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リアクション
●決戦! ゾンビもどき対ゾンビさん救出隊!
逃げてきた生徒達と感染した仲間を何とか治し、更に奥へと進む。
「次からは本当に頼むよ。大騒ぎにならないようにね」
部長の言葉に、誰もが「だったらもっと協力的になれ」と心の中で呟く。
更に奥へと進んで行くと、相当数のゾンビ(もどき)の群れに遭遇した。
「やっぱりゾンビさん達を救助するのが一番大事だよね。みんな、頑張ろう!」
ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)は、突入直後から作戦を練っていた仲間達に声をかけた。
彼らは部長に不信感を抱き、彼の言葉は置いておいて、とにかく自分達でゾンビ化した生徒達を助ける為に連携を取る約束をしていたのだ。
「裸族……か。いいぞもっとや……げふん、助けるしか……ないか。うん、話が進まないしな」
吉崎 樹(よしざき・いつき)はユーリの言葉に少しだけがっかりしたような声を出すが、とりあえず約束どおりゾンビの救助に仲間達と共に向かう。
「やっぱり感染者を安全に元に戻すにはこれだよね! ちょっとだけ痛いけど我慢してね」
フユ・スコリア(ふゆ・すこりあ)はさざれ石の短刀をゾンビに軽く刺すと、石に変えていく。
「石化解除と同時に注射してしまえば、安全に治せるでしょ?」
フユと協力してどんどんゾンビ達を治していくユーリだが、その内に不思議そうな顔をする。
「す、スコリア、どうして若い子……特に男の子ばかり狙うんだい?」
「え、だってイスミンスールの生徒ってかわいい子が多いから調教のし甲斐もあるし……」
「……調教?」
「え?いやなんでもなーいよ! はやくこの騒ぎをおさめなくちゃ!」
フユの言葉に、樹も頷く。
「ああ、早く男を取り押さえて、その裸を……いや、なんでもない」
ユーリは、はぁっと溜息を吐いた。
男性はともかく、女性が裸族になるなんて危ないのに、と。
(仕方がない、2人に男の子は任して僕は女の子を優先的に治そうかな)
そんなユーリの前に、1人の女性が現れた。
鈴木 麦子(すずき・むぎこ)は「お金持ちになる魔法」を求めてこの学校にやってきたところを、今回の騒動に巻き込まれた。
「……メイド服……趣味でそんな高そうなもの……羨ましい、です」
全身すっぽんぽ(自主規制)の麦子を見て、ユーリは注射器を構える。
「こ、これは趣味じゃなくてぼーいずめいどである僕の制服なの! それよりもそんな格好だとダメだよ。すぐに服を着せてあげ……」
そう言って立ち向かおうとしたとき、後ろに控えていた部長が目をハートマークにして飛び掛った。
「ひゃっは〜っ! メガネ、ロリっ娘、女の子〜〜〜っ!」
「危ないよ、部長!」
ユーリが止める声も間に合わず、エロ根性丸出しで麦子を押し倒す部長。
だが、直後にさらにその横から部長にタックルをする影が現れた。
「探したわ〜っ! 部室の前であなたを見た瞬間から恋をしてたの!」
「やった、もう一人女の子……ってなんですって〜〜っ!?」
部長はその女言葉を放つ人物を見て、驚愕の声を上げた。
確かに女の子らしくつるつるの肌に、むだ毛の処理も出来ている。
艶かしく腰を振るその姿は、あろうことか男(本人は自分を女と思い込んでいる)である鍛冶 頓知(かじ・とんち)だった。
「ひい〜、おいなりさんを近づけないで〜〜っ!」
「素敵な体。これが恋というものなのね。胸がドキドキとして止まらない」
「それはきっと薬の副作用〜っ!」
まるでダンスでも踊りかねない勢いで腰を振りながら、素敵な下着(中身あり)を部長に近づける頓知。
そして小指を口に咥えながら、ゆっくりと部長の服をはぎとっていく。
「あ〜……自分だけ……ずるいです。私も身ぐるみはいで……持って帰ります……ぐるるるる」
麦子も口を尖らせながら、部長の首筋に向けて口を開く。
部長が襲われると、部室まで案内する人間がいない。
「男の子ばかり狙っている場合じゃないよ! スコリア!」
「うん、もう魔法の準備をしてる!」
ユーリとフユは慌てて麦子達を取り押さえに走る。
が、間に合わない。
「ご奉仕しているんですから……後でお金下さい……がぶり」
「あっ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
麦子に噛まれ、嬉しそうな声を上げる部長。
(やばいな、何よりも最優先で部長を元に戻さなきゃ!)
一歩離れて警戒していた樹は、部長達の背後から殴りかかろうとする。
先入観からか、部長は弱いイメージで、そのまま気絶させて注射を打ってしまおうと考えた。
「だが、甘いぃ!」
「なんだって!」
部長はなんと、自らの服を盾にして樹の攻撃を受け止めると、そのまま素早い動きで噛み付いた。
「ふふふ、実は両刀だったのさ。君も同じ匂いがするな……がぶっ」
その衝撃に目を見開いた樹だったが、その目はすぐに光を失い、怪しい色に彩られた。
「……ヒャッハー! こうなったら俺も一緒に学生を襲うぜ! 主に美少年、いただきます! がるるるるるっ!」
もはや、感染したからという理由だけでは説明が付かないほど、勢いよくいい脱ぎっぷりを見せる樹。
その目は美少年であるリゼネリ・べルザァート(りぜねり・べるざぁーと)と白雪 椿(しらゆき・つばき)に向けられた。
「あわ〜、吉崎さんがこっちを見ています!」
次々と仲間達もゾンビ(あくまでももどきです、もどき!)にやられていく中で、戦慄を感じたリゼネリは椿に目配せをした。
「誰が感染して裸族になろうが実力がなかったと諦めるしかないが、感染力が強く、規模の小さいうちしか事態を収束できないのなら、早いうちに解決しておくべきだな」
椿は頷く。
「わ、わかりました、リゼネリさん。くれぐれも噛まれないようにっ。皆さんもお気をつけ下さいね……一生懸命サポートさせて頂きますっ!」
リゼネリは手に魔力を集め始める。
「僕とエスは敵の無力化に限定して行動する! 奈落の鉄鎖!」
彼が魔法を唱えると、その場に立っているゾンビ達の動きが一斉に遅くなる。
「まぁリベルをゾンビに差し出して感染させるという嫌がらせもありだけれど、流石に後が面倒なので止めておこうかしら」
冗談を言いながら笑うと、リゼネリのパートナーであるエリエス・アーマデリア(えりえす・あーまでりあ)はスティヴァーリ・ガレッジャンテを使って宙に浮いた。そしてしびれ粉を撒き始める。
一気に動きを鈍らせるゾンビ達の隙を突き、白雪 牡丹(しらゆき・ぼたん)は解毒を試みる。
「お注射……失礼しますね……っ」
たどたどしい手つきで、しかしアンボーン・テクニックを使って一生懸命にゾンビ達の解毒を行なっていく牡丹。
その彼女に周囲を警戒していた椿が叫んだ。
「危ない、牡丹っ!」
「えっ?」
ほわほわした牡丹が反応したときには、目の前には口を開けた部長の姿があった。
「え……あ……」
間に合わない。椿がそう思った瞬間、牡丹を助ける者がいた。
「クロスファイア!」
リゼネリの強烈な一撃。足止めの役を買って出た彼だが、牡丹の窮地に思わず部長に強烈な魔法を見舞っていた。容赦ない攻撃に吹き飛ぶ部長。
「危なかった〜、ありがとう。もう〜、部長ってばめんどくさいなぁ。椿と牡丹ちゃんに近づかないでよ〜」
リゼネリに礼を言いながら、コープス・カリグラフィー(こーぷす・かりぐらふぃー)は牡丹に持ってきていた服を着せる。
「この服だけじゃ不安だねぇ。椿もコートを着てきた方が、良かったかもよ〜?」
サポートの手を止めて椿の保護を行なうコープスに、八雲 虎臣(やくも・とらおみ)は呆れたように言った。
「今はそのようにしている場合じゃないだろう。着せ過ぎではないか? それにそれでは椿殿が動きにくいだろう」
「……着せすぎって、そういう君は牡丹ちゃんに何枚着せてるの?」
「5枚だ。保険のために水着も着て頂いた」
「…………」
2人して過保護だった。
部長を気絶させ、今度こそ確実にゾンビ達を救助していく救助隊のメンバー。
「いちいち服を着せては面倒だからな。失礼する」
虎臣は裸の麦子や樹達に毛布を被せてあげる。
「はぁ〜、すいません、すいません、こんなはしたない格好を! でもどうせなら高価な服を着せてほしかったです、後で売れますので!」
麦子はみんなが廊下に脱いで捨ててある服を、じいっと見ていた。
「本来はゾンビの解毒を手伝ってもらう約束だったにのな。まさか俺が解毒してもらうなんて」
樹の言葉にふっと静かに笑う虎臣。紳士的な彼らしく、中途半端な謙遜の言葉は返さない。
近くにいたゾンビ達はあらかた制圧し、解毒も済ませたようだ。
椿と牡丹は一緒に並んで、みんなに労いとお礼の言葉をかけていった。
「皆さん今日はお疲れさまでした……! 無事に事態も解決して……良かったのです……」
まだ事態は完全には収束していないのに、安心した笑顔を見せる椿。
「あ、あの、色々ありがとうございました。特に助けてくれて……ありがとうございます、リゼネリさん」
「気にしなくていいよ、最初から君が危険な目に遭ったら助けるつもりだったし……」
そう言って目を逸らしたリゼネリは、ふとある一点で視線を止めた。
リゼネリの視線の先には、まだ裸で徘徊している生徒。
「あ、まだゾンビさんが残っていたんですね。すぐ治してきますね」
牡丹はリゼネリの視線を追って歩いていき、その先でふらふらとして頭を振っている男子生徒に注射器を刺した。
すると、その途端だ。その生徒(裸)は突然叫び声を上げたのだ。
「ぬお〜〜、何をする貴様ぁ〜〜! 俺様は生徒達を誘導していたのに、ゾンビと間違えるとは!」
「……はい?」
順を追って説明すれば、彼、変熊 仮面(へんくま・かめん)は危険な体育会系ゾンビを誘導し(途中、ちょっぴり女子に見せつけながら)一般人を守ろうとしていたのだ。
そこに救助隊と遭遇し、自分の思惑とは別に勝手にゾンビ救助を行なわれたのだ。
「突然、魔法をかけてきたり痺れ薬を撒き散らしたり、ケツに注射を打ったりするとは! 流石の俺様も堪忍袋の尾が切れたぞ」
「え、え〜っと……」
呆気に取られている牡丹を置いて、猛ダッシュで廊下の奥へと走っていく変熊。
「……な、なんだって!?」
それに最初に気付いたのは石化解除をしながら解毒を行なっているユーリだった。
超感覚による警戒の網を解いていなかった椿は現状を即座に把握し、みんなに聞こえるように大声で叫んだ。
「みなさん、次のゾンビの群れです! もう一度戦闘態勢に入ってください!」
そのゾンビ達の群れの先頭には変熊仮面。
彼は目立つように旗を振り、彼らを引き連れてきたのだ。
「ふははは! さあ俺様を見ろ! 俺様の怒りに同調し、ゾンビ達も貴様らと戦いにやってきたぞ! 我が人徳の成せる技、とくと……」
高笑いの途中で、ゾンビ達にもみくちゃにされ、噛まれまくる変熊。当然、変熊の怒りに同調した訳ではなく、ゾンビ達は常に裸の変熊を噛もうと追ってきただけだ。
一度は歯形だらけになって倒れた変熊は、すぐに元気(ただし感染状態)に立ち上がると、正にゾンビ達のリーダーかのように号令を下す。
「いくのだ、ゾンビ共〜〜! 俺様の積年の恨み、いまここではらさでおくべきかぁ!」
再び緊張に包まれる救助隊の面々。
「このまま裸でいると風邪をひいてしまいます! 学校も大変なことに……ごめんなさい!」
大量に襲ってくるゾンビに向けて、光の術を放つ椿。
それを合図に、救助隊は攻撃を仕掛けていく。
「めんどくさいけど、これ以上は近づかせないからねぇ〜。氷術!」
コープスが叫ぶと、ゾンビ達の前に氷の壁が出現する。
「椿殿と牡丹殿には指一本触れさせんぞ!」
虎臣は進軍出来なくなったゾンビ達に、得意の武術を使い、確実に相手を仕留める。
「今度こそ手は抜かないよ……エス!」
「は〜い、一網打尽でいくわよ!」
リゼネリが風術を唱えると、エリエスは氷像のフラワシで連携をし、相手を一気に凍らせていく。
「おまけね、眠ってしまいなさい! ヒプノシス!」
ばたばたと倒れるゾンビにも、変熊仮面は怖気づかない。
「くははははは! 甘い、甘いぞ! 服を着ている輩が裸族に勝てる道理はない! 何故なら布切れ一枚分、身軽で素早く動けるのだからな!」
わけ解らない理屈を述べる変熊の叫びと、救助隊の必死に戦いは今しばらく続くようだった……。