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四章 衝突

 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は刀を両手に握り込みエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)に向かって全力で振り下ろす。
 グラキエスの刃は無防備なエッツェルの頭に直撃するが、刃は皮膚さえ傷つけることは無かった。
「……硬いな」
「それだけじゃありませんよ?」
 エッツェルはニイッと歯を見せると、両手を上げて見せる。
 その瞬間、エッツェルの両脇腹から合計六つの刃が飛びだしてグラキエスに襲い掛かる!
「くっ!?」
 行動予測をしていたグラキエスは咄嗟に後ろに飛び退るとエッツェルは体勢の崩れたグラキエスに追いすがる。
「隙有りです」
 エッツェルはグラキエスの首筋に向かって白い牙を剥き出しにする。
「それは、こっちのセリフだ」
 それに合わせるようにグラキエスは足を前に出してエッツェルの腹を蹴り飛ばした。
 エッツェルは蹴りの衝撃で吹っ飛ぶが、空中で身体を捻ると綺麗に着地して見せた。
「ちっ……効いてないか。エルデネスト、ウルディカ、そっちは無事か?」
 グラキエスは自身のパートナーであるエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)に声をかける。
「正直、無事とは言い難いですね」
 エルデネストが先に答え、
「……同じく」
 ウルディカが同意した。
 二人は背中合わせでエッツェルのパートナーである緋王 輝夜(ひおう・かぐや)と交戦していた。
 武器を構えたまま輝夜は焦れたような口調で声を上げる。
「もう! あんたたちしつこいんだよ! あたし達は悪霊退治で忙しいんだから!」
 その言葉にエルデネストとウルディカは眉をひそめた。
「悪霊というのは、ひょっとしてイルミンスールの森の?」
「……なんで知ってるの?」
「……俺たちは、お前らが言っている悪霊から依頼を受けた。成仏するためにペンダントが必要だから回収して欲しい……と」
 ウルディカの説明で輝夜は思わず武器を下ろす。
「え? あんたたちお宝を探しに来てる盗賊たちじゃないの?」
「……一言もそんなことは言ってない。勘違いして襲ってきたのはそっちだろう」
「う……う〜、ねえエッツェル! この人たち盗賊じゃないんだって!」
「ええ、聞いていましたよ」
 そう返事を返したエッツェルは、いつの間にか輝夜の背後に立っていた。
「どうやら私たちは依頼主の選択を誤ったようですね。素性も訊かずにいきなり襲い掛かって、申し訳ないことをしました」
 エッツェルが頭を下げると、グラキエスたちも武器を下ろした。
「やけにあっさりとこちらの言葉を信じるんですね」
「だって、昨日今日この洞窟に来た盗賊たちが幽霊の話なんか知ってるとは思えないもん」
「……確かにそうだな」
「あなた達はこれからどうする気だ?」
 グラキエスの問いにエッツェルは少し前に出る。
「先ほどの非礼を水に流していただけるなら、あなた達に同行して幽霊が成仏したことを村人に報告したいのですが……構いませんか?」
 エッツェルの提案にグラキエスは首肯する。
「こうしてる間にも、あの子は待っているんだ。時間も無駄にした、急ぐぞ」
 グラキエスはエルデネストに声をかけて洞窟を先行する。
 五人は洞窟の奥へと足を進め始めた。