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百合園から出られない少女

 静香達が花見をしに空京へ続々と向かった中、百合園女学院でため息をついている少女がいた。
 茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)髪の毛をツインテールに結んだ少女だった。
(「私だって、お花見がしたくないわけじゃない。友達とワイワイ騒いだりもしてみたい。でも学院から出たら、あいつに会ってしまう……。」)
 そう、あいつ。
 自分のことを守護天使と偽って私と契約した、嘘つきなゆる族、キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)
 格好いい、守護天使やヴァルキリーに憧れていた清音には、あのくたびれた外見は許容範囲外だった。
 そして何より、嘘を突かれたのがショックだった。
 それ以来、清音は若干男性不信である。
 キャンディスに会わない。その為だけに清音は、楽しいイベントより、百合園女学院に残るという選択肢を選ぶのだった。

花見という名の宴会の始まり

 夕日も落ち、月が姿を現した頃、誰から始めたというわけでもなく、花見の宴が始まった。
 学生や今日の為に静香が手配したテキヤからは美味しそうな匂いが放たれている。
 そんなテキヤの中でもかなり気合の入っているテキヤがあった。
「美味しい箸巻きはいかあっすかぁ〜♪」
 百合園女学院のミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)の箸巻き屋である。
 その横では、パートナーの和泉 真奈(いずみ・まな)が飲み物を提供していた。
 箸巻きの匂いにつられて、お客も絶えず忙しい。
 花見では、最初に食料を確保しておくのが鉄則である。
 だがメニュー欄にバナナとか珍妙なものがあるのはどうしたものだろうか?
 真奈のドリンク販売も一人では追いつかない様子だ。
 そんな時、ミルディアの視界にちょうど目の前のテキヤが入った。
 こちらは、ミルディア達のテキヤとは対照的に閑古鳥だった。
 射的のテキヤのようだがいかんせん、景品が可愛くない。
 店番をしている、ゆる族をモチーフにしたマスコットのようだが、可愛くない。
 この店番こそ、清音を騙してパートナーになった、キャンディスだった。
 彼は、どうにか校長たちと親しくなって、堂々と百合園女学院に入れるようにしてもらおうと考えていた。
 直接アタックしても白百合会に邪魔をされると考え、テキヤで罠を張っているという訳だ。
だが、そんなキャンディスの姿は、ミルディアには怪しいものにしか映らなかった。
 今日はテキヤだがミルディアも白百合団の団員、何かあれば対処しなければならない。
「ま、祭りだし多少のことはいいっしょ♪」
 言いつつミルディアは、また箸巻きを作りだした。

日本文化って?


「お姉さま、お待ちしておりましたわ」
 広い丈夫な段ボールの上で正座をし、ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)が微笑んでいるが、何故か彼女の周りには小額のお金だったり、テキヤの差し入れだったりが置いてある。
「ジュスティーヌ、この食べ物などは、何かしら?」
 お姉さまと呼ばれる、遅れてきたパートナー、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)が尋ねる。
「あ、これは通りすがりの方達が何だか『若いみそらで可哀想に』とかなんとかおっしゃって、皆様が下さったものですの」
「ジュスティーヌ、何かに間違われていないかしら?」
「そうですの?」
 ジュリエットの問いかけにもジュスティーヌは小首をかしげる。
「まあ、何でもいいじゃん! 宴会じゃん! 酒じゃん!」
 お弁当を持ったアンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)が待ちきれないという感じで言う。
「そうだね、早く、のんびり花見しようよ」
 岸辺 湖畔(きしべ・こはん)も賛同する。
「そうですわね、立ち話もなんですし、せっかくジュスティーヌが場所取りをしておいてくれたのですから」、伝統的な日本のお花見をいたしましょう」
 早速、持ってきたお弁当などを広げるジュリエット達。
「私、調べてきましたのよ。お花見には、この『おちゃけ』が必要ですの。煮出した番茶を番茶で割って、酒瓶に入れてきましたの。お酒じゃありませんから、どなたにでもお勧めできますわ。私達で楽しんだ後は、周りの方にもお勧めしましょう」
 笑顔で酒瓶からおちゃけを』湯飲み茶碗に注ぐジュリエット。
「それじゃあ、不肖マツセナが乾杯の音頭をとるじゃん! かんぱーい!」
 その声に合わせて残りの3人も『乾杯』の声を上げる。
 言って、アンドレはおちゃけをぐぐい〜っと飲み干すが、その喉へ攻撃してくるとも言える、味に顔をしかめる。
(「ぐっ! うぷ……きつすぎる。ジャポネーゼはこんなもの宴会で飲むかじゃん! 侮れないじゃん!」)
 周りを見てみると、ジュリエットと湖畔も顔をしかめている。
ジュスティーヌだけは平気なのか、のんびりと。
「この湯飲み茶碗の非対称と日々の入り方がよろしいですわね。わびさびを感じさせますわ」
 などと言っている。
(「よそは盛り上がっているのに、うちらだけしんみりしてるのは嫌じゃん! こうなれば!」
 そう考えたアンドレは、おちゃけを酒瓶ごと一気を始める。
 お酒ではないが、これは危険すぎる。
 アンドレは、おちゃけの味のあまりの酷さに目眩がしてきた。
 飲み終わった途端アンドレは『マルショーン、マルショーン』と歌いだした。
 酔った振りでもしないとやってられないと考えたのだが、もうマツセナの思考は限界だった。
 歌いながら突っ伏してしまった。
「あーん! マツセナ、寝ないでよー!これからコイバナするんだからー!」
 湖畔の声にもマツセナは全く反応しなかった。
 そんな中一人、落ち着いているジュスティーヌが一言。
「風流ですわね」
 桜の花びらがジュスティーヌの湯飲み茶碗にひとひら吸い込まれていく。