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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

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第七章 第一回イルミンスール魔法学校〜大納温大会〜

「な……なんだアレは?」
 今まで、数々の修羅場や危険な冒険を切り抜けてきたレン・オズワルド(れん・おずわるど)でさえ、その光景に目を疑った。
「まだ、秋も来てないって言うのに、一体どうなってる?」
 イルミンスール魔法学校――世界樹イルミンスールの頂上部は、嵐のような吹雪が渦巻いていた。枝葉は凍りつき、まるで雪原に立つ樹氷のようにしな垂れている。
 時期が時期だけに、嘘みたいな光景だった。
「レン。調べてみたところ、どうやら、何者かが屋上で大規模な氷術を展開しているようですね。おそらくは……雪だるま王国の面々が関係していると思われます」
 偵察から帰ってきたパートナーのメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)は、冷静な思考で状況を説明でする。
「レン、ここからは二手に別れましょう」
「あぁ、そうだな」
 レンは、メティスの突然の提案に頷くと、カモフラージュのために来ていたメンテナンス業者の制服を脱ぎ捨てた。
 もともと、この二人は愛すべきイルミンスールのクーラーが壊れたと聞き、自分達の技術を駆使してクーラーを治す予定だった。
 だが――今は、その予定変更せざるを得ないようだ。
「機晶姫である私では、あの吹雪の中に入れば、何が起きるかわかりません。レン……みんなを頼みましたよ」
「あぁ。お前は、修理しつつ何か打開策が無いか探ってみてくれ」
「はい。任せてください」
 瞬時にして、お互いの考えを読みあった二人は、それぞれ別の方向へ走り出した。
「ふふ……それにしても、イルミンスールは相変わらずメチャクチャだな。空京に行ってから、久しく感じていなかった空気だ」
 懐かしい感覚に薄く口端を上げたレンは、瞳の赤い光が周囲に漏れるのも構わず闇夜を駆けた。ただただ、頂上の雪だるま王国を目指して。

「な、何なのだよ!?」
 巨大扇風機の首降り機能を作動させようとしていた、萌生は自分の目を疑った。
「炎が……走ってくるのだよ?」
 そう。それは、紛れもなく赤い赤い炎だった。
 吹雪の中を、吹き消える気配を微塵も感じさせずに、萌生の方を目掛けて走ってくる。
 そして――
「な……!?」
 萌生が炎の正体を知るのと、意識を失うのは、ほぼ同時だった。
「お前が……吹雪の原因かっ!!」
 義手の拳に宿した火術の炎を振りかぶって、レンは思いっきり萌生の頭にゲンコツを叩き込んだ。
「ぐはあっ!?」
 強烈な一撃のもと、萌生はその場に倒れふした。
「たくっ……手間かけさせやがって。お、これがスイッチか?」
 萌生を倒したレンは、目の前の巨大扇風機の電源スイッチを押してみた。
 すると――
「お、正解みたいだな」
 強烈な風を生み出していた巨大な羽は徐々に回転のスピードを落としていき、数秒後には完全に停止した。
「レン! 無事ですか?」
 吹雪が止むのと同時に、クーラーの修理に行っていたメティスが現れた。
「結局、この巨大扇風機が吹雪の原因だったんですか?」 
「いや……雪を降らせてた奴もいたんだが、あいつらは純粋にエリザベートに涼しくなってもらいたかっただけらしいから、話し合いですぐに決着した」
 先ほどまで降っていた唯乃たちの作る雪は、今ではすっかり止んでいる。
「それより、メティス。クーラーの修理はどうなった? いくらなんでも、早すぎないか?」
「実はレン、クーラーが大変なことになっていたんです!」
「大変なこと? どういうことだ――」
 レンがメティスの言葉に首を傾げた、その瞬間だった。

「ハッハハハハハ!! てめぇら、それでオレの計画を邪魔したつもりか!?」
 平和が訪れたイルミンスールの屋上に、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)の高笑いが響いた。
「メティス……大変なことっていうのは、もしかしてアイツのことか?」
「はい。学校中の室外機に『吉永参上』と書かれていました。クーラーには、埃なんか溜まっていませんでしたので、おそらく彼がクーラーを壊したのだと思われます」
 レンと別れたメティスは、学校中の室外機を見て回ったのだが――そこには、全て竜司による落書きがなされていたのだった。
「てめぇらが、文明の利器に頼り過ぎてるから活を入れてやろうと思ってな! 暑かろうと寒かろうと心頭滅却すれば何とやら。それでも暑けりゃ褌一丁になれ!」
 傍若無人な態度で喚き散らす竜司。
 レンとメティスは、再び戦闘態勢に入った。
 だが――
「うぅ〜ん……何ですかぁ? さっきからウルサイですねぇ……」
 戦闘が始まる寸前で、エリザベートが意識を取り戻した。
「って、なんですかぁこの状況!? そ、それに……吹雪は!? 雪だるま王国はどうなったんですかぁ!?」
 意識を失っていたせいで、プチ浦島太郎状態のエリザベートは、辺りを見回して混乱する。
「ハハハハハッハ! やっと起きたか、校長! イルミンスールの校長ともあろう者が、この程度の寒さに負けるとは……たいしたことねぇな!」
「うっ……うるさいですぅ!」
「ふんっ。寒くてコタツから出れねぇってか」
「うぐっ……」
 竜司は、エリザベートがコタツから出れないのをいいことに、一気に彼女と距離を詰めた。
「いいか、校長? 文明の利器は、たしかに便利かもしれねぇ。だが、そればかりに頼った結果がこれだ。今回、オレがテメェらを寒さのどん底に突き落としたのは、警告だ」
「うぅ……」
「便利なものに頼るのもいいが、それに頼りすぎるとこうなる。わかったか?」
 そう言って竜司は、自分の着ていた上着を脱ぐと――
「これからは、季節の変わり目で気温も変化しやすい。体には気をつけろ」
 そっと、脱いだ上着をエリザベートの肩にかけたのだった。
 そして竜司は、右手を高くかかげると――
「それじゃあな! 軟弱な生徒ども!」
 煙幕を発動させて、その場から姿を消したのだった。
「な、なんて迷惑な奴ですかぁ! こ、今度見たらただじゃおかないですぅ!」
 今回の騒動を引き起こしたという竜司に悪態をつくエリザベートだったが――彼女は上着を肩にかけられた瞬間から、鼓動の激しい高鳴りを感じ、周囲の寒さを忘れるほど体が熱くなっていた。
 だが――一番ドキドキを感じていたのは……逃亡した竜司だった。
「あ、案外うまくいくもんだな……オレの名演技に騙されるとは、イルミンスール校長もたいしたことねぇな。ハハハハハッ!!」
 実は、竜司は今回の事件の黒幕でもなんでもなかった。
 彼は、いつもイルミン生徒たちにギャフンと言わされていたので、復讐の機会を窺ってイルミン周辺をうろついていた。そして、偶然エリザベートによる納涼大会の放送を聞いたため、校舎内に潜入にし日ごろの鬱憤を晴らそうと『吉永参上』と室外機に書いてまわり、クーラー破壊の犯人になりすましたのだ。
 彼なりには、後から落書きを見つけた生徒によって、エリザベートの悔しがる顔が見れればよかったのだ。
 だがここで計算違いが起きた。午前中に和原 樹がクーラーの埃を除去していたことと、雪だるま王国の活躍のせいで、落書きを見つけたメティスは本当に竜司がクーラー破壊の犯人だと思い込んでしまった。
 その話を影で聞いていた彼は、どうしようかと迷った挙句――適当な理由で自分の正当性を主張して逃げることにしたのだ。
 あのまま何も言わずに逃亡して、イルミンスール中を敵に回したかと思うと、エリザベート以上にドキドキする竜司だった。

「それにしても、大変な一日でしたぁ」
 東の空が明るみ始めたイルミンスールの屋上で、エリザベートは今日一日を振り返った。
 自分のワガママで始まった納涼大会が、こんな極寒地獄を生み出す原因になるなんて夢にも思っていなかった。
「これでやっと終わりですねぇ。あと数時間後には、レンたちがクーラーの修理を終えて、平和な生活が戻ってくるはずですぅ」
 雪だるま王国も今では大人しくなり、ここに来てようやく一息をつくことができると、エリザベートはホッと胸を撫で下ろした。
 ところが――
「お、おい! これって、また雪なんじゃないか!?」
「本当だ!? どういうことなの!?」
 屋上にいる生徒達が、なにやら騒ぎ始めた。
 エリザベートも、ふと空を見上げて見ると――
「ほ、本当に雪じゃないですかぁ!?」
 舞い降りる雪に驚愕した。
 雪だるま王国は――誰も動いていない。
 それならば、何故!?
「あ、校長! アレを見てください!」
 一人の生徒が指差した先には――
「なぁ……今この方法で納涼するのって、色々まずくないか?」
「いいの、いいの! やんなきゃ、留年なんだし!」
 四谷 大助(しや・だいすけ)が拳から放つ氷結の闘気で、パートナーのグリムゲーテ・ブラックワンス(ぐりむげーて・ぶらっくわんす)が、消火栓からホースで撒く水を雪に変えていた。
 そしてその結果――
「まだだ……まだ、終わらんよ!」
「ふふふ……そこに雪がある限り、我々は何度でも蘇る!」
「雪だるま王国、復活です!」
 最悪の魔物たちが復活してしまった。
「や、やめるですぅ!?」
 再び、猛吹雪の到来に、エリザベートは本気で泣いた。流した涙も瞬時に凍っていく。
 そして、再び奪われる体温と薄れ行く意識のなか、エリザベートは最後の力を振り絞り叫んだ。
「もう、涼しくしろだなんて言いませぇん! ワガママも言いませんからぁ! だ、だから……だから誰か温めてくだぁああい!! じゃないと留年ですぅ!!」
 こうして、『第一回イルミンスール魔法学校〜大納涼大会〜』がスタートしたのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

カルーア・長谷川

▼マスターコメント

 はじめまして!カルーア・長谷川です! 
 こんにちは、また会いましたね! カルーア・長谷川です!
 まず最初に。もしかしたら、リアクションの発表が遅れてるかもしれません。ごめんなさい!
 さて……寒い!w
 正直、残暑? 何それ美味しいのレベルで季節が変わってしまいましたねw
 自分の予想では「いやぁ、これは九月の中旬ぐらいまで暑いでしょ」とか思って、この話しを作ったのですが……予想が見事に外れましたw
 で、油断してたせいか……風邪引きました!
 体調管理の難しい時期です! みなさんは、風邪など引かれませんよう、お気をつけください!
 ではでは、また次回。お会いできることを楽しみにしています!!