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輝く夜と鍋とあなたと

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輝く夜と鍋とあなたと
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 食材を空京に買いに来ていた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)がチラシを見て、恋人の水神 樹(みなかみ・いつき)にメールをすると、すぐに約束を取り付けることに成功した。
 鍋は寄せ鍋となり、丁度良いのでそのまま食材を買いに行った。
(彼女と2人きりで鍋……きょ、今日こそ進展するんだぁ)
 何やら少し妄想をしているようだ。

「あ……」
 待ち合わせの時間ぴったりに弥十郎と樹は同時に到着。
 2人で声を揃えてしまった。
「行こうかぁ」
「はい」
 2人は手を繋ぐ事はないけれど、付かず離れずの絶妙な距離で空いているとタノベさんに聞いたカマクラへと歩いて行く。

 カマクラの中に入るとすぐにコタツの中へと入り、調理を開始した。
 コタツには直角に座り、互いの距離が近い。
 水を入れた鍋を火を入れた七輪の上に置き、昆布と日本(?)酒(葦原酒造 雪の恵)を入れる。
「高そうなお酒ですけど……大丈夫ですか?」
「うん、見た目ほど高いお酒じゃないんだけど、寄せ鍋にぴったりって聞いたから買ってみたんだぁ」
「そうなんですか。お鍋を食べるの楽しみですね!」
(本当は結構、値がはったんだけど……こんな笑顔を見れたんだから買ってきて良かったぁ!)
 弥十郎は樹の笑顔で懐がほんの少し寒くなっていることも忘れられるくらい幸せになっていた。
 葱と生姜をみじん切りにして、ボールに入れ、鶏のひき肉と一緒にまぜると、つみれのタネが出来た。
 シイタケ、エノキ、白菜、大根、人参を切り、準備は万端。
 材料を順々に入れて行く。
「あ、私しらたき持ってきたんです」
「じゃ、じゃあ、それも使わせてもらうね」
 樹はカバンの中からしらたきを取り出し、弥十郎に渡した。
 弥十郎は慣れた手つきで鍋を完成させていく。
「蓋をしてっと……あとはポン酢の用意をして煮えるのを……」
「どうしたんですか?」
「ポン酢を忘れるなんてっ! ちょっと借りて来るよ! 鍋よろしく」
 弥十郎は慌てて外へと飛び出して行った。
(緊張してポン酢忘れるなんてぇっ!)

「ただいま! 朱里さん達のところから借りてきたよ」
「お帰りなさい」
「……」
「……」
 2人は同時に赤くなって固まってしまった。
 弥十郎はまだ席にも座っていない。
(一緒に暮らしてるみたい!)
 胸中は同じだったようだ。
 ぎこちなく弥十郎は先ほどよりも樹寄りに座った。
「おか、おかしいなぁ、外は寒かったんだけど、あっついなぁ」
「こ、コタツと七輪のせいですよ!」
「だよねぇ」
「はい」
「……」
「……」
 やはりどこかぎこちなく会話が進む。
 鍋が噴きこぼれそうになったのを見て、樹が少し冷静に戻り、鍋をよそった。
 最近の日常の話し、さっき借りに行った朱里達のところではクロセルが子供達に遊ばれていて楽しそうだったといった内容の会話で盛り上がる。
「ごちそうさまでした」
 食べ終わると互いに目が合い、優しい時間が流れる。
「あ……」
「いや……かな?」
「ううん、いやじゃない……です」
 コタツの中では精一杯頑張って、弥十郎が樹の手を握ったのだ。
(こんな素敵な時間を作ってくれたタノベさんに感謝です)
 樹は心の中でお礼を言った。
 2人はまた笑い合い、会話に花を咲かせていく。