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その正義を討て

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その正義を討て
その正義を討て その正義を討て その正義を討て

リアクション


第9章


 ヒーロー達の前に現れたクライム仮面に、自らの精神的支配を覆し、自爆技『正義ダイナマイト』を仕掛けたブレイズ。
 その体が、ぼろ雑巾のように地面に落ちた。降りしきる雨が、その身を濡らす。

 街では銀行強盗事件も解決し、火事現場の子供達も救出された。

 しかし、戦いはまだ終わっていなかった。
「ちぃっ! 肝心なところで失敗か! まあいい、正義マスクを通じて集めたパワーは私のものだ」
 爆煙の中からクライム仮面が姿を現す。正義ダイナマイトでダメージを受けているようだが、決定的なものではなかったようだ。
 その冷たい瞳が、地面に倒れたままのブレイズを映した。
「……ふん、出来損ないが」
「……貴様」
 その悪を前に、一歩踏み出した者たちがいる。ケンリュウガー……武神 牙竜達だ。
「何だ? 君達にもう用はない。大人しくしていたまえ」
「……そう言われて、大人しくひっこむと思ってんのか?」
「まあ、予想の範疇内さ。さあ来たまえ、おせっかいの正義のヒーロー気取りども!!」
 ケンリュウガー、セレインナーガ、ディバインロード、小鳥遊 美羽は宙に浮かぶクライム仮面へ次々と向かっていく。
 間違いなく、これが最終決戦であった。


                              ☆


「……ん」
 頬を濡らす雨にブレイズが気付くと、そこはまだ地面の上だった。どうやらわずかな間、気を失っていたらしい。
 騒音に空を見上げると、ケンリュウガー達がクライム仮面と戦っているのが見えた。クライム仮面は全方位にバリアーのようなものを張り巡らせてヒーロー達を翻弄している。
 苦戦を強いられているのは明らか。
 だが、体に力はもう入らない。正義マスクも力を失ったのが分かる、それはもうただのマスクだった。

「――目が、覚めましたか」
「……」
 半身を起こしたブレイズに一人の男が語りかけた。長い黒髪を後ろで束ねた小柄な男。ブレイズの横に立ち、立ったまま上空の戦いを見上げる。
「貴公は……戦わないのですか? みんな、あんなに一生懸命に戦っているではないですか」
「もうそんな力、残ってねえよ……体力も、気力もねえ。それに……もう正義でもねえ」
「――そもそも、正義ってなんでしょう?」
「……さあ、な。分からねえ。分からなく……なっちまった」
「正義なんてね、自ら名乗るものじゃないんですよ。心の中にだけそっとしまっておけばいいんです」
「……」
「その熱が貴公を突き動かした時、誰かがそれを正義と呼ぶでしょう……それだけでいいんですよ」
「そんなもんかね。まあ、俺にゃあもうカンケーねえけどよ」
「……心が折れてしまいましたか? では、あなたにおまじないを一つ、教えてあげましょう」
「おまじない、だあ?」
「ええ。拳を目の前で、ぐっと握るんです」
「……」
 言われるまま、右の拳を握るブレイズ。
 男は続けた。
「その拳の中に、貴公が一番最初に正義を信じた、その想いを感じることができるなら――」

 その言葉を聞きながらも、ブレイズの拳には様々な想いが去来する。ヒーロー達との戦い、壊してしまった建物、道を渡すため引いた老人の手。あの夜、星空に向かって誓った拳。そしてあの夜を越えてはるか――

――貴公はまだ、戦える

 気付くと、ブレイズは立ち上がっていた。全ての気力と体力を使い果たし、もうそんな力は残っていないはずなのに。
 それでも、何故か立てていた。
「さあ、行きましょうか。」
「……あんたは」
 ――変身。
「仮面ツァンダー。……ソークー1。」
 黒いライダースーツと仮面の姿に変身したその男――風森 巽(かぜもり・たつみ)は、すっと手を差し出した。
「……貴公の味方だ」
 ブレイズは握った拳を開き、その手を取った。


                              ☆


「喰らえ! 必殺・百舞雪月花ぁぁぁっ!!!」
「アカシック・ブレイカー!!!」
 雨の中、ヒーロー達の戦いは続く。セレインナーガの必殺技、百舞雪月花とケンリュウガーの必殺キック、アカシック・ブレイカーを同時に受けてもなお、クライム仮面のバリアーを破壊するには至らない。
「ちぃっ、なんてえバリアーだ!!」

「でやぁぁぁ!!!」
「たあぁぁぁ!!!」
 美羽とディバインロードも皆のサポートをしているが、これだけの人数がいるにも関わらず、事態は劣勢だ。
「あれを!!」
 美羽が空を指差すと、雨雲の一部分が丸く切り取られたように開く。ちらりと覗く蒼空の中から現れたのは――

「ソゥクゥッ! イナヅマッ!! キィィックッ!!!」

 空から現れたソークー1は、そのまま垂直にクライム仮面のバリアーに必殺の轟雷閃キックを放つ!
「はあぁぁぁっ!!!」
 だが、ケンリュウガーとセレインナーガ、ソークー1の必殺技を受けてもなお、そのバリアーは破れない。
 三人が同時に攻撃を仕掛けていることで足止めは出来ているものの、単純なパワーだけではなく、何かがひとつ足りないと皆は感じていた。

「――来い! ブレイズ!!!」
 クライム仮面のバリアーに負荷をかけつつ、ソークー1は叫んだ。その後を追うように、上空から攻撃を仕掛けるブレイズ。クライム仮面は嘲笑する。
「――貴様のような絞りカスに何ができる!!」
「うおおおぉぉぉ!!!」

 確かに、その拳には何の力もなかったかもしれない。
 確かに、その拳では何もできなかったかもしれない。

 けれど、その拳は。

 ――彼が生まれて最初に放った、正義の拳だった。

正義パーーーンチ!!!


                              ☆


 奇跡が起こっていた。
「バカな、バカなああぁぁぁ!!!」
 ヒーロー達が同時に放った必殺技を受けてなお、堅牢な防御力を誇っていたバリアー。それが何の力も残っていなかったはずのブレイズのパンチで崩壊しかかっていた。
 何故かは分からない。それはパンチを放ったブレイズにも。
 だが、ブレイズの着けていた正義マスクがパキンと音を立てて割れ、落ちた。マスクは何も語らなかったが、ブレイズは何かを受け取った気がした。
 彼は叫ぶ。
「――トドメを頼むぜ、先輩方よぉぉぉーッ!!!」

「無論だ! お前の魂、見せて貰った!!!」

 武神 牙竜が燃える!
「貫く正義の拳、ケンリュウガー!!」

 ルナティエール・玲姫・セレティが舞う!
「輝く正義の舞、セレインナーガ!!」

 セディ・クロス・ユグドラドが叫ぶ!
「正義の白騎士、ディバインロード!!」

 風森 巽が吠える!
「夢と正義を護る者、仮面ツァンダー、ソークー1!!」

 そして小鳥遊 美羽が跳ぶ!
「正義の西シャンバラ・ロイヤルガードにして、蒼空学園のスーパーアイドル! 小鳥遊 美羽!!」

 五人は一斉にジャンプし、高く舞い上がった。狙うは、ブレイズが打ったパンチの傷跡!!
「いくぞ!!」
「おう!!!!!」
 ケンリュウガーの叫びに呼応し、五人はピンポイントに集中した協力キックを放つ!

ダイナマイト・ヒーロー・ブレイク!!!

「うわあああぁぁぁ!!!」
 ブレイズのパンチで弱っていたバリアーを易々と打ち破り、五人の必殺キックはクライム仮面に突き刺さり、そのまま大きく吹き飛ばした。
 ――そして大爆発。
 いつの間にか雨は上がり、青空が広がっていた。

 こうして、正義マスクの騒動は幕を閉じたのである。


                              ☆


「いやあ、面白いモン見せて貰ったよ。……いい酒の肴になった」
 天ヶ淵 雨藻(あまがふち・あまも)は、事が片付いたブレイズにつかつかと近寄ってきた。
 その言によると戦いの最中、ずっと酒を飲んで見物していたのだろうか。本当にそうだとしたらふざけた話ではあるが、ブレイズにそれをとやかく言う気はない。
 それに、それだけなら黙って帰ればいいだけの話。わざわざ姿を現したということは、何かあるのだろう。

「何だよ、アンタ」
 ブレイズはと言うと、巽に肩を貸してもらって立っている状態だ。
「いやあ、正義ヅラして暴れてるようだったから、一言くらい言ってやりたかったんだが。まあ、色々あったようだしなあ」
 雨藻はどうもオレが出るまでもなかったようだし、と笑った。その後ろにはパートナーの境野 命(さかいの・みこと)の姿。面倒くさそうに動向を見守っている。
 突然、雨藻はブレイズの頬を殴った。
 そこまで強い力ではないが、キョトンとするブレイズ。
「――さて、今のオレの行動は正義だと思うか?」
 まるで悪びれもせず、雨藻は言い放った。ブレイズも特に怒った様子もなく、答える。
「……さあなあ、俺にゃあ分からん。だが、てめえに正義があると思っているならそれも正義だろ。ただ、それが認められるかは別の話、ってヤツだ」
 ニヤリと、巽の顔を見るブレイズ。逆に雨藻はキョトンとした顔をし返すことになる。
「……へっ、そういうこった。自分の正義を貫き通すか……周囲の評価で正義が決まるのか……ま、ゆっくり考えるこったな」
 そんな中、セディ・クロス・ユグドラドは街を指差した。銀行強盗の処理に追われる警察官、火事現場にようやく到着した消防隊。そして、それぞれの事件を解決するために命を賭けた面々。
「見るのだブレイズ、あの人々を。あれらが最も尊い正義の一つの形――倒すことではない、大きな愛だ。……今のおまえにならば、少しは分かるのではないか」
 巽も告げた。
「そうですね。寒さの中で凍える花を慈しむような愛の形……それこそが正義と言えるのかもしれません」
「……ああ」
 言葉少なに、しかし大きくうなずくブレイズ。雨藻はそんな横顔をしばらく眺めていたが、やがて命の方を向き直る。
「んじゃ、行こうか」
「――ん、もういいのか? 俺は構わないけど」
「いいさ。もう、言葉で語る必要もないみたいだからな。じゃあな、ヒーロー」
 去っていく雨藻と命。

 それと入れ違いのようにベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)がやって来た。美羽のパートナーである。
「美羽さん。お疲れさまでした」
「――うん、ありがと」
 美羽の労をねぎらうと、くるっとブレイズの方に向き直った。
「良かった。どうやら歩くことはできるみたいですね。」
「……ん?」
 ずずっと、ブレイズの前に顔を突きだした。メガネの奥で青い瞳が光る。
「じゃあ、街の皆さんに謝りに行きませんとね。正義マスクにそそのかされていたとはいえ、迷惑をかけたことは事実なんですから」
「……今から?」
「はい!」
 礼儀正しい中でも、その笑顔は崩れない。
「……ひとりずつ?」
「もちろんです。私も付き合ってあげますから」
 ブレイズは晴れ渡った空を見上げ、呟いた。

「やれやれ、正義の味方も楽じゃねえな」
 と。


                              ☆


 その頃の高峰 結和。
「本当にありがとうございました。こんな遅くまで道案内をしてもらって……」
 と、ノーブルファントムこと佐々木 八雲と佐々木 弥十郎兄弟に礼を言う。
「いや、女性の一人歩きは危ないからな。では気をつけて」
 と、八雲。
「はい、ありがとうございました。おやすみなさい」
 結局、警官もつかまらなかった結和は、街で人助けをしていた八雲に助けられ、無事に友人宅に辿り着いたのだ。
 深く頭を下げて、扉を閉める結和。今夜はせめていい夢が見られるといいが。

 道をてくてくと歩きながら、弥十郎は八雲に呟いた。
「それにしてもこのマスク、正義がどうとか言ってたわりにはあんまり役に立たなかったなあ」
 弥十郎のマスクは八雲がすり変えたニセモノなので、それも当然である。弥十郎は弥十郎で、街で噂の正義マスクを懲らしめてやろうと街中を探し回っていたのだが、結局巡り会えなかったのだ。
 最終的には八雲と合流して、地味に人助けヒーローとして活躍していた。
 だが気付いた時には事件は終わっていた、というわけだ。八雲は笑う。
「ははは。僕のマスクも途中から何の力もなくなってしまったよ。まあ、僕にはあまり必要ないものだったけどね」
 八雲は正義マスクを地味な人助けにしか使っていなかったので、力がなくなってもあまり関係なかったのだ。
 兄弟は笑いながら今後の活動について話している。
 正義の仮面ノーブルファントムのコンビは、今後も地味に活躍するのだろうか。それは誰にも分からない。


                              ☆


 ひとつの悪は落ち、またひとつの正義が生まれた。
 悪と正義は表裏一体。この世には悪と同じだけの正義があふれている。

 だから、心配はいらない。

 ――この世に、正義がある限り。


 『その正義を討て』<END>

担当マスターより

▼担当マスター

まるよし

▼マスターコメント

 みなさんこんばんは。まるよしと申します。
 これが二作目のリアクションなので、多くの方が初めましてだと思います。今後ともよろしくお願いします。

 さて『その正義を討て』は、いかがだったでしょうか。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
 今回も多くのご参加、ありがとうございました。皆さんのアクションはとても面白く、まとめるのに苦労しましたが、そのおかげで自分の予想の範疇を超えたストーリーが進行していくのがマスター冥利に尽きるというものです。
 正直に言うと、当初考えたストーリーとはまるで違ったラストになり、こっちの方が面白くなったぞしめしめ、と内心つやつやしております。
 その副作用として前半と後半がコメディとヒーローものにすっぱり分かれてしまいました。これはいいのかと思いつつ、今後の課題です。

 課題としていた文字数ですが、参加人数がほぼ同じで前回の1割程度の削減にとどまりました。もう文字数とかこだわらないほうがいいんだろうか、と思いつつ諦めずに頑張ります。
 また『こういうところが残念だった』というところは掲示板に感想スレッドを立てて告げていただけると、次への励みになります。

 現在のところ次のシナリオ予定は立っておりませんが、個人的には年明け早々にはシナリオガイド公開を入れたいと思っております。クリスマスのコメディか恋愛のジャンルになりそうです。今クリスマスって言ったか。

 ネタが通ったら、またお会いいたしましょう。
 ご参加いただきました皆さん、そして読んで下さった皆さん、本当にありがとうございました。
 良い年末とお正月を。