は、ゴーヤ。
「これも苦いし面白そう! でも、好きな人もいるかも?」
更に、お煎餅。
「これハズレに見えて当たり〜。実はせんべい汁なんて料理があるんだよね〜」
そして、最後にバナナだ。
「鍋に果物! ミスマッチだよね〜」
実に楽しそうに準備を進める波乃。
「鍋のだしは薄味が良いかな? 白菜やごぼう、人参と鶏肉等を用意してすぐに鍋パーティーを始められるように下ごしらえしておこう」
こちらは実に真っ当に準備を進めていた樹月 刀真(きづき・とうま)。折角だし鍋だけじゃ勿体ないよな、と考えつつ。
「キノコと鶏肉をガーリックバターで炒めても美味しいしキノコの天ぷらやかき揚げ、炊き込み御飯もどうかな?」
色々考えたら楽しくなってきた刀真に、パートナー漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が声を掛けた。
「刀真……」
「ん?……っ!?」
刀真はその瞬間、悟った。波乃を熱く見つめる月夜が、何を言おうとしているのかを。
悟って、先手を打つ。
「月夜、調理の手伝いは要りません。お皿を並べて下さい」
月夜が手伝いたがっているのは百も承知だ。だが、料理下手な月夜に任せたら……不安しか湧かなかった。
「………………分かった」
いかにも渋々といった風に、それでもちゃんとお皿を並べる月夜に、刀はホッと胸を撫で下ろした。
「んー、これだけあると大変ですがやりがいがありますね」
そして、大量の野菜を切り始める刀真は、だから気付かなかった。
「……私も調理できるもん」
お皿やコップを並べていた月夜が頬を膨らませている事に。
そう、大体刀真は自分を侮っているのだ。
刀真や理沙ほどの手際はないが、自分だって波乃や姫乃と同じくらいには出来る!……はず。
故に。
「こっそりと鍋を作って見返してやろう」
月夜がそう決めるのに、そう時間はかからなかった。
「だしはピリ辛の唐辛子をベースにして……唐辛子を入れ過ぎたみたいだからバランスを取る為に砂糖を入れよう」
どさっと唐辛子投入、入れすぎたので今度は砂糖を投入。
野菜もたっぷりと入れよう。
「とにかく煮込めばいいんだよね、よく煮込みえすれば」
そして、傍らに置かれていたブルーチーズに気付き、閃く。
「そういえばこの前本にチーズを入れると美味しくなると書いてあった、コレを入れればきっと美味しい」
隠し味というやつ。ドボン、ブルーチーズの塊、投入完了。
赤い汁の中に溶けていくチーズ。
ちなみに月夜のような人種には往々にしてある事だが、月夜もまた味見というものを全くしていない。
「これを見たら刀真だって私を見直すはず……っ!」
それでも情熱や刀真への思いを胸に宿す月夜は、鍋の成功を欠片も疑っていなかったのだった。