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海の魔物を退治せよ!

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海の魔物を退治せよ!

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第3章 下ごしらえ


 イルミンスール魔法学校の白砂 司(しらすな・つかさ)と、パートナーで三毛猫の獣人サクラコ・カーディ(さくらこ・かーでぃ)。蒼空学園の影野 陽太(かげの・ようた)とパートナーで魔女のエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)、精霊のノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)は、パラミタ蟹とパラミタ伊勢エビの被害にあっている漁師達の話を聞こうと船着き場までやって来たが、漁の時間帯と合わなかった為、ほとんど人影は見られなかった。しかし、運良く網を修理していた1人の漁師を見つける事が出来た。
「すまないが、パラミタ蟹とパラミタ伊勢エビについて教えてもらえるか?」
 以前も同じように漁師達に聞き込みをした事のある司が最初に話し掛けたが、目つきの悪さが災いして、以前と同じように警戒された。
「んだおめぇ、見かけねぇ顔だな」
「いや、俺は……」
「あ、あのっ!」
 見かねた陽太が司の前に出る。
「俺達、イルミンスールのエリザベート校長から、漁師さん達が困っているから助けるようにって言われて来たんです。俺達、まだ学生だけど、少しでも力になれればって思って。もちろん、漁師さん達の役に立ちたいって思ったのは、イルミンスールの人達だけじゃなくて、蒼空学園も、他の学校の人達も同じで、色々な学校から沢山の人達が集まったんです! でも、肝心のパラミタ蟹もパラミタ伊勢エビも見当たらなくて、それで話を聞かせてもらえればって……」
 頼りなさそうな陽太が一生懸命話すのを聞いていた漁師は、司達の真摯な表情、陽太達の必死な姿を見て、ようやく重い口を開いた。

 その漁師の話を、岩陰で盗み聴く者達がいた。
「これで、伊勢エビを手に入れられそうですね」
 パラミタ伊勢エビの密猟を狙ってやって来たパラ実のガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)が、小声で隣にいるパートナーで機晶姫のシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)に囁いた。
「思うたよりも、簡単なもんじゃね」
 シルヴェスターの言葉に、ドラゴニュートのネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)が待ちきれない様子で2人を急かす。
「それじゃあ、早く行きましょうや。うかうかしてるとエビが逃げちまいますぜ」
 必要な情報を手に入れた3人は岩陰をつたいながら、その場を後にした。


 皆が最初に集まっていた砂浜の近くでは、鍋料理を用意する者達と、バーベキューの用意する者達がいた。
 中でも、イルミンスール魔法学校のレン・オズワルド(れん・おずわるど)は、バーベキュー大会を企画した者として率先して準備を引き受けている。
 そのパートナーでシャンバラ人のノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)もまた、皆が使うお皿やコップを用意するのに忙しかった。
 レンは、皆が座れるようにと持ってきたビニール製の敷物を浜に敷き詰め終えると、次にゴミ袋を用意しようとしてノアに声を掛けた。
「ノア、ゴミ袋はどこだ?」
「そっちの紙袋の中に入ってますよ」
 ノアに言われた袋の中を探ると、探し物はあっさりと見つかった。
 レンは会場の一角に分かりやすいようゴミ袋を設置すると、『燃えるゴミ』『燃えないゴミ』と書かれた段ボールの切れ端を、袋の上に目立つように貼りつける。
「よし。これでいいか」
 ゴミ掃除に来たものがゴミを残しては本末転倒と、ゴミの始末には最初から気を付けた。

 イルミンスール魔法学校の本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)は、レンと共に設置したジャンボ七輪の火の様子を見ながら、組立て式の簡易テーブルで、パートナーの地祇、ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)と一緒に手際良くバーベキューに使う肉や野菜の下拵えをしていた。
「涼介兄ぃ、ドレッシングの味見てくれる?」
 アリアクルスイドが小さなスプーンを差し出し、涼介がその中の液体をすする。
「うん、旨い」
「よかった!」
 アリアクルスイドは、パラミタ牛の冷しゃぶサラダを作ろうとしていた。涼介直伝の比率で、酢・醤油・レモン・ごま油・おろしにんにくとしょうがを混ぜ合わせた特製の手作りドレッシングが上手くいけば、9割方は完成したようなものだ。あとは、切った野菜の上に、肉をしゃぶしゃぶにして氷水で冷やしたものを乗せればいい。
「涼介兄ぃ、みんな、おいしいって食べてくれるといいね」
「ああ、驚くくらい美味しいものを作って、食べてもらおうぜ」
「うん!」
 元気よく頷き、アリアクルスイドはサラダ用の野菜を洗いに行った。
「涼介さん、ワタシのソースの味もみてくれる?」
 同じく下拵えを手伝っていたイルミンスール魔法学校のミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)は、大味だという噂のパラミタ蟹に合うソースを試作中だった。
「いくつか作ってみたんだけど、どうかな?」
 涼介は頼まれるまま、ミレイユの作ったソースを味見する。それは甘辛な味噌風味のソースや醤油とみりんのソースなどであったが、どれもなかなかのものだった。
「うん、いいと思うぜ。こっちのソースには、もうちょっとだけ醤油足してもいいかな。あとは、人数と蟹の大きさを考えると量が少ないと思うから、もっと多めに作った方がいいな」
「わかった、ありがと!」
 ミレイユは、さっそく涼介のアドバイスを活かそうと、ソースの改良と増量に取り掛かる。
「……グリシャム、焼けました」
 料理の手伝いを申し出た天御柱学院の神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)は、ジャンボ七輪の試運転も兼ねて、ミレイユが持参したパラミタトウモロコシを焼きトウモロコシにしていた。
「わぁ、美味しそう! えっとね、それじゃ3等分にしてこっちの大皿に乗せてってくれる? 休憩に来た人が、つまめるようにしたいんだ」
「それじゃ、切るのは私がやるわ」
 紫翠のパートナーで強化人間の橘 瑠架(たちばな・るか) が、その役を買って出た。
 ソースを作り終えたミレイユがトウモロコシの皮を剥き、紫翠のもう1人のパートナー、吸血鬼のシェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)がそれを大鍋で茹で、紫翠が黙々とトウモロコシを焼き、瑠架がそれを切って大皿に盛っていく。
 辺りには焼きトウモロコシのいい匂いが漂い、時折、近くを通りかかる者達が誘惑に負けてトウモロコシをつまんでいった。
「夏ですね。……バーベキュー、楽しみたいな」
 ぼそりと呟く紫翠に、シェイドと瑠架が微笑む。
「1人で楽しむより、楽しくなるわよ。きっと」
 瑠架の言葉に、紫翠が小さく頷いた。

 そこへ、蒼空学園のヒューリ・ウィデルオルス(ひゅーり・うぃでるおるす)が、笑顔でやってきた。
「ちーっす! 何か手伝う事ない? 出来たら女の子との共同作業希望なんだけど!」
「………」
 どう応えたものか調理班の面々が戸惑っている中、ヒューリはさっそくミレイユに近づいた。
「なに? トウモロコシ剥いてんの? 結構、力が要りそうだな。手伝うよ!」
「えっと、もう終わっちゃうから、こっちは大丈夫だよ」
「そうか?」
 ミレイユに断られたヒューリは、ちょうど野菜を抱えて戻ってきたアリアクルスイドに駆け寄った。
「重そうだね、手伝うよ」
「あ、ありがと!」
 アリアクルスイドは純粋にヒューリに感謝し、涼介のいる調理台まで食材を運んでもらった。
「次は、何すればいい?」
 当然のように聞いてくるヒューリに、アリアクルスイドはこてんと首を傾げた。
「次っていっても、お手伝いしてもらう程じゃないから……」
「簡単でもいいから手伝わせてくれよ。俺様、今、ちょー暇でさ」
 そう言うヒューリの肩を、がしりと力強い手が掴んだ。
「そうか、それはちょうど良かった。それじゃこっちを手伝ってもらおう」
 レンは、そのまま逃げられないようヒューリの腕を掴んだ。
「いや、俺様、ちょっと、野郎はムリっていうか…」
「もう1人、誰か設営の方を手伝ってくれないか?」
 レンの言葉に、シェイドが立ち上がる。
「力仕事は、苦手なんだが…」
「構わん。助かる」
 レンは、シェイドと嫌がるヒューリを伴い、作業へ戻っていった。
 静けさの戻った調理場は、再び下拵えの為に作業を開始する。


「あっちぃ! 日焼け止め塗ってても、こりゃ焼けちゃうわねっ!」
 しばらくして、1人で潮干狩りをしていた菫が戻ってきた。
「貝採って来たんだけど、砂抜きしてもらっていいわよねっ?」
「ああ、わかった。氷術で冷やした飲み物があっちに用意されてるから貰うといいよ」
 涼介は、貝を受け取ると、汗を拭く菫を気遣って冷たい飲み物をすすめる。
「ありがとっ。あ、この焼トウモロコシ、食べていいの?」
「もちろん!」
 トウモロコシの皮を剥き終え、シェイドに代わって残りのトウモロコシを茹でていたミレイユが言う。
 そこへ、天御柱学院の鈴木 翼(すずき・つばさ)がやってきた。
「あのぉ、俺にも何か手伝える事ないかなぁ?」
「ちょっと待ってね。レン兄ーっ!!」
 ミレイユがレンを呼ぶ。
「どうした?」
 やってきたレンに、ミレイユが事情を説明した。
「この子もね、お手伝いしたいんだって」
「そうか、でも設営の方はもう手が足りてるしな。どういった作業が得意なんだ?」
 レンに問われて、翼は困った顔をした。
「いやぁ、蟹やエビ退治だと足手まといになりそうだけど、普通の作業なら俺にも出来るかなって思って来たから、得意な作業とかは特に考えてなくて……」
「あのな、誰にだって最初ってものはあるんだから、足手まといになったっていいんだよ。最初は助けてもらいながら一人前になって行くもんだ。無駄に突っ込んで命を粗末にしろとは言わないが、前に出なきゃ分からない事だってあるぞ。何かあれば、俺やまわりの連中に頼ればいい。そう緊張せず、宜しくやって行けばいいさ」
「う、うん」
「ま、今回は、こっちで力を貸してもらうとして、……そうだな。食材が運び込まれたら男手が必要になるだろうから、それまではノアの手伝いを……」
「それじゃこの子、あたしが貰っていいかしらっ?」
 トウモロコシを頬張っていた菫が、翼の腕をとった。
「今採ってきた分じゃ、全員分には足りないから、もうちょっと貝を採って来たいのよねっ。助手がいると楽になるわっ!」
 翼の返事を待たず、菫は彼の手に熊手を押し込んだ。
「え、えっとぉ、あの、俺は……」
「よし、それじゃレッツゴーなのよっ!」
 地味な作業も1人でなければまだマシのはず。がっつり採って美味しいアサリやハマグリやバカをお腹いっぱい食べるのだと、菫は鼻歌交じりに抵抗する翼を引きずって干潟へ戻って行った。
 干潟でひたすら砂を掘り返させられるハメになった翼は、今度は勇気を出して、もうちょっと冒険してみようかと考えた。