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八森博士とダンゴムシの見た夢

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八森博士とダンゴムシの見た夢

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5.正義のダンゴムシ

 ヴァイシャリーの上空、小型飛空艇を飛ばしていた国頭武尊(くにがみ・たける)ルイ・フリード(るい・ふりーど)は、街でも最も幅の広い川の中に不自然なものを見つけた。
「おい、もしかしてあれじゃねーか?」
 と、武尊がルイへ言う。
「……確かに、マゼンタですねぇ」
 ルイはその水中を見てそう言った。地上からは見えないかもしれないが、空からだとはっきり分かる、鮮やかなマゼンタ色。
 武尊は携帯電話を取り出すと、地上にいる仲間へ連絡をした。
「ダンゴムシ、見つけたぜ」

 ルイのパートナー、リア・リム(りあ・りむ)は装備の最終確認をしていた。
「よし、いける」
 と、チェックを終えたところで携帯電話が鳴る。

 日下部社(くさかべ・やしろ)は川の中を覗き込んで言う。
「はー、ほんまにでかいんやなぁ」
 と、何やら感心している様子だ。
 小型飛空艇を低空飛行させ、その場にとどまっている武尊とルイ。そこへ遅れてリアも合流した。
「で?」
「まずは陸に上がらせましょう」
 と、ルイが水中へ向けて雷術を放つ。直後、水面が大きく揺れた。
 ざばあっ、とダンゴムシが水面から顔を出し、ルイたちをまん丸の目で睨みつける。
「逃げます!」
 ルイが先に走りだし、陸へ上がったダンゴムシが攻撃態勢をとる。
「うわ、思ったよりも迫力あるぜ……!」
 ダンゴムシが丸まり、ルイを追って転がりだす!
 その後を追う武尊と社。リアも走りだしながら、マゼンタ色の巨大ボールを見て思った。

 ダンゴムシ 丸まる姿 巨大だな(リア・リム/心の川柳より)

 小型飛空艇を全力疾走させるルイだったが、ダンゴムシの速度は想像よりも全然速い。急に角を曲ったところで、ダンゴムシも器用に曲がって来る。
 仲間たちがダンゴムシを攻撃しているのは音で分かったが、いつまで逃げ続けていられるだろう。
 少しでも人気のないところへ……! ルイが三度目の曲がり角を曲がった時、そいつは現れた。
「ダンゴムシちゃんをいじめるなんて、許せない!」
 春夏秋冬真菜華(ひととせ・まなか)だ。とっさに避けたルイだが、運転を誤って地面へ激突してしまう。
 遅れてやってきた武尊たちは驚いた。
 先ほどまで殺気立っていたはずのダンゴムシが真菜華に懐いていた。正しくは、真菜華の手にあるドーナツを食べているだけだが。
「可愛いでしょ? みんなで飼うの」
 と、真菜華はそのマゼンタ色の殻を撫でる。
「か、飼うって……君、正気か?」
 小型飛空艇を停めた武尊が尋ねると、真菜華は当たり前のように答えた。
「当たり前でしょ。だってピンク色だよ? ピンク色は可愛い! 可愛いは正義! だからダンゴムシちゃんも正義なのだ!」
「阿呆ちゃうか?」
「ピンクとマゼンタは微妙に違うぞ」
 社とリアが半ば呆れたように呟く。
 しかし、真菜華がそばにいる今、ダンゴムシへ下手に攻撃は出来なかった。ただでさえ狭い路地だ。
「というわけで、このダンゴムシちゃんはマナがもらって行くね」
 と、真菜華がダンゴムシへ振り返ると、食事を終えたダンゴムシが真菜華の頭上で口を開けていた。
「危ないっ!」
 真菜華に襲いかからんばかりのダンゴムシを止めたのは、リアだった。
 砲撃を受けて後ろへ倒れるダンゴムシ。その隙に武尊が真菜華をさらうようにして小型飛空艇へと乗せる。
「あぁ、ダンゴムシちゃんが……!」
「馬鹿なこと言ってるからだろ。大人しくしてろ!」
 そしてダンゴムシの頭上へ舞い上がり、逃走する。真菜華は起き上がったダンゴムシがこちらへ向かってくるのを見ていた。
「そうはさせへんで!」
 と、社が氷術でダンゴムシの行く手を塞ぐ。
 冷気を感じたダンゴムシが立ち止まり、社とリアの方へ顔を向けた。
 妙に憎しみに満ちた目で社たちを見るダンゴムシ。真菜華を安全な場所へ置いてきた武尊が戻ってきて、三対一になる。
「ここからが本番だぜ」
 武尊の言葉を合図に、それぞれが攻撃を繰り出す。ダンゴムシはそれを丸まることで防御し、攻撃態勢に入る。
「今や、武尊さん!」
「おう!」
 武尊は巨獣の大腿骨をバットのごとく構えた。
「来たっ!」
 ダンゴムシが転がり始めた! 財産管理で鍛えた暗算を使い、武尊は回転速度や風向きを素早く計算する。
 そして――……!

 真菜華はピンク色のボールが遠くの空へと飛んでいくのを見た。
「……ダンゴムシちゃん」
 芸を覚えさせて一儲けしようと思ったのに、と、真菜華は純粋とは言えない涙を流すのだった。

「ぁー、すごくよく飛んだな」
 リアの呟きに武尊は言う。
「オレの実力を舐めてもらっちゃあ、困るぜ」
「さっすが武尊さんやな! 上手いことサルヴィン川の方に飛ばしよった」
 と、社に肩を叩かれると、武尊はわずかに言葉を濁す。
「いや、あぁ、その……故郷に帰してやったんだぜ!」
 イルミンスールの方を狙ったつもりだとは言い出せなかった。
 ふと、リアは気を失っているルイへ歩み寄る。
「ルイ、いつまで寝ているのだ?」
 足で軽く頭を蹴られ、はっと目を覚ますルイ。
「だ、ダンゴムシは?」
「飛んだ」
「……え?」