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リアクション
第三章 戦闘
逃亡する刹那とファンドラと犯人の男は、すぐ後ろに迫る気配を感じていた。
「追っ手が来たか……アンデッドたちは突破されたようだな」
男は後ろを振り向いて言った。
「刹那さん、時間稼ぎをお願いします」
ファンドラは刹那に足止めを頼んだ。
刹那は頷き、枝の上に止まり、追ってくる者たちを待った。
木々の上で追跡者たちが来るのを確認すると、刹那は彼らに向かって服の裾から『毒虫の群れ』を放った。
猛毒が追跡者たちに降りかかり、とたんに地上は混乱の声で溢れる。その騒ぎにたたみかけ、刹那は追跡者たちの上の枝に飛び移り『しびれ粉』を撒き散らした。
しばらくして枝から地上に降りると、リースとセリーナが『しびれ粉』の効果で動けなくなっているのを見つけた。
刹那は『柳葉刀』を取り出し、行動不能になった追跡者たちを『アルティマ・トゥーレ』で傷を負わせようとした、そのとき。
「姫さんたちから離れろ!」
ナディムが飛び出し、『ドラゴンアーツ』を刹那に繰り出した。
刹那は間一髪でそれをかわす。しかし今度は同行していた詩穂が、背後から『魔祓の剣』で斬りかかった。
刹那は『柳葉刀』で剣を受け止めた。刀と剣の間から火花が飛び散る。
「喰らえ!」
そのとき、膠着した二人のほうに向けて、ナディムが『剛腕の強弓』を構え、『コクマーの矢』を正確に刹那に放った。
「くっ」
刹那は横っ腹に矢をまともに受け、その場に倒れた。
その後、ナディムと詩穂はリースとセリーナを手当てした。アーデルハイトのポーションを飲ませてみると、しびれが抜けていくようで、二人は普通に動く分には問題がないほど回復した。
「騎沙良のお嬢さん、こっちはもう大丈夫だから、犯人を追ってくれ。ありがとな、一人じゃ危なかったかもしれなかったからな」
「いえ、ここまで案内してもらいましたし。お役に立ててよかったです」
それから詩穂はナディムたちと別れて犯人を追った。
「刹那さんは失敗したようですね」
ファンドラは諦めを感じたように言った。
「追っ手はかなりの数のようだな。それも仕方ない」
「ではわたしは、戦闘は苦手なので……そろそろ失礼します」
「ああ、ご苦労だった」
ファンドラは去り、犯人の男は一人になった。男はある程度開けた場所を見つけると、そこに立ち止まり、追跡者たちを待った。
「……来たか」
やがて二人の追跡者が姿を現した。ロレンツォとアリアンナだった。
「ああ、構えなくていいネ。私達は戦う気ないネ」
ロレンツォは言った。
「どういうことだ?」
ロレンツォは追手がかかっているから捕まるのも時間の問題であるので、短い時間を使って「この場で」魔道書の読みときをして内容を頭の中に入れてしまおうと犯人に提案した。
「時間稼ぎなら『小型飛空艇』を使えばしばらくはできるわよ」
アリアンナはそう口添えした。
「悪いがその提案には乗れないな。俺を陥れる罠の可能性もあるし、第一、他の誰かにこの書を見せるつもりはない」
男はそう言って、有無を言わさず、強力な魔法を二人に放ち、大きな土ぼこりが舞った。二人はとっさにそれをかわしたが、その魔法の威力を見てうかつに近づけなくなった。
「ハーイ、あなたが泥棒さん? 悪いけどここでゲームオーバーよ」
土ぼこりが晴れると、セレンフィリティとセレアナが追いついてきた。続々と追跡者達がここまでたどり着いているようだ。
犯人の男はビキニ姿のセレンフィリティを見て怪訝そうな顔をした。明らかな場違いに思ったからだ。
すかさずセレンフィリティは犯人に挑発的で凄まじく汚い罵詈雑言を浴びせ、愚弄した。
「いきなりなんだこの女は」
男が動揺で判断力を鈍らせたと判断したセレンフィリティは、男に近づいた。
男は身構え、セレンフィリティに向かって魔法を放つ。セレンフィリティはそれをかわしながら、『その身を蝕む妄執』と『闇術]を使った。
男は幻覚を見たようだ。足がふらつき、目は恐怖で大きく見開いた。しかしすぐにそれを振り払い、魔法を打ち続けた。
セレアナはセレンフィリティをカバーできる位置を取りながら、『氷術』で攻撃を仕掛けた。男はそれをかわしていく。
セレアナはしばらくアウトレンジの攻撃に専念して相手に「パターン」を覚えさせた。そのうち、男はそのパターンに合わせて魔法を放つようになった。
そのパターンの合間に、セレアナは『光術』で閃光を発生させて男に眼つぶしを喰らわせた。男はひるみ、立ちすくんだ。
セレアナはその隙に相手の懐へ飛び込み『則天去私』を打ち込んだ。
「ぐっ!」
男はたまらず、距離を取った。
「投降をするんだ。もう君は逃げられないことがわかるだろう」
そのとき、アルツールがたどり着き、男に言った。
「そうだ。イルミンスールボンバーを喰らわせたくなければ、投降するんだ!」
同じくたどり着いたいるみんが脅すように言った。
「投降はしない。俺のことを調べられては困るからな」
犯人の男はそう言って、大量のアンデッドを召還した。
詩穂がたどり着いた。そして、すでに戦闘が始まっていることを知った。
詩穂は『護国の聖域』で味方の抵抗力を上げ、視界を奪って逃走できる闇術を想定して、『ダークビジョン』を使った。
さらにアンデッドたちに向かって『我は射す光の閃刃』を放った。光の刃がアンデッドたちを襲い、倒していく。
そして距離を詰め、犯人へ『ライトブリンガー』の一撃を喰らわせようとした。が、かわされ、犯人は逃げていった。
犯人の男は追跡者たちの実力と数に脅威を感じ、逃げようとした。
そこにヒデオとレザーグが追いついた。ヒデオとレザーグは男に向かって『氷術』、『火術』、『雷術』を立て続けに放った。
男も魔法で打ち返す。三人の攻撃はぶつかり合い、火花を散らし、互いに傷を負った。
男は木の根元に、ポーションが転がっているのを見つけた。戦闘中に誰かが落としたのだろうか。わらにすがる思いで、それをつかみ、においを嗅いでから飲み干した。
それは上質なポーションで、力が沸き起こってくるのを感じた。体力を回復させ、再び戦う気力を持った男は追跡者たちのほうを振り向いた。
そこには追いついてきたレイカがいた。
「もう書を使いましたか?」
「答える必要はないな」
「それなら『厭わぬ者』がどれだけ恐ろしい力かをその身で思い知らせてあげましょうか。強大な力に伴う、代償も……」
レイカは術の行使で感覚の鈍くなった腕を見せて言った。
男は危険が大きいことを感じ、再びアンデッドを大量召還して、身をアンデッドたちに紛れこませ、その場を去った。
「悪いな。時間が惜しいから直ぐに片付ける」
たどり着いた和輝、アニス、リオンは犯人に向かって攻撃を仕掛けていった。
「にひひ〜っ、見つけたからには逃がさないのだ。行け! 『稲妻の札』を付けた『神威の矢』!」
男はアニスが放った矢を魔法で打ち落とす。そしてアンデッドたちを召還して、三人に向かわせた。
「力の使い方がなっとらんわ。愚図め」
リオンは『バニッシュ』で、アンデッド全体を潰した。和輝はそれを機に距離を詰める。
男は和輝を狙って魔法を放った。和輝は『ミラージュ』でそれを回避しながら相手に接触して、『放電実験』による電気ショックを与えた。
男は体を麻痺させたが、とっさに周辺を爆発させ、三人を吹き飛ばした。
優奈は犯人の男が弱っているのを見て、『黒竜・シュヴァルツ』や『白竜・ヴァイス』、『兵長・スサノオ』たち不滅兵団を、相手を囲むように召喚した。
それから優奈は『ゴッドスピード』で動き回り、『完全回復』、『錬金薬「散禍」』で召喚獣たちの支援に回った。
「さあ、身の程知らずにお仕置きの時間だ」
涼介は逃げ場のなくなってきた男に向かって、『召喚獣:サンダーバード』、『召喚獣:バハムート』を向かわせ、広範囲に周りのアンデッドごと攻撃した。
孤立して召還する暇もなくなり、逃げ出した男に、涼介は『凍てつく炎』で追撃した。
男は集中攻撃を受け、動きが鈍くなっていった。
「我が体の奥に眠る、旧き神の力よ。その力を持って彼の者の魔力をかき乱せ『インテリジェンストラント』」
そこを狙い、エイボンの書は自らに蓄積された膨大な情報を犯人へ放出した。
「さあ、気持ちよくお眠りなさい」
男はまともにそれを喰らい、受け止めきれない情報に蝕まれ、混乱し始めた。
姫星はその好機を逃さず、『彗星のアンクレット』を使って猛スピードで男に近づいた。
墓守姫が後方から、『奈落の鉄鎖』で犯人を重力で押さえつけて援護する。
「ちょいなぁぁーー!」
犯人に追いついた姫星はすかさず『荒ぶる力』でパワーアップし、男を捕まえた。
「こうなれば早々逃げられはしないはずです……あれ? なにかこの人、固いですね」
姫星は押さえつけた男を見下ろして、なにやら不思議そうな声を出した。
「どうしたのミス次百? 私、犯人に色々と言いたいことがあるの。まず、そこに正座で直りなさい!
とりあえず先に一つ言っておくわ……努力せず力だけ求めた者の行き着く先は、須く自らの破滅と絶望よ。真っ当に生きたいなら、覚えておきなさい。
……なにか様子がおかしいわね」
近くに駆けつけた墓守姫も男の様子がおかしいことに気づいた。
やがて他の追跡者たちも男の周りに集まり、それが明らかになった。男だと思って捕まえた人物は、男が着ていた服を着たアンデッドだったのだ。
「いつの間にすりかわったんでしょう……ん、なんでしょうかこれは」
そのアンデッドは、懐になにかを隠し持っていた。取り出してみると、イルミンスールから盗まれた魔導書だった。