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四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~

リアクション公開中!

四季の彩り・ぷち~海と砂とカナヅチと~
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リアクション

 
 
「割れたようですね……」
 アクアは更衣室の手前で歓声を聞き、未だ水着姿のままそちらをちらりと見る。何故、未だ水着姿なのかというと――
 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)に足止めを食らっていたからだ。彼は、その手にデジカメを持っている。
「なあアクア、どうしても駄目か?」
「嫌です」
 軽い口調で、しかし諦めた様子も無いトライブにアクアはただ一言、きっぱりと言った。何が嫌かというと、水着姿を写真に撮っておくということが、である。
「第一、夏の思い出に水着姿を撮るというのが微塵も理解出来ません。水着姿で集団写真を撮るというのならまだ解りますが。いえ、そのようなことをしたいとも思いませんが」
「勿論、皆での写真も撮るぜ? でも、その前に1枚撮っとくのもいいだろ?」
 勿論、皆での写真は真の目的ではない。トライブの真の目的は、美少女のお宝写真シリーズとしてアクアの水着写真を手に入れることだった。海という絶好の機会に、せっかく仲間になったアクアのお宝写真をぜひゲットしておきたいところである。
「そこに必然性はあるのですか? ありませんよね。というか実際は、あなたが個人的に私の水着姿の写真が欲しいだけですよね。……まあ、盗み撮りせずに直接交渉に来たことは評価しますが」
「…………」
 もうバレバレである。というより、バレない方がおかしい。
 しかし、トライブは焦らなかった。下心がバレないように、と言葉を付け加える。
「いやアクア、ただの思い出だからな。別に水着姿じゃなくてもいいんだぜ?」
「…………。では着替えてきます。皆での写真くらいなら付き合っても構いませんよ」
 アクアはトライブを素晴らしく冷たい視線で眺め遣り、背を向けてさっさと更衣室へ入っていった。
「お、行ってらっしゃーい!」
 水着を撮らずに逃してしまったわけだが、トライブはにこやかに彼女を見送った。何故なら、彼の持つデジカメデータには――

 無事に割れたスイカを皆で分け合い、それぞれ好きな場所に座って舌鼓を打つ。ファーシーはフリードリヒの隣に座っていびつな形のスイカを食べていた。先程まではピノと諒もいたのだが、彼女達は早くも自分の分を片付けてジュースを買いに行ってしまった。
「流されちゃったり色々あったけど、1日楽しかったなあ……」
「だろ? 海に来て良かったろーー!」
 自信たっぷりな子供みたいな笑顔で、フリードリヒは言う。その顔を見て、ファーシーはふと、今日どうしてここに来たのかを思い出す。そして、これだけは言っておかなければ、というように口を開いた。
「うん、舞さん達が誘ってくれて良かったわ。わたしは、そんな……そう、ナンパが気になって来たわけじゃないんだから」
「お?」
 澄ました顔で言うと、フリードリヒは彼女に顔を向けて目を瞬かせ、それからにやりと笑った。
「ふーん?」
「……な、何よ! 違うんだからね! 大体フリッツ、本当にナンパされたの? ……あ、そ、そうだ、わたしこそ……わたしね、今日ナンパされたのよ!」

「…………」
 スイカを片手に何やら主張しているファーシーと、余裕でそれをいなすフリードリヒ。本人達がどう思っているかは知らないが、離れて見ているとじゃれているようにしか見えない。
「……どうしました〜?」
「ラスさん、スイカ食べないの?」
 リア充の様子をラスがぼーっと眺めていると、シーラとケイラがそれぞれに離しかけてきた。彼はそんな2人をちらりと見てから、ケイラに自分の分のスイカを差し出す。
「やる」
「え? もしかして、食べられないとか?」
「そうじゃないけど……」
 嫌いでもないが、好きでもない。特に、種周辺とか。
「おにいちゃん! 飲み物買ってきたよ!」
 そこに、ピノと諒が350ミリサイズのペットボトルを両腕に抱えてやってきた。実にカラフルだ。……一体何本買ったんだ。
「……お前ら、さっきまでファーシーん達のとこに居ただろ。向こうに提供して来い」
 そう言うと、2人は「へ?」という風に顔を見合わせた。
「え? だって……ねえ」
「うん。おにいちゃん、空気読めないなあ……」
「…………」
 ――空気読めてるから言ってんだろが。
 だが、ピノ達はそんな彼の内心には気付かないようで改めて大量のペットボトルを差し出してくる。
「それより、この中から1本選んでよ。あ、シーラさんもケイラちゃんもね! 1本じゃなくてもいいけど」
「ロシアンジュースです」
「ロシアンジュース、ですか〜?」
「はい! とりあえず全種類買ってきました!」
 諒は、何が入っているのか判らないということと、外れの確率だけ説明した。大佐からは中身のフレーバーも聞き出していたが、それはあえて言わない。
 そして――

 結果だけ書くと、ハズレ率は何故か100%であった。どうしてかというと、100%でないとこうして文字数割いている意味が無いからである。
「梅干ですわ〜。ちょっと驚きましたけど飲めないことはありませんね〜」
「こっちは意外に美味しいよ、何かの出汁かな? ラスさんは……」
「…………何か、人間ドックで飲んだ覚えがあんだけど……」
「えっと、では答えを発表しますね。同じ色でもハズレがいくつかあって、僕達ももう分からないんですけど、透明なやつは……」

 透明→ミネラルウォーター、ホヤの胎水、苦汁その他
 透明(赤)→何かのシロップをソーダ水で割った物、ホレグスリ、紅生姜の汁、梅干の汁
 黒→どくたーぺっぱー、醤油ソーダ、イカ墨ソーダ、ソース味のソーダ
 白→某乳酸菌飲料、バリウム
 茶→麦茶、センブリ茶、鰹出汁、椎茸の煮汁

「だって! 茶色が、正直一番有情だと思うって言ってたよ!」
「……やっぱり……バリウムか……」
 ほんのりレモン味のねっとりしたソレにげんなりしていると、そこでトライブが歩いてきた。後ろからは私服のアクアがついてきていて、彼女はファーシー達に声を掛けている。
「あいつ……!」
「ピノ、せっかくだし写真撮ろうぜ! ファーシーも、ほら、ポーズとって」
 トライブはそう言ってピノとファーシーをぱしゃぱしゃと撮る。
「ポーズ? こうかな?」
「そうそう。いいねー、可愛いねー」
「おいこら……」
 ラスは調子に乗っているらしい彼の首根っこを思いっきり引っ張った。虚をつかれてデジカメが落ちるが、放っておいて連行する。脇に、何本かのペットボトルを挟んでいる。
「お! 久しぶりだなー!」
「久しぶりだな、じゃねーんだよ。手前は何を言いふらしてくれてんだ? よりによって俺がむきプリ好きとかなんとか……」
「いや、好きなタイプを答えなかったから? いいじゃんかこれでアーッつい夏を……ぶほっ!」
 とりあえず、当然の制裁としてホヤの胎水を口に突っ込んで逃げないように押さえる。
「…………!!!!!!!!!」
「何ですか、これ……?」
 手でギブアップを示すトライブ。そこで、アクアの怪訝な声が聞こえてきた。そちらを見ると、彼女は落ちたデジカメの画面を見て眉を顰めている。そこには、自分がローライズのマイクロビキニを着ている写真が入っていたのだ。他のデータも見てみると、ファーシーやピノも同様のビキニで写っている。今現在、全く別の水着を着ているのにも関わらず、だ。
 アクアはデジカメを持ち、胎水で目がぐるぐるになりかけているトライブに近付いてきた。
「数々のビキニ写真……説明していただけますか?」
「そ、それは……ね、念写で……」
 彼は、こっそりとソートグラフィーで際どい水着姿を念写していたのだ。この海で水着美女とご本人を目の前にすれば充分に可能な技だった。
「直接交渉に来たのも、振りだったというわけですね……。最低です」
『最低です』の部分を強調すると、アクアは容赦無くファーシーと自分の全データを削除した。後でまた念写されないように普通に撮られた写真も削除する。そしてトライブにデジカメを放り、ラスに向けて言った。
「貴方のパートナーの写真も入っていますが……、それは自由にしてください」
「…………」
 それを聞いて、ラスはほぼ無表情でトライブを見下ろした。
「ソース味のソーダと、センブリ茶どっちが良い……?」
「消す! 分かった消すって!」
 慌てて、彼はピノのビキニ写真も削除した。案外あっさりと消したものだが、それには理由がある。バレて怒られた時用に、予備のメモリーに素早くバックアップを取っておいたのだ。今消したのはその片方に過ぎず、データは全て生き残っている。
 写真達が、いつか日の目を見ることを祈って。