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【2020春のオリエンテーリング】準備キャンプinバデス台地

リアクション公開中!

【2020春のオリエンテーリング】準備キャンプinバデス台地

リアクション

 陽もすっかりと落ちて夕闇がキャンプを包む頃、それぞれの作業を終えた警備班や洞窟班、ガイド班もキャンプへと集結を始めていた。
「おぉ、出来上がったな」
組みあがった30m級のツインキャンプファイヤーを見上げてラルクが、隣にいたエヴァルトとコルデリアに話しかけた。
「近くで見るとでかいよな」
「ツインタワーなんですね」
キャンプファイヤーの出来栄えに初めて見るものは圧倒されていた。
「お疲れ様です、どうぞ」
帰ってきた人たちの慰労のためにコーヒーを配っているのは、蒼空学園のビーストマスターである浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)だ。
持ち込んだコーヒ―メーカーや豆を使い、簡易のカフェブースを設けていた。
「ありがとう」
「助かるぜ、少し冷えてきたしな」
翡翠から受け渡されたコーヒーを、ミルディアと和希が受け取って笑顔を見せた。
「春先とはいえ、まだ夕方は冷えますから」
翡翠を手伝うのは、罰ゲームと書かれた張り紙を背中に付けた総司、薫、陽太の三人だ。
「薫さん、陽太さん。俺たちはけして負けちゃいない」
「いかにも勝敗は時の運でござる」
「部長、俺はもう満足です」
熱く語り合う三人に、翡翠が水をさした。
「はいはい、罰なんだからしっかり働いてくれないと困りますよ」
ミルディアと和希は同情して口をはさんだ。
「何かやったの?」
「かわいそうじゃん」
「実は……」
説明しようとする翡翠を総司が慌てて止めた。
「何でもない、何でもない。濡れ衣だよ」
「そうそう、温泉の女子更衣室に隠れたりなんてしてないでござるよ」
「そ、それはオフレコです!」
「あ、しまったでござる」
もはや自白してしまったのも同然の薫や陽太たちに、ラルク、エヴァルト、コルデリアからも冷たい視線が飛んだ。
「お前らなぁ」
「そりゃ罰ゲームにもなるな」
「不潔ですわ」
あまりに容赦ない言葉なので、翡翠もフォローを入れました。
「未遂ですし、それに三人とも反省して手伝ってくれてますから」
しかし、かばい立てする翡翠の言葉に調子に乗り、そうなんだよと頷く総司、薫、陽太の三人の姿からはあまり反省の色が見えなかった。



 明日の準備を終えた面々へは、調理班が夕食にと会心の出来栄えであるリッチカレーを配っていた。
「侘助さん、こっちにおかわりね」
「了解、匿名。ご飯は普通?」
配膳を受け持った侘助と某は目が回る忙しさだ。
「いっぱいありますから、たくさん食べてくださいね」
両手にカレーの皿を持った綾耶が、玲奈とエトへ声をかけた。
「うわ、いい香り」
玲奈はスパイスが放つ贅沢な芳香に驚いた。
「すっごい、おいしー」
受け取るなり口に頬張ったエトはお口が感じる幸せに大満足のようだ。
「本当だ、今まで食べたどのカレーよりも美味しいです」
ブレイクも素直に称賛の声を漏らした。
「素材の味を完璧に引き出しているようだな」
綾香の褒め言葉に、綾耶は喜んだ。
「やりましたね」
「侘助さんの炒めタマネギのおかげだな」
「そんな、匿名や結崎たちの力があったからさ」
同じくリッチカレーを作ったネージュ、涼助、クレアも次々とくるオーダーに目を回していた。
涼助がカレーだけでは寂しいと準備したタンドリーチキンやサラダも好評だったからだ。
「追加オーダー入ったよぉ」
クレアの声に、涼助があいづちを打つ。
「チキンが3だな。サラダも入ったぞ、いけるか?」
「待って、いま盛り付けるから」
ネージュは素早く盛り付けたサラダにトッピングとドレッシングを手際よく振りかけていった。
お腹をすかせたメンバーたちは思わぬご馳走に大喜びだ。

 しかし、人気で行列のでき始めたリッチカレーとは打って変わって、反対側に配膳所を構えたグルメカレーの前には誰も現れなかった。
「来ないね、誰も……」
「やっちまったか……」
沙幸と正吾は顔を見合わせて苦笑いした。
「この匂いに危険を感じてるのかもしれないわ」
美海はカレー鍋のふたを取ろうと近づいたが、あまりの悪臭にさすがに手が止まった。
「息ができないです……」
エミリアなどはずっと鼻をつまんでいた。
「そうですか、美味しいですよ」
平気な顔をして食べているのは味覚の鈍い彩蓮だけだった。
そんなメンバーの前にふらりと現れたのがリュースだ。
「カレーだ、早く!」
食欲に火がついたリュースの気迫に、社は気圧されながらも注意した。
「言うとくけど、このカレーはしゃれならへんで」
それでも頷くリュースを大地が止めた。
「リュース、やめろって」
「そうよ、リュース」
レイも説得したが、無駄だった。
鼻が良すぎて近づけない獣人のアレスは遠くから見守るしかなかった。
「わかった、食えるもんなら食うてもらおうやないか」
社はカレー鍋の前で待っていた蓮に合図を送った。
「じゃ、よそうよ」
蓮はカレーを皿によそうとアインに手渡した。
「死人が出ぇへんことを祈ろか」
カレーを受け取ったリュースの一挙一動に誰もが注目した。
一番気にしていたのは味付けを担当したクロセルだ。
「これは……おいしい、神の味だ」
リュースはそう褒めると、どんどん口にカレーを放り込んで平らげてしまった。
「やはりカレーのヒーローに失敗はなかったようです。最初から予想通りでした」
「まったく口から出まかせばかりを。どうせひょうたんから駒なだけであろう」
マナはうかれまくるクロセルをたしなめた。
リュースがお代わりまでする見事な食べっぷりに、遠巻きで見ていた人もグルメカレーに並びはじめた。
「どうぞどうぞ、たくさんありますよ。味付けはこのクロセルがいたしました」
くさいけれど口の中へ広がる強烈な味が美味いと噂になり、グルメカレーも次々とオーダーが入った。
「さすが、ゲリラ闇カレー最強だな」
「だよね」
沙幸と正吾も結果よければという感じで、自分たちでも味わってみた。
強烈な辛さと臭みの後に、豊かな味が口を満たす不思議なカレーだった。
「奇跡だね、けっこうすごいの入れたのに」
「まぇ、ええやんか。おいしいってことやから」
蓮も社も不思議だったが、カレーを食べて満足している人達を見て納得した。



「中止なんて絶対ないわ。問題があるなら解決……何のために……ちょっと聞いてるの?」

 無線の向こうから怒りを隠さないで吠える環菜に、涼司は苦戦していた。
「そんなこと言ったってなぁ。何か不審な動きが……あれ、切れた。また地磁気の影響か」
地磁気の影響で切れた無線機のマイクを置いて、涼司はため息をついた。
「やれやれ、まいったな……」
無線機の前で涼司は頭を抱えていた。
「涼司さん、どうしましょう?」
花音も心配したが、涼司はため息しか返せなかった。
洞窟班や警備班の報告によると、怪しげなゴブリンがいるのは確かだが目的がはっきりわからなかった。
「警戒を強めるしかないな」
その時、テントをノックするものがあった。
「入りますよ」
手にコーヒーを乗せたお盆を持った翡翠が、テントの幕を持ち上げて入ってきた。
「根を詰めすぎては毒ですよ。どうぞ、コーヒーブレイクです」
「悪いな」
「ありがとうございます」
翡翠が気を使って甘めに仕上げたアイスコーヒーが、涼司と花音の疲れをわずかながら癒してくれた。
「みなさん、楽しんでますよ。お二人もいかがですか?」
「そうだな、行くか」
翡翠に誘われて、涼司と花音はテントの外に出た。

 夜になって冷えた空気が包み始める中、作業を終えたそれぞれがくつろいだり、今日のことを話し合っていた。
しかし、中にはまだ明日のために仕事を続けている蒼空学園のアーティフィサー葉月 ショウ(はづき・しょう)のような者もいた。
「くそ、こう暗いとやってられないぜ」
ショウはクィーンヴァンガードの制服一式を貸し出すサービスを担当していた。
環菜にアイデアが面白いと褒められ、クィーンヴァンガードにならないと支給されないヴァンガード強化スーツ、ヴァンガードエンブレム、銃型HC、籠手型HCなどを二十着も借り出すことに成功したのだ。
「手を貸そうか?」
見かねた涼司がショウへ申し出た。
「あぁ、助かるぜ。あとはもう少し照明があるといいんだけどな」
ショウは蛍光灯付きの大型懐中電灯を指差して苦笑いした。
「花音、資材調達部にまだ余ってたよな?」
「はい、たしかあったはずです。私、行ってきますね」
走って行く花音へ、ショウは言葉をかけた。
「サンキュ、花音。できたら多めにもらってきてくれよ」
「はい」
仕事を再開しようとするショウへ、翡翠がコーヒーを差し出した。
「照明が来るまで少し休憩してはいかがですか?」
「お、なんか至れり尽くせりだな」
ショウは熱々のコーヒーを啜り、冷えてきた身体を温めた。
「くぅ、やっぱ外で飲むコーヒーはうまいな」
「ありがとうございます」
ショウからの素直な称賛に、翡翠は頭を下げた。
「これで後は音楽がありゃ最高なんだけどな」
「俺が歌ってやろうか?」
「涼司の歌じゃ耳がおかしくなるぜ」
冗談を交わすショウと涼司の耳に、DJが聞こえてきた。


「みんな、楽しんでる? バデスの夜はまだまだ終わらないよ」

 キャンプファイヤーの前でマイクを持って呼び掛けたのは美羽だ。
「美羽のパラミタレディオ・イン・バデス台地、前夜祭スペシャル、スタート!」
「OK、まずはこいつからだ」
美羽の合図を受けた正義は、即席の音響ブースでシャンバラのヒットナンバーを流した。
「シャンバラ全土にも中継中でございます」
パートナーのレコルダーはこのイベントをラジオでも中継するため電波ジャックに大忙しだ。
「ミワミワ、俺たちっていいコンビだな。どうだい、このまま俺と付き合ったり」
正義は格好をつけた物言いで、美羽を振り返ったがそこに彼女の姿はなかった。
「私とレコちゃんて相性ピッタリだよ。また一緒に番組作りたいね」
「それがしも同じことを考えていたところでございます」
「えー、嬉しい」
正義のことなどすっかり眼中にない二人だった。
「またかよ……」
落ち込む正義の肩を北都が優しく叩いた。
「正義さん」
「い、泉っち! は、待てよ。この展開はどこかでやった感じが」
デジャブを巡らせる正義に、北都の言葉が突き刺さった。
「このブースが観客の邪魔なのでどけますよぉ」
「ぐはっ、やっぱり……」
ずっこけた正義を無視して、北都はクナイと音響ブースを下げた。
「これでよろうしゅうございますね。見やすくなりました」
「うん。美羽ちゃんの横に正義さんじゃねぇ、やっぱり」
のんびりした口調だが、やはり容赦のない北都であった。

「いいね、俺もさっさと仕事終わらせるぞ」
期待してなかった音楽まで得たショウは、仕事のペースを上げた。
「マネキンに着せる見本はこんな感じだな」
「新入生のみんなも喜びますね。当日はショウさんも着られるんですか?」
花音の問いかけで、ショウはアイデアを一つ閃いた。
「そうだ、花音。設営班は当日は暇だろ。一緒にこれ着て手伝ってくれよ」
「あたしがですか?」
花音は制服を着た自分を想像して顔を真っ赤にした。
「涼司、いいだろ?」
「いいんじゃないか。俺も花音のヴァンガード姿見てみたいし」
涼司から出た意外な言葉が、嬉しい花音だった。
「よし、あともう少しだ」
ショウが手を上げて伸びをした時だった、キャンプファイヤーの方から大きな歓声が湧いた。
「何だ?」
振り返ったショウは点火されて炎を上げる巨大なキャンプファイヤーを見た。
「おぉ、すげぇ……想像より迫力あるな」
「キレイですね……」
ショウと花音の感動につられて、涼司も頷きそうになったがあることに気付いた。
「おい、今燃やしたら明日はどうするんだ?」
「そうか、本番は明日か」
「あれ組み上げるのにどれだけかかったと思ってるんだ」
涼司は文句を言いながらキャンプファイヤーへ走った。

「オレのツインタワーが燃えてる……」

 ラハエルは心血を注いだキャンプファイヤーが燃えるのを見て呆然としていた。
一気に頂上まで点火できるように火薬を仕込んであるので炎はどんどん大きくなっていく。
「あーぁ、成功したと思うしかないぜ……」
設計した本人だけに消火はすでに不可能だと、ラハエルは諦めの心境だった。
「おい、ラハエル。どうする?」
駆けつけた涼司がラハエルに声をかけた。
「諦めな。今さら消すなんて無粋な真似ができるかよ」
「だけど……」
「外枠が残ればいい。後は朝からやって間に合わせるしかないぜ」
開き直ったラハエルは、寝ておくと言って宿泊テントへ歩いて行った。
「クロト、キャンプファイヤーに近づいたりしてどうするのぉ?」
「まぁ、任せておいてください。ハプニングにはハプニングをです」
オルカはクロトの行動に首をかしげた。
「上手く咲いてくださいね」
クロトはポケットから火車草の球根を取り出すと、火の中へと放り込んだ。
球根は火の中でも燃えず、熱を吸いこんで膨らんでいった。
やがて、パンと弾ける音とともにオレンジ色の小さな花が次々に空へと舞った。
「はぁ、キレイですねぇ」
オルカは炎の熱で高く舞い上がった花を見上げた。
空から舞い降りる花がキャンプファイヤーの周りに集まったメンバーへと降り注ぎ、誰もが感動でため息を漏らした。

 しかし、楽しげに過ごすキャンプの外側では怪しい動きを見せる影があった。
キャンプから数十メートル離れた死角に掘られたトンネルの穴から、一匹、また一匹と這い出してきたのはゴブリンたちだ。
「ヒャッハッハ、バカどもが浮かれおって」
隊長のゴブリンはキャンプファイヤーへの点火がうまくいったことが可笑しくてたまらないようだ。
「隊長、いたずらは大成功ゴブね」
一匹の部下ゴブリンは盗んできたカレーを食べながら答えた。
「あ、お前いつのまに。俺にもよこせ」
「だめゴブよ、俺が頑張って取ってきたゴブ」
「隊長命令だ」
隊長ゴブリンは強引にカレー皿を奪った。
「う、臭い……でも、うまい」
部下ゴブリンは諦めきれずに、カレー皿を覗き込んで言った。
「はまる味ゴブ」
「……お前、語尾に何故ゴブをつける?」
「隊長、キャラ作りゴブよ。こうしないと皆ゴブリンなので、見分けがつかないゴブ」
部下ゴブリンのわかるようなわからないような説明に、隊長はもう聞くのが面倒になり撤退の合図を出した。
「ヒャッハッハ、明日を楽しみにするがいい」
そう言い残してゴブリンたちは闇の中へと姿を消していった。



 それから5時間後……バデス台地から離れること数十キロの平原で、真夜中にたき火を囲む一団があった。
新入生を出迎えのために中間地点まで戻った警備班のメンバーで蒼空学園のニンジャの橘 恭司(たちばな・きょうじ)と同じくアーティフィサーの風祭 隼人(かざまつり・はやと)だ。
「お互い損な役回りになりましたね」
「まぁ、誰かがやらねばならない仕事だ」
恭司と隼人はそう言って苦笑しあった。
「俺はニンジャで訓練を受けてますが、夜は強いんですか?」
「夜目は利く方だ。それにこれもある」
隼人は恭司に光精の指輪を見せた。
「なるほど」
恭司はたき火にくべる薪が切れたのに気が付き、
「薪が切れそうですね、取ってきます」
「いや、大丈夫だ。ほら、閃崎たちが戻ってきた」
隼人が指差した暗闇から、蒼空学園のソルジャーである閃崎 静麻(せんざき・しずま)とパートナーのレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が音も立てずに姿を見せた。
「足りなくなる頃だろうと思ってな」
静麻は両手に抱えた薪を地面に下ろした。
「三十メートル四方に警戒用のソナーを張り巡らしておきました。何かあればすぐ対処できます」
丁寧に仕事の報告をするレイナの傍らで、静麻はもう寝袋を出して休もうとしていた。
「静麻、まだ哨戒の仕事がのこっていますよ」
「え? もうソナー仕掛けたからいいだろ。明日も早いんだし寝ようぜ」
「いけません、誰かが起きて寝ずの番をするべきです」
静麻はレイナの言葉を無視して、寝袋に潜り込んだ。
「もう、静麻」
「俺は一番最後でいい」
静麻とレイナのやりとりに、恭司は思わず吹き出した。
「何がおかしいんですか?」
「いえ、何も。ね、君」
恭司に話を振られた隼人もさすがに二人が漫才コンビみたいだとは答えにくかった。
「ん、まぁ……」
「とにかく順番を決めてちゃんとパトロールしないといけません。比較的安全なエリアとはいえ、野営地なんですから」
レイナのもっともな意見にはさすがに誰も反論はできなかった。
静麻も面倒くさそうに寝袋から顔を出した。
「しょうがない、やるか」
その時、ソナーが感知した侵入者を告げるセンサーが鳴った。
「西側のソナーです」
レイナがセンサーをチェックして告げた。
「どうやら休む前に一仕事のようだ」
隼人は星輝銃を構えた。
「三体ですね、そんなに大きくはない。近づいてきます」
殺気看破で気配を探っていた恭司も高周波ブレードを抜いて戦闘態勢に入った。
「やれやれ」
静麻もレイナに急かされて寝袋から這い出し、アーミーショットガンを掴んだ。
「来るぞ!」
隼人はそう叫ぶと、飛び出してきたゴブリンを星輝銃の射程にとらえて撃ち落とした。
「やるね」
静麻はシャープシューターのスキルで茂みに隠れたゴブリンの急所を闇夜をものともせずに打ち抜いた。
最後の一匹のゴブリンは闇の中から音もなく現れた恭司の高周波ブレードに斬られたが、あまりの素早さに気づくこともなく静かに倒れていった。
「どうやら終わりのようですね」
恭司の言葉に、静麻も頷いた。
「これじゃ実力を発揮する暇もないぜ」
「全くだ」
隼人も警戒を解いて、銃を下げた。

「待ってください。ソナーにまだ……今度は東からきます、2体。あ、北からも4体」
ソナーを見ていたレイナが新たな襲来を告げた。
「ゴブリンなんざ、いくらきても同じだ。悔しかったら千でも二千でも」
言いかけた静馬の言葉をレイナが遮った。
「そんな……囲まれてます。20、50、いいえ100。ダメ、ソナーが全部敵で埋まってます」
レイナの警告を、殺気看破で気配を取っていた恭司が裏付けた。
「まずい、多すぎて気配が読み切れない」
さらに大地を揺るがすような震動が四方から不気味に伝わり始めた。
「おい、この地鳴りは何だ?」
静麻は音の方向を探ったが、音は彼らを包むように迫っていた。
「考えるのは後だ、走れ!」
隼人は現れたゴブリンを撃つと同時に駈け出した。
レイナを守るように静麻と恭司も後を追った。
「こっちへ、丘があるはずです」
多数の敵に対し有利なポジションを取ろうと、恭司が誘導した。
しかし、丘の上に登った彼らが見たものは闇夜を赤く染める数千という松明の数だった。
見渡す限りの平原に武装したゴブリンたちがひしめいていた。
「嘘だろ、おい……」
静麻はその数に思わず絶句した。
「無線でキャンプと蒼空学園に連絡を」
隼人がレイナに指示したが、彼女は申し訳なさそうに首を振った。
「それが……あまりに急だったので野営地に置いたままなんです……」
「悪い、無線の管理は俺だった」
謝るレイナをかばって、静麻も頭を下げた。
「緊急事態です、仕方ありません」
「だが、どうやらこれで楽しいルート選択になりそうだな」
恭司と隼人は顔を見合わせた。
「俺はできるだけ楽なルートがいいな」
静麻は諦め顔でため息をついた。
「じゃあ、二手に分かれるから選べ。キャンプへ戻るか、蒼空学園に行くか。ただし、ゴブリンたちは半分ずつだ」
隼人は静麻に決断を促した。
「レイナ、遅れるなよ。キャンプへ戻るぞ」
「はい」
「橘、行こう」
「楽しい旅路になりそうですね」
四人は視線を交わし合うと、それぞれの方向へと丘を下ってゴブリンの部隊へと切り込んでいった。

「この、しつこいですわ」
ライトブレードを振りまわして、レイナはゴブリンを追い払うがその数には終わりがない。
「ダメだ、レイナ。止まるな、走れ!」
静麻はスプレーショットでレイナの周りのゴブリンを蹴散らし、彼女に道を作った。
「斬りあったら囲まれる。最初の一撃だけ与えて、走り続けろ」
進むにはもはやそれしか方法がなかった。
立ち止まって戦えば、SPのなくなるのを待つばかりだ。

逆方向へ走った隼人や恭司も同じ状況であった。
もはや戦闘ではなく、逃走だった。
囲まれた恭司はスピンキックでゴブリンを弾き飛ばすと、ジャンプしてゴブリンたちの頭の上を踏みながら走った。
「君たちと遊んでられないのでね、失礼しますよ」
「橘、こっちだ」
隼人も星輝銃を左右に振りながら次々とゴブリンの足を打ち抜き、行動不能にしていく。
倒すよりも負傷兵を出した方が敵の足が鈍るからだ。
「左から新手がきます」
「……さて、無事に学園までつけるかな」
新しいゴブリンたちの部隊に道をふさがれた隼人と恭司は、背中合わせになってゴブリンの部隊と対峙するしかなかった。
二人を覆うゴブリンたちは容赦なく数を増やしていき、二人を絶望へと追いやっていく。



全てはまだキャンプからも蒼空学園からも遠い地の闇の中で起こり、四人以外の誰もこのような大規模の戦闘部隊を想定すらしていなかった。
長い長い夜はまだ終わりを告げる優しささえ見せない。
果たして彼らの運命は、そしてオリエンテーリングの本番は……全ては明日を待たねばならなかった。

担当マスターより

▼担当マスター

一生

▼マスターコメント

 リアクションを書かせていただいたマスターの一生です。参加してくれたみなさん、本当にありがとうございました。
今回も予想していなかった皆さんの色々なアクションのおかげで、楽しくリアクションを仕上げることができました。
まだまだ至らない点もあったと思いますが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しく思います。
 今回はみなさんにアクションに応じて【強烈な一閃】や【準備お疲れ様】【ナイスボケ】などの称号を出さしていただいてます。
他にも、人によっては何かの称号が付いているかもしれません。また何名かの方は朗読劇でのお名前を呼ばせていただきます、ご協力ありがとうございます。
お名前の呼び方ですが、朗読劇のシーンに合わせて使用するために名字や名前のみ、敬称略となる場合もあるのでご了承ください。
 それでは、また後編でお会いできることを楽しみにしております。