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先生、保健室に行っていいですか?

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先生、保健室に行っていいですか?
先生、保健室に行っていいですか? 先生、保健室に行っていいですか?

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CASE5 イルミンスール魔法学校の場合

 魔法使いが大勢在籍するイルミンスール、ここでの保健室はどうだろ。
 保険医には何故かアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)。現校長のエリザベートの先祖に当たる超大物だ。
 そして保健委員としては本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が彼女を補佐している。
 しかし、涼介はなぜアーデルハイトのような大物がこのような仕事をこなしているのか不思議でしょうがなかった。
 興味本位で質問したところ、帰ってきた答えは至ってシンプルだった。
「暇だったからのぅ、退屈しのぎにじゃ!」
 何ともアバウトな発言に苦笑するしかない魔法使いの卵。
 しかしアーデルハイトと話せる機会などないため、涼介はやる気だけは満タンだった。
 そこへ本日やってきたお客様がご来店された。
「失礼します・・・・・ってアーデルハイト様!?何やっているんですか?!」
「何って、保険医じゃよ。なんじゃ、鼻血が垂れまくりではないか。ほれ、ちこう寄れ」
 まさかの大物がいたために驚きを隠せないでいるヤジロ アイリ(やじろ・あいり)は戸惑いながらも彼女の傍にあった椅子に腰かける。
「凄い出ているのぅ。何をしたのじゃ?」
「体育の授業で転びかけたので、眼鏡だけは死守しようとしたところ顔面スライディングを決める形になってしまって……」
「これはまた過激じゃのぅ。そなた、見てみたくなったからやって見せよ」
「無茶ぶりはやめてください、アーデルハイト様。それよりも彼女の治療を」
「冗談じゃよ、分かっておるわい」
 涼介に無茶ぶりをして笑ったあと、彼女の行動は早かった。
 綿ボールを鼻に詰めて、ヤジロに上を向くように指示。
 そして彼女の鼻の辺りに何やら呪文を唱えている。
 十数秒後、アーデルハイトはヤジロの鼻に詰めた綿を取って治療完了と伝える。
 こんなに早く出血が止まるものなのだろうか、と生徒二人は考えてたがヤジロの鼻からは血が一滴も出なくなっていた。
 わずかな時間で傷を治してしまい感嘆しつつ、ヤジロはお礼を言って保健室から去る。
 涼介も、さすがは歴代最強と呼ぶにふさわしい魔女であるアーデルハイトに尊敬のまなざしを向ける。
 やはりこれほどの大物になりたい、彼の中で自分の夢に向かって邁進しようと努力あるのみだと考えるのであった。

 次の日、保健室には鬼崎 朔(きざき・さく)アテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)の二人がいた。
 アーデルハイトはいない、昨日の放課後で『飽きたからもういいや!』と宣言したのだ。
 飽きっぽすぎるのではないかと感じるが、むしろ多くの生徒が安心していたりする。
 さすがに自分たちの怪我の治療に、彼女のような偉大な存在に任せるのは心引ける思いのためだった。
 そのため、次の保健医をしてアテフェフ、保健委員として朔が指名された。
 だがこれは朔が他の先生たちに根回しをした結果なのだ。
 朔はアーデルハイトは大嫌いで、本来なら頭を下げるような真似はしたくなかったのが本音である。
 ところが、アテフェフがどうしてもやりたいと朔に無理を言ったので彼女はパートナーの望みを叶えるために行動に出た。
 その甲斐あって保健医として活動できるのだが、案の定トラブルが続いていた。
 腹痛で来た男子学生に怪しげな薬と胃腸薬と偽って無理やり飲ませようとするわ、女子学生にはこれがあればナイスバディに大変身といった悪徳商法まがいの注射を打とうとしたりしていた。
 それらのサポートに回るだけで朔は疲れ果ててしまい、溜め息が絶えない。
 ただそんな時に現れたサボり目的の男子学生に憂さ晴らしという名目を隠した拷問を課していたりするので、結局どっちもどっちだった。
 そんな破天荒ペアのいる保健室に師王 アスカ(しおう・あすか)蒼灯 鴉(そうひ・からす)がやってきた。
「失礼する。いい加減にしろ、アスカ」
「大丈夫だって言っているではないですかぁ〜。それに、完成させなければならない絵がまだあるから早く……」
「俺はいつから壁になった?とにかく問答無用だ」
「アスカ、とりあえず保健室に入ってもらえるかな?」
「だから大丈夫……」
「っておいアスカ!?」
「うふふ、おもしろいわね。話し終わる前に倒れたわよこの子」
 自分は具合など悪くないと主張しているアスカだが、全く説得力のない行動ばかりしている。
 朔に対しても大丈夫と言おうとしたが、言い終わる前に倒れてしまう。
 この隙にと鴉は彼女の体を抱き上げ、ベッドに運ぶ。
「ふぅ、すまないがしばらくアスカを……」
「復活ですよ〜。」
「早っ!?」
「よぅし、よく寝たのでもう安心ですよ鴉〜」
「……」
「な、何ですかそんな怖い顔して……?」
 ベッドに運んですぐにアスカは復活を果たす。
 あまりに展開に朔は驚くことしかできず、アスカはマイペースを貫く。
 しかしそんな彼女を鬼の形相で睨みつける鴉。
 威圧的な視線にさすがのアスカもたじろいでしまう。
「すまない、少しカーテンを閉めるぞ」
「えっ?!まっ待って鴉!!おねがいだからあれは……いやぁぁ〜〜!!」
 朔とアテフェフに断りを入れると、カーテンを閉める鴉。
 そして閉じ込められた空間でアスカの悲鳴が保健室内に木霊する。
 もぞもぞと何やら動いているが、閉め切っているので除くことができないのでアテフェフがつまらなそうにしていた。
 5分後、カーテンを開けて現れる鴉は襟元を整え、その後ろにいたアスカは顔を真っ赤にして髪も乱れていた。
「もう、覚えていなさいよ……」
「自業自得だ、全く」
「で、一体何をしていたのさ?お姉さんにじっくりゆっくり教えなさいよ」
 二人に何をしていたのかにやけながら質問するアテフェフ。
 鴉もアスカも答える様子もない。
 アテフェフの傍には空気の読めないパートナーに対してゆらりと近づく朔の姿が。
 放課後に迎えに来る、そう告げて鴉は保健室から出ていく。
 扉が閉まるのと同時に何やら物音が響くが、鴉には興味がなかった。

 保険医には飽きたと言っていたアーデルハイトは何故かとある日の保健室にいた。
 見た目小学生の長寿魔女はある生徒が来るのを待っていた。
 午後の特定の時間、さしかかると同時に保健室に来客が現れる。
「失礼しますですぅ〜。アーデルハイト様ぁ〜」
「おお、よく来たのぅ明日香!いつもいつも時間ぴったりに来るとは偉いのぅ」
「わぁい、褒められてたですぅ〜!」
 現れたのはミニマム高校生神代 明日香(かみしろ・あすか)だ。
 のんびりとした口調でアーデルハイトに近づく。
 アーデルハイトも彼女の登場に心和むのか、頭をそっと撫でていた。
 彼女は特有の持病を持っているのだ。
 そのため、アーデルハイト直々に治療しなければならない危険性を帯びている。
 椅子に腰かけて、彼女の脈拍、体温などを計り深刻そうな顔つきでアスカの顔を見つめるアーデルハイト。
「わかったぞ、そなたの病気は……」
「……」
「ミルフィーユを作りたい病じゃ!」
「了解ですぅ〜!では早速作ってくるですぅ〜!!」
 診断結果を聞いて嬉しそうに保健室を飛び出していく明日香。
 彼女の病気、単純に愛しのエリザベートにお菓子を作ってあげたい病とでもいうのか。
 ではなぜこの病気と呼ぶには怪しすぎる症状にアーデルハイトが加担しているのか。
 明日香はエリザベートの分だけではなく、彼女の分も余計に作るようにしているのだ。
 アスカ曰く買収ではないというが、傍から見れば買収でしかない。
 おまけに、アーデルハイトもそれを良いことに最近では自分が食べたいものをリクエストしていた。
 保健室という、必要な人が使いたい時に使えないことがある。
 イルミンスールの保健室は他とは違う保健室模様なのであった。