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 一方、町の外では、入り口をゴーレムに守られ、ようやく届いた救助隊によって簡易テントが設営されているのもあって、避難してきた人々はひとまずの安堵の表情を浮かべていた。
 途中ではぐれた家族や友人が、それぞれの安否を確認して抱き合ったり、まだ不安げに空を見上げたりしている人々を眺めながら、騎沙良はようやく深い息を吐き出した。
「なんとか、大きな怪我人も出さずに済みましたね」
「そうだね」
 救助テントの中で椅子に腰掛けていたレキも、同じように息を吐き出す。
「良かったあ……」
 呟くや否や、椅子の上でぐったりと力を抜いたのを見て、避難誘導を終えて集合していた他の皆も、ふっと表情を和らげた。
「あとは、最後の捜索に行ってる面子が戻ってくれば……」
 エースが言えば「噂をすれば」とゴットリープが町の入り口に視線をやった。
 そこには、蛇々たちがリリィを抱えて帰ってくるところだった。
「この人で、多分最後だ」
 リリィを抱えたエスカフロが、言いながらテントに入ると、簡易ベッドの上にその体を横にさせる。避難中も、蛇々とリュナが治療とナーシングを行い続けていたためか、顔色は倒れた時よりも大分良くなっている。
「あとは、契約者たちだけだと思うけど」
「わかった。念のため、町の人に安否のわかってない人がいないか、確認してみるね」
 そう言って騎沙良が町の役人たちの元へ向かう中、散々町の中を探し回ったためだろう、シートに腰掛けていたイアラの横に、エスカフロがぱったりと倒れこんだ。
「限界だ……」
「おつかれさま、おにいちゃん」
「お疲れ」
 リュナや周囲が労いの言葉をかけていく。
「さて、私たちものんびりするのはまだ早いよね」
 蛇々は立ち上がると、リュナや他の回復手段を持つメンバーたちと共に、他に怪我人や動けなくなっている人がいないかの確認に向かった。


 その道すがらのことだ。
「何ですって?」
 硬い声があがって、蛇々は足を止めた。見れば、炊き出しをしているテントの前で、数人の大人が落ち着きの無い様子で何事か訴えているようだ。
「落ち着いてください、今、確認を取っていますから」
 そんな大人たちを宥めていたのは、炊き出しの手伝いに回っていたルーク・カーマイン(るーく・かーまいん)だ。
「どうしたの?」
 ただごとではない雰囲気に蛇々が声をかけると、ルークがやや困ったような顔をする。
「どうやら子供たちが数人、まだ町の中にいるみたいなんですよ」
「ええ?」
 蛇々は思わず声を上げた。
「でも、私たちちゃんと……隅々まで探したのに……」
 自分たちが見落としてしまったのだろうか、と顔を青ざめさせた蛇々に、通信を受けたルークは「いえ」と首を振った。
「見落としではなく、あちらの方が逃げているみたいです」
 避難している人々の中に、子供たちが走り去っていったのを見た、という証言がいくつか上がっているらしい。
「他にも、観光客の何人かが、子供たちが柱に何かしているのを見たらしくて……」
「ガキどもめ、柱を倒しおったな」
 唐突に、二人の会話に苦い声が割り込んだ。振り返ると、数人の老人が眉を潜めている。
「何故封印が解けたのかと思うておったが、この様子じゃあ間違いなかろう」
「じゃから触れてはならんとあれほど言うておったのに」
 口々に老人たちが言うのに、ルークは慌てて「待ってください」と思わず声を上げた。
「この事態の原因に、何か思い当たることがあるんですか?」
 尋ねると「ストーンサークルの封印が解けたのじゃろう」と、老人があっさりと答えた。
 絶句する二人に、もう一人の老人が続ける。
「今は観光の目玉とされておるがの。あれはこの町が出来るより以前、あるものを封じた、その封印の要なんじゃよ」



「それが本当なら、もう一度封印をしなおさなければならないわね」
 一通り老人から話を聞き終え、要約したルークの報告に、騎沙良が難しい顔をした。
「ですが、町の外から封印の出来るような術氏は、今は町にはいないそうなんです」
 ルークも難しい顔で言い、しかも、と続けた。
「フライシェイドの降下が激化してきているためか、町の内部との通信が上手くいかないんです」
「と、なると、こちらから封印の支持を出すことはできない、ってわけね」
 ニキータが腕を組み、苦い息を吐き出した。
「まずいわね……」
 騎沙良が呟く。こうしている間にも、フライシェイドは刻一刻とその数を増やしているのだ。早急に何とかしなければ、町の景観どころか、町そのものが失われかねない。だが、今の状況で町の外から中心に向かうのは危険すぎるし、安全にいこうとすれば今度は時間がかかりすぎる。どうしたものか、と悩んでいたのは数秒。
「俺が行きます」
 迷い無く、ルークがきっぱり言った。
「運良くというか、バイクを持ってきてあります。フライシェイドはストーンサークルを目指しているようですから、これならその流れに乗れば余り時間をかけなくて済むでしょう」
 言いながら、既にルークの体は軍用バイクに跨っている。
「今でも、この状況に皆、不安がっています。これ以上、その心を苦しめるわけにはいきません」
 刺されるのを防止するためか、手袋やらをいくつか重ねている。それを見て、ニキータは呆れたような息を吐き出すと、自分の制服をルークへと手渡した。
「無いよりはまぁ、ましでしょ」
「お借りします」
 制服を重ね着し、ハンドルを握るその目は揺らがない。その強い決意に、騎沙良はもう止めはしなかった。
「わかった。お願い……気をつけてね」
「こっちのことは任せてちょうだい」
 二人の言葉に頷くと、ルークは町の中心を目指して、強くアクセルを踏み込んだ。