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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

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これで夏ともおさらば? 『イルミンスール魔法学校~大納涼大会~』

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第五章 お酒は……八歳になってから!?

「とんだナイトフライだったですぅ! もう、二度と飛空艇には乗りたくないですぅ」
 グラウンドから校長室に戻ったエリザベートは、今日一日でもっとも涼しくなったナイトフライを思い出して、再び肝を冷やしていた。
 と、そこへ――
 コンコン。
「エリザベート校長、いらっしゃいますか?」
 ノックの音と共に現れたのは小鳥遊 美羽のパートナー、ベアトリーチェ・アイブリンガーだった。
「ん? 二人ともどうしたんですかぁ?」
「エリザベート校長、午前中に話していた『臨時校長室』が完成しましよ」
「ほ、本当ですかぁ!?」
「はい。風通しのいい屋上に建てましたので、とっても涼しいですよ?」
「よくやったですぅ! これで、落ち着いて涼しさを得ることができますねぇ! さっそく、屋上に向かうですぅ♪」
 今日一日で散々な目にあってきたエリザベートは、喜々としてベアトリーチェの用意した臨時校長室に向かった。

「うん。最高の校長室ですねぇ! 風通しが良くて、気持ちがいいですぅ」
 臨時校長室のソファーに座ったエリザベートは、とてもご機嫌だった。
「ホラ、校長先生。コレを足元にひけば、もう少し涼しくなるはずよ」
 そう言って、氷と藁とすのこを持ってきた須藤 雷華(すとう・らいか)は、エリザベートの足元にそれらを準備しだした。
「それと、コレで通気性を良くすれば、最高に涼しいはずだ」
 そう言って、雷華のパートナーである北久慈 啓(きたくじ・けい)は、ライトニングブラストを使って、扇風機を起動させる。
「本当ですぅ……コレは涼しくて快適ですねぇ♪ 二人とも、感謝するですぅ」
「べ、別に校長先生のためにやったんじゃないんだかね!」
「雷華……照れるにしても、流石にベタすぎると思うぞ?」
 生徒達の協力によって、最高の校長室を手に入れたエリザベート。
 だが、どうしても納得できないことが一つだけあった。
 それは――
「でも……どうして校長の私より先に、生徒が校長室でくつろいでるんですかぁ!」
 この臨時校長室、エリザベートが来るよりも前に、たくさんの生徒たちが涼しさを求めてダラダラと集まってきていた。
「しょうがないだろ? 校舎のクーラーが壊れてるんだし」
「そうそう。だいたい、クーラーの掃除をケチったのは校長でしょ? だったら、これぐらいイイじゃない」
 生徒たちは、もっともらしい意見で校長室に居座り続けるつもりだ。
 だが、さすがのエリザベートもこの意見には反論ができなかった。
「まぁまぁ。落ち着くのじゃ、エリザベート。怒っていては、せっかくの涼しさが逃げてしまうぞ?」
「今まで出番のなかった大ババ様からは言われたくないですぅ! ていうか、いったい今までどこに行ってたんですかぁ!?」
「ん? なんだか、お前と一緒にいては厄介ごとに巻き込まれそうな気がしてのぉ。ずっと地下大浴場の水風呂で涼んでおった」
「ず、ずるいですぅ!」
 またいつものように言い争いを繰り広げる先祖と子孫。
 と、そこへ――
「エリザベート校長、見て見て〜♪」
「涼しくなるように、絵を描いてみたんだぞ!」
 画用紙を持ったミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)と、パートナーのロレッタ・グラフトン(ろれった・ぐらふとん)がトテトテと駆け寄ってきた。
「むむ……ロレッタは、私より絵が上手いですぅ。でも、涼しげな色使いですねぇ」
「おぉ、これまた可愛い絵じゃの〜。心が和むし、何より涼やかじゃ」
 ミレイユの描いた『蒼い海をまったり泳ぐイルカ』の絵と、ロレッタがクレヨンで描いた『蒼い海に浮かんだ流氷に腰掛けてるペンギン』の絵を見て、言い争っていたはずのエリザベートたちは思わず笑顔を綻ばせた。
 しかし、描いた本人であるロレッタは、何故かモジモジしている。
「どうしたんですかぁ、ロレッタ?」
「あ、あの……この絵……う、受け取ってほしいんだぞ」
「へ?」
 おずおずと自分の書いた絵を差し出してくるロレッタ。
 その姿に、エリザベートたちは仲良く微笑んで――
「ありがとうですぅ。大事に飾らせてもらうですぅ♪」
 その絵を大事に受け取った。
「ん?」
 と、ここで話しを終わらせとけばよかったものの、エリザベートは余計な事に気づいてしまった。
「ロレッタ、その手に持っているもう一枚の絵はなんですかぁ?」
「え? あ、いや……これは何でもないぞ! 失敗した絵だから見ちゃダメなんだぞ」
「何を言ってるんですかぁ♪ せっかくだから見せるですぅ」
 エリザベートは、サッとロレッタから絵を奪い取る。いや、奪い取ってしまう。
「ん〜? これはぁ、ミレイユとロレッタと……描きかけでわからないけど、男子生徒ですねぇ? 誰ですかこれはぁ?」
「だ、誰でもないんだぞ! 絶対絶対、真都里だっていうのは秘密なんだぞ!」
「へぇ、この男子生徒は真都里なんですかぁ」
「ギャアアアアアアアアア!?」
 墓穴を掘ってしまったロレッタは、奇声を上げて悶絶する。
「べ、別に真都里じゃないんだぞ! だいたい、アイツを描く道理がないんだぞ! そう、これは別人! 別人なんだぞ!! アイツなんか、どうでもいいんだぞ!!」
 必死に今の事実を無かったことにしようとするロレッタだったが、エリザベートのニヤニヤはとまらない。
 結局、涼しくするために絵を描いたはずのロレッタは、次の日の朝まで一人だけ熱をあげるのだった。

「エリザベート校長、少しお時間よろしいでしょうか? 今から、涼しくなるための実験をするので、こちらにおいでくださいませ」
 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)と、パートナーのナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)が、臨時校長室の一角で手招きしてエリザベートを誘う。
「涼しくなるための実験ですかぁ? 朝の放送でも言ったように、私自身を凍らせるとかはナシですよぉ?」
「その点はご心配なく。ナカヤノフ曰く、この『OHP』という機械を使って視覚的に涼しくなる実験らしいですので。実験といいましてもそんなに堅苦しいものではありませんわ。おやつでも食べながら、のんびり眺めていて下さいな」
「うん。ちょっと氷術を使うけど、エリザベートさんには危害は加えないよ〜」
 ニコリと微笑むナカヤノフの後ろには、視聴覚室の奥から運んできたOHPが設置されていた。OHPは軽く埃がかぶっていて、年代的にだいぶ古い物だということがわかる。
「それにしても、こんな前世紀の機械……本当に使えますの? というより、何をするための機械なのか、検討もつきませんわ」
「まぁまぁ。準備はあたしがするから、リリィちゃんはエリザベートちゃんを席に案内しておいて〜」
 リリィは初めて見るOHPに首をかしげているが、その隣でナカヤノフがテキパキと実験の準備を進めていく。
 そして――しばらくして実験の準備が整ったようだ。
「それじゃ〜行くよ〜? リリィちゃん、電気消して〜!」
 ナカヤノフの合図で、臨時校長室の照明が全て消えた――その瞬間だった。
「あっ! す、凄いですぅ!?」
 一瞬、暗闇に戸惑ったエリザベートから驚きと感嘆の混ざった声があがる。
「このOHPはね〜機械に設置されたライトの光で、写真とかを拡大してスクリーンに映す機械なの〜わかりやすく言えば、映画の原理と一緒だよ〜」
 今、エリザベートの目には幻想の世界が見えていた。
 臨時校長室の壁にOHPで映し出されたのは――氷の結晶『アイスフラワー』だった。
「こ、これはアイスフラワーですよねぇ!? 写真で見たことはありますが、本物は初めて見たですぅ!」
「エリザベートさん、よく知ってるね〜。氷に光があたると、外側からだけじゃなくて内側からも溶けて、アイスフラワーが出来るんだよね〜。でも、このまま内側から氷が溶けていくと、この結晶がもっともっと大きくなって六花の形になるの〜」
「本当ですかぁ!? もっと大きいアスフラワー、見てみたいですぅ!」
「強い光を当てると成長が早まるから、リリィちゃん光術おねがい〜」
 エリザベートを更に喜ばせようと、ナカヤノフはリリィへ光術の使用を願うのだが――
「無理ですわ。ただ使うだけなら簡単ですけど、光の範囲、量調整等は出来ませんもの。そんな薄い氷の板に光術なんか使えば、すぐに溶けてしまいますわ」
 リリィはもっともらしい正論で、ナカヤノフの願いを断った。
「え〜? 出来ないの? 僧侶なのに〜?」
「え〜っと、そうですわね……エリザベート校長お願いします。光術の微調整なんていう芸当、天才魔法使いであるエリザベート校長しかできませんわ。きっと面白いものが見られますから。ね? お願いします」
 自分が光術を使えないため、リリィはエリザベートを煽てる作戦にでた。
 当然結果は――
「しょ、しょうがないですねぇ。そこまで言われたら、やってあげないこともないですぅ」
 乗せられやすいエリザベートが断るわけがなかった。
 頼まれてすぐに、OHP上の氷板に向けて微量の光術を放つ。
 すると――
「す、すごいですぅ!? どんどんアイスフラワーが六花の形に大きくなっていきますぅ」
「わわわ! エリザベートさんすごーい!! 綺麗〜♪」
「氷の中に花……不思議なものですわね」
 アイスフラワーは見事急成長をとげて、臨時校長室の壁に大量の氷の花を咲かせたのだった。