空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

【新入生歓迎】ゴブリン軍団を撃退せよ!

リアクション公開中!

【新入生歓迎】ゴブリン軍団を撃退せよ!

リアクション

 ゴブリン戦車は、木を組んで作った台に人間の車から奪ったのだろう車輪をつけたもので、2匹あるいは4匹の狼にひかせている。
 陽動分隊に誘い出された戦車は分断されて引くに引けず、猛烈な勢いで前進し続けていた。
「左右に広がれ! 正面から当たるな!」
 クローラ・テレスコピウムが鋭く叫び、指示を飛ばしている。彼はパートナーのセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)が操る空飛ぶ箒に跨がり、上空から全体を見回している。戦車やゴブリンたちから弓矢が放たれ、かわすので精一杯と言う様子だ。
「奥へ! 誘い込むんだ!」
 クローラが必死に矢をかわし、奥を示す。
「任せろ、カガミ!」
「ああ!」
 カガミ・ツヅリ(かがみ・つづり)の軍用バイク。そのサイドカーに乗ったレイカ・スオウ(れいか・すおう)が答える。
 カガミが走り出すと同時、レイカはサイドカーから後ろを向き、杖を構える。その杖から専攻と共に雷が放たれ、戦場をかっと照らした。
「ギイッ!」
 ゴブリンたちが悲鳴を上げる。間髪置かず、レイカは火を、氷を生み出して戦車へ向かって放つ。
「飛ばしすぎだ、精神力がもたないぞ!」
「仲間が居ます。私の仕事は、戦車を引きつけることです!」
 派手な魔法を飛び散らせる勢いで放ちながら、レイカはカガミに答える。その甲斐あってか、戦車の大部分がレイカに魔法にサさらされ、それが脅威だと判断して突っ込んできた。魔力切れが近いなどとは知らずに。
「いいぞ、走れ!」
 クローラの眼下、レイカが走る先には、溝を掘り、土を盛り上げた塹壕が何重にも張り巡らされている。クローラが仲間たちと共に作った必勝の地形だ。時間が足りず、考えていたほどの規模にはならなかったが……
 先頭の戦車が、溝を恐れずに突っ込んできた。狼が穴を飛び越えるが、重い車輪が溝の中にはまり、引っ張り上げることができない。
「よし!」
 クローラとレイカの声が重なった。後から来る戦車は、自然、塹壕を迂回せずには居られない。その間に、カガミがバイクを停車させ、剣を手に穴にはまったゴブリンに迫る。
「ガルルルッ!」
 狼のうなり声。塹壕にはまったゴブリンが、戦車と狼を繋ぐ縄を断ち切ったのだ。2匹の狼がカガミの脇を駆ける。
「しまっ……」
 カガミは反射的に鬼の力を発揮する。が、左右の狼を同時に倒すことはできない。左側を通り抜けた狼が、レイカへと飛びかかった。
「くっ!?」
 レイカが杖を突き出し、炎を放とうとする。だが、魔力が限界へと迫っている。狼の足を止める事ができない!
 と、そのとき、レイカの背後から猛烈な光が放たれる。狼が目をくらまされ、ギャン、と悲鳴を上げた。
「このっ!」
 その隙に狼に追いついたカガミが、剣を振るって狼を弾き飛ばした。
「油断は禁物、だ……。パートナーの元を、あまり離れない方がいい……」
 銀星 七緒(ぎんせい・ななお)がレイカの背後に現れ、小さく告げた。
「た、助けてくれたんですか?」
 驚いた表情を何とか直し、レイカが問う。七緒は首を振り、
「手伝っただけ……」
 と、答えた。
「もう少しだけ、頑張ってください!」
 上空から声。ルクシィ・ブライトネス(るくしぃ・ぶらいとねす)が、まっすぐ弓を構え、戦車に残っていたゴブリンを撃つ。
 これでようやく一台。だが確実に、戦車を1つ、倒した。
「勝てますよ」
 思わず、レイカは呟いた。
「ああ」
 カガミが再びバイクに飛び乗りながら、答えた。


 最終防衛ライン。
 秀幸やなななが居る本部の目と鼻の先で、ルーライル・グルーオン(るーらいる・ぐるーおん)が六連ミサイルポッドを2つ、合計12連のミサイルを背負っていた。
「戦場が混乱しています。戦車とそうでないものの判別を」
「任せて。分析、確認、傾向補足、分析、照合、処理、確認、処理……オーケー、赤いのが戦車だよ!」
 その隣に立ったパルフィオ・フォトン(ぱるふぃお・ふぉとん)が、本部の情報と照らし合わせ、ルーライルの見るレーダーに映る光点を色分けした。
「3,2,1……発射!」
 手短なカウントダウンと共に、派手な音を立てて12連ミサイルが一斉に飛び出す。それはゴブリン戦車に狙いをつけて、その眼前や左右に着弾、轟音と共に爆発する。
 かわそうとした戦車は急制動によってバランスを崩し、立て直すために脚を止めざるを得ない。あるいはかわすことに成功したものの、クローラの作った塹壕に再び突っ込んでいく方向に狼を向ける。
「ひとまず、後はお任せします」
 通信網に向け、ルーライルは静かに告げた。


「いまだ、撃て!」
 クローラの指示が飛ぶ。塹壕の中に土色の塗装で身を沈めていた御魂 紗姫が起き上がり、塹壕の中を滑るように移動しながら手にしたハンドガンを撃つ、撃つ、撃つ。
 狙いは戦車を引く狼だ。迫ってくるだけの的とはいえ、さすがに全弾命中、とはいかない。だが、当たらなかった狼たちも驚き、戸惑う様子だ。戦車の足が鈍った。
 構わず、紗姫は別の戦車に狙いをつけている。黒いウサギの耳と尻尾が体に表れ、射撃の精度が増していく。
「おかわりも、用意してあるぜ」
 別の塹壕の影から、鳥野 島井(とりの・しまい)が銃を抜き放ち、低い場所を掃射する。銃弾にさらされて狼が毛皮をうがたれ、車輪が削られて悲鳴にも似た金属音を立てる。
 狼たちは戸惑いながらもゴブリンの命令を聞き入れ、塹壕をかわして走り抜けようとする……
「べろべろばー、なんちゃって!」
 さらに別の塹壕の影に隠れていたシェス・リグレッタ(しぇす・りぐれった)が飛び出し、横合いから輝く剣で斬りつける。
 島井の掃射で回転の鈍った車輪に向けて斬りつけ、あるいは留め具をうがつ。ウサギの姿そのまま、飛び回りながら戦車の機能を1つずつ破壊していく。
「ギギギッ!」
 ゴブリンたちが驚愕と恐れの混じった声を上げる。次々に飛び出してくる伏兵に混乱をきたしながらも、ここに来てようやく戦車で戦える状況ではないことを悟ったらしく、手に手に武器を持って飛び降り、狼の綱を切る。
「奴らが戦車から降りた! 乱戦に持ち込むぞ!」
 上空のクローラが、通信網へ向けて叫んだ。