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恋の行方と陰謀のウエディング

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恋の行方と陰謀のウエディング

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●船上パーティ
「本日は、こうして皆さんに私達の婚約を祝っていただけたこと、大変嬉しく思います」
 そう挨拶するのは、武器商の男、マレーク・サンダーだ。
 スラリとした長身、身なりもきっちり整え、顔立ちも悪くない。
 たしかに、一見した所は好印象の男性だ。
 これなら、女性からの評判も悪くはないだろうが……彼の傍らで、エレノアは終始浮かない表情をしている。
 彼の挨拶が終わると、『船酔いしたのか気分がすぐれないので……』と、早々に彼女は船室に引き篭もってしまった。
「私達が、しっかりアイツの本性暴いてきてあげるから、安心してね」
 メイドの服に着替えたレキが、そう言ってエレノアを励ます。
「準備が出来たわ。作戦開始よ」
 そう言って現れたのは、上品なドレスに身を包んだセレンフィリティだ。
「猫かぶるのは性に合わないけど、任務だし仕方がないわねぇ……まずは、エレノアの友達として、マレークさんに挨拶してきますわ」
 そう言って穏やかに微笑む彼女は、どこから見ても上品な家柄のレディに見える。
「好青年の化けの皮、剥がして差し上げましょう」
 魔姫も、そう言うと艶やかに微笑む。
 彼女の隙のない、凛とした立ち居振る舞いは、さすが百合園女学院に通うお嬢様だ。
「マレークさん、この度はご婚約おめでとうございます」
「ワタシ達、エレノアから今日のパーティーのことを聞かされて……こんなに素敵な人が相手だなんて、彼女が羨ましいわ」
 武器商のマーレは、セレンフィリティと魔姫の二人に声をかけられ足を止める。
「いや、ありがとう……君たちのような美しい女性に祝福されるとは、嬉しい限りだよ」
 微笑みながら、男の視線はつま先から頭の先を舐めるように追っていた。
「そういえば、お一人で犯罪を繰り返す恐ろしい賊を倒したそうですね?」
「あ、ああ。ああいう力任せに犯罪を行うような連中は、頭を使えば直ぐに捕らえることが可能なんだよ」
 セレンフィリティの問に、男が答える。
「まぁ、是非その時の武勇伝を、聞かせていただきたいわ」
「構わないよ、じゃあそこの席に座らないか?」
 促すように、マレークは魔姫の肩に手を回し、二人をテーブルの方へと誘う。
 若い女性二人に囲まれ、彼はまんざらでもない様子だ。
(「ひっかかったわね、このスケベ」)
(「この調子で、色々聴きだしてやりましょう」)
 セレンフィリティと魔姫の二人は、目を合わせ微笑む。

(「今のところ、怪しい人物はいないようだけど……」)
 目立ちすぎぬよう派手目の色を避けた清楚なドレスに身を包んだセレアナは、船内を歩き様子を見て回っていた。
 会話する多くの男女は、貴族だったり街の有力者だったりと、それなりの身分につくものばかりのようだ。
 彼らの会話や立ち居振る舞いから察するに、それは間違いないようだ。
「それにしても、わざわざ婚約パーティを船の上で開くなんて、派手好きなのか、それとも何か別の理由があるのかしら……」
 甲板に出たセレアナ。
 夜風が、彼女の短い黒髪を撫でるように吹き抜けていく。
 そこへ、メイド姿のカムイが現れる。
「どうですか?」
「ここに集まっている人自体に、これといって怪しい様子はないわ」
「そうですか。武器商の男には、今セレンフィリティさんと魔姫さんがついて話を聞き出しています。それで、少し気になった二人組がいましたので後を付けたのですが、見失ってしまって……小さな少女と、黒い髪を後ろに束ねた男です。一言二言、武器商の男と会話を交わしていたのですが、妙に気になって」
「ここには来てないわよ。でも、気になるようなら私も一緒に探すわ」
「お願いします」
 再び船内のダンスホールに戻り、注意深く集まった人々を観察する二人。
 すると、
「お飲み物は、いかがですか?」
 メイド姿のレキが、二人に近寄りそう言って飲み物を差し出す。
 グラスを渡す時、彼女は周囲に分からぬよう、そっとメモを添え手渡した。
 『パーティに集まっている人数だけど、ここにいる人達はざっと70人ぐらいだよ。この船に乗り込む時、もっと人数がいたはずだよね? 何か変だよ』
 レキは、何くわぬ顔でその場を離れる。
「そうだったのね、感じていた違和感はこれだわ。このパーティ、参加者の人数が、乗り込んだはずの人数より少ないんだわ」
「客室に閉じこもり何かしているか……そうでなければ、このダンスホール以外にも、他に集まる場所があるのかもしれませんね」
「探しましょう」
 そして。
「おい、こっちの手は余ってるから、『下』に料理を運んでくれ」
「は・はい! え〜っと、下って……」
 メイド姿のレキは、突然ボーイの格好をした男性に呼び止められる。
「なんだ、お前も忘れたのか? チッ、ボスも見た目ばっかり重視しないで、もうちっと賢い女を連れてこられねーかな」
「いいか?『赤へのお料理をお持ちしました』、そう言やいいんだ。ホレ、さっさとコレ運んでくれ!」
 そう言ってボーイはトレーの上いっぱいのおつまみをレキに託し、外に出るよう顎で促す。
(「まずいな、場所分からないし……そうだ!」)
 レキは、受け取った料理を、ワザと今にもこぼしそうにフラつきながら歩き出す。
「よよよっと……アワワワ!」
「オイ、テメェ何やってんだ! チッ、料理も満足に運べねーのかよ。ったく、しゃーねーなぁ! 半分オレが持ってくから、後ろついてこい」
「助かります〜」
(「やったね!」)
 その頃。
(「たしか、こっちだ……」)
 シシーは、辺りを警戒しながら、慎重に下へと続く階段を降りる。
 先程、下へと降りていく二人組を見つけた。
(「タキシード着ているにもかかわらず、パーティ会場の方ではなく、こんな船倉へと続く階段を降りていくなど……一体、どういうことだ?」)
 階段を降りた先、船倉へと続く入口前に、屈強そうな男が二人、並んで立っていた。
 荷物を入れておくだけの場所に、何故人が立つ必要があるのだろうか?
 すると、こちらに気づいた男の一人が、こちらに向かって声をかけてきた。
「そこのレディ。何をしておられるのです?」
「いえ、こちらに向かう方がいらっしゃったから、何事かと思いまして」
「……大切な荷物をお預かりしているので、確認をされにきたのですよ。こちらは、関係者以外立入禁止です。お引き取りください」
「そうさせてもらうわ」
 大人しく引き下がり、踵を返すシシー。
 しかし、それと同時に身に迫る危機を敏感に感じ取った彼女は、一気に上へと駈け出した!
 ヒュッ、カツン!!
 シシーの居た場所に飛んできたナイフは、壁に当たり金属音を響かせる。
「待ちやがれ!」
 追ってくる男、ここで相手をするか、それとも……!
「なんだ、なんだぁ?!」
 その時、ボーイらしき男が階段の踊場で声を上げた。
「オイ、その女捕まえてくれ! ネズミが入り込んだ!!」
 追いかけてきた男が叫ぶ
 ボーイの男は素早くトレーを下に置き、懐に手を入れる。
 が、後ろのメイドとぶつかったようだ。
 メイド…… レキは、持っていた料理を盛大にひっくり返し、その隙をつき、シシーは彼らの傍らをすり抜ける。
(「助かったぜ」)
(「すぐ、皆を集めるよ!」)

「ちょっと、失礼するよ。そうだ、さっきの話、考えておいてくれよ?」
「ありがとう、本気にしていいのかしら?」
「当たり前だ、恋は人を美しくするものだ。その気持を偽るのは、罪というものだ」
 部下らしき男に耳打ちされたマレークが、急に慌てて席を立つ。
「……なぁにが、罪よ! ただ浮気しようって話じゃない。気安く身体に触れてくるし、最低の男ね!」
 マレークが離れると、セレンフィリティはそう言って不機嫌を顕にする。
「なんだか慌てていたようよ、何かあったのかしら?」
 訝しげな表情の魔姫。
 そこへ、レキが現れる。
「船倉へ。皆そっちに向かったよ! こそこそ、何かやってるみたい」
 頷く二人。

「くらえっ!」
「グアっ!!」
 シシーの放った毒矢は、男の足を射抜く。
 カムイは、サイドワインダーを放ち、逃げ出そうとする敵の退却を許さない。
「サンダーブラスト!」
 セレアナによって放たれた稲妻が、武装する敵を打ち倒す。
「どうした? な・なんだ、この惨状は?!」
 その時だ、入り口からマレークが慌てた様子でやってきた。
「来たわね、婚約パーティを武器の裏取引の隠れ蓑にするなんて、最低だわ」
「貴方をここで捕らえ、犯罪を行なっていた証拠と共に、然るべき場所へ引渡します。観念してください」
 セレアナとカムイがそう言った。
「お待たせっ、ボクも混ぜてよ!」
「マレーク。約束通り、また貴方に会いに来たわ」
「ちょっと早いけど、会いたくてしょうがなかったのよ、あたし達」
 レキ・セレンフィリティ・魔姫の3人も、すかさずその場に駆けつける。
「く・くそっ!」
 部下に自分を守らせながら、マレークは後ずさる。