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壊れた洞窟の隙間で待ってます

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壊れた洞窟の隙間で待ってます

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【3章】
「……っ! くそ、早く無くなれこの瓦礫!!」
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は積み上がって塞がれた瓦礫の壁を、ガンガンと攻撃する。
道が塞がれているだけではなく、かすかな隙間から瑛菜やアテナたちの声が聞こえたのだ。どうやら瑛菜たちが救出したと思われる子供たちも一緒にいるようで、子供の声の方がよく通ってきたかもしれない。
「何故おまえは俺の邪魔をする!」
 瓦礫に話しかけてもしかたないのだが。一応、この瓦礫の向こうには仲間がいる。迂闊にドラゴンアーツを使っては、二次災害にもなりかねないとエヴァルトは判断し、地道に少しずつ瓦礫を除去していくしかないと思った。

エヴァルトの瓦礫除去作業の音を聞きつけたのか、銀星 七緒(ぎんせい・ななお)が姿を表す。パートナーのローダリア・ブリティッシュ(ろーだりあ・ぶりてぃっしゅ)絹織 甲斐子(きぬおり・かいこ)も一緒だ。彼女ら……いや、彼らも人攫いを成敗すべく洞窟探索に来ていたのだが、人の気配のする方へと足を運ぶうちにこうして行き止まりに来てしまった。
「ちょうどいいところに……! いや女性陣の手を煩わせるわけには」
「あのなぁ、ローダリアと甲斐子はそうでも俺は男だ」
 七緒は呆れた顔をする。美しい容姿をしていると言えども立派な男子だ。エヴァルトはちらりと横目で見ただけだったので勘違いしていたかもしれないが。
「すまない。瓦礫に集中していたようだ」
「その先に何があるのかわかっているのか?」
甲斐子は瓦礫の隙間に手をかざしてみる。空気は通っているから「道が塞がってるだけよ」と七緒に報告する。
「なら、少しは進んだという事か。この先には熾月さんたちがいる。おまえたちも手伝ってくれないか?」
 人攫い退治が目的でも、仲間が負傷してはこっちの戦力がなくなってしまう。エヴァルトは子供たちもいるようだと説明する。なるべく女性には負担を掛けたくないものの、自分以外に誰も来る様子はない。
「そうですわね、誘拐犯にも出くわさなかったわけですし道を開いた方が先決ですわ」
 ローダリアの一声で、少し間を置いて七緒と甲斐子も頷く。
「……わかった。けど用が済んだらそれまでだからな」
「瓦礫退ければ何か出てくるかもしれないわね」
 七緒は仕方なしに、甲斐子はもしかしたら何かいいものが出てくるかもと期待して瓦礫をどかしていくことになった。
 先ほどより人数が増えたためか瓦礫の壁は薄くなりつつあった。隙間を除けば、閉じ込められている人たちの姿が見えた。
「っ! 痛いですわ……!」
 ローダリアは太腿から血を流している。瓦礫の尖ったところがかすれて怪我をしてしまった。
「大丈夫か! ローダリア」
「かすり傷ですわ、そんなに大きくは」
 七緒はすぐに駆け寄ると、懐から布切れを取り出して止血手当をする。二人に何かあった時のために適当に忍ばせておいたものだ。
「……! おまえ何見てんだ?」
 ギロりと七緒はエヴァルトを睨む。エヴァルトの視線はローダリアの太腿に向けられていて、何故かちょっと頬が赤い。
「別に……、怪我はたいしたことないのか?」
「大したことないって本人言ってるわよ。それよりあなたの視線が怪しい」
甲斐子はローダリアの怪我が大きくはないとほっとすると、七緒と同じような白い視線を送る。
「……、ふ、服装が状況と場所に合っていないだろう。俺のように完璧装備をしていれば怪我の心配はない」
 確かにローダリアはレオタード装備で太腿が露出しているわけだが……、思わずそこに目が行ってしまったとか、ちょっと見とれてしまったとかは言えまい。
「慣れてますから大丈夫ですわ」
「……とは言えあれだな、お前は警戒体制で待機だ」
「はい、七緒お兄様。了解ですわ」
 それから数分瓦礫除去が続くものの、ローダリアは眉を潜めて「誰かが来ますわ!」と忠告する。

 全員身構えると、暗闇から姿を現したのはトーマ・サイオン(とーま・さいおん)御凪 真人(みなぎ・まこと)だ。敵では無いことにホッとする。
「大丈夫ですか!? こちらに誘拐犯が逃げ込んでいると聞いたのですが……」
「あれ? もしかして倒しちゃったあととか?」
 トーマは尻尾をふりふりしながらあれー、と当たりを見回す。負傷したローダリアの傷を発見すると、「真人頼むよ!」と知らせてやる。



瑛菜とアテナは瓦礫に身を挟んだまま、身動きができないままでいた。
塞がれた瓦礫の向こうから、一生懸命瓦礫を退かす声や様子は聞き取れているのだが、こちらに来るのは難しいようだ。少なくとも空気の通り道はできたので、薄くなりつつあった酸素は確保できたからありがたい。
「瑛菜おねーちゃん、とりあえず窒息しないで済みそうだねぇ」
「助けが来てくれたって事は一先ずわかったからね」
 でも、瓦礫で圧迫された自分たちは血流が止まりそうだ。
「ううっこのまま血が通わなくて胴体切断なんてことになったら……」
「馬鹿! 怖いこと言わないの。絶対間に合うってあたしは皆を信じてるんだから!」
 涙目になるアテナを制し、瑛菜は頑張ろう、と元気付けた。
「瑛菜おねーちゃん、ごめんなさい。皆間に合うよね!」

「キミたちー! 何か進展でもあったのかー?」
源 鉄心(みなもと・てっしん)はパートナーのティー・ティー(てぃー・てぃー)と一緒に、瑛菜とアテナたちとはまた反対側の瓦礫に閉じ込められていた。瑛菜幸い、少し大きめな声で話しかければ会話は通じる。
下手したらまた崩れるかもしれないのでそうやすやすとは瓦礫を退かせないことに躊躇していたのだ。こちらにも救出した子供たちは数人いるし、怪我を負わせたくない。
 助けが近づいて来ているらしいとわかると、胸をなでおろす。
「皆さん、仲間がもうすぐこちらに来るようですよ」
ティーは不安げな子供たちに、優しく声をかける。
「……おねぇちゃん、本当?」
「ぼくたち、もうすぐ出れるの?」
「ええ、ですから泣かないで、大丈夫」
 けれども、ティー自身も不安だったりして目が泳いでいる。ああ、子供はこういうところを見ているのに自分が不安になったりしてはダメと、己に言い聞かせる。
「私のこと忘れてませんですの〜?」
 そのまた瓦礫の向こうから、イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の声が聞こえる。ティーと同様、鉄心のパートナーだ。一緒に行動していたのに、イコナ一人だけ思わぬ瓦礫に阻まれてしまった。
「イコナ、そっちはどうだ?」
「どうだって、なら鉄心も手伝ってくださっても……」
 複雑に積み上がった瓦礫は、イコナ側からなら瓦礫を退かしても大丈夫で、鉄心たちの方から退かそうとすると崩れるという、なんとも女の子にはハードな状況になってしまった。
「無理しなくていい。救助が来たみたいだからもう少し待てば……」
 鉄心は心配そうにイコナに声をかける。一人だけ取り残させた上に危険なマネはできればさせたくない。
「それより先に、鉄心とティーの顔が見たいですわ。わたくし結構タフですのよ?」



洞窟が瓦礫だらけになるほんの少し前。瑛菜たちがまだ動けて、子供たちを救出している頃に洞窟地盤近くでは人攫いでもなく、救出作業でもなく、アジトを掘り当てるドクター・ハデス(どくたー・はです)の姿があった。
「フハハハ! この洞窟は秘密のアジトにするのに丁度いい! さあ、もっと掘って広くするのだ!」
 ここの洞窟は涼しく過ごしやすい。足場が悪いから、奥へ掘っていけば誰にも見つからない。一応、既に掘ってアジトにしているのだが、なんとなく人に見つかりそうなのと実験道具が多くなり手狭になってきてしまった。洞窟なのだからとりあえず掘って掘って掘りまくればスペースは広げられるのだ。
「兄さん、こっち掘って本当に大丈夫なんですか?」
ハデスを手伝う、妹の高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)は微妙にひび割れを見て言った。
「大丈夫だ心配するな! 俺の目に狂いはなぁい!」
 ハデスは自信満々だ。自己過信しているのではないかという咲耶の咎めは聞くつもりはないらしい。
「ここを掘ればよろしいのですか?」
機晶姫のヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)は自らに備わっているドリルをウィーン……と機動しながら確認する。
「ああそうだ。人造人間ヘスティア、そのまま進むのだ!」
「かしこまりました、ご主人様……じゃなかった、ハデス博士」
 ヘスティアは言いかけた言葉直すと、指さされた方向へ直進して行った。ドリルはギュイーンッと岩を砕くと大きな音を立てる。
「なんか、この作業ヘスティアに全部任せて済んじゃいそうですね」
 咲耶は平たい口調でハデスに言う。
「んー、そうだな。だが俺たちはこっちを掘るぞ! 咲耶も手を動かすのだ」
 ヘスティアとは違う斜め先の方向を掘っていく。二つの通路を作って、最終的にはアリの巣穴のように色々な部屋をつくるつもりだ。
「もう……っキャンプって言ったのに……」
 咲耶はぶつぶつとつぶやきながら、ガッガッと掘る作業に不満をぶつける。
「? 何か言ったか」
「何も! とりあえず掘ればいいんですよね!」
 何も気づいていないハデスに吐き捨てるように言った。今日は山にキャンプに行こうとハデスが言ったのに、アジトでひたすら労働作業だなんて。“今日は山(にある洞窟のアジト)でキャンプ(寝泊りする覚悟で作業)”の間違いだったのだ。一緒にゆっくりと羽のばしをするものだと咲耶は思い込んでいた。
 兄さんの馬鹿。やっぱり私のこと改造人間だとしか思ってないのかな。ヘスティアも……。
 そう思うと、気分が沈んでしまって、掘るペースが落ちていく。
「兄さん、ちょっと私はヘスティアの方見てきます」
「それなら俺も見ておかないと。一緒に……」
「大丈夫です!」
 その直後、ゴゴゴゴゴ……ッと音を立て地響きと揺れが生じる。ボロボロと周りの壁の破片が崩れ落ち、次第に落ちてくる破片は大きくなり瓦礫へと変わっていく。
「なっ……どういうことだ」
「地震……?」
 このままでは埋まってしまう。ヘスティアに早く知らせないと――。
「咲耶! 危ない!」
「え?」
「伏せていろ!」
 背後から来る瓦礫に気づいていない咲耶に覆いかぶさるように、ハデスは庇った。肩を引っ張るようにして落ちてきた瓦礫をよけ、腕の中に丸め込むような形で小さな破片の縦になる。
 収まるまでじっとハデスは咲耶に当たらぬよう、落ちてくる破片を背中で受け止めていた。
「に、兄さん……?」
「大丈夫……か」
 ハデスが盾になったおかげで、咲耶には傷一つついていなかった。ハデスは背中に受けた痛みに苦い顔を浮かべて、無事ならそれでいい、と笑みを浮かべる。
 突然のことに、咲耶はこくこく、と首を縦に振るしかなかった。
「どうやら閉じ込められたようだな」
「嘘……っ」
 所々瓦礫の間から証明の光が入り、完全な暗闇というわけでもないのだが、瓦礫に囲まれて出られなくなってしまった。あまり身動きもできない状態だ。
「(顔近ッ)へ、ヘスティアが心配ですね……」
 瓦礫のせいとはいえ、スペースの余裕がなく距離が近い。ハデスから目を逸らすように、咲耶はヘスティアの名前を出す。あの子ももしかしたら瓦礫の中にいるのでは……。



「そういえば、ハデス博士はどこまで掘ればいいと言っていたんでしたっけ……」
 掘り続けていたヘスティアは、聞きそびれていたことを思い出してドリルの回転を止める。とりあえず掘れというだけだったので、掘りやすいところをひたすら掘り進んでしまった。
「ずいぶん長く掘ってしまいました……。一応報告に行かないと」
 来た道を帰るようにして進む。まるでモグラの穴蔵だ。けれど数十メートル歩いて戻ると、瓦礫で行き止まりになってしまっていた。
 この積み上がった瓦礫は下手すると埋もれてしまうかもしれない。
「……!」
 どうしよう。いつの間にか閉じ込められてしまっていた。
 3人が掘った影響で、洞窟にヒビが入り崩れた原因だとは気づいていない。ドリルの音で気付かなかったからだ。
「はっ……、地図データ……入れてもらうの忘れていましたね」
 うーんと考え込むと、顔をあげてドリルを起動する。
「よし、ヘスティアは新たな道を切り開くことにします」
 掘った先までまた行き、戻りを繰り返して掘りやすそうなところを探していく。手を加えても崩れなさそうなところを手で少し掘り、確認してからドリルで新しい道を進むことにした。

ぎゅいいいいいいいん
「あわわわっ!!」
 イコナは謎の機動音にびっくりして声をあげてしまった。「どうした!?」と鉄心も何事かと驚く。
 きゅいぃん……。と音が小さくなり止まると、瓦礫からぼこっと人の手が出てくる。今度はあまりのことに声も出ず、目と口を開けたままそっちを見ていた。
「あっ……人! あ、こんにちは」
「こ、こんにちはですわ……」
 手が出てきて、洞窟で死んだ何かと思えばドリル装備の少女、ヘスティアだった。
「あの……、もしかして救出隊の方ですの?」
「というわけではないのですが……」
 困ったような表情を浮かべるヘスティアに、恐る恐るイコナは鉄心たちのいる方を指さす。
「ここ、そのドリルで掘れたりしますの……?」
「掘れますよ。ずっと掘り進んで来ましたので……」
 イコナの手は真っ黒で、ずっと手で掘っていたせいだ。サラマンダーも一緒に作業したのだが微々たるものだ。
 はじによけると、ヘスティアはドリルで瓦礫の間を突き抜けた。
 ポロポロと除去したところから、鉄心たちの姿が見えてくる。
「やっと会えましたわっ!」
「イコナ!」「イコナちゃん!」
 主人と会えたパートナーは3人揃って抱き合う。
「えっと……なにはともあれ、良かったんですよね」
「ありがとう、いとも簡単に……! あなたのおかげですわ!」
 イコナはヘスティアの両手を握手するようにぶんぶん振った。よほど嬉しかったのだろう。
「私もハデス博士のところに早く行かないと……ですね」



「皆さぁん、大丈夫ですか?」
キリエ・エレイソン(きりえ・えれいそん)は瓦礫の隙間から光を照らして、上から瑛菜たちを確認する。
「ちょっと、光まぶしすぎじゃないですか? この暗がりじゃ目に痛い」
 瑛菜たちを発見したのはいいが、いきなり強い光で照らしてしまったらあっちが困るだろうと、パートナーのセラータ・エルシディオン(せらーた・えるしでぃおん)は言う。
「そうですね少し弱めに……」
 人がやっと通り抜けられるぐらいの穴から、二人は滑り落ちるように、瑛菜たちのところまで降りる。白い服が擦れて黒くなってしまった。
「キリエ! セラータ! 助けに来てくれたのか?」
 瑛菜とアテナはやっぱり信じて良かった、と明るい顔になる。
 一緒にいた子供たちも、わぁっと安心した顔を浮かべた。
「ええ、お二人ともご無事でよかったです」
 キリエは二人を挟んでいる瓦礫を確認すると、セラータと共にヒールを発動して痛みを和らげてあげた。
「すみませんが瓦礫自体退けるのは少々難しいですね……」
「キリエと俺の力で効果は一応強まってますけど、その場しのぎってとこで」
 キリエとセラータは申し訳なさそうな顔をしながら治療に専念する。
「ううん、痛みがだいぶ無くなったから大助かりだよ。ね、瑛菜おねーちゃん」
「そうだな、血流止まりそうって心配してたけどそれが無くなっただけマシだよ」
 瑛菜とアテナは瓦礫に圧迫されてどうなるかと思ったが、あとはこの瓦礫を退けてもらうだけだ。
 キリエは携帯を取り出し、外で待機してくれと頼んだ救出要請の電話をかける。
「あれ、さっきは電波突然ブチっちゃったのに……」
 先ほど瑛菜が色々な人に連絡していたら途切れてしまったのに、急によくなったらしい。
「おそらく、その時は私たちが通ってきた入口が塞がっていたせいでしょう。今はこうして通じてますし、安心してください」
「もう大丈夫なの?」
 子供の中の一人がそう聞くと、セルータはニャンルーを何匹か懐から出す。
「もう少しのしんぼうですよ。俺のニャンルーでそれまで遊んでくれますか?」
 ニャンルーはよろしくですにゃーと子供たちに話しかける。普段は戦闘用のお供だが、こういうときは動物セラピー効果も発揮するだろうと召喚したのだ。
 擦りむいたり怪我をしている子供たちの手当を行い、救出班を待つことにした。



「瑛菜ぁー! 無事かぁ!?」
 キリエとセラータからの通信を受け、下着のみの国頭 武尊(くにがみ・たける)は知らされたルートをたどって洞窟内まで降りてきた。後輩が危険な場所で身動きが取れなくなっていると聞いて心配で仕方なかった。
 声が届いたらしく、「無事だよー」と声が響いて返ってくる。
「少し待ってろ、今行くからな!」
「よかった、治療はキリエたちがやってくれてるから、あとは助けだすだけ……ってなんだよあんた、その格好」
 同じく呼ばれたシオン・グラード(しおん・ぐらーど)は武尊のセクシーな格好に呆れながら言った。
「ていうか、洞窟下着ショーできそうだな。怪我しそうな格好だけど。まぁ怪我した奴のためもあって俺も来てるんだけどさ」
シオンのパートナー、華佗 元化(かだ・げんか)は苦笑した。
「洞窟下着ショーか! それはいい考えだな。瑛菜も救出したら参加してくれるだろうな!」
 間に受けたのか武尊ははっは!と豪快に笑った。
「あはは、それどうだろ?」
「そんなのはいいから、早く助けに行くぞ!」
 シオンが叱咤すると、用心しながら上の穴から下へ降りていくと、意外にも救出待ちの方は元気そうで、3人は少し安心する。

「待ってましたー!」
 アテナはぱちぱちと拍手すると、シオン、元化、武尊は駆け寄ってきた。
 治療をしていたキリエは、お願いしますとそこから少し離れる。
「これに挟まれてるんだ! 退けてくれない?」
 瑛菜は自分たちを身動きできなくしている瓦礫を指さした。
シオンは頷くと、持っていた轟炎鎚(ヴォルケーノ・ハンマー)を使って、その瓦礫を丁寧に崩すことにした。その破片で怪我をしないように、元化はサポートしていく。
「よし、力仕事なら任せてくれよ! ……若干1名は気にしなくていいけど」
「いや少しは気にしてくれって」
「何でもいいからここから出してよ」
 武尊はシオンの崩した瓦礫を取り除くようにして運び出す。そして今の言葉をしっかり聞いた!と言うかのようににやりと口のはしを上げて笑う。
「何でもいいって言ったな? よし謝礼はパンツでいいからな!」
「はぁ!?」
「瑛菜おねーちゃんにセクハラ言わないでよ!」
キーッと八重歯をむき出しにしてアテナは怒る。
「あ、おい、あんまり暴れると一緒に傷つけちまうかもしれないから、ちょっと堪えてくれよ」
 結構用心して作業しているシオンは、アテナを宥めた。せっかく助けに来たのに怪我をさせるわけにはいかない。
「無事助かったらシオンが飯奢ってくれるってさ、な?」
 元化はフォローするようにシオンにアイコンタクトをおくる。
「ラッキー、お腹減ってたんだ」
「よかったね瑛菜おねーちゃん!」
「くそー、一歩先取りやがって……」
 悔しげに武尊は瓦礫を退かすが、はっと表情を変える。雑魚モンスターがわらわらと瓦礫の隙間から現れたのだ。
「なっ……モンスターだとっ! 瑛菜たちに危害は加えさせん!」
 手にしていた瓦礫をモンスター目掛けて投げる。幸い雑魚なので一撃で気絶してくれたものの、1匹2匹ではない。



「待て! 薬を返せ!」
氷室 カイ(ひむろ・かい)サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)の光術を頼りに、雑魚モンスターを追いかけていた。洞窟を邪魔な瓦礫を除去しながら進んでいたのだが、通りかかった雑魚モンスターに隙をつかれて所持していた薬をひったくられてしまった。
「救護班や怪我人のために運んで来たのに……、すみませんマスター」
「謝る暇があるなら捕まえろよ、ペディ」
「了解です。……あ! あの隙間に」
 雑魚モンスターは小さな体を利用して、瓦礫の積み上がった隙間を通って行く。
「手間かけさせやがって……!」
「何匹か別の方向へ行ったようですから、私はそちらの方に」
「ああ、任せた……ん?」
 隙間を通っていったモンスターを追いかけるには、この瓦礫を破壊するほか無い。カイは聞き覚えのある声が瓦礫の向こうから聞こえた。その主と思われる瑛菜に、確認のため携帯に電話をかける。
「今変なモンスターが入り込んで来ちゃったんだ! こっちはなんとか抜け出しそうなんだけど」
「その向こうにいるのか? 待ってろ今行く!」
 とにかくこの瓦礫を排除しないと、モンスターも終えないし危害が心配だ。ハイパーガントレットを使いながら、瓦礫を崩していく。
「どうしたんですかぁ? こんな暗い中ぁ」
ルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)が眩しい光を照らしながらこちらにやってくる。洞窟探索に来たらしく、カイは手短に状況を説明した。
「明かりを使える奴が今別行動なんだ、手伝えるか?」
「了解ですぅ」
 カイが破壊した瓦礫を、ルーシェリアは光を照らしながら、テレピートで浮かして退けて行く。やっとのことで人が通れるほどの隙間ができると、モンスターは怪我人や子供たちにちょっかいを出していた。
 もうすぐで瑛菜とアテナの身動きを封じている瓦礫の除去が終わりそうなところに、邪魔をしているモンスターもいる。
 カイとルーシェリアは、仲間に攻撃が当たらないようにモンスターに攻撃を当てる。少しでもズレれば怪我人を増やしてしまうので、神経を使う。
「えいっ! だいぶモンスターは片付きましたねぇ」
 ルーシェリアが最後のモンスターを仕留めると、カイはそのモンスターの手から奪われた薬を取り返した。
「すまない、こちらのミスでモンスターを誘いこんじまって」
 瓦礫除去作業や襲われそうになった人たちにカイは詫びる。幸い雑魚モンスターによる危害は少なかったようで、大丈夫だと何人かの声が返ってくる。

「よしっ! これで外れる!」
 シオンが瑛菜たちを瓦礫から開放し、救出が成功するとわああっと洞窟内に歓声が響いた。
「みんなありがとおおっ!」
 皆にお礼を言いながらも、アテナは瑛菜に抱きつく。疲れたのか、瑛菜はアテネにもたれかかった。
「皆サンキュー! やっと開放されたよ……」
 瑛菜たちの救出劇も落ち着き、救護班の回復魔法を借りて、皆完全回復した。
「皆―っ大丈夫? 良かったー瑛菜たちも無事だねぇ」
 危険の知らせを来て助けに来た騎沙良 詩穂(きさら・しほ)だが、出番取られちゃったねぇと苦笑いする。
 焦った様子すら見せない詩穂に安心したのか、何人かの子供は泣き出してしまった。
「泣かないで、詩穂が安全な道案内するから、もうすぐ外に出られるよ!」




「うわー凄い有様ですぅ」
ヴィサニシア・アルバイン(びさにしあ・あるばいん)は崩れた瓦礫の光景にむしろ感心してしまったようだ。人命救助に来たけれど、人は見当たらないしで半ば面白いものがないかと探索しているのだ。
「どこかだれかいないですかねぇ……」
「そうよ……うああっ! 死体!」
一緒に歩いていたリュキア・ランドミュー(りゅきあ・らんどみゅー)は驚いてヴィサニシアに抱きついてきた。
「えええっ死体……って」
 恐る恐る近づいて見ると、確かに瓦礫の隙間から人と思われる手が見える。手首から腕の方はきっと瓦礫の下だろう。
「よし、あたいが確かめてみるですぅ」
 もし生きているなら、脈拍があるはずだ。意を決してその手に触れてみると、手はぴく、と動いて、ガシィッとヴィサニシアの手を掴んだ。
「死体が動いたですぅ! ゾンビ!?」
 驚いて反射的に手を話すと「生きてる!!」と中からくぐもった男の声がした。まだちゃんと意識があるようで、二人は胸を撫で降ろす。
「ボクたち救助に来たの。待ってて!」
 驚くのも無理はないよと、リュキアはヴィサニシアをフォローし、アーミーショットガンで瓦礫を崩していく。
「う、うーん……」
 少女と思わしき声も聞こえた。中には一人ではないらしい。
「女の子もいるですかぁ?」
「ああ、……早く頼む」
 中に瓦礫が崩れないように、慎重に退けて行った。
 ガラガラと音を立てて瓦礫が崩れると、ハデスと咲夜が姿を表した。咲夜は酸素が薄いせいか気絶していたのだが、瓦礫を崩す音に目を覚ましたようだ。
「ありがとう、貴方たちのおかげで助かりました。兄さんも、ほらお礼言ってください」
「本当、一時はどうなるかと……。お礼に、その耳と尻尾を研究してあげよう」
 ハデスの目線はリュキアの耳と尻尾を追っていた。触り心地を確かめるかのように尻尾を掴む。びくぅっとリュキアは飛び跳ねるように反応した。
「あ、尻尾つかまないで。力がぁぁぁぁ」
「こら兄さんっ!」
 バシッと突っ込むように昨夜はハデスの頭を叩くと、ヴィサニシアは可笑しそうに笑っていた。
「なんか面白い人助けちゃったですぅ。とにかく元気でよかったぁ」