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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
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リアクション

  
 第9章 波打ち際ハプニング

(エリザベートちゃん、水着姿も可愛いです〜)
 お昼も近くなり、暑さも右肩上がりなパラミタ内海。神代 明日香(かみしろ・あすか)エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)を誘い、浅瀬までやってきていた。それ以上水には入らず、立ち止まって提案する。
「エリザベートちゃん、水かけっこをして遊びましょう〜」
「? 泳がないんですかぁ〜?」
 エリザベートは少し入りたそうに、目前に広がる海を見る。何せ、暑い。浅瀬に入った足元は冷たくて気持ちいいが、肌を焼くような日光が降り注いでくる。避暑地であるにも関わらず、砂浜はむしろ他より暑い。海に肩まで浸かれば、さぞかし気持ち良いであろう。
「泳ぎませんよ〜。地球人は水に浮くようにできてないんです」
「そ、そうなんですかぁ〜? 初耳ですけどぉ〜」
 何故か得意げに言い切る明日香に、エリザベートは少々納得がいかないようだ。
「そうですよね? ノルンちゃん」
「はい。魔道書は水に浮くようにできてないんです」
 浮輪を携えたノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が、これまた自信満々に頷いた。主語が違うので厳密には同意になっていないが気にしてはいけない。ノルニルは、絶対に浮輪を放しそうにない。
(つまり、明日香達は泳げないんですねぇ〜)
 明日香とノルニルの間には、確かに共通の空気が流れている。『泳げないシンパシー』というやつだろうか。
「分かりましたぁ〜。でも、いっぱい水かけちゃいますよぉ〜。えぇい!」
 エリザベートは水面に手を入れ、明日香に向けて水をぱちゃっ、とかけた。そういっぱいでもない。
「やりましたね〜、え〜い!」
 明日香もばちゃっ、と、エリザベートに水をかけた。ちょっと多めだ。エリザベートが暑がっているから、たくさんかけてあげようという心遣いである。
「もっと、もっとですぅ〜」
 遊び始めた彼女達の近くでは神代 夕菜(かみしろ・ゆうな)がのんびりとした笑顔で佇んでいた。落ち着きのない明日香達が何かしでかしたり流されたりしないように、と落ち着いた様子で見守っている。保護者のようなものかもしれない。一緒に来たエイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)は浜辺を走り回っていて無性に楽しそうだ。
(大丈夫そうですわ)
 ほのぼのとした平和な光景に安心した夕菜は、せっかく海に来たのだから泳ごう、とホルタービキニのスカート部分を外した。そして海に入り、悠々と泳ぎ始める。
「「…………」」
 何となく、それを見て明日香とノルニルは動きを止めた。同時にエリザベートを見て、彼女達は言う。
「夕菜ちゃんは地球人じゃないから水にも浮くんですよ〜」
「夕菜さんは魔道書じゃないから水にも浮くんです!」

              ◇◇◇◇◇◇

 ファーシーとスカサハは、機晶犬のクランが先を走るのを追いかけていた。砂などものともしないクランは、遅れているファーシーを待つように立ち止まって振り返る。彼女はふ、と足を止め、ぽっかりと空いたバレーコートを見やる。
「望さん達のやってたビーチバレーって……わたしもやってみたいなあ」
「ビーチバレー、でありますか?」
「何を話しているんだ?」
 ビーチパラソルの下で彼女達をゆったりと眺めていた朔が、立ち上がってやってくる。
「ビーチバレーか……。では、私達もやってみようか」
「え、いいの!?」
「ああ、皆で気軽にやろう」
「スカサハが花琳様達を連れてくるであります!」
 朔が頷くと、スカサハはカリン達に駆け寄っていき、そしてビーチバレーが始まった。
 ――約1名を除いて。

「どうですか? ピノちゃん、初めての海は〜」
「うん、すごい楽しいよ! きれいだし、思いっきり泳げるしね!」
 なだらかに、ゆらゆらとした自然の波が気持ちがいい。
シーラさん、こっち! こっちで遊びましょうよ!」
 が遠くから手を振っている。ホットパンツの裾ぎりぎりまでが水につかっていた。以前は森暮らしで海は初めてな諒だったが、森には湖があったので、水自体は苦手ではないのだ。
 だが、流石にホットパンツとTシャツで泳ぐわけにもいかない。
「あ、じゃあピノちゃん、一緒に行きましょうか〜」
「うん!」
 笑いあって当然の如く一緒についてくるピノに、諒はうっ……、という表情をした。呼んだのはシーラなわけで、ピノは別に呼んでないわけで。
「諒くん、何して遊ぶの?」
「……し、知らないよ!」
 普通に聞かれて垂れ耳をぴくぴくさせて横を向いた諒に、ピノは「?」と首を傾げた。そこに、ピノから浮輪を預けられたラスが海から上がってくる。
「おい犬、ピノをいじめたらどうなるかわかってんだろうな……?」
 冗談とも本気ともつかない声音に、諒は慌てた。ラスは、諒がシーラからピノを遠ざけようとしていた事を見抜いたようだ。加えて、今の態度も気に入らなかったらしい。
「ど、どうするっていうんですかっ!」
 その会話にシーラが気付き、にっこりと諒に微笑みかける。
「仲良くしてくださいね〜? 諒くん」
「…………」
 他意の無さそうな純粋なシーラの言葉に、諒は反論したいけどぐうの音も出ない、というような顔でシーラを見上げてそれから太陽の位置を見て、言った。
「そ、そうだシーラさん!」
「なんですか〜?」
「僕、おなかすきました! そろそろお昼にしませんか?」
 何だか、無駄に力がこもっていた。

「ふぅ、よく泳ぎましたわ〜」
 皆の荷物置き場と化した戦闘用ビーチパラソルの所に戻り、シーラはタオルを取り出して体を拭く。赤い縁取りとフリルのついた薄桃色の和柄水着は、何となくサイズがひとつ小さい気もする。特に上。
「…………」
 あふれんばかりのその姿を改めて間近にして、ラスは自然と手を止めていた。水に入る前とは違って適度に濡れた彼女の体と、疲れたのか、いつものほわんとした笑顔ではなく伏し目がちな、素に近いであろう表情。
 ついどきりとしてしまうのは、男の性なのか何なのか。
 シーラは彼の視線には気付いていないようで、髪から滴る水滴を拭き取っている。
「…………」
 時間にして多分、十数秒。たまたま彼女の瞳がふ、と上を向き、目が合った。
「……? ラスくん、どうかしました〜?」
「! ……ああいや、なんでも」
 やわらかい笑顔に若干怯みつつ、ラスは平静を装って脱いでいたTシャツを被る。注視してしまった理由には気付かれなかったようで安心するが、何となく目が合わせづらい気がしてシーラから背を向ける。すると今度は、ピノがこちらをじーっと見つめていた。じーっと見られるのは本日2回目なわけで。
「な、何だよ……!」
「おにいちゃんって、むっつ……」
「わーーーーーー! 余計なこと言うな!」
「む、んんっ!」
 しっかりばっちり見ていたらしいピノの口を塞いで慌ててシーラの方を確認する。彼女は不思議そうに小首を傾げているだけで、やはり邪な何たるかには思い至っていないようだ。
「で? どこで飯食うんだよ。海の家に戻るのか?」
 そして、誤魔化そうと割とどうでもいい話題を自分から彼女達に持ちかける。見るものが見れば不自然極まりない。どこで飯を食おうが心底どうでもよかったが気にする素振りで周囲を見渡す。
「あ」
 そこで、彼は明日香達に気が付いた。

              ◇◇◇◇◇◇

「何ですぅ〜? あなたも来てたんですかぁ〜?」
 ラスが歩いていくと、海水を掬いかけていたエリザベートは腰を伸ばして不服そうな顔をした。それはとりあえず無視して、彼は挨拶代わりに2人に言う。
「泳がないのか?」
「泳ぎません」
 はっきりきっぱり、断固とした意思を持って明日香は即答した。エリザベートに説明した時のような話はしない。というか、地球人は水に浮かない、なんていう説明は通用しそうもない。
 だが、ラスになら真顔で言えることもある。
「魔力が浮力を打ち消すって知ってます〜?」
「…………」
 それを聞いて、ラスはまじまじと明日香を見下ろし――
「……いや、知らないけど」
 と、とりあえずそう答えた。聞いた事ないし。

「ふぅ、よく泳ぎましたわ」
 何か既視感を覚えたかもしれないが気のせいだ。だから、上の方をスクロールして見返してはならない。その瞬間、既視感が真実であることが分かってしまうから。
 のんびりと海を楽しみ、夕菜は浜へと戻ってきていた。明日香達は立ち話、エイムは浜を駆け回っている。その彼女が、夕菜を見つけて走り寄ってくる。砂の上は走り難そうだが、特に転ぶ素振りもなかった。
「夕菜様、海ですの」
 海ですね。
 相槌のパターンがそれしか思い浮かばないようなことを言いつつ近付いてきて、そこで、足がもつれた。転びかけたエイムは、咄嗟に抱きつくようにして夕菜の水着を掴む。
 だが。
「…………!!」
 やっぱり、転んだ。水着程度では体を支えきれなかったらしい。
「ごめんなさいですの」
 それだけ言うと、また走り出す。たった今の自分の行動について省みないのはいつものこと。まったく気にしていない。
 でも、残された夕菜は――
 水着で隠れるべきところを上下とも押さえて、座り込んでしまった。