校長室
フロンティア ヴュー after
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追章6 closing episode ふっ、と息を吹き返すようにして、イルダーナの意識が戻った。 がば、とベッドの上に身を乗り出して、トゥレンがイルダーナの顔を覗き込む。 「……起きた」 呟くなり、イルダーナが一声を放つ前に、ぱたりとそのまま倒れ込んだ。 「兄さん」 自分の代わりに、寝息を立てるトゥレンをベッドに蹴り入れながら立ち上がると、少し眩暈がする。 そこへイルヴリーヒが部屋に入って来た。 「何日経った?」 ちらりとトゥレンを見ると、イルヴリーヒは苦笑する。 「ああ、力尽きたか。 休むように言ったんだけどね。兄さんが起きてから寝ると言って。 まだ少し顔色が悪いようだけど」 「腹が減ってるだけだ。状況は」 手早く着替えるイルダーナに、イルヴリーヒはとりあえず簡単に顛末の説明をした。 「で、とりあえずトゥプシマティ達を此処で保護しているけど、どうする?」 「確証もなくフラフラ出て行ったって仕方ねえだろう。 行き倒れられても寝覚めが悪いから、暫く此処に留めておけ。 ジールには、ユグドラシルに行ったついでに会いに行く」 イルダーナの返答に頷く。 「とりあえず、皆心配しているから、顔を出して来るといいと思うけど……」 「ああ」 イルダーナの体調を心配するイルヴリーヒに、心配ない、とイルダーナは短く言った。 春休みと同じ轍は踏まない。 課題を完璧に終わらせて、光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)はハルカと、ルーナサズへ向かった。 勿論ハルカのお守りには『禁猟区』を施し済である。 現地で小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)達と合流して、ルーナサズの城の食堂を借りて集まった。 今回の事件の打ち上げプラス報告会プラスイルダーナの復帰祝い、というところだろうか。 街の酒場でもよかったのだが、美羽がイルダーナとイルヴリーヒを誘った関連で、街は祭りの前でどこも賑わっているから、どうせならと計らってくれたのだ。 確かに此処なら、ハルカが迷子になる心配もない、と翔一朗は胸の内で苦笑する。 ルーナサズは、つい先日に来た時とは違う雰囲気と活気に満ちていて、後で皆で見て回ろう、とハルカと約束した。 「今回は、割と皆別々の場所にいたんじゃのう」 翔一朗とハルカは、『門の遺跡』に至れずドワーフ坑道入口まで、天音は人魚達の棲処へ赴いて、美羽や樹月 刀真(きづき・とうま)達は、『空の遺跡』に至ってウラノスドラゴンと邂逅した。 「皆はどんなだったんじゃ?」 彼等が何を見て来たのか、そんな話を聞きたくて、翔一朗は訪ねる。 「『空の遺跡』は、凄く広い空中庭園のようだったよ」 ハルカの隣の席に座る刀真が、そう語った。 「ぱらみいって名前の地祇とウラノスって名前のドラゴンがいて、大きなパラミタの世界樹があったんだ」 「まるで、世界の中心みたいなのです」 パラミタの地祇とパラミタの世界樹。そんな話を聞いて、ハルカが言う。 「人が居なくて、少し寂しい感じがしたから、次の機会があったらハルカも、天音や翔一朗達も一緒に、お弁当を持って行ってみようか。 皆で過ごしたら、きっと楽しいと思う」 「素敵なのです!」 ハルカは嬉しそうに笑う。 そう、きっとそんな賑やかさを、ウラノスドラゴンも喜ぶのではないだろうかという気がする。 行けるまでには、少し時間がかかりそうだけれど。 「それまでに、ハルカを護れるよう強くなるよ」 「? とーまさんはとっても強いのです」 「いや、カサンドロスって騎士に負けちゃってね……俺はまだまだだよ」 肩を竦める刀真に、ハルカは、上には上がいるのですね、と言った。 「ハルカは? イルミンスールでの生活はどうだい? 何か面白いこととかあったかい?」 「ブルプルさんと友達になったのです」 刀真に問われて、最近の出来事を思い出したハルカは、ふふ、と笑った。 ハルカがニルヴァーナへ旅行に行った時、ヒーローショーで悪役だった、超科学魔女ブルプルワース。 それを演じた御神楽 陽太(みかぐら・ようた)のパートナー、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)と、その後イルミンスールで再会したのだ。 ルーナサズに来る少し前にも、 「今日は暇ですし、何となく気が向いたので来ましたわ」 と言って、お土産のお菓子を持って遊びに来てくれた、とハルカは言う。 「たまには私が給仕をしてさしあげますわ」 気が向いたので、と、メイド向けの高級ティーセットでエリシアがお茶を入れて、近況や、パートナーのことなど、おしゃべりなどをして楽しく一時を過ごした。 「それにしても、今年の夏も暑いですわ」 「ザンスカールには、とても大きなプールがあるのです」 そんな話をして、 「それなら、次に気が向いた時には、水着を持って参りますわ」 と、一緒にプールに遊びに行く約束などもした。 「楽しみなのです」 厨房を借りて料理を作っていた美羽が、食堂に現れた。 「はーい、お待たせ!」 先の一件が終わった後は、イルダーナの手料理をご馳走して貰う、と約束した美羽だったが、彼が重体となった病み上がりなので、また元気になった次の機会に、ということにして、今回は美羽が腕を揮うことにしたのだ。 「じゃーん、美羽印のカツ丼だよっ」 どんぶりと材料持参で、イルダーナが早く元気になるように、と心のこもったスタミナ料理である。 「ほう、カツ丼か!」 此処へ来て、日本の料理を目にするとは思わず、翔一朗が目を見張る。 そのタイミングで、イルダーナとイルヴリーヒも食堂に現れた。 「呼んでくださってありがとうございます」 「え、此処イルヴリーヒ達の家だよ!」 美羽は笑って椅子を勧めた。 「これが私の故郷、日本の料理だよ!」 「ふうん」 とイルダーナも興味深そうだ。 肉料理、と聞いて、イルヴリーヒが囁いた。 「兄上。病み上がりで数日食していないのですし、まずは軽いものから胃に入れた方がよいのでは」 「構わねえ。食う」 イルダーナの返答に頷いて、それ以上は何も言わない。 一方、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)も、美羽の作ったカツ丼に強い関心を持っていた。 彼はカツ丼について、『日本で犯人に尋問する時、相手に心を開かせる為に警察が食べさせる料理』という噂しか知らなかったからだ。 「これが、あのカツ丼……」 「そうだよー。 それじゃ皆、あったかい内にどーぞ」 「いただきます!」 美味しい、と皆が口々に言い、美羽は嬉しそうにえへへと笑う。 「何はともあれ、皆、お疲れ様じゃったのう!」 皆が揃ったところで、そう言った翔一朗の言葉に、他の皆も声を上げた。 「お疲れ様!」
▼担当マスター
九道雷
▼マスターコメント
ちなみにルグスとは、イメージの基となっているものがありまして、 何となく金魚提灯みたいな感じです(レッツ画像検索!) 最後までお付き合い、本当にありがとうございます。 また今回ご参加くださいました方もようこそでした! 少しでも楽しんでいただけましたら嬉しいです。