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うきうきっ、合同歓迎会!

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(6)特設スペース 〜昼の部〜

「とうっ!! 百合園女学院推理研究会をよろしくお願いしまーす!

 舞台で百合園女学院推理研究会ミステリ劇をやります。ぜひご鑑賞下さーい☆」
 風船を体中に付けた超 娘子(うるとら・にゃんこ)はふわふわと浮きながらチラシをまいている。額の肉球がトレードマークの彼女は、風船がしぼんで地上に降りると得意のヒーローアクションで子供たちの人気を集めていた。宇佐木煌著 煌星の書(うさぎきらびちょ・きらぼしのしょ)も……彼女は推理研究会に入っているわけではないのだが、みらびが『みんなで手芸くらぶ』の先輩たちに協力してもらった衣装に探偵バッチ風ワッペンを付けてガンガン宣伝していた。アイロンでくっつくタイプの素敵なワッペンは彼女のお気に入りだ。
「ボク達の推理ショーがもうすぐ始まるよー!!」


「樹様ー、もうすぐ始まりますよー。『百合園女学院推理研究会』の舞台なんですって!!」
 ジーナは樹の少し前を、早く着きたい気持ちを抑えきれずに小走りになりながらステージに向かっていた。
「ああ、そうだったのか。じゃあ、一緒にステージを見てみよう」
「今回は、『みんなで手芸クラブ』でご一緒している、宇佐木様の衣装作成のお手伝いを致しました。女の子探偵さんのお話なんだそうですよ」
 コタローとたこ焼きを食べながら、樹はのんびりと歩いている。ジーナはツインテールをピコピコ動かしながら先に行ってしまった。その先には彼女たちが制作した服を着た煌星の書がチラシを配っている。自分が作った服を着てくれる人を、もっと近くで見てみたかったのだろう。


〜開演・前半〜

 今回は寸劇ということで、事件が起こった後から劇が始まっている。舞台は、キャッスル・タチバナ城で、令嬢の寝室でお嬢様の橘 舞(たちばな・まい)が部屋から閉じこもって出てこない彼女を心配し彼女に何らかの用事で招かれた探偵4人がかぎをこじ開けて中に入ろうとする場面からになる。
「開いたわ!」
 鍵をこじ開けて中に入ったお嬢様探偵ことブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)が中に入ると寝台に眠るように横たわる令嬢がいた。メイドのイルマ・レスト(いるま・れすと)はさして慌てた風も無く、サイドボードから1枚の印刷されたB5コピー用紙を床から拾い上げる。
「あらあら、なんでしょう」
 薄く笑うイルマはなかなか役者である。客席に見えるようにコピー用紙を見せると、そこには『ごめんなさい』という文字が印刷されていた。
「おい、息をしていないぞ!」
 舞と外見の似ている朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は今回、巫女さん探偵として参加しており病死した城主の四十九日の法要に呼ばれているという設定だ。
「……四十九日で巫女は呼ばないだろう。適当すぎるぞブリジット」
 千歳はうーむと自分の設定に疑問を持ちつつも、まあそれっぽく驚いてみせた。舞はぐったりとした格好で倒れている。そこにホームズの格好をした可愛らしい探偵がさらに現れる。マジカルホームズの二つ名を持つ霧島 春美(きりしま・はるみ)に、相棒のアニマルワトソンことディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)であった。
「まったく、大変な事になったね。ワトソン君」
「えっと……怪しい人をすべてこの部屋に集めないと!」
 春美の後輩でお揃いの桜色の髪をした魔女っこ探偵の宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)もセリフをかまないように一生懸命しゃべっていた。
「ぴょ! これは事件です……春美せんぱ、じゃなくてマジカルホームズ殿、お嬢様探偵殿!」
 いっぱいいっぱいなその様子を見てセイ・グランドル(せい・ぐらんどる)は冷や汗をかいた。
「……『殿』はねえだろ。何時代だ」
 セイは手先の器用さを活かして道具係を担当している。照明は娘子と一緒に担当しているため、彼女と一緒にお互いの相棒の様子をはらはらと見守っていた。つっこみを入れつつも、みらびの力になれたのは嬉しく思っているようだった。もっとも、それを口に出すかは別の問題のようだが。
「ボク、怪しい人を集めてきたよ!」
 ぴょんぴょんっととび跳ねながら、ディオネアは容疑者の1人である継母・金 仙姫(きむ・そに)を連れてきた。
「わらわを呼ぶとは何事か」
 ツン、と冷たい雰囲気を出して舞をちらりと横目で見たものの心配するそぶりは出さなかった。


〜小休憩〜

 今回、設定が細かいため娘子と煌星の書が客席にガイドを配り分かりやすい舞台にしようとしていた。以下がキャラクター説明と舞台状況である。なお、推理時間を設けるため10分間の休憩をはさむ。
「うわーっ、結構本格的ですぅ」
「にゃ? はんにん、だれなんら?」
 静麻の店で買ったたこ焼きのソースを顔につけながら、ジーナとコタローは推理談議に花を咲かせていた。樹はハンカチでやや乱暴に2人の口元を拭っている。



☆推理ガイド☆
■舞台状況
・探偵たちが部屋の鍵をこじ開けて中に入るまで、部屋のドアには中から鍵がかかっていた
・令嬢の部屋は塔の上部にある為、外からの侵入は不可能(密室状態)
・サイドテーブルには飲みかけの紅茶
・テーブルには「ごめんなさい」の文字が印刷されたB5コピー1枚

■キャラクター
・令嬢(橘 舞)
寝室で倒れているのが見つかる
父親を亡くしてから不眠症になり、睡眠薬を服用していた

・メイド(イルマ・レスト)
令嬢の異母妹
前夜、令嬢に睡眠薬を渡していた

・継母(金 仙姫)
令嬢とはあまり親しくない雰囲気で、メイドの母親
睡眠薬を管理していた



〜開演・後半〜

 後半では4人の探偵による推理が展開される。容疑者と探偵たちが客席のほうを向き、それぞれの考えを発表した。
「おーほっほっほ! 謎は全て解けたわ。
 ご先祖様の名にかけて、令嬢を殺害した犯人はあなたよ、メイド!」
 お嬢様探偵のブリジットは人差指をビシリとイルマに向け、高笑いを上げた。
「メイドは父親を亡くして傷心の令嬢に、よく眠れるお薬ですとか言って毒薬を渡したのよ。信頼しているメイドから渡されたら飲むでしょ、普通。鍵を掛け、紅茶と共にそれと知らず毒を飲んだ令嬢は就寝中に死ぬ。つまり、密室状態を作り出したのは犯人ではなく、被害者である令嬢自身だったのよ!」
 イルマはあまり動揺する様子を見せなかったが、遺書についての説明を求めた。それにもブリジットはひるむことなく説明する。
「遺書はきっと遺体発見時のドサクサにまぎれてメイドが置いたのよ。完璧だわ。間違いない!」
 1人目の探偵の推理はメイドが犯人というものだった。なるほど、確かにスタンダードな名推理だ。続いて春美ことマジカルホームズの推理がさく裂する。
「私の推理はこうだ。あきらかに怪しいのはB5コピー用紙……貴族令嬢がこんな紙にメッセージを残すと思うかい? 金持ちならもっといい便せんを使う筈だ」
 春美は彼女の近くに落ちていたコピー用紙に手掛かりがあるとし、実際にその紙を客席に向ける。しかし、重要なのはメッセージではなかった。
「B5サイズは182×257ミリだ。ではその数字を足してみよう。

 そう439ミリだ!

 ほらもう答えが出たじゃないか。わからないかい?439はヨサークと読めるだろう?
 そう、橘舞を殺害したのは、かのキャプテン・ヨサークだよ!」

 ナンテコッタイ!

 観客、演者、照明係、全員目が点であった。いくらなんでも斬新すぎる。ある意味すごいがあんまりだ。
「数を足すと言われて、なんで足すの? 普通はかけるでしょ?
 だいたい、なんでキャプテン・ヨサークが舞さんを殺すの!!」
 もっともな突っ込みを入れるディオネアの問いに、セイと娘子もうんうんと頷いた。照明係でなければつっこみを入れたいところである。
「えっ、ヨサークが橘舞を殺害する動機だって? そんなことも推理出来ないのかい?
 いいかい、ヨサークは木(橘)を切るって歌が昔の日本にあったろ? そうあの歌は、遥か昔からの殺害予告だったんだよ!」
「やってられんわ!」
 ディオネアはぺちっと春美に突っ込みを入れた。

「高天原に神留座す。神魯伎神魯美の詔以て〜……むー」
 千歳が御幣を振って祝詞を読むがその後のセリフが出てこない。いや、もしかしたらこの劇は途中からアドリブなのだろうか。
「ちょっと! どうしたのよ、千歳!」
 ブリジットが小声でたずねると、千歳は赤い顔をしてうつむいてしまった。
「……こんな恥ずかしいの、立ってるだけでいい」
 そう言うと黙り込んでしまう。
「……推理はない、以上だ」
「な、なんでやねーん!」
 ディオネアのフォロー突っ込みによって場が和んだ。

 他の探偵が推理している最中も証拠捜しを続けていたみらびは、有力な証拠を見つけたようで大きな声を出す。衣装のステッキをふってキラキラと光りの粉をまいた。
「魔法の力でキラリと解決! 犯人はこの中にいますっ」
 光の粉は舞のほうにふわふわと漂っていき、粉が鼻に入った舞はくしゅん! とくしゃみをした。なんと、舞は死んでなどいなかったのだ!!
「お嬢様は死んだふりをしているだけです。そして……毒をすり替えたのは義理のお母さんではないでしょうかっ」
 継母役の仙姫はつつ、と前に出ると今回の事件を独白した。
「ふむ、潮時であろう。
 前半はブリジット、後半はみらびの言うとおり。実の娘の気持ちもわからぬではないが、わらわが諭して気がすむ者でもなかろうて一芝居打たせてもらった。探偵たちよ、迷惑をかけたな」
「そ、そんな。気がついてらしたの、お母様!?」
「ふああ……あら? 皆様どうなさったの?」
 眠そうに目をこすりながら尋ねる舞の手と、イルマの手を仙姫は自分の右手と左手でそれぞれつなぐと優しくイルマに話しかけた。
「これからは私たち3人手と取り合って仲良く暮らしましょう」
 そういうと、キャスト達全員が手をつなぎ『ありがとうございましたー!』と一斉にお辞儀をした。テーブル上の遺書はイルマが用意したもので、それに気づいた継母が毒をすり替えたとのことだった。

「あー、まあ上手くまとまったほうだろ」
 セイは大感激して涙を流している娘子にその辺でもらったティッシュを投げてやる。
「非凡な集団だね! ワトソンくん」
「誰がワトソンだ! この部活はそのセリフが好きだな!」
 娘子は拍手をしながら観客席のほうを見ると、ジーナもパチパチと拍手をして劇の成功をお祝いしていた。