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海の魔物を退治せよ!

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第2章 海岸物語


「清掃道具を持参してない人は、これを使って!」
 葦原明倫館のリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)が、近くのお店を回り、掃除道具を借り集めて来てくれた。
「借り物だから、丁寧に扱ってね。燃えるゴミは黒いゴミ袋、燃えないゴミは透明なゴミ袋、割れ物とかは頑丈なゴミ袋に入れて回収しよう!」
 リアトリスの提案に、早速、薔薇の学舎の清泉 北都(いずみ・ほくと)が白手袋ならぬ白い軍手をはめながら賛同した。
 北都はパートナーの守護天使、クナイ・アヤシ(くない・あやし)に誘われて軽い気持ちで参加したのだが、予想よりはるかにひどいゴミの散乱状況に、執事として、海の近くで育った者として許せない気持ちに火がつき、今や誰よりもやる気に満ちていた。
「流木なんかの大きなゴミは、場所を決めて一か所に集めた方がいいんじゃないかな」
 北都の言葉に、リアトリスが頷く。
「そうだね。じゃあ、たき火にも使えるように、料理を用意してくれている人達の近くに集めようよ」
 砂浜をキレイにしようとやって来た者達は、ゴミの分別方法を確認し合うと、掃除道具とゴミ袋を手に、さっそく砂浜のゴミを拾い始める。
「それにしても……」
 北都は暗い顔でため息をついた。
「星の砂の砂浜って綺麗な場所なんだから、見た目だけでなく心も綺麗な人が来て欲しいよね」
 そう言って、どう見ても誰かがここに捨てて行ったであろうゴミを拾い、袋に入れる。
「そうですよね。海岸は皆のものなんだから! 綺麗にしないと思い出作りなんて出来ないよね!」
 北都と話しているうちに決意を新たにしたのか、リアトリスは親の敵のようにゴミを拾い始めた。
 北都もまた、クナイとともに清掃に取り掛かる。

 夏の日差しが強くなってくる中、樹は学校行事としての地域の清掃活動と大きくかけ離れた要素を実感していた。パートナー達の存在だ。
「マスター、そちらに行かれるんですか?」
 日傘を樹に差しかけながら、怯えたように魔導書のセーフェル・ラジエール(せーふぇる・らじえーる)が聞いてくる。
「うん。でも、海には入らないから大丈夫だよ?」
「そ、そうですよね。海に入るわけではないですから、大丈夫です。大丈夫なはずなんです。ああ、でも波がこっちに…っ!」
 水が怖いセーフェルは、打ち寄せる波に怯えながらも、樹にぴったりと寄り添っていた。
 樹はそんなセーフェルの様子に苦笑しながら、もう1人のパートナー、吸血鬼のフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が用意してきた火バサミでゴミを拾っては、きちんと分別しながら袋に放り込んで行く。フォルクスは、樹がゴミに素手で触る事を許さず、やれ休憩だ水分補給だと樹の体調管理に万全の注意を払っていた。
「ほら樹、ここで休むといい」
 樹はフォルクスの差し出した水筒を受け取り、促されるまま砂浜に用意された休憩場所に腰を下ろすと、あたりの空気がひんやりとしている事に気がついた。
「クーラーの風は苦手だと言っていたが、これなら良いだろう?」
 フォルクスが氷術で砂に含まれている水分を冷やし、地面からの暑さを緩和していたのだ。
「うん。涼しくて気持ちいい」
 樹の笑みに、フォルクスは満足感を覚えた。
「……ところで何をやっているんだ、セーフェル?」
 樹は、先ほどから必死になって自分に日傘を差しかけているセーフェルに尋ねた。
「だって、マスターは日焼けすると死んでしまうんでしょう?」
 セーフェルは真剣な眼差しで樹を気遣ってくる。冗談ではなさそうだ。
「……いや、死なないから」
「違うんですか? でも、フォルクスがそう言って…」
 セーフェルの言葉に、樹は隣にいるフォルクスを睨んだ。
「フォルクス、セーフェルに変なこと吹き込むなよ」
 フォルクスは心外だという風に、片眉を上げて抗議する。
「お前が紫外線に弱いのは変な事ではなく本当の事だろう。油断すると真っ赤に日焼けして一週間ほどろくに動けない事もあるからな」
 フォルクスが言っているのがいつの話なのかを思い出し、樹の頬が上気する。
「そうだけど……」
「日差しに弱いのは本当なんですね。やっぱり心配ですから、このままついていきます」
 そう言って日傘の柄を握り直すセーフェルからは、樹を決して日光に晒すまいという使命感が感じられた。
「いや、確かにちょっと日焼けしやすいし、紫外線が強いと火傷みたいになるけど死にはしないから。ちゃんと帽子かぶってるし、日焼け止めも塗ってるし、なにも日傘まで差さなくても平気だって。その………心配してくれるのは嬉しいけどさ」
 照れながら本音をもらす樹に、パートナー達は嬉しそうだったが、樹を守ろうとする行動を譲歩する事はなかった。

 一方、綾音と百合は、約束通り2人で仲良くゴミ拾いをしていた。
「百合さん」
 綾音に呼ばれ、百合が駆け寄ってくる。
「なぁに?」
「はい、これ」
 百合の小さな手に、淡いピンク色の貝が乗せられた。
「うわぁ、ツヤツヤしててキレイですぅ」
 喜ぶ百合の姿に嬉しくなりながら、綾音は自分の掌にもある同じ貝を見せた。
「ひとつは百合さんに、もうひとつは私に」
 綾音の言葉に、百合の顔がいっそう輝く。
「おそろいですぅ! 私、絶対大事にするですぅ!」
 2人は、大事にお揃いの貝をしまうと、一層仲良くゴミ拾いを続けた。

「……っ!」
 その様子をなんとなく見ていたクナイは、片付けていた瓶の破片で手を切ってしまった。軍手から血が滲んでくる。
「見せて」
 北都がすぐにクナイの手から軍手をはぎ取り、ペットボトルの水で傷口を洗う。
 傷口に北都が顔を寄せるのを見て、クナイの鼓動が大きく跳ねた。
「ん、破片は入ってないみたいだね」
 北都は傷口を確認すると、まだ血の滲むそこにヒールをかけて治療する。
「どうしたの? 痛い?」
 残念そうに呻いたクナイに気付いて北都が顔を上げると、クナイは火照った顔を北都から逸らした。
「いえ、傷に顔を近づけられるものですから、舐めるのかと……」
 そう言ってしまっては、ますます北都の顔をまっすぐに見られない。
「あのね、舐めるのは衛生上良くないんだよ?」
「はい、すみません」
「……希望があれば、治した後に舐めてもいいけど」
「えっ!?」
 クナイが北都を見ると、そこには、いつもの北都の笑顔があった。
「冗談だけどね」
「………あ、そう…ですか……」
「ほら、どんどん拾わないと今日中に終わらないよ」
 誤魔化すようにそう言って先へ進む北都の耳が、ほんのり赤く染まっているのにクナイは気付いた。冗談の中に、少しは本気が混ざっていたら嬉しいと思い、クナイは北都の後を追った。

「世の中、色々な形のパートナーがいるものなんですね。なんだか感動してしまいました」
 恵那がそう呟くと、
「そうね。色々な形の愛があるものなのね。私もなんだか勇気が湧いてきたわ」
 マユが応えるように呟いた。
 それを耳にしたルーツは、ゴミ拾いの手を止め、複雑な顔で2人を見る。
「どうしたの、ルーツ?」
 アスカがルーツに声を掛ける。
「いや、なんだか道を踏み外しそうな人達がいてな、まっとうな道もあるのだと教えるべきかと……」
「あら、そういう時はそっとしておいてあげるものよ」
「そうなのか?」
「その方が面白くなるじゃない♪」
 アスカに悪気はない。わかっていても、ルーツはアスカに相談した自分が馬鹿だったと悔やんだ。

 そこから少し離れた干潟では、イルミンスール魔法学校の茅野 菫(ちの・すみれ)がひとりで潮干狩りをしていた。
 エビや蟹以外のものも食べたいと、潮干狩りセット持参でやってきたのだが、案の定、皆は派手なエビや蟹に行ってしまい、広い干潟は菫だけのものだった。
 貝は面白いように採れた。地球よりもちょっと大ぶりだったり、カラフルだったりはしたが、事前に調べて来たパラミタアサリやパラミタ蛤、パラミタバカ貝が、本当にバカのように採れたので、話し相手もいない菫は、照りつける日差しの中、ひたすら無心に浜を堀り、貝を採っていく。
「……あっちぃ」
 時折ぼそりとつぶやいてみるが、帰ってくるのは波の音だけだった。