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NINJA屋敷から脱出せよ!

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NINJA屋敷から脱出せよ!

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其の参


「こんなトンデ……もとい、ユニークな解釈、二十世紀のアメリカ人のセンスだと思ってたけど……。今度建て直すときは、時代考証をしっかりやったほうがいいわ……」
 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)の呟きにマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)が苦笑を返した。
 呆れるほどトンデモなNINJA屋敷を探索する2人。
 インテリアに負けず劣らずド派手なネオンカラーの忍び装束を身に付けて、――その下がさらに凄い。
 旭日旗デザインのトライアングルビキニをお揃いで着用している。
「昔、こんなアニメあったよなぁ」
 マリエッタが心の中でツッコミを入れた。
 ……絶対、その影響受けたでしょ、ハイナ総奉行……。

「みなさん、安心してくださいね。私たちが外へご案内しますから」
 不安げなお客さんたちに優しく声を掛けた。
「よし、これでいいわね」
 通ってきた道に目印をつけておく。
「ふぅ、それにしても複雑なつくりだわ。探索は、マリー、お願いね」
「任せて、カーリー。……っ」
 背中に悪寒が走る。
 殺気感知が敵を捉えたのだ。
「カーリー、壁のとこ、敵の気配がする」
「姿は見えないけれど……。みなさん、私たちから離れないでくださいね」
 ゆかりは火縄銃に偽装しておいた【シュヴァルツ】【ヴァイス】を静かに構えた。
 銃口より青白い火花が射出された。
 轟雷閃により高圧電流を帯びた弾丸は、壁にあたってバチバチと爆ぜる。
 その跡に姿を現した一体の機晶ロボ。電流で機晶回路がショートし、もう動くことはない。
 星条旗カラーの布がその手からハラリと落ちた。これで壁に擬態していたらしい。
「隠れ身を使うみたいね。……にしても、安っぽいというか何というか……」
「――カーリー、まだいるよっ」
 星条旗を翻し、壁から機晶ロボが次々に現れた。
「数が多いな……っ。よおし」
 トラッパーを発動する。
 床に大穴を開けて一気に敵の数を減らす。残りは、
「マリー、雷が有効よ!」
「了解っ!」
 ゆかりの轟雷閃、マリエッタの雷術――。
 NINJAロボは次々ガラクタと化していった。


     ×   ×   ×


「NINJA諸君に告ぐ!
 カラクリを乗り越え、お客さんを守りきり、
 ――なんとか脱出するでありんす!!」

 数多のアルバイターを脱力させたハイナのアナウンスにも隠代 銀澄(おぬしろ・ぎすみ)の瞳は揺らがなかった。実直な眼差しを天井隅のスピーカーに真っ直ぐ向けて、
「総奉行のご下命、しっかと賜りました。拙者も微力なれど力をつくします!」
 ハハア、とこうべを垂れる。
 彼女は明倫館に留学中のマホロバ人であり、忠義の侍。
 自分を留学に出してくれた樹龍院 白姫(きりゅうりん・しろひめ)、そして、平生世話になっている明倫館の人々。その恩には報ねばならない。

「お客人! 拙者の後ろから前に出ないように!」
 一般人を背に守って最上階を目指す。ディテクトエビルで周囲を窺い腰の刀に指を掛けた。
「む、隠れていようと拙者にはお見通しです! 掛かってきなさい!」
 鞘から抜いた白刃は拙速、不可視の太刀筋で敵を断つ。
 あとには真っ二つになった機晶ロボ。抜刀術『青龍』の冷気だけが空に漂う。
 背後の人々から感嘆の声が漏れ出た。
 中に、ひときわ銀澄の気を引く声があった。
「オウ、本物のSAMURAIでーす!」
 日本語不自由な男声。
「御仁は……」
 いつの間に合流していたのか、その姿に見覚えはない。見ていたなら絶対忘れるわけない。
 だって、赤・白・緑という超目立つストライプ柄の忍び装束を身に着けている。
 ……きっとイタリア人に違いない。
「私はロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)あるヨ。私が来たからには皆さんダイジョブね」
 ロレンツォは自信に満ちた顔で、
「安全な道、マッピングしてありますカラ。目印にパスタ置いてありまーす」
 と、胸を張る。
「……パスタ……?」
 お客さんの空気がザワついた。
 でも、銀澄はどこまでも真っ直ぐだ。
「おお、拙者、隠代銀澄と申します」
「サムライ銀澄さん。平和愛する私、探索担当いたしまーす♪ よーく観察しながら慎重に進むね。ハイナさんの設計あることからね、きっとタダごと、すまないのことネ。急がば回れ、急ぐ時こそ、ゆっくり慎重に進むの方がいいあるヨ」
「これは心強い! では戦闘は拙者にお任せください」
 ここに和洋折衷コンビが誕生した。
「外への道、なんとか探してみせるのことヨ」
 パチン☆とウインクをしてロレンツォが先導、カラクリによく気を配って足を運ぶ。
 銀澄が改めて深々と頭を下げた。
「ロレンツォ殿、助太刀痛み入ります」
「スケダチ?? イタミール??」
 そんな言葉は『素早く覚える日本語の本』には載ってなかった。
 生粋の侍と、怪しいイタリア人。
 意思疎通にはちょっぴり苦労しそうだ。


     ×   ×   ×


「しかし……、日本もえらい『理解』のされようじゃのう、この建物を見ると」
 夏侯 惇(かこう・とん)は隻眼で部屋を見回した。
「こういうハイパーにかっ飛んだ解釈は……、日本の一部でされておるくらいか。まあ、我慢じゃ」
 彼の祖国もトンデモな誤解を受けがちなのだ。日本には同情を禁じえない。
 ――そんな彼の忍び装束は利休鼠。
 NINJA屋敷のPOPなインテリアと大変よく調和がとれている。
「オキャクサマノアンゼンナダッシュツが最優先だ!」
 カル・カルカー(かる・かるかー)が確認するように声をあげた。
「……カル坊、何故に棒読みじゃ?」
「つまり、壁をぶち抜いて安全な道を作ればいいんだ」
「さては、暴れたいだけじゃな」
 カルの肩がギクリと揺れた。
「ち、ちがわい! 外まで真っ直ぐに道を作れば結果的にカラクリを回避できるんだぜ?」
「うーむ。しかし、そんな無茶を働いて例の困った総奉行に怒られはせんかのお」
「まあ、アミューズメント施設としては使えなくなるかもな。でも、こんな欠陥建築、ブチ壊して作り直したほうがいいかもしれないぜ」
「……一理ある」
 抜群の説得力。
 ――そんなわけで、2人による『脱出用突貫工事』、着工だ。

「忍者ブルー! せいっ! みんな、無事に脱出させるぜ!」
 爽やかな青の忍び装束をはためかせ、カルがヒーローさながらにお客さんを励ました。星条旗カラーの壁板を破壊工作でバリバリと解体していく。プラスチックの竹林も木っ端微塵になって畳の上に散らばる。カラフルな雪が積もったようだ。
「カル坊、こっちじゃ」
 特技の土木建築が活きる。構造の弱いところを探してカルの大破壊……もとい、脱出口作りの手助けをする。
「そろそろかぁ!?」
 カルは額に浮かんだ汗を拭った。いくらなんでもいい加減外に通じるはずだ。
「……っ!?」
 カルたちの横、壁のどんでん返しがクルリと回って、向こうから機晶ロボが飛び出した。
「ぐっ。貴様の相手はそれがしじゃ!」
 気を引いて機晶ロボを誘導する。ロボのカンフーが見事工事中のえぐれた壁に命中した。
「やった!!」
 その一撃が、NINJA屋敷に大穴を開けた。
 向こうには空。
 カルの忍び装束と同じ色、爽やかに澄み渡る青空だ。
「やったなカル坊! ささ、それがしの後について下され、皆の衆! 安全に外へ脱出させ申す!」