空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

図書館“を”静かに

リアクション公開中!

図書館“を”静かに

リアクション

:―――:―――:―――:―――:―――:―――:―――:―――:


「じゃあ、お願いね?」
 この事件で最初に被害にあった人物……図書館の司書が、協力を申し出てくれた各々一人一人に対して指示を出していく。これだけの人数がいれば、明日までに片付けを完了することも不可能ではないだろう。司書はひとまず安堵し、細縁の眼鏡を直した。
「ふぅ……」
「あ、司書さん司書さん」
彼女に質問を投げてきたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)。彼女の指が示した方には、乱雑に積まれた本があった。
「欠けちゃってたり、ページが外れてる本ってどうします?そういう本は一応まとめておいてあるんですけど」
 まとめてある、と彼女は自信満々。しかし積み重なった本は、お世辞にも『まとめた』とは言い難いモノである。
「ありがとう。でももう少し丁寧に扱って欲しいかな、セレンさん?」
「あ」
 司書の苦笑いを、アハハと流そうとしたセレン。しかし後頭部にコツンと裏拳が当たる。
「だから言ったじゃない、壊れた本を更に乱雑に扱ってどうするのって」
パートナーであるセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)にも突っ込まれ、セレンはゴメンナサイ、と小さく呟いた。そんなパートナーの様子をよそに、今度はセレアナが司書に質問をする。
「で、どうしましょう。幸い読めなくなるほど酷い本はなさそうですけど」
「修復なら出来るぞ」
その質問に答えたのは、後方で作業を行なっていたモリンカ・ティーターン(もりんか・てぃーたーん)だった。
「出来るの?」
「まぁ、多少ならな。ページ外れは接着剤、破れは……不恰好じゃが、テープじゃな」
「へー、それでいいんだ?」
そう言ってモリンカの説明に加わってきたのは、清泉 北都(いずみ・ほくと)。両手に本を抱えながら出てくる彼も、破損した本の取り扱いに困っていたようだ。
「もうちょっと面倒事かと思ってたよ……モーちゃん!」
指示する彼の後ろから、モーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)が台車を押して来た。それに載った大量の本を山の横に置いていく。
「現状で見つかった破損本はこれで全部だ。なかなか結構な量があるな」
「うわっ」
次々に積まれていった本は、子供の背丈半分ほどの山二つ……セレアナが思わず声を上げてしまうほどの量になってしまった。
「これはこれで、面倒な問題だと思うけど?」
「まぁ、ね」
セレンの突っ込みに、北都は苦笑いをした。破損した本はここにある物だけではない。現状……開始して一時間ちょっとで集まった分量の、少なくとも数倍はあると見ていいだろう。
「すみません。破損したまま棚で埃を被ってた本も結構あって、それがこの騒動で表に出てきているみたいです……」
司書が目を伏せながら謝った。仕方ない、としながらもモリンカが進言する。
「現状、どの本が何処に入るのかが正確に分別されてないからのう。まだピクシーも残っておるじゃろうし、下手に片付けに着手するよりは修復に専念する方がよいじゃろう」
 それには全員が同意し、作業にかかろうとした……矢先、幼い容姿をした女の子二人組が耳障りな羽音から逃げてきた。
「モリンカー!」
 彼女を呼んできたのは焦げ茶の髪の娘、銀髪の娘は素手ながら的確に応戦している。しかしそれでも、十数匹のピクシー達に取り囲まれていた。
「す、すみませんが援護お願いしますー」
彼女ら……片野 ももか(かたの・ももか)市営墓地の精 市宮・ぼちぎ(しえいぼちのせい・いちみやぼちぎ)に対し、素早くカバーにに入ったのはセレンとモーベット。モーベットの《クレセントアックス》が、二人とピクシー達の間に振り下ろされる。
「もらいっ!」
動揺した所に放たれるセレンの《放電実験》。広範囲の電撃に数匹が落ちていき、それを受けた残りのピクシー達はあっけなく撤退していった。
「あら、あっけない」
「戦力差を考慮した撤退とも取れるが……っと、大丈夫か?」
二人に対して、二人とそのパートナーは礼を述べた。
「ありがとうございます」
「ありがとねー」
「わいからも礼を言わせてくれ……ありがとう」
その横で、追われていた二人を見たセレアナが気付く。
「それは……《ちぎのたくらみ》か」
「その様子だと効果無しのようじゃな、ももか、ぼちぎ」
モリンカが聞くと、残念そうにぼちぎが語った。
「はい。これならピクシーから油断して、作業が楽になるかと思ったんですが……油断するどころか仲間を呼んで弱い者をいたぶるように。何匹かは倒せましたけど、不覚でした」
「うっわー陰険」
その性質にセレンが思わず一言漏らす。
「賢しいとは聞いてたけどここまでとはね。一体何なんだろう、あのピクシーもどきは」
北都が考えこむが、やはり情報が少ないことが考察を妨げる。実際あのモンスターがピクシーかどうかすら、まだよく分かっていないのだ。
「ともかく、ある程度図書館が落ち着くまでは修繕と分別を優先して行ったほうが良いでしょう。下手に棚に戻そうとしても、ピクシー達に邪魔されそうですね」
司書が現状をまとめ、ここにいる全員に呼びかけた。
「はい」
「そうですね、雅羅さん達にもそう伝えてきます」
ももかが手を上げながら元気よく答え、ぼちぎが別行動中の雅羅達に伝えに走る。それを合図にするように、全員がそれぞれの作業を再開した。
そんな中、狡猾なピクシーを見て北都は、今まさにそいつらと戦っているであろう学校違いの知り合いの事を考える。
「勇平……は、まぁ何とかするよな」


:―――:―――:―――:―――:―――:―――:―――:―――: