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【蒼フロ2周年記念】未来の君へ

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残された者、残す者

「ここ、ですね」

『六本木通信社』の所長、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は空京のスラムにやってきていた。

この10年拡大の一歩をたどった空京にはこのような場所がいくつもある
すえた臭いが漂い、ボロボロの服の子供たちが物乞いをしてくる。

その子供たちの中に何人か渋いオジサマが混ざっているのも特徴的だ。
最近空京では年齢問わず男が渋いオジサマになる奇病が広がっているのだ。

そうした被害は貧しい人々にまず、振りかかる。

いずれにせよ、スラムは女性一人では歩くことも躊躇われる場所のはずだが、
優希は果敢にも足を踏み入れた。

契約者ということもあったが、
ジャーナリストとしての使命感がそうさせるのだろう。

優希はボロボロの雑居ビルの前に立った。
このビルに事務所を構える“便利屋”に元鏖殺寺院の幹部がいるというのだ。

「なんだよ、てめえは」

ビルに入った直後、男に声をかけられた。

このビルに居を構える便利屋、
トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)である。

「六本木通信社の六本木優希です。
今日は……」

優希は名刺を出して鏖殺寺院の幹部にインタビューを行いたいと伝えた。

「ふーん。で、こっちにメリットはあるのか?
空京の片隅に残された、寺院の敗残兵にとって何のメリットがある?

……せいぜいこの体を味わえるぐらいじゃなねえのか?」

トライブは優希の眼鏡を取り、胸を鷲掴みにしようとした。
だが、優希はひるまずトライブに告げた。

「メリットはあります。

鏖殺寺院の記録を残すことが出来ます。
歴史の真実を残すことが」

鏖殺寺院は多数の組織が存在し、その後の組織の分裂も複雑を極めている。

2031年の現在であっても、
その全貌は明らかになっていない。

だが、単に「悪い組織」というレッテルで
扱って良いような組織ではないのは間違いない。
だからこそ、優希はここまで来たのだ。

「そんなメリット、俺にとって関係ねえ!
俺はテメエの護りたいモンの為に戦うだけだ!」

トライブは優希の胸倉をつかむ。
優希は“引き際”を見誤ったかと思った。

だが、

「入って貰ってくれ」

女性の声が響いた。

「マジかよ。
仕方ねえな……入れ」

トライブは事務所のドアを開けた。
中にいたのは林紅月。
鏖殺寺院の元幹部にして、トライブの相棒であった。

そして数日後、優希のインタビューが発表された。
シャンバラ独立前後の鏖殺寺院の内情などが発表され、世界は震撼した。

そして。

■□■


優希は「シャンバラ自然教団」という鏖殺寺院の後継と自称する、
宗教団体の聖地を訪れていた。
聖地はアトラスの傷痕にある巨大な神殿であった。

遺跡を元に作られた壮麗な神殿は
5000年前の鏖殺寺院の様式をそのまま取り入れたのだという。

優希はこの教団の教祖、セシリア・ナートという女性に呼ばれたのだ。
セシリアは語った。

「鏖殺寺院の本来の姿は自然信仰。
……そう、この教団こそが本来の姿といえますわね」

セシリアの正体は、
死んだとされている元鏖殺寺院の伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)であったが、
それを優希は知る由もない。

「では、かつてシャンバラを恐怖に陥れた鏖殺寺院。
あれは純粋にエリュシオンの呪いによるものと?」

優希の質問にセシリアは微笑んだ。

「そうですわね。……一概にそうとも言えないでしょう。
自然は時として人に猛威を振るう物でございましょう?

わたくしたちは現在は自然と共にあります。
しかし、シャンバラの自然が大きな危機に瀕すれば、
その時は再び、牙をむくことになるかも知れませんね」

落ち着いた口ぶりと荒々しい決意。
セシリアは鏖殺寺院の二面性を体現しているのではないかと、優希は思った。

その考えは正しかった。
数年後。

シャンバラ・コンロン国境の再開発による自然破壊に反対し、
シャンバラ自然教団によるテロが発生する。

それを機に自然教団は鏖殺寺院を名乗りだした。
鏖殺寺院の時代が再び訪れたのだ。