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ここは蒼空荘

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■秘密基地

 火村 加夜(ひむら・かや)山葉 涼司(やまは・りょうじ)とともに荘内を探索している。蒼空学園生の多いこの下宿の実状を把握しておくべきだ、と加夜に諭されて、渋々参加した形の涼司だが、二人で手を繋いで探索する様は、言ってしまえばデートであり、なんだかんだとまんざらでもなさそうな涼司がいる。
「できればみなさんと仲良くしたいのですが……思ったよりみなさん血気盛んなのですね」
 加夜は小さくため息をつく。独り身の男子が少なくない蒼空荘で、仲睦まじい様子のカップルの姿である。話し合いの機会など得られるはずもない。合言葉は「リア充爆発しろ」。今年もクリスマスが近い。
「これは、涼司くんへのお礼参り、というやつでしょうか?」
「少し違うと思うが……」
 持つ者は、得てして持たざる者の気持ちが分からないものだ。
「それにしても、熊が冬眠しているというのは本当でしょうか?」
 蒼空荘の噂の中でもとびきり怪しいその噂の真偽を確かめたいのだが、住人に話を聞くことができないとなれば推測するほかない。加夜に疑問を向けられて、涼司は「わからん」とかぶりを振った。
「ただ、いたらいいな、とは思うかもしれないな」
 男なら誰しも夢見た自分と仲間だけの居住空間。そこにはなんでもあったし、そこではなんだってできた。立ち入った者を迎える罠や、外部からは実態のつかめない蒼空荘には、かつて夢見たものが感じられる。だから、あるいは熊だって――
「……熊はないな」
「熊はちょっと困りそうですね」
 小さく笑う。幸せそうな雰囲気に当てられて、何人かの住人が戦わずして敗北を認めていることを、二人は知らない。


「つまり、レトロな見た目をそのままに中身を大幅にリフォームするのよ。すると、なんということでしょう! 住人の奇行が大幅に減少するのです。そうだよね、ダリル」
「そこまで単純化できるかどうかはわからんが、環境がよくなれば、概して人には落ち着きが出るものだ。やってみる価値はあるだろう」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が提案する下宿補修計画に、管理人の女性は興味深そうに食い入っている。
 真正面、入り口前、管理人はそこから蒼空荘を見上げた。甚だボロい建物だ。
「補修ね、確かにそれもいいかもしれない。いっそ徹底的に、外観からなにからパーッとやっちゃいたいんだけど、それはだめ?」
「それは取り壊して一から建てなおすことになるだろう」
 ダリルが苦笑する。
「正直、それくらいしないと補修なんてできそうにないと思うけど……」
 管理人であっても正確な部屋数を把握しきれていない荘内を思い浮かべ、難しい顔をした。
「大丈夫大丈夫! ダリルの匠の技ならどんな建物だってへっちゃら! なんたってダリルは飛空艇だって修復したことあるんだもの」
「マッピングを行なっているやつらが帰ってきたら、完成した地図を見せてもらい、それから設計図を作ろう。この大きさの建物なら三日もあれば工事が終わるだろう」
 果たして、完成した地図を見たダリルは難色を示した。
「これは……本当にこの建物の地図か……?」
「迷路みたいね」
 ルカルカの言う通り、その地図は迷路のごとしだった。そのうえ、その迷路は、あろうことか建物の面積よりも明らかに広大である。ダリルは地図を百八十度回転させたり、裏側から眺めてみたりと試してみる。
「俺は安下宿と聞いていたんだが……」
「秘密基地みたい」
 結局のところ、それである。なぜ勝手に増改築を繰り返すか、住人たちが正直なところを語れば、秘密基地に心踊らせているから、であろう。
「外部の手で補修するというのは、無粋か」
 そもそも、どれだけの予算があれば荘内全体の補修ができるのか、想像もつかないけれど。
「ね、ね、それじゃあさ、ルカたちも中に入ってみようよ!」
 地図に好奇心を刺激されたルカルカがダリルの袖を引っ張った。それもいいか、と思うダリルだった。



 今日という日が終わる。イベントが終わる。だが、蒼空荘に静けさはまだ戻らない。
 イベントの締めくくりは管理人の仕事だ。
 上機嫌にイベントの結果を振り返る。バッチリ成功、というのが彼女の評価だ。思った以上に多くの参加者が集まり、宣伝効果は上々。さて、肝心要の下宿のイメージ回復であるが、こればっかりは一朝一夕でなにがどう変わるわけではない、時がいずれ結果を出すだろう。
 大々的に噂の裏付けを行っただけのような気は、ものすごくするけれど。
 楽観視する彼女は、まぁいいか物珍しさを売りにする戦略もアリね、とどこまでも楽観的だ。
 さあ、スタンプラリーの景品に、たっぷりのご馳走を作ろう。

担当マスターより

▼担当マスター

浦苗 棉

▼マスターコメント

このたびはシナリオのご参加ありがとうございました。浦苗 棉です。
初のシナリオで、緊張してのお送りとなっております。意気込みが伝われば幸いです。
まだまだ未熟なマスターですが、みなさまに楽しんでいただけるよう、これからも精進していきたいと思います。
またお会いできる日を楽しみにしています。

▼マスター個別コメント