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【特別授業】学校対抗トライアスロン

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【特別授業】学校対抗トライアスロン

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(4)『小猪避け』

『『さぁ始まりました第四種目『小猪避け』、早くも飛び出したのは『ミルディアイシュタンペア』、完全に他の選手たちを置き去りにしています!!』』
 実況は再び和泉 絵梨奈(いずみ・えりな)、より詳細な情報をお届けしようと『空飛ぶ箒』で『ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)イシュタン・ルンクァークォン(いしゅたん・るんかーこん)ペア』の前方に回り込んで―――
『『ミルディアさん! イシュタンさん! 失格ですっ!!』』
「何で?!!」
 いきなりのレッドカード通告だった。当然ミルディアはこれに抗議した。
「どうしてあたしたちが失格なのよ!」
『『肩車をしているからですっ! 乗っているイシュタンさんが『跳ねて』いないからですっ! 楽をしているからですっ!!!』』
「うっ……それは……」
『『楽をしているからですっ!!!』』
 なぜかもう一度念を押した。間違ってはいないが、きっとポイントはそこではない。
 ルールでは『跳躍以外の方法で進んだ場合は失格』とみなされる。イシュタンミルディアの両肩に跨って座っているわけで、確かに『跳躍』はしていない。つまりルールに則ればイシュタンは失格ということになるが……。
「それは違うわ!! これは……これは『トーテムポール』走法なのよっ!!」
『『『トーテムポール』走法っ?!!』』
「そぅよ! たくさん顔が積まれていてもタワーで一つの『トーテムポール』つまり! 肩車をした時点であたしといしゅたんは一人なのよ!!」
『『なっ……そんな屁理屈な……』』
 屁理屈と分かっていてもそれ以上に追及する事は出来なかった。
「じゃあそういう事で〜〜〜」
『『あっ、ちょっとミルディアさんっ』』
 実況が停滞している間にも、もちろん他の選手たちはしっかり『跳ねて』進んでいる。『山葉 聡(やまは・さとし)サクラ・アーヴィング(さくら・あーう゛ぃんぐ)ペア』もそうなのだが―――
「いや〜何でだろうな、せっかくジャンプさせるんだから女子限定にして服装は水着指定にすればもっと盛り上がると思うんだけどな〜」
「ゲスい事を言った時点でアウト、女性は寄りつかないという事を知りなさい」
「甘いなサクラ、今の時代、ガツガツしてる位の方がモテるんだぜ」
「はぁ……週刊誌を真に受けているから成功しないのよ」
 どうにも真面目には取り組んでいないようだった。
「言ったなこの野郎〜、見てろよ〜、おっ」
 ナンパ野郎が見つけたターゲットは箒に跨る実況の絵梨奈だった。
「あれ〜、そういえばさっきからずっと一人だよね? これ終わったら一緒に冷たいものでも飲みに行かない?」
 突進してきた小猪を跳び避けて、そのまま彼女に声をかけた時だった―――
「はべっ!!!」
「聡っ!!」
 大砲のように飛んできた『小猪』が直撃して、は思い切り吹き飛んだ。
「あ〜すみません、『蹴ってくる人』なのに思わず『小猪』投げちゃいました」
 気を失い、ピクピクと震える。パートナーであるサクラの手を離したため、ここで失格である。
「ちょっとアナタ!」
「抗議は一切受け付けねぇ。俺は俺の仕事をしたまでだ」
 そう言い残して『蹴ってくる人』担当のジャック・メイルホッパー(じやっく・めいるほっぱー)は次なるターゲットを見つけて駆けだした。
「どぉもー、動く障害物『蹴ってくる人』でーす」
 意外とノリノリなジャックに狙われたのは『風祭 隼人(かざまつり・はやと)ルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)ペア』だった。
「ちょっ、待てってオイ」
 道ばたに落ちている石をポーンと蹴るのではなく、思い切り空を切る蹴りが2人に襲いかかった。しかも厄介なことに無駄にキレが良い。
「くそっ」
 しかもここに来て『特別ルール』を適用した事が完全に仇となっていた。小猪を跳び避けるだけならまだしも、足を手錠で繋がれた状態で戦うというのは余りにも不利だ。
「おらおらどーした! 腕が折れちまうぞ!」
「くっ」
 押し切られて体勢を大きく崩せば今度は小猪を避けられなくなる。といってこのままルミーナを守りながら奴の蹴りを腕で受け続けるのも無理がある。となれば―――
ルミーナ! すまん!!」
「きゃっ」
 右腕でルミーナを抱き寄せて、そのまま一気に地を蹴った。『バーストダッシュ』と『ロケットシューズ』を併用した強ブーストで一気にその場を脱出したのだ。
「ほぉ、考えたな」
 『バーストダッシュ』を使うのは二回が限度。ゴールまでは決して長いコースではないものの、その内の一回を脱出のためだけに使うとは、なかなかに思い切った良い判断だ。
 去りゆく隼人の背にそんな事を思い重ねた時だった―――
「お先に失礼」
「失礼します」
「って! オイお前ら!」
 ジャックの横を『姫神 司(ひめがみ・つかさ)グレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)ペア』が涼しい顔で駆け抜けて行った。
 繋いだ手が離れないように、大きめのハンカチでぎゅっと強く固定している。そんな手をハンカチごと蹴り破って『失格』にすることが彼の役目なのだが……気付いた時にはもう遅い、『グレッグ』は風のように去ってしまっていた。
「くそっ、どさくさに紛れやがって」
 そしてもう一組、ジャックの背後を駆け抜けようとするは『金元 ななな(かねもと・ななな)小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)ペア』なのだが……「なななたちもっ、なななたちもっ」
「このタイミングで言葉を発した場合、気付かれる確率は………………87%」
「100%だコラァ!!!!」
 即効で見つかった。
「おらぁっ!!」
 ジャックの狙いは当然2人が繋いだ手、と見せかけて若干イラついていたため顔やら胴部やらも容赦なく狙い蹴りを放った。
「あっ、とっ、とぉっ」
「あ、ちょっ、ななな殿、そっちは……」
「へ?」
 気付いた時にはコースに入っていた。10秒に一度スタートを切る『小猪』、うちの一頭の走路に入ってしまっていたのだ。
 『小猪』は直線にしか駆けてこない、つまりスタート直後に走路を確認してしまえば避ける事は難しくない。が、時速60km/hで突進中の車体の前に飛び出したならば―――
ななな殿っ!!」
 叫んだとき、繋いだ手を思い切り引っ張られる感覚がした。
「はっ?!!――――――ぐほっ!!」
「にゃぼっ!!」
 『にゃははははー』とでも笑おうとしたのだろうか、『轢かれる確率98.9%』とでも言おうとしたのだろうか。どちらにせよ、どちらも言うは叶わぬままに『小猪』に弾き飛ばされた。『ななな小暮ペア』スタート地点からやり直しである。
「ん、まぁ結果オーライだ」
 次のターゲットは繋いだ手を引き裂いてやる、と意気込んでコース内に目を向けてみれば、
『『ミルディアさん!イシュタンさん失格ですっ!!!』』 
「どーしてよっ!!」
『『イシュタンさんが猪に攻撃しているからですっ!!』』
「え? 倒しちゃダメなの?」
 シレッと言ったイシュタンは突進してくる『小猪』を『アリスびーむ』で迎撃していた。
「だって肩車して貰ってるだけじゃツマンナイし。それに! 猪を倒しちゃダメなんて聞いてないし」
『『うっ……それは』』
「そーよそーよ! ルールには無かったはずよ! 横暴だわ! 実況がいちゃもんつけてきたわ!!」
『『うぅ〜〜〜、動物をいぢめて良いわけ無いでしょう!! そんなの常識じゃない!!』』
「何よそれ! 今は競技中なんだからルールが全てでしょ! 常識よりルールよ!!」
『『じょっ、常識のないルールなんてこの世から無くなるべきなんですっ!!!』』
 …………………………なんだ、アリャ。
 完全に我を忘れている絵梨奈の姿に、パートナーとしては少しばかり呆れたものの、
「俺も混ぜろやコラァ!!」
 そのテンションの高さは心地よく思えてジャックもその輪に飛び込んでいったのだった。
 第四種目『小猪避け』は今しばらくに荒れる見込みのようである。

 第四種目『完走者:3ペア』。
 失格『山葉サクラペア』『金元小暮ペア』
 暫定順位、一位:シャンバラ教導団、二位:空京大学、同率三位:百合園女学院、蒼空学園。